【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」俳句査定で(2020年代の)歴代最低点である【3点】の句を振り返っていきます。
①20/08/27:『レジ横は春夏秋冬ホットけない』/生見愛瑠
「プレバト!!」の俳句査定は、当初を除いて得点がパターン化していて、70点以上ならば才能アリで、39点以下ならば才能ナシというのが確定しています。番組当初は「100点満点」を念頭に置いた直感的な採点でしたが、平場の才能アリは事実上の満点が75点となり、(凡人以下が10点や5点刻みが基本となったのに対して)才能アリは1点で差をつけるような表面的には僅差となっていきました。そして、もう一つ“1点”を争うこととなっていったのが、歴代最低点となる1桁得点の世界です。
(↓)史上初の【3点】が誕生するまでは以下の記事にまとめてあります。
最初期は80点から10点のような10点をベースに、5点で微調整をする時期がありましたが、俳句査定開始から2年弱の2014年11月、ガレッジセールのゴリさんが『7点』という当時最低得点を叩き出してしまい、初の1桁得点の事例となりました。
才能ナシでは25、20、15、10点などは数えられないほど多数あるのですが、その間はというと、19、18、17、13点が1例ずつある程度で、1点刻みを演出する必要も通常はないのですが、ゴリさんの句に関しては、夏井先生が呆れる出来だったこともあって『7点』と分かりやすくこれまでの中で最低と示したかったのだと思います。
(出典)上記記事|Rxと学ぶブログ より画像引用
そこから1年半経って2016年5月、博多華丸さんが俳句査定史上初の『5点』を出してしまうと、それからは平成の終わりにかけて『5点』の俳句が頻発するようになります。2016年は堰を切ったかのように3例、そして僅か2年で5例も誕生してしまうのです。
そんな1桁得点も2年あまり出ていなかった2020年8月、ソーシャルディスタンスを確保しての収録が再開された「コンビニ」を兼題とした回で、冒頭の句を『めるる』こと【生見愛瑠】さんが詠み、番組史上最低点の記録を4年ぶりに更新することとなりました。
2020/08/27:3点『レジ横は春夏秋冬ホットけない』/生見愛瑠
詳細は再掲する下の記事に詳しく書いてありますので、ここでは軽く触れるにとどめますが、『季語』を主役とする有季定型俳句を軸とする立場の「プレバト!!」の夏井先生にとって季節を表す漢字が4つも入ってしまっている「春夏秋冬」という単語の入った俳句を見るのは衝撃的だったのだと思います。
着地が『オヤジギャグ』な句は過去の1桁得点の句にもあったので、大きな差は『季語』というか『季感』の欠落があったのだろうと推察します。
②24/02/22:才能アリ70点からの67点減点
例えば下に2021年以降に披露された『5点』の句を纏めましたが、句をみただけでは、季語が何を指そうとして選ばれたのかであったり、そもそも句の大意が全く読み取れないといった作品が並びます。
- 21/02/11『黒崩れ覗く陽炎盃や』/木瀬哲弥
- 21/03/18『指は白眼は隣ライラック』/野々村友紀子
- 21/04/15『春粉がリュックの色に顔染めて』/稲田直樹
- 21/10/14『葉の隙間溢れ蟲くる歯の隙間』/くっきー!
