【はじめに】
この記事では、5月4日「みどりの日」の特集企画として、「緑(みどり)」が含まれた季語を、俳句歳時記から列挙していきたく思います。多くは、春から夏にかけての季語ですが、あなたにとって、新たな季語との出会いの場になれば幸いです!
冬・新年の「緑」の季語
「緑」といえば春~夏の印象だったので、個人的にはオフシーズンとも思える冬・新年には該当する季語がないだろうと高を括っていたのですが、こんなのを見つけました(↓)。
- 早緑月(さみどりづき):陰暦一月の異名
旧暦1月で「新年」に分類されることも多い季語なのだそうですが、確かに旧暦1月は陽暦でいう2~3月にあたり、雪があまり降らない地域では芽吹きが感じられる季節なのかも知れませんね。
春の「緑」の季語
俳句歳時記にみる「緑」の季語は、晩春に始まります。馴染み深いところでは「みどりの日」とそれに連動したようなものがありますのでそこから参りましょう。
平成以降に編まれた俳句歳時記には、「みどりの日」が春の季語として掲載されています。そして、2006年に廃止されるまで「みどりの週間」というのが設けられており、それが傍題として掲載されていました。なお、2007年からは「みどりの月間」が設定されましたが、季節が立夏を跨ぐのと世間知名度が低いことからあまり季語として詠まれた事例は少ないようです。
名称
みどりの日
「みどりの日」は、小渕恵三官房長官の私的諮問機関で有識者らによる「皇位継承に伴う国民の祝日に関する法律改正に関する懇談会」で、「昭和天皇は植物に造詣が深く、自然をこよなく愛したことから『緑』にちなむ名がふさわしい」とする大勢の意見により定められた。ほかにも「科学の日」など昭和天皇の博識を頂く意見が多かった。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
名称 | 1989~ | 2007~ |
---|---|---|
みどりの日 | 4月29日 | 5月4日 |
みどりの週間 | 4月23日~ 4月29日 | (廃止) |
みどりの月間 | (未設定) | 4月15日~ 5月14日 |
なお、このほか、昭和25年に始まった「緑の羽根募金」が始まったことから『緑の羽根』が季語として掲載されていたり、上の「みどりの月間」とは別に『緑化週間』が設けられていたりもします。
そして、春の季語として掲載されているもので、一般的な「緑」ではなく、特定の植物に限っての季語があります。
- 若緑、緑立つ、初緑、松の緑
松の新芽のこと。秋の「色かへぬ松」とは対照的に、上に書いたような季語では春の緑が眩しく、季語として掲載されています。
上は植物の季語ですが、下は生活の季語に分類されます。松の緑、緑、若緑を摘むといった季語を集めています。
- 松の緑摘む、緑摘む、若緑摘む
松の新芽はぐんぐん伸びるので、それを適宜松の枝ぶりが悪くならないよう摘み取ること。指先で簡単に摘める程度の柔らかさなので、春の空気感とも相俟ってあたたかみを覚える。
夏の「緑」の季語
世間では4月頃にも「新緑」や「若葉」の季節と形容されますが、俳句の世界では、夏至の後の初夏の季語と分類されています。春の季語と異なり、植物全般に用いる季語となります。
- 新緑、緑、緑さす
初夏の若葉の緑そのものを指す植物の季語であり、広義ではそういった頃合いだという意味を内包している印象がある。
俳句歳時記において、「緑」一字でも季語として掲載されている事実は興味深いものがあります。ここから派生して、中村草田男はこんな季語を編み出しました。
- 万緑(ばんりょく)
王安石の漢詩から、中村草田男が考案し、『万緑の中や吾子の歯生え初むる』と詠んで人口に膾炙した昭和生まれの季語。
視界に広がるすべて(万:よろず)が「緑」であり、夏の植物の青々とした生命力を俳句へ呼び込むことができる力強い表現。
一方、特定の植物に限定した季語としては、
- 若竹、今年竹、竹の若葉、竹の若緑
たけのこが皮を落としながら一気に成長していった、その年に生え出た竹のこと。
などがあります。また、「刈敷」には『緑肥』があります。田んぼに草木を鋤き込んで肥料とする生活の季語です。
以上はどちらかというと青々しい季語でしたが、ここから少し目線の違う季語をお届けします。
- 緑陰(りょくいん)、翠蔭(すいいん)
夏の日差しの中の青葉の木立の陰のこと。「木下闇(こしたやみ)」に比べれば少し明るい雰囲気を持った季語。
そして、『夏の雨』という季語の傍題として、「青」だけでなく「緑」としたものもあります。
- 夏の雨、夏雨、緑雨、青時雨
夏という長い期間に降る雨を限定せずに言う表現。梅雨や夕立など特筆するべきトピックのないものを季語として立てたい時に重宝する季語で、確かに「緑雨」と呼びたくなるようなシーンも存在しそう。
ここまではどちらかというと暑い夏を思わせる季語が中心でしたが、「冬」と入る季語が夏の分冊にも載っているのです。「みどりの冬」という季語を聞いたことはありますか?
- 冷夏、夏寒し、みどりの冬、冷害
夏としては異常なまでの低温が続く天候のこと。数年に一度単位のものは現代でもあるが、歴史的には冷害によって凶作となって不景気に陥ることも珍しくなかった。
「みどりの冬」などと呼ばれるものの中には、恐らく近世以前の『夏のない年』や『火山の冬』といったような寒々とした夏の記憶も含まれていたと思われる。
毎年のように猛暑で「冷夏」や「冷害」すらあまり馴染みがなくなった現代人にとって「みどりの冬」という夏の季語は想像上のもののように感じてしまいますが、その方が良いのかも知れません。
飢饉や凶作による飢えや不景気というのは、歴史的にみても人々を苦しめてきましたから、仮にそういった事象が起きてしまった時も、上に示したような季語と共に「俳句」を詠む心を忘れずにいたいものです。
最後に、忌日の季語を一つご紹介しておきましょう。「紅緑忌(こうろくき)」です。
- 紅緑忌(こうろくき)
佐藤 紅緑(さとう こうろく、1874年〈明治7年〉7月6日 – 1949年〈昭和24年〉6月3日)は、日本の劇作家・小説家・俳人。本名は洽六。……正岡子規の勧めで俳句を始め「紅緑」と号す。
秋の「緑」の季語
上にみてきた季語は、ほとんど「晩春」と「初夏」に固まっていて、他の10か月で「緑」と入る季語はほとんどありません。
- 緑豆(りょくとう)
リョクトウ(緑豆)は、マメ亜科の一年生植物、ヤエナリ(八重生、学名:Vigna radiata)の種子のこと。食品および食品原料として利用される。
日本においては、もやしの原料(種子)として利用されることがほとんどで、ほぼ全量を中国(内モンゴル)から輸入している。
そして、最後に「忌日」の季語をもう一つご紹介しましょう。阿部みどり女の忌日です。
以上、「緑」を含んだ季語を季節ごとに見てきました。皆さんも「緑」を感じた瞬間にここにある様な季語を使って、1句詠んでみてください!
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