中央G1競走の開催条件がいつから変わっていないか調べてみた

【はじめに】
この記事では、中央競馬G1の番組表(レーシングカレンダー)について、20世紀末(1999・2000年)と現代(2022年)を比較してみました。そうしてみると、かつては10年に1度ぐらいはあった大変革が、実はここ20年以上起きていない現状が見えてきました。

「中央G1」の開催条件が、いつから変わっていないかを調べていき、また別記事を予定していますが、現在の「G1戦線」に改善の余地がないかを考えていく前提・予備知識としていきたいと思います。

G1番組表を1999・2000・2022年で比較してみると……?

さて、この記事をお読みの方の一定数は、21世紀に入ってから競馬ファンになったでしょうから、前提を共有するために、1999年と2000年、そして直近2022年のG1の番組表をざっくり比較しておきたいと思います。

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1999年と2000年で思ったより変わっていて、2000年と2022年が思ったほど変わっていないことに、お気づき頂けると大変嬉しいです。早速、春競馬の方から見ていきましょう!(↓)

春競馬:変わっていないのは桜花賞、皐月賞、天皇賞(春)のみ?

1999年月・週2000年2022年
フェブラリーS1月5週
2月3週フェブラリーSフェブラリーS
3月4週高松宮記念高松宮記念
4月1週大阪杯
桜花賞4月2週桜花賞桜花賞
皐月賞4月3週皐月賞皐月賞
天皇賞(春)5月1週天皇賞(春)天皇賞(春)
5月2週NHKマイルCNHKマイルC
NHKマイルC5月3週ヴィクトリアマイル
高松宮記念5月4週オークスオークス
オークス5月5週日本ダービー日本ダービー
日本ダービー6月1週安田記念安田記念
安田記念6月2週
6月4週宝塚記念宝塚記念
宝塚記念7月2週

春競馬のG1戦線を纏めましたが、1999年と2000年で大きく変わっており、2000年と2022年は新設G1を除いて殆ど変わっていないことがこの表からも明らかかと思います。大きく変わっていないのは太字にしたレースぐらいなものです。

秋競馬:G1戦線が1ヶ月拡大!?

そして、同じく秋競馬のG1戦線を表にしてみますと、(↓)

1999年月・週2000年2022年
10月1週スプリンターズSスプリンターズS
10月3週秋華賞秋華賞
秋華賞10月4週菊花賞菊花賞
天皇賞(秋)10月5週天皇賞(秋)天皇賞(秋)
菊花賞11月1週
エリザベス女王杯11月2週エリザベス女王杯エリザベス女王杯
マイルCS11月3週マイルCSマイルCS
ジャパンC11月4週ジャパンCダート
ジャパンC
ジャパンC
阪神3歳牝馬S12月1週阪神3歳牝馬SチャンピオンズC
朝日杯3歳S12月2週朝日杯3歳S阪神JF
スプリンターズS12月3週朝日杯FS
有馬記念12月4週有馬記念有馬記念
12月5週ホープフルS

大枠は変わっていないようで、細かい変更があってG1戦線が1ヶ月弱早まっていることが分かります。1999年は2ヶ月で収まっていた秋競馬のG1戦線は、3ヶ月に広がって、G1数もそれに伴って増加の一途を辿ってきたことが窺い知れます。

中央G1:いつから変わっていないのか振り返ってみた

ここからは、今一度「中央競馬のG1」が、いつから諸々の条件が変わっていないのか振り返っていきたいと思います。まだ漠然とした言い方なので少し具体例を挙げますと、

例えば「菊花賞」は、創設以来「京都・芝3000m」という条件は80年以上変わっていません。しかし上の表でみたように、2000年をもって開催時期が「11月1週 → 10月4週」に変更しています。一方「大阪杯」は距離・競馬場・時期がここ暫く変わっていないものの、G2からG1に昇格し、レース名も変更しています。

こういった「変革」が、直近でいつあったのか。「格(グレード)」、「競馬場」、「距離」、「開催時期」、「開催条件(古馬開放など)」の5つの要素で分析し、今とほぼ同じ条件になった年を一番左の「現行年」の欄に設けることとしています。

1970年代以前:クラシック1冠目の安定感

日本競馬の中でも「八大競走」や「クラシック競走」などと呼ばれるG1競走は、歴史と伝統・格式をもって語られてきました。ただ、今一度振り返ってみると、レースの距離や時期が細かく見直されてきた歴史があります。

