ウィキペディアで学びなおす「土用の丑の日」

【はじめに】
皆さん、「土用の丑の日」には鰻など「う」のつくものを食べられますか? ……ところで、「土用」って何ですか? 「丑の日」って何ですか? 詳しく説明できないという方、ぜひこの記事で抑えていきましょう!

ウィキペディアを補って学ぶ「土用の丑の日」

日本語版ウィキペディア「土用の丑の日」の冒頭部分は以下のように説明されています(↓)。

土用の丑の日(どようのうしのひ)は、夏の土用の期間にある丑の日のこと。

土用の丑の日
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

正直、前提知識がないと満足に理解できないので、逐語訳ではないですがざっくり見ていきましょう。

「土用」は1年を5分割する際の余りみたいな期間(?)

「土用」が『土曜日』とは字が違うので別物だというのは義務教育までに知る方が多いでしょうが、そこで理解が止まっている方も多いと思います。そもそも「土用」は『土旺用事(どおうようじ)』を省略した表現だそうで、そういったところから知らないことだらけです。

『土用』について国内では平安時代には用例があるみたいで、中国から渡ってきたと見られますが、幾つかの辞書を引いても「そもそも中国大陸で生まれたのか」、「いつ日本に定着したのか」、「中国ほかアジア圏では現存するのか」といったことは判然としませんでした。
他の行事や雑節と比べても、その由緒がはっきりとしていないのでしょうかね……?

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さて「土用」について説明する上で必ず登場する概念が、中国では根底にある『五行思想』でしょう。

五行思想(ごぎょうしそう)または五行説(ごぎょうせつ)とは、古代中国に端を発する自然哲学の思想。万物は七曜の命令)の5種類の元素からなるという説である。また、5種類の元素は「互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環する」という考えが根底に存在する。

五行思想
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本で季節を分けるには「春夏秋冬の四季」が基本であり、例外的に俳句歳時記では近代以降『新年』を立てて「五季」とすることがありますが、それとは全く別に中国では『五時』として以下のように分類されていたのだそうです。

( 同上 )

白虎、青龍などの四獣は日本でもよく出ますが、これに「黄竜」または「麒麟」を加えた五獣という概念も存在するそうで、中国では『5』という数字が日本以上に重視されていた傾向が顕著です。

一年365(.24)日を4で割ると「91.3日」となりおよそ3ヶ月ですが、これを5で割ると「73.05日」ぐらいとなります。ここに誤差として「18×4→72~73日」という余りのようなものが登場するのです。

土用(どよう)とは、五行に由来する雑節である。1年のうち不連続な4つの期間で、四立立夏立秋立冬立春)の直前約18日間ずつである。

土用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

上の文章を真正面に読むと難しいですが、分かり易くするために厳密性を犠牲にして書くと、「四季」(91×4)ではなく、「五時」(73×5)にしたかったけど、『春夏秋冬』という基本サイクルを崩さないために、それぞれの季節のスタート(四立)の前に『土』に当たる季節を設けちゃおうという感じのノリだったのだろうと思います。

以上をまとめると、下の図のようになります(↓)。今回の記事のために新作しました。

太陰暦を基準とすると立春など綺麗に4分割されるのが「四季」。俳句歳時記では「陽暦/陰暦1月」に灰色の『新年』が分割挿入されて実質「五季」となっています。

そして、「土用」が登場する「5分割」は3行目のような単純なものではなく、四立(立春など)の前に18日間程度『土用』という季節の境目の緩衝地帯を設け、それらの合計日数がちょうど73日程度になるよう設計されているのです。

節分(せつぶん、せちぶん)は、雑節の一つで、各季節の始まりの日(立春立夏立秋立冬)の前日のこと。節分とは「季ける」ことも意味している。江戸時代以降は特に立春(毎年2月4日ごろ)の前日を指す場合が多い。

節分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

「節分」は2月のものばかりが現代では取り上げられますが、「立○」の前日を指すので年に4回あるというのは、ひょっとするとトリビアベタかも知れません。節分と同じで、「土用」も実は年に4回あるというのは、成り立ちや上の画像をみればご理解いただけるのではないかと思います。

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年に4回あるはずの「節分」と「土用」が、冬と夏の季語とされているのは、『追儺(ついな)』とか『土用の丑の日』といった特別で著名なイベントが日本で定着したことが主要因となるでしょう。

「丑の日」は『干支紀日法』。12日周期だから年に2回の年も

現代人にとって「12進法」的なものといえば『ダース』が思い浮かんだりしますが、それ以前にも「十二支」がありました。
戦国時代の五行思想よりも遥かに古く、古代には成立していた十干十二支(十二支は)は、年・月・日を数える際の順番・順序づけの循環の基本として、日本を含む中華圏で重用されてきました。

現代日本では「生まれ」を指す『子年生まれ』なども少しずつ衰退していっていますが、それでも広くその存在は知られています。2023年は『卯年』で、その次の年は『辰年』……といった具合です。

