夏っぽいけど「実は秋の季語」ってものをまとめてみた(秋に分類される理由も分かる!?)

【はじめに】
皆さん、「夏の季語」だと思っていたら『実は秋の季語だった!』という苦い経験はありませんか? 国語の「俳句」のテストで理不尽に×にされて、それ以来「俳句自体が嫌いになってしまった」…… みたいな経験はないですか?

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今回はそういった理不尽な(?)ひっかけ問題にも使われがちな『夏っぽいけど実は秋の季語』をピックアップしましたので、『なぜ秋の季語に分類されているのか』の理由の部分も含めて学び直しをしていただければと思います!

「立秋」の後だから「初秋」の季語

「俳句歳時記」そして「俳句の季語」の季節の分類は、一般的に『立春』や『立夏』などの二十四節気で区別します。1年を24分割した「二十四節気」は古くから使われているため、いわゆる月の満ち欠けに連動する(後述の)太陰暦と混同されますが、れっきとした太陽暦(太陽の動きに連動)で、むしろ元々は季節の動きに忠実に連動するものでした。

もちろん、上の記事にも書いたとおり、中国大陸と違って梅雨明けしたばかりの日本列島は、8月上旬の『立秋』あたりが暑さのピークという印象があります。更に昨今はヒートアイランド現象なども相俟って、猛暑が9月一杯続くような感じになってきています。

それでも俳句歳時記が編まれた過去からの経緯をもってして、『立秋』を迎えた8月上旬以降の出来事は、基本的にすべて「秋」に立項されるのです。

終戦記念日、終戦の日、敗戦忌、八月十五日ほか

解釈にブレが出ないものとして「八月十五日」、いわゆる『終戦記念日』とその傍題を取り上げます。

1945年(昭和20年)8月15日:正午からラジオで放送された玉音放送により、前日に決まったポツダム宣言受諾及び日本の降伏が国民に公表された日。日本政府が武装解除アメリカイギリス中国などの連合軍への投降命令を発し、連合国もそれを受け戦闘を止めた。

終戦の日
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

1945年8月の「東京」の気象観測をみると、8月2日から13日連続で真夏日(8月14日は雨が降り、最高気温28.4℃)で、8月15日も最高気温は32.3℃と真夏の暑さだったようです。様々なイメージから終戦の日は「夏」のイメージがつきまといます。

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諸外国では「9月2日ないし3日」とするのが一般的といった別の問題もありますが、日本国内で一般に「終戦の日」といえば「8月15日」の玉音放送の日を指します。これらは立秋から白露までの間に存在する日付なので、俳句歳時記上は「秋」の季語として立項されているのです。

※)原爆忌、原爆の日、広島忌、長崎忌ほか

そして、『終戦の日』と似た時期にありますが、悩ましいのが『原爆忌』と2つの日付を総称している季語です。ウィキペディアを引用すると、このように書かれていました(↓)。

原爆忌(げんばくき)とは、慰霊の日の一つで、原子爆弾が投下された日。8月6日8月9日の二つある。夏あるいは秋の季語。(立秋がこの時期のため)

原爆忌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

原爆が投下されて以降の二十四節気を見ると「立秋」は8月7日か8月8日であり、『広島忌(8月6日)』は暦の上では夏、『長崎忌(8月9日)』は暦の上では秋となります。ここ最近は『夏』単体に立項している歳時記が増えてきているようですが、編集意図によっても季節判断が分かれる季語の代表例といって良いでしょう。

確かに「広島・長崎の平和記念/祈念式典」は、真夏の日差しの中、屋外(テント)で催され、まさに暑い記憶と結びついているため8月6日に重きを置いて『夏』の季語とするのも理解できます。

ただ、8月9日や8月15日が秋であることだけでなく、後述する「お盆」の追悼のイメージなどとも絡んで、個人的には『秋』の季語として捉える考え方に感銘を受け、どちらかというと『秋』の季語だというイメージで作句することが多いです。

見出しに「※」を付けた理由として、『夏』とも『秋』とも捉えうる季語だけに、『当季雑詠』などの兼題が出された時に季語として使う際は想像以上に慎重さが求められることは抑えておく必要があろうかと思います。