レース名現行年競馬場距離時期条件
皐月賞1952194919501952
桜花賞1961195019471961

ともにクラシック1冠目となる桜花賞と皐月賞は、戦前と戦後で諸々の条件が異なりますが、実は戦後に入ってからはあまり大きな変化がありません。今から半世紀前から実質的に変わっていないのです。

創設当初は根岸競馬場1850mで始まり、戦中戦後の2年ずつは東京競馬場で開催されていた「皐月賞」は、1951年までは「皐月賞」の名に違わず5月に開催されていましたが、1952年からは4月後半の開催となって現在に至っています。中山競馬場の2000mというのも70年近く変わっていません。

また「桜花賞」についても、戦前は関東の1800m戦でしたが、戦後に入って関西に移り「桜花賞」へと改称されると、1961年からは4月前半で定着し、60年以上阪神競馬場マイル戦として続いています。

1980年代:国際化と多様化に向けた変革

1970年代までは「有馬記念」の翌週にも中央競馬が開催されていましたが、1980年に「有馬記念」が最終日曜日に開催されるのは通常となり、年末の風物詩として定着していきます。

レース名現行年競馬場距離時期条件
有馬記念198019661980
ジャパンカップ1981
天皇賞(秋)198419841981
マイルチャンピオンシップ1984

そして、1981年に「ジャパンカップ」が創設されると「天皇賞(秋)」が1ヶ月ほど繰り上がり、更に1984年にはグレード制導入にともなって「マイルCS」が創設、天皇賞(秋)も3200mから2000mへと今考えれば極めて大胆な変革が遂げられました。

中央競馬ではこの年からグレード制が導入され、従来の八大競走を含む15の重賞競走がGIに格付けされた。この際、短距離レースの競走体系における地位向上が図られた。具体的には春の短距離三冠(スプリンターズステークス京王杯スプリングカップ安田記念)が創設され、それまで伝統のマイル重賞でハンデキャップ戦であった安田記念を定量戦にしGIに格付け、秋に新設のマイルチャンピオンシップもGIに格付けされた。また東京競馬場開催の天皇賞(秋)の距離が3200mから2000mに短縮された

1984年の日本競馬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

1990年代:21世紀に向けた大胆な変革

1990年に「スプリンターズS」がGIに昇格して有馬記念の前週に移ったり、1991年には「阪神3歳S」が牝馬限定の「阪神3歳牝馬S」となるといった変化がありましたが、本格的な変革としては、やはり1990年代の後半のものが象徴的でしょう。

エリザベス女王杯の古馬開放とGI3鞍の新設
前年まで4歳牝馬限定戦として行われていたエリザベス女王杯を古牝馬にも開放。 JRA史上初めて、古馬も出走可能な牝馬限定のGIレースが創設された。これに伴い距離も2400mから2200mに変更された。
① エリザベス女王杯の条件変更に伴い、4歳牝馬限定GIの3戦目として秋華賞京都競馬場2000mで新設された。
② 春の短距離GIとして、従来は芝2000mのGIIとして開催されていた高松宮杯が1200mに短縮されてGIに昇格。
③ 4歳春のマイル王決定戦としてNHKマイルカップを新設。

1996年の日本競馬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

また、その翌年にはダート路線が拡充され、「フェブラリーS」がGIに昇格すると共に、それまで昭和の「天皇誕生日(→ みどりの日)」の4月29日に開催されることが多く、平成に入って4月29日以前に開催されることの多かった「天皇賞(春)」が、4月最終週(~5月第1週にかかるゴールデンウィークの時期)の開催となる変化がありました。

レース名現行年競馬場距離時期条件
安田記念199619841996
エリザベス女王杯1996199619871996
天皇賞(春)199719441997

NHKマイルCから安田記念であったり、秋華賞からエリザベス女王杯であったり、天皇賞(春)から宝塚記念であったり。それまでと少し違うローテーションの出現が起こり始めた1990年代ですが、それを一気に整理しなおして現在の形にしたのが、2000年の小さな大変革でした。(↓)

2000年:開催時期の小さな大変革

大枠として変わったのは、「スプリンターズS」が秋競馬の前半に、「高松宮記念」が春競馬の前半にといったところですが、他にも半月から1ヶ月程度の変化は半数近いG1に訪れました。

レース名現行年競馬場距離時期条件
菊花賞20002000
東京優駿(日本ダービー)200019342000
優駿牝馬(オークス)2000194619432000
宝塚記念200019??19662000
スプリンターズステークス200019902000
高松宮記念2000199619962000
NHKマイルカップ2000199619962000
秋華賞20002000
フェブラリーステークス200019972000

