NHKの「全波全中チャイム」について纏めてみた【2024/1/6・M4.3での震度6弱まで】

【はじめに】
皆さんこんにちは“Rx”です。この記事に辿り着いた皆さんが、大きな災害や報道に接していないことを祈るばかりですが、本日振り返っていくのは、NHKの「全波全中チャイム」についてです。

全中(ぜんちゅう)

略語
(略)
NHKが全国ネットの放送を行うこと。津波警報などの臨時ニュースの際は全ての放送波を用いて、一カ所(ニュースセンター)から全国放送を行うため、全波全中と呼ばれる。緊急警報放送とは異なる。

日本語版ウィキペディア > 全中 より

日本語版ウィキペディアで概要をおさらい

日本語版ウィキペディアで概要を見ていきたいと思うのですが、各ページともガチ勢が書いているためか、解説文がかなりマニアックな形になっているので、私なりにエクストリームに解説していきます。

気象庁震度階級で6弱以上の揺れを観測する大型の地震、津波警報・大津波警報を伴う津波、天皇崩御や軍事攻撃などの非常事態が発生する恐れがある場合は、別番組が放送されている可能性のあるEテレ、R2、FM放送、BSプレミアム、BS4K、BS8K(BSプレミアム発足前はBS2・BShi)を含めて全チャンネル共通放送(全中)となる場合がある(この判断は東京の放送センターで行なわれる。

過去に天災では日本海中部地震、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震などが、それ以外では1989年(昭和64年)の昭和天皇崩御などの例が挙げられる)。

この場合、政見放送の途中で割り込むなどして本来R1で行われるべき速報をFM放送で行うなど例外中の例外も起こる。なお、R2で毎日16時から放送されている『気象通報』は全中が起こった場合のみ中止が許されており、それ以外の理由では必ず放送しなければならない。

2016年(平成28年)の熊本地震では、電波全中に加えて総合テレビのニュースをホームページ『NHK NEWS WEB』でストリーミング配信する初めての試みが行われた。

日本語版ウィキペディア > 報道特別番組 より

タイトルにある「全中」の「中」は「中継」で、「全」は「全チャンネル」を指していると思います。「全チャンネル共通放送(中継)」的な意味合いで捉えておきましょう。

NHK総合で通常の「ニュース速報」を放送している場合でも、通常は「Eテレ」などは別番組を放送しています。しかし、大災害などの場合は、どのNHKの局にチャンネルをあわせても、NHK総合と同じ内容を放送していることが稀にあります。それがまさに「全中」という奴なのです。

日本語版ウィキペディア > NHKニュース より

「NHKニュース」には、また細かい内容が書かれていて、関心のある方には興味深い内容なのですが、一般の方がそこまで知る必要があるかは別問題なので、リンクと画像を貼るに留めておきます。

また「○波全中」という言葉をネットで目にすることがあるかも知れません。○には数字が入ります。これは、上でいうところの「全チャンネル」に該当するチャンネル数(全波)を当てはめるものです。長らく「七波全中(NHK総合・教育、BS1・2、ラジオ第1・第2・FM)」の時代が続き、時代の変遷によってその数を増やしたりしながらネット上では使われてきました。(八波、九波といった具合)

切り替え条件と「全中チャイム」

この「全中」に切り替える条件は幾つか分析されています。ウィキペディアにも載っていましたね。

気象庁震度階級で6弱以上の揺れを観測する大型の地震、津波警報・大津波警報を伴う津波、天皇崩御や軍事攻撃などの非常事態が発生する恐れがある場合

日本語版ウィキペディア > 報道特別番組 より再掲

このうち、「緊急警報放送(緊急地震速報とは全くの別物)」が発表される場合(現代においては基本的に津波警報・大津波警報関連時)、狭義では含まない場合があるかも知れませんが、「最大震度6弱以上の地震」であれば、接する機会が皆さんでもあるかも知れません。