「陰暦7月」だから「初秋」の季語

一般には、昔からの暦であれば一緒くたに【旧暦】とされてしまいますが、先ほども触れたとおりで、「太陽暦」と「太陰暦(月の満ち欠け)」は区別する必要があります。

上の記事にも書きましたが、旧暦7月こと「陰暦7月」は年によって微妙な差がありますがおおよそ「8月前半から9月初頭」ぐらいまでを指すことがここ数年は多いです。(↓)

西暦日数
2019年8月1日8月29日29日
2020年8月19日9月16日29日
2021年8月8日9月6日30日
2022年7月29日8月26日29日
2023年8月16日9月14日30日
2024年8月4日9月2日30日
2025年8月23日9月21日30日

陰暦が基本だった19世紀以前は、「陰暦7月」といえば秋の始め頃であり、その頃には現代にも伝わる行事が幾つも行われていました。(結果的に明治の改暦に伴う対応が異なったために複雑化してしまった側面は否定できないのですが……)。

七夕 ほか

「七夕」については上の記事で詳しく書いたのでここでは詳細を省きますが、
現代の暦の7月7日は梅雨の真っ只中で曇り・雨がちです。一方、本来の日程である「陰暦7月7日」は8月後半に当たることが多く、日の沈むのが夏の頃よりもグッと早くなり、気温も8月前半の連日熱帯夜が少し解消され始める頃です。

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要するに、本来8月後半ぐらいに来ることの多かった「陰暦7月7日」の行事『七夕』を、こうして今の暦(陽暦)に日付だけ当てはめ1ヶ月以上前倒ししてしまっているから違和感を覚えるのであって、そもそもは秋がちゃんと訪れ始める頃にやってきた行事だったのです。

盆、盆踊り

そして、少し見落としがちかも知れませんが、本来「陰暦7月」に設定されていた行事の筆頭格が恐らく「お盆(← 盂蘭盆会)」かと思います。

お盆(おぼん)は、日本夏季に行われる祖先の霊を祀る一連の行事。日本古来の祖霊信仰仏教が融合した行事である。かつては太陰暦7月15日を中心とした期間に行われた。

明治期の太陽暦(新暦)の採用後、新暦7月15日に合わせると農繁期と重なって支障が出る地域が多かったため、新暦8月15日をお盆(月遅れ盆)とする地域が多くなった。

お盆
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

戦後は特に「終戦の日」と『15日』が共通することもあって、月遅れ盆(陽暦8月15日)前後とする事が増えていますが、こちらも本来は「陰暦7月」。そうすると基本的には『秋』の季語として分類される訳です。

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『夏休み』は当然夏の季語になりますし、お盆の帰省ラッシュも夏後半の一大イベントだった時代も20世紀後半まで印象深かった訳ですが、ここでも「暦/カレンダー」上のマジックで、お盆は秋の季語と分類されてしまうのです。

そして「盆」から連動する形の季語として代表例を一つ挙げると、『踊/盆踊』などもまさに秋の季語と分類されるのです。

※)花火

そして、私も含めて多くの方が混乱しがちなのが『花火』という季語です。手元の角川俳句大歳時記には、「夏」に現代風の『花火』が、「秋」に伝統的(近世頃)の『花火』が別々に立項されています。

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もちろん花火は一年中打ち上げられることがありますし、納涼の花火大会も立秋後に催されることは珍しくありません。一方で「夏休み」などとの兼ね合いもあって、初学者に「『花火』といえば夏の季語だよね?」と聞いたら疑いを持つ方は殆どいないでしょう。

隅田川川開きの花火』などに“創られた伝承”として百五十年近くまことしやかに信じられてきたお話も参考にすると、『花火』を古く秋の季語とした根底には以下のような背景があるようです。

  • 『花火』には鎮魂の意味を込めるものがあった
  • 時期の近い『盂蘭盆会(お盆)』と絡めて催されるケースがあった

実際の歴史的な経緯は判然としませんし、今や『夏の季語』として定着しつつありますが、時として「『花火』が元来は秋の季語とされていた」というトリビアが役立つ時が来るかも知れません。

他に理由があるから「初秋」の季語

以上のような「暦」ではっきりとした理由があるものは、(複雑な経緯を持つ日本の暦と行事は子供たちには難しいでしょうが、)慣れてしまえば判別がしやすくなると思います。きっと皆さんならついてこられるはずです。