- 22/11/03『針供養抜きつ切身を妹に』/ニシダ
それほどまでに、生見愛瑠さんの3点の衝撃は大きく、数年のうちに【5点】の句が2桁近く誕生したことと比較しても、なかなか「3点」に並び立つ作品は誕生しないのではないかと思っていました。
ですが、全く想像していない形で、史上2例目の【3点】俳句が飛び出しました。それが、2024年2月22日放送回におけるレイザーラモンRGさんの……(?)と言うのも憚られるような作品でした。
ミュージシャンが4名参加し、当初は5位でも60点とハイレベルだったこの回に、ひときわ目立つ天童よしみさんの仮装をして登場したレイザーラモンRGさん。当初は3位と発表され、才能アリ70点を獲得します。
- 18/12/20・5位25点『霜焼けの指を黄に染むネイルサロン』
- 20/10/22・1位70点『寝見過ごす野山の錦にまず詫びろ』
- 22/11/10・1位71点『星の入東風今夜の恋をくれた人』
- 23/06/15・2位60点『玄関に恐れ入りますががんぼです』
これまでに表面上は2回連続才能アリ1位を獲得しており、本来であれば特待生候補と呼ばれてもおかしくなかった成績の中、3度目の才能アリを獲得した……かに思われましたが、
2024/02/22:70→3点『朧月負けたらあかんで東京に』
天童よしみさんのモノマネ仮装をしていながら、人気曲『道頓堀人情』を何度も『どうとんぼり人情』と言い間違え、さらにその歌詞を丸パクリ(本人は表面上は否定)した句の構成に、小林幸子さんや梅沢富美男さんが呆れ白けていき、夏井先生も『怒り💢を抑えきれない』ような演出をして、句の解説が始まります。
ご存知ない方もいらっしゃったかも知れないので補足しておきますと、レイザーラモンRGさんは前々回にあたる2022年11月に『星の入東風今夜の恋をくれた人』という70点1位を取った作品が、細川たかしさんの『北酒場』の歌詞の丸パクリだったとして厳しい添削を受けていた前例があります。いわば、この段階で『イエローカード』を1枚受けていた状況だったのです。
もちろん初回(才能ナシ25点)の時のように自力で作った五七五を披露したこともありましたが、その次(2回目)の出演時に『寝見過ごす野山の錦にまず詫びろ』という句が70点1位を獲得した(してしまった)ことも悪く作用してしまったかも知れません。
夏井先生はモノマネとは全く離して評価をしていた訳ですが、結果的に『持ちネタ』(である『半沢直樹』)がうまく俳句の中に取り込めたので、視聴者がそれを期待しているのではないかと過度に錯覚をしてしまったのではないでしょうか。
2回目の『歌詞パクリ』俳句は、『北酒場』の時よりも露骨であり、脈絡もなく歌詞が浮いてしまっています。夏井先生は、『本歌取り』ではないことをレイザーラモンRGさんの発言から確信し、才能アリ3位70点から『67点減点』を宣告し、弟子にも取っていないのに破門という厳しい結果を突きつけました。
ここからは少し俳句の作り方も交えた解説をしていきたく思います。
さて、番組でも夏井先生が触れていますが、著書でも広められているとおり、俳句の最も基本的な作り方が、『季語と関係のない12音のフレーズ』(=俳句のタネ)を見つけ、それに5音の季語をくっつけ(=取り合わせ)るという手法です。
最小限のハードルさえ越えられれば、少なくとも凡人、歴が浅くても才能アリを獲得できる公式のようなもので、多くの名人・特待生もここからスタートしました。実際、レイザーラモンRGさんの作品も、12音のフレーズに『朧月』という春の5音の季語を付け加えたことで出来上がりました。(だからこそ『そこそこ、それなり』に出来ていて、70点という評価を最初得たのだと思います。)
そして、有季定型俳句というと主役が季語なのは間違いないのですが、主役を演じる役者さんの魅力を高めるのが脇役や周辺、演出や脚本であり、それが12音のフレーズ(季語以外の部分=俳句のタネ)に他ならないのです。同じ役者さんでも、主人公にも敵の悪役にも好演して全く別人に見えるのは、周囲の影響する部分が大きいからです。
あくまでも主役となる季語の数は有限ですから、ある意味俳句を作る俳人の腕の見せ所は、季語よりも『季語以外の12音』に試されているといえるのです。
