【はじめに】
この記事では、令和の時代の『忌日の季語』について、整理してまとめていきます。コンセプトについては、過去にnoteで披露したものを引用しておきますので、興味のある方はぜひお読み下さい。(↓)
(1)俳人以外を積極的に採用
歳時記に載っている「忌日」の季語は、多くが俳人や歌人、詩人などの文芸の世界の方々です。しかし、結社などに入っていなかったり、俳句を初学の方々にとっては馴染みが薄いのが本音だと思います。
だから寧ろ俳句とは直接関係が無いものの、その業績を良く知っていたり、思いを込めやすい方々を積極的に採用し、リストアップしています。(2)極力日の浅い方を積極的に採用
歳時記に載る「季語」は、俳人の世界に定着するのを待つため、基本的には採用されるまでに時間を要します。憚らずに言えば、ほとんどが20世紀以前に亡くなった方で、平成以降に亡くなった方は数える程度しかいません。
しかし、本音で言えば、亡くなって日の浅い方のほうが、思い出や印象が色濃く、より鮮明に句に描けるのではないかと思うのです。それこそ、訃報を知った直後とか一周忌とかそういうタイミングを逃さないことこそ、現代を生きる俳人に課された使命なのではないかと思うほどです。
なので、亡くなって日の浅い方も積極的に採用し、作句例を増やすことで、後世に「忌日」を伝えることを目指したいと考えています。(3)「忌日」の概念にとらわれず、生前をnoteで振り返る
(出典)noteで歳時記 〔秋・忌日〕分冊|Rxのnote
「忌日」の季語が難しいとされるのには、上記の2つの原因が結構大きなウェイトを占めているのではないかと感じます。そりゃあ今、昭和に亡くなった会ったこともない人を俳句に詠むのは難しいでしょうし、むしろ親しみのある人物についてリアルタイムに描くならば、月並みなものにはならないはずです。
だからこそ、この記事では「忌日」という概念にとらわれず、活きた忌日の俳句づくりの手助けとなれば幸いと思っています。
中世以前:西行忌、兼好忌、小野小町忌ほか
季語が整理され、季寄せなどが編まれ始める時代にあっても『歴史上の人物』だった、すなわち江戸時代より昔の歴史上の人物について、まずはざっと見ておきます。主に、僧や歌人が並びます。
旧暦 | 生没年 | 人名・忌日名 | 職業ほか |
---|---|---|---|
如月14日 | ?~1172? | 妓王忌/祇王忌 | 白拍子 |
如月15日 | 1118~1190 | 西行忌 | 僧・歌人 |
如月15日 | 1283?~1352? | 兼好忌 | 歌人・随筆家 忌日は諸説あり |
如月28日 | 1522~1591 | 利休忌 | 茶人 |
弥生2日 | 1143~1179 | 俊寛忌 | 僧 |
弥生18日 | 660頃~724 | 人麻呂忌 | 歌人 |
弥生18日 | 9世紀頃 | 小町忌 小野小町忌 | 歌人 |
弥生25日 | 1415~1499 | 蓮如忌 | 僧 |
近世:光悦忌、丈草忌など
近世(=江戸時代)については、如月から弥生において著名人が少なめだったのでリストアップにとどめておきます。
- 如月3日:(本阿弥)光悦忌(刀剣・芸術家)
- 如月24日:(内藤)丈草忌 (蕉門俳人)
- 如月30日:(宝井)其角忌 ( 〃 )
- 弥生28日:(西山)宗因忌/西翁忌/梅翁忌(連歌師)
近現代:啄木忌、菜の花忌(司馬遼太郎)、虚子忌 ほか
まずは、詩人や歌人などです。2024年4月に「夏井いつきの一句一遊」で兼題となった『石川啄木』の『啄木忌』などは代表的な歌人の忌日の季語でしょう。
- 2月8日:(長塚)節忌
- 2月25日:(斎藤)茂吉忌
- 3月10日:(金子)みすゞ忌
- 3月26日:(室生)犀星忌
- 4月2日:(高村)光太郎忌、連翹忌
- 4月5日:(三好)達治忌、三好忌、鷗忌
- 4月13日:(石川)啄木忌
- 5月4日:(寺山)修司忌
続いて、小説家・作家です。個別名のついた「菜の花忌(司馬遼太郎)」や、戦前の「多喜二忌」、そして「康成忌」なども象徴的でしょうか。
- 2月12日:菜の花忌(司馬遼太郎)
- 2月17日:(坂口)安吾忌
- 2月20日:(小林)多喜二忌
- 2月28日:(坪内)逍遥忌
- 2月29日or3月1日:三汀忌、海棠忌、微苦笑忌(久米正雄)
- 4月16日:(川端)康成忌
- 4月20日:(内田)百閒忌、木蓮忌
- 4月30日:(永井)荷風忌
そして、明治期などからの『俳人』です。代表的なのが4月8日の『高浜虚子』でしょう。ほかにも、3月3日の『星野立子』や、4月7日の自由律俳句『尾崎放哉』などは広く知られています。
- 2月18日:(岡本)かの子忌
- 2月24日:(芝)不器男忌
- 3月3日:(星野)立子忌、雛忌
- 3月26日:(山口)誓子忌
- 4月1日:(西東)三鬼忌
- 4月7日:(尾崎)放哉忌
- 4月8日:(高浜)虚子忌、椿寿忌、惜春忌
21世紀の新たな季語候補:兜太忌
代表的なものとして、角川俳句大歳時記の最新版に載っているものを拾いました。「金子兜太」先生の忌日などもおそらく21世紀の俳人によって読みつがれることでしょうし、東日本大震災関連の句は新聞なども巻き込んで作句されるに違いアリません。
- 2018年2月20日:(金子)兜太忌
- 2007年2月25日:(飯田)龍太忌
- 2011年3月11日:東日本大震災の日、東日本大震災忌、三月十一日、※東北忌
- 2003年3月14日:(鈴木)真砂女忌
ただし、こうした文学的なものだけでなく、現代・令和における忌日の季語はもっと幅広くても良いのだろうと個人的には考えています。俳句αあるふぁ社の「夏井いつきの『発掘忌日季語辞典』」も参考にしつつ、以下のような季語のタネを提案したく考えています。
- 2月6日(2024) 小澤征爾 (音楽家)
- 2月13日(2023) 松本零士 (漫画家)
- 3月1日(2024) 鳥山明 (漫画家)
- 3月3日(2023) 大江健三郎(小説家)
- 3月4日(2024) TARAKO (声優)
- 3月28日(2023) 坂本龍一 (音楽家)
- 3月29日(2020) 志村けん (コメディアン)
- 4月5日(2023) 畑正憲 (ムツゴロウさん)
- 4月7日(2022) 藤子不二雄A(漫画家)
- 4月12日(2020) 藤原啓治 (声優)
2020年代(≒令和時代)の春に亡くなった方々のうち、私の主観で選びました。もちろんここに居ない方でも貴方の印象深い方について、季語としてお詠みいただければと思います。
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