【はじめに】
この記事では、過去の参戦成績から「日本調教馬が“苦手”」としてきた海外の名物レース(GI競走)をまとめていきたいと思います。参考にしたのは以下のウィキペディアの記事です。
☆日本調教馬の日本国外への遠征
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
1980年代に「ジャパンC」が創設され、1990年代には日本馬の海外での好走が快挙として報じられる様になりました。そして21世紀に入ると、日本馬のレベルアップなどが明確となり、海外GI競走での優勝がなかば当たり前となり始めました。
長年「壁」とみなされてきたレースで優勝したり好走したりする快挙も数年ごとに達成される様になりました。一方で、日本馬にとって長年最も高い壁とされてきた「凱旋門賞」は2着4度が最高ですし、ここ数年で高額賞金による新設GIにも注目が集まっていますが、数十年前とは劇的に国内外の環境も変わってきています。ここに示すのはあくまで2020年代の現時点での見立てであるとお考えください。
【アジア】(3-1-1-33)香港スプリント
ここでは東アジアや東南アジア圏を中心にみていきます。アジア圏では競馬の国際化が早かった日本、韓国遠征で日本馬が圧勝するように、まだ競馬の水準で優位性を保っていますが、国際的にも注目度が極めて高く、分野によっては日本馬も苦戦するのが「香港」競馬です。
国際情勢などが厳しくても日本馬が平成・令和を通じて積極的に出走しています。香港ヴァーズは5勝、香港マイルは4勝、香港カップは8勝している訳ですが、長らく日本馬にとって鬼門とされてきたのが、『香港スプリント』でしょう。見出しに書きました、2022年現在の成績は(3-1-1-33)と、3勝こそしているものの大半が着外に沈んでいます。
2012年12月9日 | ロードカナロア | 1着 |
2013年12月8日 | ロードカナロア | 1着 |
2014年12月14日 | ストレイトガール | 3着 |
2020年12月13日 | ダノンスマッシュ | 1着 |
2021年12月12日 | レシステンシア | 2着 |
2018年にJRA顕彰馬にも選出された【ロードカナロア】は、2012・13年と同レースを連覇していますが、それまでは良くて1桁着順と、日本馬は(他距離と比べて)明らかに苦戦していました。
日本馬にとって「鬼門」、あるいは「凱旋門賞級に難しいレース」とも言われていた香港スプリントを2012年に日本馬として初めて制し、さらには翌年連覇を達成。……引退レースとなった香港スプリントでの5馬身差圧勝により獲得したワールドベストレースホースランキング(WBRR)のレーティング128ポンドは、日本馬のスプリント区分における史上最高値である。
ロードカナロア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロードカナロアが連覇した印象は強いですし、その息子のダノンスマッシュが7年ぶりに日本馬3勝目を上げたため『鬼門』でなくなったという印象を持つ方もおられるかも知れませんが、上に挙げた5回以外は全て4着以下しかも殆どが2桁着順です。
日本馬が短距離部門でレーティングが低いこととも結びつきますが、やはりマイル以上と比べて世界との差が大きいことが窺えます。マイル級のGIで複数回連対しているクラスの馬じゃないととても太刀打ちできないというのが実情だということを覚えておきましょう。
【中東圏】(0-2-1-25)ドバイワールドC(ダート)
中東エリアでは平成年間は「ドバイワールドC」、令和に入って「サウジC」デーへの遠征が非常に多くなってきました。芝のレースやGII以下のダートレースであれば日本馬も好走できるのですが、メイン・イベントでは中々好成績をあげられていません。
日本馬が唯一優勝しかもワンツーを決めた2011年は、オールウェザーコースでした。もちろん【ヴィクトワールピサ】と【トランセンド】の激走は、日本を勇気づけるドラマチックなものでしたが、あくまでダートコースとは区別して考える必要があるかなとも感じています。
見出しに書いた(0-2-1-25)というのはダートコースで開催されたものに限った「ドバイワールドカップ」での成績です。芝・ダートを問わず日本国内の一流馬が出走しましたが、世界の壁に跳ね返されてきました。
2001年の【トゥザヴィクトリー】の奮戦は印象的ですが、そこから20年(AW時代を含む訳ですが)、連対を果たす馬がいなかったことは改めて認識する必要がありそうです。