とした時にです。「朧月」という季語は俳句歳時記にも載っていて、あくまでもキャスティングするのみです。オリジナリティは(自作の季語を創作でもしない限り)季語以外の部分に主に宿るのです。 仮に、オリジナリティを磨く12音の部分に創作部分が含まれなかったとしたらどうでしょうか。
少し視点を変えて、『七五調』について触れておきます。近代以降の曲で日本でも多く見られる形式で、以下のウィキペディアに掲載されている曲目もごくごく一部に過ぎません。
実は、俳句は五・七・五の17音だと教わりますが、『七五調』の曲と同様、実際に音に出してみると、いわゆる四拍子のリズムに乗せるとしっくり来ます。『水戸黄門』のテーマソングに手拍子を入れつつ歌っていって、途中で『柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺』と変えてもリズムは崩れないはずです。どちらも同じ七五調のリズムで統一されているからです。
流石に時代が戦後しばらく経ったここ半世紀ほどのヒット曲で純粋に七五調を貫いている曲は少数派となっていますが、収まりの良い形として演歌などで要所要所で七五調が登場します。それは『北酒場』のメロ部分(今夜の恋は~から)の歌詞が「7・7・5・5/7・7・5・3」のように七や五が頻発するところからも明らかです。ここで意味がつながる程度に「五七」や「七五」のつながりを意図して抜き出したら如何でしょうか。
『演歌』や『歌謡曲』と括られる名作詞家が、音数少なく情景たっぷりに、歌い手の歌唱力にも期待をしつつ、詩としても独立して情景を立ち上がらせドラマチックに仕立てた五七や七五の宝庫ともいえるのが数十年の歴史を持つ演歌・歌謡曲の世界なのです。
有季定型俳句というのは国語の授業で習ったとおり音数が少ないうえ制約が多いです。しかもその17音のうち3分の1程度はタレント名鑑のような『俳句歳時記』から主役(季語)をキャスティングすることとなるため、『俳句のタネ』と夏井先生が仰るオリジナリティの部分はほぼ12音なのです。12/17が一緒というより、12/12(100%)が一致しているという見方を俳人がするのはそのためでしょう。仮に『梨食えば鐘が鳴るなり法隆寺』と詠んだら、100%パクリだと思われるでしょうしww
ちなみに、詩歌の世界では『本歌取り』(先人の名句の一部を自作に取り入れて、その世界の雰囲気の助けを借りながら新たな作品を創作)という手法が古代から用いられてきました。しかしそれも完全なパクリでなくとも『古歌を盗る』と酷評されるのを避けるため、しっかりと制約やルールを決めるなどの工夫を中世の始めには確立されつつあったのです。著作権などという法概念が存在しない時代です。
- 1ランク昇格『梅雨明や指名手配の顔に×』/東国原英夫
← 宮崎県の新聞に投句された一般人の作品と13音が重複 - 才能ナシ :『飛び石の蛙声鎮まる靴の音』/勝村政信
← 『古池や蛙飛び込む水の音』/松尾芭蕉 - 金秋戦5位:『名月は東に父島観測所』/春風亭昇吉
←『菜の花や月は東に日は西に』/与謝蕪村)
「プレバト!!」でも上記のように『パクリ』や『本歌取り』が話題になった例がありました。レイザーラモンRGさんの『北酒場』のときもここには触れませんでしたがそうです。
東国原英夫さんの時は『たまたま』だったと明確に答弁したため不可抗力だったと夏井先生も見做して『俳句の世界ではよくあること』と擁護しましたが、レイザーラモンRGさんの場合は『イエローカード2枚ではなく2回目はレッドカードを提示』といった感じになったのだと思います。
2例目の「3点」となった今回、SNSなどを見ていると、めるるは「(出来は別にしても)自分の力で俳句を作ろうとしてい」ての3点であって、レイザーラモンRGさんのに対しては『3点でも残してあげただけ優しい』という意見が聞かれるほど厳しいものでした。
こうして3点の作品(特に2例目)をみると、5点の作品とは『俳句というものへの理解』というか、『俳句への向き合い方/取り組み姿勢』の違いが顕著な場合に登場するのかなと感じました。果たしてこの3点に並ぶ、あるいは下回る作品が今後登場するのか、ある意味、注目していきたいと思います。
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