トップ >NHKデジタル > 緊急警報放送について

この「○波全中」の代名詞的にネット上で良く知られているのが、「全中チャイム」というものです。これも物好きが自然発生的に言い始めたものかと思うので、オフィシャルな単語ではないと思います。それでもググれば過去の事例動画がヒットすると思います。(興味のある方は自己責任でどうぞ。)

広い意味では、全チャンネルが同時放送をすれば「緊急警報放送」でもチャイムが鳴らない事例でも、すべて「全中」にはなるのでしょうが、「全中チャイム」が目当ての(災害報道などに興奮を覚える)方からすると、チャイムの鳴らない全中を区別することもあるかも知れません。(深入りしませんが)

なお、「全中チャイム」と呼ばれるもの自体は、「緊急地震速報」の警戒音などと異なり、危機感を与えることを目的としていない『穏やかなメロディー』です。ただ、『この音が鳴る時は只事ではない』という“パブロフの犬”的な捉え方があるのかも知れません。

過去の主な「全中チャイム」事例

令和時代の事例

2022年に入って2度「全中チャイム」が鳴ったことを受けて、令和時代に鳴らされた事例を纏めます。

時刻原因震源震度
19/06/18 22:24地震山形県沖6強
21/02/13 23:09福島県沖6強
21/03/20 18:10宮城県沖5強(誤爆)
22/03/16 23:37福島県沖6強
22/06/19 15:09石川県能登地方6弱
23/05/05 14:436強
24/01/01 16:11
24/01/01 23:063 (誤報)

2024年1月1日現在で令和に入って7度、「全中チャイム」が鳴らされています。(漏れなどがあれば情報お寄せください。)

このうち、2024年1月1日の23時過ぎの事例は、気象庁から誤って発表された震度情報(震度7)に基づき(情報そのものが誤っていたとはいえ手続き自体は)適切に行われた「誤報」と見られ、一方、2021年3月20日の事例については、後述するとおり、NHK内の手続きを誤って勇み足的な「誤爆」的な『全中チャイム』発表であったと判断しています。

また、2023年12月2日、フィリピン付近で起きた大地震に伴う「津波注意報」の発表時には、本来、津波警報以上でのみ出される『緊急警報放送』が発表され、直後に解除放送を流すという新たなミス(?)のパターンもありました。ピロピロピロピロ~のブルーバックの日本地図が連続して流れることは珍しいため、これも参考情報として掲載しておきます。

地震以外による事例

「全中チャイム」が鳴るのは、ほとんどが「最大震度6弱以上の地震(しかも津波警報以上が発表されていない)」の事例です。その他の理由(重大ニュース報道)のために現行の「全中チャイム」が鳴った事例として確認されているのは、以下の5回とされています。

  1. 1980/05/19:衆議院解散(大平首相下におけるハプニング解散)
  2. 1989/01/07:昭和天皇、ご危篤
  3. 1989/01/07:昭和天皇、崩御
  4. 1989/01/07:新元号「平成」発表
  5. 1991/01/17:湾岸戦争勃発

うち「1989年1月7日」は同日の午前と午後の計3回を1事象として捉えれば、計3事象となります。ですから、ここ30年「全中チャイム」が鳴ったのは「地震」によるもののみという言い方も出来ます。

なお、2017年の8月29日と9月15日には「北朝鮮によるミサイル発射」を理由に、「全中」が行われましたが、この時は「Jアラート」の画面に速やかに切り替わり、全中チャイムは鳴りませんでした。

また、2022年7月8日に起きた「安倍晋三銃撃事件」でも、ラジオなども総合テレビと同じ音声を流す報道特別番組に移行し、実質的な速報体勢は全中チャイムに準じていましたが、鳴りませんでした。

  • 自然災害以外での全中チャイムは30年以上鳴らされた事例がない
  • 少なくともここ数十年は、個人の事象に鳴らされた事例はない
  • 第一報の段階では(現場にNHK記者が居たとはいえ)確定的な判断ができなかった
  • 容態が悪化する中で改めて鳴らすタイミングを逸した可能性
  • ラジオセンターは映像のないラジオ向けに音声のみに特化した報道を行えた
  • 大規模災害時と異なり、全中としなくとも報道体勢を維持できた