これが「(甲)子の年」だけでなく、「(甲)子の月」や「(甲)子の日」といった表現もあって、12および60進法で循環していたのです。(詳細はウィキペディアでご確認ください ↓)

干支
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

歴史書などを見ると、年月日を十干十二支で表したものもありますし、今でも占いの本や古い暦を入手すると書かれていることがあります。数千年単位で愛用されてきた暦法の一部であり、「十二支」の部分は文字通り12日周期です。

察しの良い方は既におわかりでしょうが、「土用」の日数が18~19日間で、「十二支」が12日周期。なので『土用』という期間に『丑の日』となる日が必ず1回以上あり、それこそがまさに『土用の丑の日』なのです。2つのワードを分けてから組み合わせて考えると理解が進みますよね。

そしてこの循環は年によって異なり、土用の期間に丑の日が1回の年もあれば2回の年もあるのです。仮に土用の期間内に丑の日が2度来るならばそれがいわゆる『二の丑』と呼ばれるものとなるのです。

具体例:2022年夏のカレンダー

具体例として、2022年の夏のカレンダーを簡略化してみましたので、それで復習していきましょう。

7月20日
旧6/22
土用の入
21日
旧6/23
亥の日
22日
旧6/24
子の日
23日
旧6/25
丑の日
24日
旧6/26
寅の日
25日
旧6/27
卯の日
26日
旧6/28
辰の日
27日
旧6/29
巳の日
28日
旧6/30
午の日
29日
旧7/1
未の日
30日
旧7/2
申の日
31日
旧7/3
酉の日
8月1日
旧7/4
戌の日
2日
旧7/5
亥の日
3日
旧7/6
子の日
4日
旧7/7
丑の日
5日
旧7/8
寅の日
6日
旧7/9
節分
7日
旧7/10
立秋

一番上が今の暦(太陽暦)、2行目が旧暦(太陰暦)、そして3行目が雑節と「干支紀日法」です。 日付も子丑寅卯……の順に循環していることが分かります。「土用」は立秋の前18日程度の期間を指すもので、この年は赤く示した「丑の日」が2回あります。もちろん例えば2023年のように、年によって干支の並びが違えば、土用に1回しか「丑の日」がないこともあります。

1回目の「丑の日」(例でいうと2022年7月23日)を「一の丑」、2回目の「丑の日」(同2022年8月4日)を「二の丑」と呼ぶこともありますが、年によって「二の丑」がないことがあるのはこの循環によるところが大きいのです。

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ちなみに、「二の丑」なんて言われるとお得感もあって珍しいことのようにも思えますが、18日程度の期間内で12日周期のものですから、決して珍しいものではないばかりか、過去のデータからも明らかなように、むしろ「二の丑」が無い年の方が少ないというのもトリビアとして抑えておきましょう~

土用の丑の日
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

土用の丑の日の鰻(うなぎ)

『日本で「暑い時期を乗り切るために、栄養価の高いウナギを食べる」という習慣は万葉集にも詠まれているように古代に端を発するとされる』とウィキペディアにありますが、調べてみると確かに、

ウナギ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

大伴家持の『万葉集』の時代から日本では夏バテ対策に食されてきたことが窺えます。特に(3853)と書かれている和歌は、よく引用される『ウナギ』界の著名な作品です。こうした流れもあって、元々、「鰻」は夏の季感を強く持った魚だったことが分かります。

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これが「土用の丑の日」に特化するようになったのは江戸時代の後半頃だそうで、そうした意味では、『万葉集』から1,000年近く時代は空いていますし、直接的な伝統としては200年そこそこということになります。

一説によれば「丑の日に『う』の字が附く物を食べると夏負けしない」という風習があったとされ、鰻以外には梅干うどんうさぎ馬肉(うま)、牛肉(うし)などを食する習慣もあったようだが、今日においては殆ど見られない。
実際にも鰻にはビタミンAB群が豊富に含まれているため、夏バテ、食欲減退防止の効果が期待できるとされているが、前述の通り、栄養価の高い食品で溢れる現代においてはあまり効果は期待できないとされる。そもそも、鰻の旬は冬眠に備えて身に養分を貯える晩秋から初冬にかけての時期であり、夏のものは味が落ちるとされる。

土用の丑の日
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

通説としては平賀源内の発案ということになっていますが、江戸時代の逸話は真偽不明なものも少なくないですし、出典を遡れないものも珍しくありません。ウィキペディアには諸説書かれていますので、そこらへんも興味ある方はお読みいただければと思います。

「土用鰻」などは夏の季語

基本的に食べられる動植物の季語は、その旬の季語となっているはずですが、「鰻」は本来の脂などの旬とは乖離して、「土用の丑の日」に由来して夏の季語となっています。そして、「土用の丑の日」が音数的に長いこともあってか、「土用鰻」や「鰻の日」など音数を縮めた季語のバリエーションもあります。

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