オークス・日本ダービーが少し早まったり、菊花賞が10月開催となったり、宝塚記念が6月後半の開催となったり、フェブラリーSは2月後半の開催となったり。

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実は大変革ではないため軽視されがちですが、1990年代に競馬ファンになった(あるいはその頃に熱心だったファンからすると)2000年以降のレーシングカレンダーに若干の違和感があり、それを解消するのには数年単位の歳月を要したという方が多いのではないかと思います。

古馬の芝G1戦線の大変革というのは、実は2000年に起きていたのです。それは実は「日本ダービー」ですら対象となっていたものであり、僅か1週ではあるものの、こうした1週の差が調整されていないまま開催されているトライアルやG2・G3競走があることを見直していくことこそ、令和の時代に求められるのではないかと思う次第なのです。

21世紀:G1新設、2歳戦の変革など

2001年以降には幾つかのG1が創設され、それがまるで大きな変革であったかのように捉えられていますが、振り返ってみると、1980・90年代および2000年代に芝G1戦線の変革があったことに比べれば、ダート・2歳戦・牝馬限定競走といったところがメインであるため、全体を大きく揺るがす程の番組表の変革ではなかったという見方ができるかも知れません。

レース名現行年競馬場距離時期条件
ヴィクトリアマイル2006
阪神ジュベナイルフィリーズ20081984196220081991
チャンピオンズカップ2014201420082008
朝日杯フューチュリティS20141984201419622008
ホープフルステークス2017201720142008
大阪杯2017201719721980

もちろん個別にみれば、ジャパンCダートが創設されるも20年のうちに開催場も距離も時期も変更を余儀なくされたり、秋に続いて春にも牝馬G1が創設されたりしています。久しぶりに春の古馬G1戦線にも「大阪杯」という昇格による新設G1が誕生してローテーションに変化が出ました。

そして何より2歳戦については、朝日杯が創設以来初めて中山から関西に移り、G1級とされていたレースが「ホープフルS」の名のもとに実際にG1となるなどの整備は行われてきました。

ただ、繰り返しになりますが、3歳路線には一切手を加えていませんし、古馬中距離戦線では大阪杯の創設のみ、中長距離にも一切手をつけていません。中央競馬のレーシングカレンダーの根幹は、2000年で止まっているのです。

  • レース間隔の広がり(秋に3~4戦 → 秋に2戦程度への減少など)
  • 海外G1の新設・充実 と 海外遠征のハードルの低下
  • 同一陣営・馬主によるG1レースの使い分け

といった事象が2000年と比較するまでもなく、2010年と比較しても時代はものすごい勢いで変化を遂げています。既に21世紀に入って20年以上が経過していることを考えた時に、かつて10年に1度程度で行われてきた「大胆な変革」が求められる時期に差し掛かっているのではないかと思うのです。

海外G1:日本馬がよく挑戦するレース、案外変わってない?

国内の番組表の変革を考えるにあたり、もはや無視できないのが「海外G1」のスケジュールです。その一方で、国内G1と違って海外G1のスケジュールは当然「JRA(国内)」の管轄外であるため、海外に合わせに行って変更された時の『腰砕け』感を懸念する声があるのは承知しています。

ただ、上の手法で「日本馬がよく挑戦するレース」を分析してみると、こういった結果となりました。

レース名現行年競馬場距離時期条件
メルボルンカップ1861
凱旋門賞1920
ケンタッキーダービー193218961932
キングジョージ1968(2017)1968
香港国際競走20032003
ブリーダーズカップ20092009
ドバイワールドカップ20151998201020151998
サウジカップ202220222022

ここ最近に創設された商業的な要素の強いレースは若干違うかも知れませんが、長い伝統を持ったG1(上段)は、基本的に条件の変更は殆どありません。メルボルンCや凱旋門賞などヨーロッパ・豪州等では100年以上同じ条件で開催しているレースだって珍しくありません。

キングジョージやケンタッキーダービーなどの大レースについては、時期の変更も「1週」程度であることが多く、戦火や改修によるものを除けば基本的に創設以来「競馬場」も変わっていないレースが多い点は、日本競馬とは全く異なります。

そうしてみると『海外G1』と共存(あるいは国内トライアルを兼ねる重賞に番組表をシフト)することを前提に、ある程度『海外G1』のスケジュールが大きく変わらないことを前提にしてみても良いのではないかと感じてみました。国内シフト案はまた別の記事でシリーズ化していきたいと思いますww

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