などこういう複合的な要因から、通常のニュース速報のチャイムを鳴らし、全中チャイムを鳴らさない形での報道に努めた可能性が考えられます。

震度6弱以上の地震による事例

必ずしも全てで鳴っている訳ではない

一方、震度6弱以上の地震による事例が殆どを占めています。ただ、その前後の状況などによって必ずしも100%鳴っている訳ではないことも書き添えておきましょう。どういった事象があるかというと、

  • 「阪神・淡路大震災」のように「震度6(弱)以上」と判明するのに時間が掛かった事例
  • すでに「全中」体制に入っている場合(特に余震活動が活発だった地震が該当)
      ~新潟県中越地震、長野県北部地震、熊本地震など~

こういった事例を一つ一つ纏めるのは今回は避けますが、必ずしも鳴っている訳ではないことを抑えておく必要はあるかと思います。

地震の発生日時震央地名深さ最大震度
2016/06/16 14:21:28.2内浦湾11 km5.3震度6弱
2016/10/21 14:07:22.5鳥取県中部11 km6.6震度6弱
2016/12/28 21:38:49.0茨城県北部11 km6.3震度6弱
2018/06/18 07:58:34.1大阪府北部13 km6.1震度6弱
2018/09/06 03:07:59.3胆振地方中東部37 km6.7震度7
2019/01/03 18:10:27.6熊本県熊本地方10 km5.1震度6弱
2019/02/21 21:22:40.4胆振地方中東部33 km5.8震度6弱
2019/06/18 22:22:19.9山形県沖14 km6.7震度6強
2021/02/13 23:07:50.5福島県沖55 km7.3震度6強
2022/03/16 23:36:32.6福島県沖57 km7.4震度6強
2022/06/19 15:08:07.5石川県能登地方13 km5.4震度6弱
2023/05/05 14:42:04.1能登半島沖12 km6.5震度6強
2024/01/01 16:10:22.5石川県能登地方16 km7.6震度7
2024/01/06 23:20:23.0能登半島沖5 km4.3震度6弱

(出典)気象庁 震度データベース
・地震の発生日時 : 2016/04/17 00:00 ~ 2024/01/01 16:59
・最大震度 : 震度6弱以上
・検索結果地震数 : 13 地震 (「地震の発生日時の古い順」で検索)

気象庁の「震度データベース」をもとに、熊本地震以降の事例をピックアップしました。(↑)

これらの地震ではいずれも「緊急警報放送」に該当しなかったため、全て6弱以上の震度が確定した段階で「全中チャイム」が鳴っています。2024年1月6日の地震はマグニチュードが従来と比べてあまりにも小さかったことなどもあって、地震が起きてから確定震度の発表に十数分を要しましたが、気象庁から発表されたタイミングで速やかに全中チャイムを鳴らしました。(2022年の事例は後述します)

昭和の時代も鳴らされていた模様(1972年の事例から)

ちなみに、近年動画共有サイトにアップされた1972年12月4日の「八丈島東方沖地震(M7.2、最大震度6)」の地震のNHK-FM臨時ニュースから分かることも興味深いです。

  • 「緊急警報放送」開始(1985年)前なので、「津波警報」が発表されているのに、あのピロピロ音はなく、代わりに「全中チャイム」が鳴っている
  • 公式に「震度6(烈震)」が観測されたのは24年ぶり(1948年の福井地震以来)だったにも関わらず、ルールが定まっていたからか「全中チャイム」がちゃんと鳴らされている

こういったところは、今との一致点、相違点を分析する上でも興味深かったです。

震度5強以下なのに鳴らした事例(2021年3月の事例:誤爆か)

以上とは別に、本来の条件を満たさないのに「全中チャイム」が鳴った(鳴ってしまって、通常体制に戻った)事例があります。それが、2021年3月20日に起きた「宮城県沖」の地震です。確定震度での最大は「5強」だったのですが、結果的には「全中チャイム」が鳴り、一時的に体制移行しました。

