「プレバト!!」俳句特待生“剥奪”となった元特待生をまとめてみた

【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」俳句査定でも数例しかいない「特待生剥奪」を経験している元特待生を、そのように査定された俳句と共に振り返っていきたいと思います。

ウィキペディアにみる「特待生剥奪」

プレバト!!
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

2015年10月に始動した「特待生制度」においては、昇格だけでなく『降格』も当然のこととして設けられていました。それに関するウィキペディアの記載がこちらです(↓)

「連続して『現状維持』となり、進歩が見られない」「特待生・名人としてあるまじきミスを犯した」「査定員の心証を害する態度を見せた」といった場合には「降格」となり降級・降段となる。
特待生5級を不適格とする降格を判定された場合は「特待生剥奪」として一般挑戦者に戻る。
また、「名人剥奪」となり特待生に戻る降格の場合もありうると示唆されている。

( 同上 )

十数種類あるプレバト!!の「査定」のうち、『名人剥奪』となった事例はなく、『特待生剥奪』が起きたのも、2022年5月時点で2つしかありません。一つはこれからご紹介する「俳句査定」。もう一つは、和紙ちぎり絵査定における「くっきー!」さんです。

( 同上 )

俳句査定における降格(特待生剥奪)の事例

「プレバト!!」俳句査定でも、「名人・特待生一斉査定」だと、構成の都合もあってか、降格となる確率は高まりますが、名人10段での☆後退を除く、純粋な「降格」というのは年に数例しかありません。

古くは、梅沢富美男(缶ピース線香がわり墓洗ふ 他)や東国原英夫(新茶踏み鉄の白竜まっしぐら 他)など永世名人ですら降格の憂き目に遭っています。しかし、制度初期に比べると「現状維持」で様子見とする傾向が強くなり、夏井先生も寛大な心で成長を見守っているように感じます。

しかし、「俳句査定」における降格でも最も厳しい、「特待生5級」での降格 =「特待生剥奪」という評価を下された元・特待生およびその俳句を振り返っていきましょう。

1例目:2016年「羽田圭介」

特待生制度が始まった直後の特殊な例として小説家【羽田圭介】さんがあります。見ていきましょう。

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特待生制度が導入される前の番組初期には、ピース【又吉直樹】さんが無類の強さを誇っていた時期がありました。小説『火花』で芥川賞を受賞する前からです。

それを同じ2015年7月に発表された第153回芥川賞で、ピース又吉さんと共に芥川賞作家となったのが『スクラップ・アンド・ビルド』の羽田圭介さんです。芥川賞を受賞して3か月後の2015年秋に初挑戦して、2回目(初の才能アリ)にして特待生昇格を果たしています。

放送日査定結果得点俳句
2015/10/01凡人2位68点ワーグナー聴こえてくるよ秋の田に
        ↓
ワーグナー湧きあがるかに秋の田
2015/12/10才能アリ1位70点ジオラマかアクリル性の冬の波
        ↓
無音なるアクリル性の冬の波
2016/01/28降格擬人化で冬の孤独を消す家主
        ↓
(添削されず、特待生剥奪

特待生昇格の句『ジオラマかアクリル性の冬の波』

当時はまだ「才能アリ1回で特待生昇格」も当たり前だったのですが、初挑戦にして凡人ながら68点の2位で、2回目には才能アリ70点で特待生昇格を果たしています。特に2句目については、『ジオラマか』という上五が添削されていましたが、中七『アクリル性』という造語が最高評価を得ていました。

令和に入ってからは、コロナ禍もあり「アクリル板」が各地で見かけるようになりましたが、いずれにしてもカタログなどで見かける『アクリルせい』という言葉は、『アクリル』という漢字が当てられます。しかし羽田圭介さんは、「酸性」などとして使われる「性」の字を使ってきました。これが仮に素人だったらば「漢字の書き間違い」かと思いますが、小説家の方が使ってきたとあれば意図をもっての造語に違いありません。

特待生降格の句『擬人化で冬の孤独を消す家主』

その翌月、2016年1月に入って、特待生として初めての査定を受けた羽田圭介さんが披露したのが、『擬人化で冬の孤独を消す家主』という作品でした。

羽田さんが訥々と喋る句の世界観を浜田さんは『全然分からない』と一刀両断して、夏井先生の査定に移ります。当時は、句の評価を発表する前に夏井先生が「句の良いところだったり、査定のポイントを丁寧に解説」するパートがありました。『冬の孤独』というフレーズを褒め、擬人化、家主という重厚感のある単語を持って、短編小説になりそうな分量のドラマを描いていると評しました。『流石は小説家』などと一通り褒めてからの……査定は、『1ランク降格(特待生剥奪)』でした。

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小説家としての存在は認めつつも、俳人としての羽田圭介さんのスタンスを夏井先生は酷評しました。

  • 何十枚の小説にもなりそうな分量を無理やり俳句に叩き込んでいる
  • 十七音の器の量を分かっていない
  • 上五「擬人化で」が下手くそで最大の問題。映像にもなっていないし、伝わらない
  • 「家主」も単語は知っているが、上五からの連続性が一切見えてこない

夏井先生のYouTubeでも「小説家の8~9割は自滅」していると語っていて、『小説の一章分ぐらいを五七五の中に入れるから、意味の分からない句になってしまう』。『小説家は小説の長さが必要になるのではないか、短歌の方が向いているのでは』と語っていますが、その念頭にあったのが恐らく、この羽田圭介さんの降格という経験だったのではないかと思いますね。

