【秋・人事】季語「鳩吹/鳩吹く/鳩笛」(夏井いつきの一句一遊:2023/9/3 締切)

【はじめに】
この記事では、秋の人事の季語「鳩吹/鳩吹く/鳩笛」について、周辺情報中心に解説していきます。

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「鳩吹く/鳩笛」に近い(?)季語

普通に「鳩吹/鳩吹く/鳩笛」という季語の本意を知りたい方は上にお示ししたような俳句歳時記を当たってもらうとして、本記事では少し違ったアプローチで「近い(?)季語」があるのかどうかを探ってみようと思います。

「鳩」を含む著名な季語

鳥の中でも非常に身近な「鳩」に関する季語を、手元の歳時記から幾つかピックアップしました。縦に季節を並べ、横は季語のカテゴリー(該当のなかった地理や行事、忌日等を除く)で分類しています。

分類新年
時候鷹化して
鳩となる
天文
生活鳩吹く
鳩笛
  
動物鳩の巣青鳩初鳩
植物鳩麦

鳥の中でも、「鶯(うぐいす)」や「ほととぎす」のようにそれ単体で特定の季節の季語となっているものもありますが、「鶏」や「雀」などのように単体では季語となっていない鳥もいます。「鳩」は後者であり、「鳩の巣」が鳩という鳥の習性に基づいた単語としては数少ない季語です。

上の表に載せたもののうち、「青鳩」はハト科の鳥の種類ですし、「初鳩」は”新年に初めて見た鳩”ということで、人間の認識に縁が深い季語です。そして「鷹化して鳩となる」は時候の季語であると共に実際に鷹が鳩となる訳では当然ありません。「鳩麦」も植物の名前です。

そうしてみると「鳩吹く」がカテゴライズされている『人事・生活』は、時候でも植物でも動物でもないことからも明らかなように他の季語と全くの性質を持っていることが窺えます。どういうものなのでしょうか? 個人的にポイントを纏めてみました。

  • 【最重要】実際の鳩が吹いているのではない人間が鳩の鳴き声を真似ているもの
  • 【重要①】動作としては、人間が両手を合わせて指の隙間から息をき出す
  • 【重要②】最も掲載が多そうな目的:猟師が鹿狩で鹿を発見したときに他の狩人に知らせる
    • その他、「単なる遊び」、「山鳩を誘い出す」、「鳩の真似をして鹿を誘き出す」などの可能性が示されており、時代・地域差があった模様
  • (補足①)「鹿」や「鹿狩」が秋の季語となっていることから「鳩吹」も秋の季語となった
  • (補足②)平安時代の歌集『曽丹集』にも登場するなど、案外歴史が古い
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「吹」を含む著名な季語

「鳩吹(はとふく)」という季語のもう一つの漢字「吹(く)」についても似た季語を見ていきます。

分類新年
時候
天文吹雪
八日吹
生活山吹衣
山吹膾
吹流鳩吹く火吹竹
風呂吹
動物潮吹
植物山吹
山吹草
桃吹く枯山吹

こちらは「山吹」などで代表される植物の季語とその関連のものが中心となりました。その他、吹雪や八日吹(風の名前)は自然現象由来ですし、風呂吹き大根は料理名の一種です。

「鳩吹く」に多少近いものとしては、吹き流しや火吹き竹のように同じ人間の動作「吹く」に由来するネーミングのものでしょうか。生活の季語の中でもあまりメジャーなネーミングではなさそうです。

なお、表記だけは非常に良く似た秋の季語に「桃吹く」(傍題:わた吹く)というものを見つけました。ただこれは「綿の花」が終わって『開絮かいじょ』したものを指すそうで、「鳩吹く」との接点は見当たりませんでした。(開絮などと難しく書きましたが、画像を検索して頂ければ見覚えあろうかと思います。)

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「棉(わた)」が開絮した様を「桃の実」に喩えた表現なのだそうですが、今回は説明を省略して本題に戻ります。

「笛」を含む著名な季語

では、「鳩吹」の傍題である「鳩」の『笛』についても見ていきます。自然現象の「虎落笛もがりぶえ」は、「もがり(虎落):竹の柵」が風によってヒューヒュー鳴る(エオルス音)様を笛に喩えた表現であるため、この表の中では少し他と異なりそうです。

分類新年
時候
天文虎落笛
生活鶯笛
雉笛
雲雀笛
麦笛
草笛
鳩笛
動物
植物

「麦笛」や「草笛」は植物などを口に当てて鳴らすもので、道具を使わない「鳩笛」とは異なります。また、「鶯笛」や「雉笛」、「雲雀笛」については、実際に『笛』という物体があります。

ちなみに、百科事典によっては「鳩笛」は鳩をかたどった『笛』を指すと説明しているものもありますが、恐らく季語となった経緯を考えると、『手を使った鹿狩の猟師の方の鳩笛』を念頭に置いた方が良いのではないかと思います。

(参考)秋の猟などに関する「一句一遊」の兼題

最後に、「夏井いつきの一句一遊」のリスナー俳人さんに一つ参考までに。

  • 2009年:鳩吹く
  •  ( 中 略 )
  • 2018年:荒鷹
  • 2021年:鷹の山別れ
  • 2023年:鳩吹く

平成30年代に私が投稿を始めた頃、聞き慣れない「鷹」関連の季語が出題されたことがありました。「荒鷹(あらたか)」というものでした。それから3年経って「鷹の山別れ」という更にイメージもつかないような季語が出され、初心者は面食らっていたことを覚えています。

そして、ウィキペディアで振り返ってみると、今から14年前の2009年には「鳩吹く」が兼題として過去に出題されたことがあったようで、『一句一遊・天の句ノート』をお持ちの方は当時の「天」の句を確認することも出来ます(個人的には強く印象に残っている作品の一つです)。

大半の方が「鷹」や「鹿」の狩とは無関係な生活を送っておられるかとは思いますし、「鳩吹」というネーミングでありながら実際の「鳩」とは関係のない季語が出題されました。それでも、実際の体験をフル活用して、『鳩吹く』鹿狩の狩人となった想像を膨らませていただくことが、水曜日そして金曜日へのアプローチの一つではないかと思います。

ひょっとすると「鳩笛」というネーミングを知らないうちに、子供の頃、手を口に当てていたアレが、季語だったかも知れませんしね。ぜひ皆さんも私の記事も学ぶ入り口としつつ、作句に取り組んでみてください!

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