令和に入って【チュウワウィザード】が2年連続で予想以上の好走を果たしたことは一つの希望である一方で、必ずしも楽観視はできないというのも正直なところかも知れません。
そしてもう一つのダートのビッグイベントとなった【サウジカップ】についても同様でした。第1回(2020年)から日本のダートの一線級が出走しても、日本でいう掲示板(5着以内)にすら入ることができず惨敗(6・7・9・6・8着)していました。
しかし2023年になると一変します。ダート適性ではなく1800mという距離などに着目し、芝・ダートを問わず6頭が大挙してサウジカップになだれ込んだのです。その結果として、
日本馬が上位5頭のうち4頭を占め、合計で20億円近い賞金を獲得。昨年の春に中東を席巻した米馬のカントリーグラマーの猛追を退け、日本の【パンサラッサ】が『サウジカップ』を制して、日本の歴代獲得賞金で牡馬最高額に到達したのです。
着目すべきは、1・4着に入ったG1馬がいずれもダートでの実績のない中での挑戦、そして結果を出したことでしょう。日本での芝・ダートの棲み分けが、必ずしも海外のコースと一致しないという見方をすれば、きっと海外で想定と異なる激走を果たす馬も出てくるのではないかと考えました。
【北米圏】(2-0-0-19)ブリーダーズC
中東に対抗すべく総賞金1,200万ドルで第1回を開催した「ペガサスワールドC」(数回で賞金額は大幅減額)が行われるなど、ダート界の、そして世界競馬の最盛国の一つであるアメリカです。
平成の中頃は芝コースでGIを制したり、平成の終わり頃からは3歳3冠路線への積極的な挑戦(ラニのベルモントS3着)が話題になっていましたが、長らく日本馬にとり「ブリーダーズC」は鬼門でした。
2021年に【ラヴズオンリーユー】と【マルシュロレーヌ】が立て続けに優勝し、日本競馬史に残る偉業だとされましたが、これはあくまで例外的な好走であり、この2勝を除けば日本馬は全敗(しかも4着以下)です。
そして2021年のブリーダーズカップが開催されたのは、カリフォルニア州(西海岸)のデルマー競馬場であり、いわゆる輸送距離が短かったことも見据えて矢作調教師が遠征を組み立てたことが功を奏した面もあったと思います。アメリカに滞在するにしろ輸送するにしろ、特に東海岸は日本の真反対に近い訳ですから、そう簡単にアメリカとの差が縮まるとは思えないのが正直なところでしょう。
【欧州圏】(0-4-0-30)凱旋門賞
そして、日本馬が半世紀以上挑戦してきたのが『凱旋門賞』です。海外のGIが地上波で中継されるのはこのレースの他に数えるほどしかありません。それほどに日本競馬にとっての悲願とされ、古くからの伝統もあって幾多の名馬が挑戦してきましたが、優勝することはできていません。
このレースに出走する日本馬は他のレースに比べて格段に実績のあるものが多い。また日本ダービーや宝塚記念、前年の有馬記念などの優勝馬が当レースに出走するという報道には枚挙にいとまがない。
( 同上 )
下の表のように、1999年の【エルコンドルパサー】を皮切りに、日本馬は3頭のべ4回「2着」という好成績をあげています。しかしあの【ディープインパクト】をしてすら3位入線であったことを考えると、顕彰馬クラスであっても日本でいう複勝圏内を目指すのが精一杯という状況にあります。
直近の好走例である2013年でオルフェーヴルが2着、キズナが4着となったことで錯覚しておられる方が多く見受けられますが、日本馬にとっての『凱旋門賞』における好走のラインは正直1桁着順です。出走頭数にもよりますが、八大競走勝ち馬でも2桁着順が当たり前のレースなのを直視し、1桁着順でも好走だという位の感覚で居ないといけないのが現実でしょう。2014年以降に絞ってみても、
2014年10月5日 | ハープスター | 牝3 | 川田将雅 | 松田博資 | 6着 |
ジャスタウェイ | 牡5 | 福永祐一 | 須貝尚介 | 8着 | |
2019年10月6日 | キセキ | 牡5 | C.スミヨン | 角居勝彦 | 7着 |
2020年10月4日 | ディアドラ | 牝6 | J.スペンサー | 橋田満 | 8着 |
2021年10月3日 | クロノジェネシス | 牝5 | O.マーフィー | 斉藤崇史 | 7着 |
