【はじめに】
この記事では、初春の時候の季語である「早春(そうしゅん)」について纏めていきます。
歳時記などで比較して学ぶ「早春」
まずは「早春」という季語についておさらいしていきましょう。ウィキペディアを見てみましたが、

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
内容は「曖昧さ回避」といった要素が強く、満足な解説は得られませんでした。強いて言えば、作品に使われやすい『詩情』のある言葉であるといったところでしょうか。
手元のいくつかの辞書を調べてみても、『春のはじめ(ごろ)』など味気ない説明が並んでいて、本意に達することは難しく感じました。そこで、本丸である俳句歳時記をいくつか漁ってみますと……
[春]【早春(そうしゅん|さうしゆん)】[時候]
『現代俳句歳時記』(現代俳句協会 編)より
立春後まだ寒いが、いちはやく風物にどことなく春の気配を感じる。
などと出てきます。いくつかを比較した時の共通項みたいなものを、私なりに2つに纏めてみました。
- 時期の起点は「立春」。どこまでを指すかは意見が分かれる
ざっくり「春のはじめ頃」を意味する季語。俳句で『春』といえば、太陽暦の「立春」を起点としているので、スタートは概ね共通をしています。ただ一方で、終わりは2月後半から2月末あたりまで分かれていて、ここは歳時記ごとに違っているのが興味深いと言えるでしょう。 - 季語の「本意」は、『寒さの中の春の兆し』にウェイト
2月上旬の「立春」から半月ほどは、(『早春賦』の“春は名のみの風の寒さ”ではないですが、)明らかに「冬」といった体感に近いです。晩冬の季語の『春隣』とは反対に、“早春”という季語の本意は、『寒さの中で微かに見いだせた春の兆し』のような方に軸があるように感じました。
似た季語と比較すると、例えば『初春』は明確に時期が決まっているのに対し、この『早春』は漠然としています。また、『春浅し』との近さを指摘する歳時記も多いですが、一つ文字面の観点からすると『浅い …… 縦軸』、『早 …… 横軸』に軸を持っていて、春という広い季節の概念を横の空間で捉えてその中で(時間的な意味も含め)【手前】に位置するものを『早春』と形容するのかなと思いました。
例句にみる「早春」のイメージ
ここからは、俳句歳時記の例句にみる「早春」の秀句と、そこから伝わるイメージを纏めていきます。手元の『角川俳句大歳時記』の例句で、実は目についたのが「水」関係でした。
- 『早春の門すこし濡れ朝のあめ』/及川貞
- 『楽器函ほど早春の水車小屋』/鷹羽狩行
- 『早春の水捗りゆく名馬ばかり』/和田悟朗
- 『早春や光の針を飛ばす海』/小川公子
確かに、「冬」…… 氷と雪の世界 から、「春」…… 雨と水の世界 に移るイメージがあるのかも知れませんが、そこまで厳しい冬でない地域であっても、命の息吹や躍動感を受ける「春」と「水」の相性はやはり惹かれるものがあるのでしょう。
その他、近代の名俳人の句を中心に、いくつか気に入った作品を続けて掲載しておきます。
- 『早春や室内楽に枯木なほ』/石田波郷
- 『早春の城出て帰る石工達』/飯田龍太
- 『星早春教へし露語もて別れをいふ』/古沢太穂
- 『前髪を上げ早春の銀座まで』/加藤あけみ
こちらは少し「人間」を中心に据えた早春の取り合わせの句を並べてみました。『早春の~~』とすると季節感の力も借りて、その後に来る名詞のパワーが格段に増します。
「プレバト!!」にみる『早春』の例句
徳光和夫さんが『早春賦』の歌詞をそのまんま使った俳句で凡人査定となった2020年は例外すると、「プレバト!!」で『早春』と入った句が披露されることは、結構最近までありませんでした。
- 『早春の朝や寝間着で捺す判子』/相田翔子’
- 『春風のマーチ擦り傷にマキロン』/森迫永依
- 『レンジ置き場は空早春の一人暮らし』/河野純喜(JO1)
2022年以降の作品を幾つか並べましたが、若い世代も肌感覚として季語を実感しやすいためか、良い句が披露され、森迫さんは4級へ昇格、JO1の河野純喜さんは70点で才能アリ1位となっています。
例句に比べて、生活感が強く、若々しさも感じるあたりが、令和の時代に「早春」を詠むにあたっての強みであり本意の一側面なのかなと感じました。
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