ここからはそれ以外の理由で「初秋」に分類されているものをカテゴリー別に列挙していきます。

時候:残暑

「暑中見舞い」と「残暑見舞い」の分かれ目が『立秋』であることだったり、お天気コーナーの豆知識などでご存知の方も多いでしょうが、「残暑」というと『立秋』の後(8月頃)の暑さを指すのです。

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困ったことに、8月中の暑さは35℃どころか40℃に迫ることも増えてきた昨今、とても『秋っぽさ』を感じられる悠長なものではありません。令和には『命の危険に関わる残暑』となってしまっています。

そして、『暑さに秋っぽさを感じる』ようになるのは、現代においては8月でなく9月(ひょっとしたら10月)になってしまっている点で、俳句歳時記の中の季節感と現実との乖離が一段と進んでしまっているように思えます。

天文:初嵐

古くは「野分」と呼んだ「台風」は、俳句歳時記ではがっつり秋の季語とされています。確かに台風の特異日とされた9月26日(1950年代の洞爺丸台風、狩野川台風、伊勢湾台風)は秋真っ只中ですが、夏の中頃には日本列島にかなり接近または上陸するものも珍しくありません。

俳句歳時記には「台風シーズンの前触れのような強い風」などのことを指して『初嵐』という季語が収録されています。その年の初めての台風といった意味ではむしろ7月以前の夏に遭遇することの方が多いのでしょうが、「台風シーズンの前触れ」だったり「秋の訪れ」といった意味では「8月前半に吹くような強い風」という前提でいた方が良さそうです。

植物:朝顔、西瓜、鬼灯 ほか

小学生に出題するには『嫌がらせ』じゃないかと思うものの代表格なのが「初秋の植物の季語」です。

『ほおずき』は人によって馴染みが薄いのかも知れませんが、小学校の自由研究などで育てて観察日記を描いた思い出のある方々も多い『朝顔』や、夏休みの定番の食べ物である『西瓜(すいか)』は、子供や初学者にとってはどう考えても夏の季語としか思えません。

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『朝顔』が秋の季語とみなされる経緯を私なりにまとめると、

  • 「朝顔」という朝に花を咲かせる植物は古代から詠まれてきたが、時代によって指す植物そのものが異なる。現代の朝顔よりも旬が遅い植物を指していたことがあり、それが現代の「朝顔」と混同されたおそれがあった
  • 山上憶良が詠んだ「秋の七種」の和歌(『万葉集』より)の最後に「朝貌の花」が登場するため、その伝統から「あさがお」と訓読される植物は秋の季語となった
  • もともと漢字文化圏では「朝顔」に『牽牛』という異名があり、本来は直接関係のなかった『牽牛』=『七夕の彦星』と結びついて、秋のイメージが強まったもの
  • 江戸時代の加賀千代女の代表的な作品『朝顔やつるべ取られてもらひ水』に、どこか印象が引っ張られて近代まで残っているというもの

といった歴史的な背景が複雑に絡まり合って行った節は否めないと思います。加えて、現代の「朝顔」も、なかなか夏休みの序盤(7月中)に咲くイメージはなくて、どこか8月中盤以降に咲くパターンが多かったように思います。

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ちなみに「朝顔がなぜ秋の季語なのか」という疑問に対する回答として、初学者だった自分が最も納得したものをざっくり纏めると以下の説です。

『朝顔』は晩夏から初秋にかけて咲く花であり、一般的には「夏」のイメージが強い。
ただ、朝晩に少し涼しさを覚えるようになってくる8月後半の「朝」に咲く

・朝顔のその爽やかな色味と
・朝の若干の『秋めいて』きたように感じる空気感

などから、「秋の季語」として捉えるのが本意であるべき

つまり、「朝顔」は確かに夏の終わりに咲くが『夏の終わりに、秋の訪れを感じる印象的な花』だから秋の季語なのだという説といった感じでしょうか。

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そして、もう一つ『秋の季語』と分類されていることに衝撃を受けるのが『西瓜(すいか)』です。 俳句を始めるまではどう考えても『夏の季語』だと考えていたのですが、近世における旬が、今よりも遅かったことが影響しているようです。

これと関連するのかは分かりませんが、個人的な補足として、『8月中旬にお盆休みなどに帰省して、田舎の実家で「西瓜」を食べる』という原体験が、『西瓜』を秋の季語として歳時記に掲載し続ける上で結構なインセンティブを持たせているのではないかと思っています。

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