これらの名馬が出走して、日本でいう掲示板(5着)圏内にすら入れていません。古馬では7着が最高です。半数以上が2桁着順であることを考えると、「三冠馬クラスで入着できるか」というレベル感になってしまうことを抑えておいて頂きたいのです。
2023年には、実に10年ぶりにスルーセブンシーズが4着に入り、日本牝馬での最先着を果たします。もちろん馬場が良くて末脚が求められた展開となったことなども味方したかとは思いますが、国内実績と必ずしもリンクしないことも同時に証明されたような活躍ぶりだったようにも思えます。
そして「凱旋門賞」ばかりが苦手かの様に報じられますが、日本馬にとって欧州全体が相当鬼門です。
開催日 | 国・距離 | レース名 | 勝ち馬 |
---|---|---|---|
1998/08/09 | 仏1300 | モーリス・ド・ゲスト賞 | シーキングザパール |
1998/08/16 | 仏1600 | ジャック・ル・マロワ賞 | タイキシャトル |
1999/07/04 | 仏2400 | サンクルー大賞 | エルコンドルパサー |
1999/10/03 | 仏1000 | アベイ・ド・ロンシャン賞 | アグネスワールド |
2000/07/13 | 英1207 | ジュライカップ | アグネスワールド |
2016/05/24 | 仏1800 | イスパーン賞 | エイシンヒカリ |
2019/08/01 | 英1991 | ナッソーステークス | ディアドラ |
日本馬がヨーロッパのGIを制したのをピックアップしましたが、その殆どが2000年までの3年間に集中していて、それからエイシンヒカリまで16年近く達成馬がいませんでした。また、長期遠征をしたディアドラが久々にイギリス競馬でGIを勝利しましたが、これらは最早例外的な激走といった感じです。
そして、バスラットレオンやキングエルメスの挑戦でも注目されましたが、短距離~マイル路線は更に厳しく、アグネスワールド以来まったく勝てていません。むしろ【バスラットレオン】がサセックスSで4着となってこと自体が善戦だと言えることは再認識しておく必要があるかと思います。
【豪州圏】(1-1-0-8)メルボルンC
最後に、オーストラリア地方から「メルボルンC」です。“「The Race That Stops The Nation(=国を止めるレース)」とも呼ばれる”と呼ばれ、長らくオセアニア最高賞金額を誇っていたレースで、世界的にも珍しい長距離(3200m)のGI競走です。
そもそも海外の長距離GIで挑戦できるのが、ヨーロッパとオセアニアぐらいなのですが、このメルボルンCは優勝賞金も開催時期も相俟って、天皇賞(春)の様な古馬長距離GIがない日本を脱して遠征するには程よいレースという見方もされてきました。
2006年に菊花賞馬の【デルタブルース】が優勝しましたが、その他の年、平成年間では全て2桁着順と惨敗を喫しており、2019年の【メールドグラース】が善戦したとはいえ6着です。こちらも基本的には相当苦しいレース形態という見方が現実といえそうです。
例えば、中長距離路線だと、コーフィールドカップやコックスプレートのように日本馬が優勝しているGIもたくさんありますし、アジアの延長線上にあるといえることもあってか成績が安定しているエリアではあるかも知れません。
【おわりに】
むしろ今回挙げた以外では、かなり日本馬は優秀な成績をおさめています。
そして、従来「鬼門」とみなされてきた部分についても幾つか壁を突破する先駆者が出てきています。
“苦手”とみなせるほど実績を残せていないレースや舞台に果敢挑戦された馬や陣営には大きな称賛を送ると共に、過去の実績なども踏まえて「ちゃんと結果を評価する」ことも重要かと思います。凱旋門賞で7着となることは、ドバイシーマクラシックで7着となることとは少し意味合いが異なります。
それに今回の記事では触れませんでしたが、単なる着差だけでなく、各馬の日本国内での実績や、出走頭数、着差なども個別には重要なファクターとなってきますので、そこの辺りはぜひ総合的に判断して頂けると嬉しいです。
こうした現時点での状況を踏まえられるようになることが、この記事を通じてできれば皆さんのお役にも立てるのではないかと思いますし、今後、「海外遠征」のニュースや結果を見る際の一つのヒントになるのではないかなと思います。ぜひまたこちらの記事を訪ねて、日本競馬の発展を一緒に見届けていただきましょう!
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