これに関しては、NHKが結果的に「早合点」というか「勇み足」になってしまったのではないかと感じました。具体的に流れを説明しますと、

  • 上のツイートにもある通り、「実際には最大震度5強」しか気象庁は観測していないのにテロップで「震度6強」と誤った情報を流してしまった
  • これは恐らく、緊急地震速報(警報)で「最大震度6強程度」と推定された【実際に観測された値でない】ことを、「実測値」だと混同してしまったことによるものだと思われる
  • 「予測値」を「実測値」とスタッフが勘違いしてしまい、一刻の猶予を争う状況であるため確認不十分なまま「全中チャイム」を鳴らしてしまったのではないか

と個人的には考えています。

根拠の一つとして「全中」になって1分以内にラジオ3波は通常報道体制に戻していまして、あまりに切り替えが早かったことが挙げられるのです。
(通常の6弱以上の地震であれば、被害が確認されず、津波注意報が出ていなくとも1時間程度は継続されることに鑑みると、)実際はスタッフが誤解をしてボタンを押してしまったのではないかと考えられる訳です。(とはいえ、憶測を脱しませんが。)

これに関しては、「津波注意報」が出されたから「全中チャイム」が鳴ったのだとする誤解が広く信じられてしまっていました。(私がツイートで訂正して回った通りです。Wikipediaの記載が要出典で、誤りを事実のように書かれていたことが要因かと思われます。)

分かりづらいけど正しい運用だった事例(2011・2022・2024年の事例)

その反対に、テレビ視聴者からすると「震度情報が確定する前に『全中チャイム』が鳴っている」ように錯覚してしまう事象もあります。代表的なのが、2011年の「東北地方太平洋沖地震」と、2022年の「福島県沖」の地震です。

どちらも今まさに揺れが東日本全体を襲っている状況にあり、「緊急地震速報」に関する情報を伝えている中で、気象庁から確定震度の情報が更新されているという状況でした。NHKは、今まさに揺れが続いている状態の場合、震度情報(震度の地図)の表示を遅らせる対応を取ることがあり(2011年の時がまさにそれ)、2022年も同様の対応を取っていたと思われます。

NHKなどでは、この後の「宮城県・福島県で震度6強」のタイミングまで待って、画面や速報の字幕に震度情報を載せていました。これは2011年と同様ナイス判断だったと思います。

ちなみに下図が示すとおり、M7.4の地震が発生した1分後には「最大震度6弱」の震度速報の情報が、気象庁から公式に発表されており、タイミング的にこの情報を受け(テレビでは伝えませんでしたが)「全中チャイム」を鳴らし、全中報道体制に移行したものと見られます。

気象庁|地震情報 > 「2022年3月16日23時37分発表 震度速報」 より

故に2011・2022年の事例は「誤爆」ではなく、テレビ画面には表示しない情報(確定震度6弱以上)に基づいて適切に対応されていたことを申し添えておきたいと思います。

また、2024年1月1日に起きた「令和6年能登半島地震」において、震度7を観測する本震では適切に『全中チャイム』が鳴らされ、そこから放送が開始されましたが、その日の午後11時過ぎ、再び『全中チャイム』が鳴らされたケースが発生しました。
気象庁が震度情報を誤って発表(震度3のところ、本震の震度を再発信してしまい、震度7を観測したと誤報)したことを受けて、NHK側は『震度7を再度観測した』ものとして捉え、震度6弱以上で体制を取るという手続きに従って1日に2度目の『全中チャイム』を鳴らしたものと推定されます。

ポストした内容のとおり、本来は『疑ってかかれば誤報だとわかりそうなもの』という本音は一旦おいておいて、NHKの法的な立ち位置なども加味すれば、(誤報だったとはいえ)気象庁からの情報に則って“適切に”対応した結果、誤った『全中チャイム』が鳴った事例として触れておきます。

コメント

  1. おがくず より:

    全中は「全国中継」の略です。今更ですが・・
    NHK職員も現場で使用する用語です。

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