日本初の“市”(31都市)をリストアップしてみた

【はじめに】
1889年4月1日、日本で初めての「市」が誕生しました。数えて31都市です。今回はそれらの都市をリストアップして、当時の空気感を知っていきたいと思います。

市制(しせい)は、従前の郡区町村編制法に替わり、日本の市の基本構造を定めた法律である。1888年(明治21年)4月25日の「明治21年4月25日法律第1号」の前半により規定され、1911年(明治44年)4月7日の「明治44年4月7日法律第68号」により全部改正され、1947年(昭和22年)5月3日の「地方自治法」の施行によって廃止された。

制定時の第1条に「此法律ハ(中略)市ト為スノ地ニ施行スルモノトス」とあり、市となる区域で順次この法律を施行(適用)されたことから転じて、区町村から新たに市を設けることを「市制を施行する」と表現するようになった。

日本語版ウィキペディア > 市制 より

1889年(明治22年)年末の人口リスト

( 同上 )

地域別・市制施行都市一覧

( 同上 )

北海道地方:該当なし

北海道には市制が施行されず1899年(明治32年)5月1日になって市制に似て自治権が弱い北海道区制が施行された。町村に対しては北海道で北海道一・二級町村制が、沖縄県などでは島嶼町村制が施行された。内地(本土)と別扱いの半植民地的地位を現すものである。

( 同上 ) > 内容と改正 より

函館や札幌に市制が敷かれたのは、今から100年前の1922年(大正11年)。札幌・函館を始め6都市が一気に誕生しました。なお、昭和に入って起きた「函館大火」によって函館市と札幌市は人口が逆転、現在に至ります。

地名1889現在
函館5.325
札幌1.7196
単位:万人 / 1889年と現在の人口の比較(概算イメージ)

東北地方:弘前、盛岡、仙台、秋田、山形、米沢

東北地方は、実は後に紹介する近畿・九州地方と並び、6都市が成立しました。江戸時代からの歴史を思えば理解は出来るのですが、現在の人口からすると、弘前市や米沢市は少し意外な感じを受けるかも知れません。

地名1889現在
弘前3.017
盛岡3.029
仙台9.0110
秋田3.030
山形2.925
米沢3.08
単位:万人 / 1889年と現在の人口の比較(概算イメージ)

当時から仙台市(現在の市域とは全く違うので参考扱い)は9万人いて、周囲の市の3倍にあたる人口を擁していたことになります。現在でもほぼ10倍したようなスケール感は変わっていませんですね。

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一方、当初の6都市には「福島県」からは選ばれませんでした。当時、人口1万人を超える町は3つしかなかったのです。市制発足から10年後の1899年に、福島県で初めて市制が敷かれたのは「若松市」でした(戦後「会津若松市」と改名して現在に至ります)。

関東地方:水戸、横浜(2都市のみ)

関東地方は、実は1889年4月1日に市制を敷かれたのは僅か2都市のみでした。神奈川県横浜市は納得の選出ですが、もう1都市が実は水戸市なのです。

地名1889現在
水戸2.527
横浜12.2377
単位:万人 / 1889年と現在の人口の比較(概算イメージ)

もちろん、歴史的経緯(水戸藩からの流れ)を考えれば何ら不思議はないのですが、南関東圏に偏った現代人からすると少し新鮮に映るかも知れません。

※この当時、水戸市よりも人口の多かった町として、「宇都宮町(3.07万)」や「前橋町(2.81万)」がありましたし、東京以南でも「横須賀町」や「八王子町」が人口2万人を超えていました。

※「東京市」発足は翌月(1889年5月1日)

東京市の市制は、同3月公布法律12号「市制中東京市京都市大阪市二特例ヲ設クルノ件」(市制特例)によって一般市とは一部異なる変則的な市制だった。

日本語版ウィキペディア > 東京市 より

そして「東京市」は、1889年4月1日の市制発足当初ではなく、その翌月の5月1日に発足しました。
もちろん、人口でいえば当時日本で唯一「100万人」を突破していましたから文句なしです。市制が、変則的だったのには、制度的な側面がありました。

戦前、特に明治初期は「市民」は即ち「有産者」(地主など)という考え方であったため人口あたりの有産者比率の低い都市部では三等級選挙制などの投票権格差がつけられたり、有産者比率の極めて低い三都(東京・大阪・京都→第1回衆議院議員総選挙)には一般の市制ではなく特別市制が施行されたりした。

日本語版ウィキペディア > 市制 > 内容と改正 より

中部地方:新潟、富山、高岡、金沢、福井、静岡、津

ウィキペディアでは「北陸・甲信地方」と「東海地方」に区別していましたが、この記事では「中部地方」と括らせてもらいます。当時はむしろ米どころでもある日本海側が人口を多く擁していました。