特待生剥奪後の羽田圭介さんの挑戦

羽田圭介さんが頑張ったのは、ここまで酷評された後も一般参加者として挑戦し、1回ですが才能アリを獲得している点です。その後の結果をここに表とします。

放送日査定結果得点俳 句
2016/02/04才能アリ1位70点色褪せた写真のわたし雪の街
2016/02/18凡人4位40点
2016/03/10凡人1位66点
2016/07/07才能ナシ6位30点

降格が1月28日で、それから放送日ベースで1か月で2回、2か月で3回も挑戦(させられ)てます。

降格後の初回は才能アリ1位を取っていますが、無難過ぎて夏井先生からのお許しは出ず、再昇格は据え置き。そして、その後2回は凡人査定となり、7月の再挑戦時には初の「才能ナシ」となってしまいます。『特待生の夢を捨てる』よう夏井先生からきっぱりと言われてしまい、降格から約半年後のこの回を最後に、羽田圭介さんはプレバト!! に出演していません。

2例目:2019年「光浦靖子」

2人目となったのが光浦靖子さんです。2017年の初挑戦は凡人(2位60点)、2018年春の2回目は才能ナシ(4位35点)でしたが、3回目の挑戦から3連続で「才能アリ」を獲得し、当時の基準から文句なしで「特待生」昇格を果たします。

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特待生昇格の句『無花果や苛めたきほど手に懐き』

  • 3回目:2位70点『カナブンに撃たれて起きる郷の駅』
  • 4回目:2位70点『急停車よろめきもせず春袷』
  • 5回目:1位73点『無花果や苛めたきほど手に懐き』
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3・4回目の句は夏井先生の添削を受けますが、『カナブン』が顔に当たった時の衝撃など、生活への着眼点の鋭さを褒められ特待生候補となると、5回目の挑戦で詠んだ『無花果』の一物仕立ての句が、大絶賛され「特待生」昇格となります。

そしてこの句の評価が更に高まったのは、【石寒太】先生の俳句歳時記に、プレバト!! から3句が採用され、そのうちの1句がこの『無花果いちじく』の句だったのです。(その歳時記は下のリンクからどうぞ)

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特待生剥奪の句『金貸せぬブーイングのごと虫鳴けり』

特待生昇格の翌月に開催された「名人・特待生一斉査定」において、【光浦靖子】さんは特待生5級として初の査定に挑み、その時に詠んだのが『金貸せぬブーイングのごと虫鳴けり』でした。

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こちらも生活に赤裸々(過ぎるぐらい)な句で、題材自体は悪くないそうですが、やはり中七の比喩が全く効いていない感じがしますし、『無花果』の句とは対照的に、季語で主役となるべき「虫(←これ単体で秋の季語と見做されます)」が脇役というか全く立っていないという評価になりました。

夏井先生の評価軸である「有季定型」としては、やはり季語を主役とする工夫は欠かせないものであり、そこを疎かにすると、特待生5級としては「生意気」と感じられてしまうのかも知れませんね。

2021年7月からカナダ・バンクーバーに留学。

光浦靖子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ちなみに、光浦さんは、最近、バンクーバーに留学されているようです。多方面に活躍される一方で、この「プレバト!!」には特待生剥奪となって以降、通常査定に再挑戦はしていません。

3例目:2022年「犬山紙子」

3人目となったのが、振れ幅の大きさが特徴の「犬山紙子」さんです。2016年の初出場から2回連続で才能ナシとなった後に才能アリ1位(72点)を獲得。その後の2回は凡人で、過去1回しか才能アリを獲得していないにも関わらず、2021年の炎帝戦に投句し、本戦出場を果たします。

『日盛りや母の二の腕は静謐せいひつ

この句で、東国原永世名人などを下して、タイトル戦初出場初優勝を、特待生・名人以外で初めて成し遂げるという離れ業を成し遂げたことは、視聴者の記憶に新しいかと思います。

特待生昇格の句『菜の花を切って美容院に電話』

その直後は才能ナシだったものの、冬麗戦10位善戦や連続の才能アリを決め、初出場から丸6年で念願の特待生昇格を果たします。『菜の花を切って』の句については、上の記事(プレバト俳人列伝)でも触れていますので合わせてお読み下さい。

特待生昇格の句『午後も片乳出したまま窓は初夏』

しかし、特待生昇格の翌月(2022年5月)、気合十分で初の特待生昇格試験に挑んだ犬山さんに悲劇が襲います。

「時計」という兼題で詠んだこの句、読者が女性だと分かれば、あるいは「授乳」のための行為かと伝わるかも知れませんが、17音の文字面だけでは違った詠みも生まれてしまって……

『午後も片乳出したまま窓は初夏』

梅沢永世名人からは『変態じじい』の句かと思ったと言われてしまう始末。そして実際、夏井先生からは『1ランク降格』の査定が下され、史上3人目の特待生剥奪となってしまいました。

私も指摘を受けて振り返ってみると、確かに「母」とか「子」とかの要素を1文字入れるだけで、そうした誤読を避けることが出来た訳ですから、非常に勿体ないことをしたなと感じてしまいました。

しかし、犬山紙子さんは果敢にも挑戦を続け、特待生降格の翌月(2022年6月)に、一般参加者として特待生再昇格への道を歩み始めます……。

(直近の例については、ネタバレを避けるため、後日更新予定です。)

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