【はじめに】
この記事では、非電動・電動を問わず、夏の季語となっている「体感気温を下げる」ものを取り上げていきます。
非電動
扇(おうぎ・あふぎ)、扇子
日本でも8世紀の書に登場する「扇」は、儀式や雅な場で使われる印象が強まっていますが、暑さ凌ぎのためのものとしても使われてきました。現代でもコンパクトに折り畳めることからニーズは高くあります。
- 『母がおくる紅き扇のうれしき風』/中村草田男
- 『マドリッドの昼を閉ざして扇店』/ビュニャールしづ子
- 『扇子まづ開き裏も見てたたむ』/渡辺鶴来
団扇
特に近代までの日本の夏の必須アイテムだったのが「団扇(うちわ)」でしょう。
- 『いろいろの団扇リハビリ室にあり』/森田峠
- 『ちちははを一つの石に団扇風』/宇佐美魚目
- 『熱の子の眠りへ母の団扇風』/菅原宏子
「扇(おうぎ)」や「扇子(せんす)」といった時よりかは少し実生活感が強まる効果を期待できそうです。各地の特産品・土産品としてのニーズも根強いものがあります。
2023年8月には、加藤シゲアキさんが触れたことでSNS・トレンド入りを果たした「水うちわ」なども俳句歳時記には夏の季語として掲載されています。
打水
人の力に頼った「涼」という意味では、少しスケールが広がって「打ち水」もあります。21世紀の都市においても、その効果のプラスマイナス両面から活用が模索されています。
- 『打水や妻子待つ灯へみないそぐ』/柴田白葉女
- 『水打つて水商売の始まりぬ』/清水基吉
- 『水打ちし石より風の生まれけり』/福島貞雄
風鈴
- 『ふかぬ日の風鈴は蜂のやどりかな』/言水
- 『風鈴や花にはつらき風ながら』/与謝蕪村
- 『亡き人の振るよ夜明の風鈴は』/殿村菟絲子
- 『風鈴のリンリンと鳴く青き夕』/千賀健永
- 『滂沱たる風鈴の音や市の朝』/梅沢富美男
「吊忍/釣忍」(つりしのぶ)が傍題となっているものがあるかも知れませんが、音を鳴らす機能は殆ど設けられておらず、見て楽しむものですのでここでは深くは触れません。
花氷・氷柱
- 『花氷旧知のごとく頬寄せて』/中村苑子
- 『母と子の胸をへだてて花氷』/中嶋秀子
- 『花氷詩型なみだのごとくにて』/山崎聰
- 『氷柱に真白き芯の通りけり』/古舘みつ子
- 『少女つと指触れてゆく花氷』/森部輝子
電動
扇風機
19世紀に器械式のものが、20世紀には電気式のものが普及し、近代に新たな季語となった「扇風機」。
- 『扇風機止り醜き機械となれり』/篠原梵
- 『島唄や闇へ首振る扇風機』/水田光雄
- 『弱にして遺影の妻に扇風機』/内山泉子
今は、冷房との併用により風の流れを生み出したりすることに期待したり、冷房の冷気が苦手な人が使ったり、節電・本体の価格低下による経済面の理由などから令和の時代にも現役な存在。
- 『扇風機首振りゆっくりトーベヤンソン』/藤本敏史
- 『給茶機の上の軋めく扇風機』/村上健志
- 『扇風機衣装脱ぎつつ出前表』/村上健志
- 『扇風機持つ手甘噛む仔猫たち』/中川翔子
最後のしょこたんの句がまさにそうですが、令和の時代には「ハンディファン」や「首掛け扇風機」が若者を中心に浸透していますから、季語として載る日も遠くないでしょう。但し、なかなか名句を生み出すには相当の技量が必要そうに思う季語となりそうです。
冷房・クーラー
「冷房」や「クーラー」という言い方は、現代においては冷すことに特化して捉えられ、どちらかというと「エアコン」のような暖冷の両方に対応していない印象を受けるかも知れません。
ここでは敢えて『角川俳句大歳時記』に傍題として載っていた「冷房車」に特化して例句を示します。
- 『冷房車降りぬ真顔を崩さずに』/木村有宏
- 『沈黙を運ぶメトロの冷房車』/池部淳子
- 『睡くなる男ばかりの冷房車』/秋本高江
コメント