地名1889現在
新潟4.678
富山5.841
高岡2.916
金沢9.446
福井4.126
静岡3.869
2.827
単位:万人 / 1889年と現在の人口の比較(概算イメージ)

今でも北陸3県では最多の人口を誇る金沢市ですが、この当時は「(後にいう)六大都市」に匹敵する人口を擁していました。ウィキペディアの記載を引用します。

江戸時代には、江戸幕府(約800万石と言われる)を除いて、大名中最大の102万5千石の石高を領した加賀藩(「加賀百万石」)の城下町として栄え、人口規模では江戸・大坂・京の三都に次ぎ、名古屋と並ぶ大都市であった。

日本語版ウィキペディア > 金沢市 より

他、日本海側の都市の人口は4万人以上おり、この他「高岡市」も初期メンバーに名を連ねています。

転じて太平洋側では、静岡市と津市が市制を敷いています。一方、「浜松町」は人口1.38万人程度で、ベスト100にもギリギリ届かない規模だったといいます(当然、市域は現在と全く異なりますが)。

※「名古屋市」は1889年10月1日に市制

当時をして、中部地方で最も人口が多かったのは「名古屋」でした。現在の市域では230万人を超える人口を擁しますが1889年当時でも16万人に達していました。市制が発足した半年後の1889年10月1日に市制を施行し、愛知県初の市となりました。

近畿地方:京都、大阪、堺、神戸、姫路、和歌山

近畿地方から誕生したのは6都市(京都・大阪・神戸も1889年4月1日の段階で市となっています)。

地名1889現在
京都28.0145
大阪47.6274
4.882
神戸13.6151
姫路2.753
和歌山5.735
単位:万人 / 1889年と現在の人口の比較(概算イメージ)

このほかでは「大津町(1889年当時:2.99万)」、「奈良町(1889年当時:2.45万)」が、1898年に市制を敷いています。

中国・四国地方:松江、広島、赤間関、高知

四国地方では土佐藩のお膝元「高知市」が、そして中国地方では松江、広島、赤間関の3都市が1889年4月1日に誕生しました。

地名1889現在
松江3.620
広島8.9119
赤間関2.925
高知3.232
単位:万人 / 1889年と現在の人口の比較(概算イメージ)

えっ? ここまで知ってる地名ばっかだったのに、この「赤間関」ってどこ??

と感じられた方も多いかも知れません。今回取り上げる都市の中で唯一、同じ名前の都市が現存していないからです。でもひょっとすると、日本史・地理好きの方などからすると常識かも知れません。

中心部の一部の下関港周辺は、古くは「赤間関」(あかまがせき、あかませき、あかまのせき)と呼ばれており(対岸の門司は「もじがせき」と呼ばれていた)、これを赤馬関(あかまがせき)とも書いたことから、これを略した「馬関」(ばかん)という別名も用いられた(例えば、昔は下関駅を馬関駅と言い、今でも「しものせき馬関まつり」が毎年開催されている)

日本語版ウィキペディア > 下関市 より

結論から言ってしまえば、現在の山口県「下関市」のことです。1902年に改称して現在に至ります。

4月1日の4市誕生の後の1年間で、岡山・鳥取・徳島・松山・高松と一気に5市が誕生しています。

九州地方:福岡、久留米、佐賀、長崎、熊本、鹿児島

九州地方では6つの都市が誕生しています。このうち5都市が県庁所在地でもありますね。

地名1889現在
福岡5.3162
久留米2.530
佐賀2.623
長崎5.540
熊本5.374
鹿児島5.759
単位:万人 / 1889年と現在の人口の比較(概算イメージ)
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日清・日露戦争を経て軍港としての発達を見せる都市も見える九州地方の6都市。唯一、県庁所在都市以外で名を連ねているのが福岡県の「久留米市」です。

そして、当時のベスト10には入っていないものの、ベスト20には鹿児島、長崎、福岡、熊本の4都市がランクインしているのも興味深いですね。

日本の自治体改編
1889年 – 市制施行により、日本全国で31市(青森県弘前市、岩手県盛岡市、秋田県秋田市、宮城県仙台市、山形県山形市・米沢市、茨城県水戸市、神奈川県横浜市、新潟県新潟市、富山県富山市・高岡市、石川県金沢市、福井県福井市、静岡県静岡市、三重県津市、京都府京都市、大阪府大阪市・堺市、兵庫県神戸市・姫路市、和歌山県和歌山市、広島県広島市、島根県松江市、山口県赤間関市(現 下関市)、高知県高知市、福岡県福岡市・久留米市、佐賀県佐賀市、長崎県長崎市、熊本県熊本市、鹿児島県鹿児島市)が発足。

日本語版ウィキペディア > 4月1日 より

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