「プレバト!!」の75点の俳句を振り返ろう!

【はじめに】
2022年の「プレバト!!」俳句査定では、実に5年ぶりに「75点」の傑作に2作誕生しました。今回は、ここ数年の実質的な満点ともなっている75点の傑作な作品を振り返っていきたいと思います。

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本記事は、下の「note」の記事(↓)の最新版となります。合わせてお読み下さいませ!

(2017/08)もてなしの豆腐ぶら下げ風の盆/柴田理恵

企画開始当初は80点台であったり、70点台後半も出ていたのですが、「note」でも解説している通り、2017年以降は、実質的な最高点は「75点」となっています。ですから、事実上の満点に当たる作品をご紹介していくと捉えて頂いて結構かという風に思います。

《 2016年以前の「75点」の有名句(抜粋) 》

  • 『五月晴れだから空色のワンピース』 藤田弓子
  • 『はや6年遥かスイスや古都は雪』 春香クリスティーン
  • 『梅雨空にジャズの流れて夢二の画』 石倉三郎
  • 『夏帽子夜行列車の網棚に』 横尾渉
  • 『青く濃きさつきの空に舞う大魚』 千賀健永
  • 『登山列車近づく空はラムネ色』 宮田俊哉
  • 『あじさいや三日続けて昼は蕎麦』 武田鉄矢
  • 『コスモスや女子を名字でよぶ男子』 村上健志

こうして2016年以前にも「75点」の傑句は上のとおり多くあるのですが、直近では村上さんが詠んだ「マスク」の句が78点だった様に、事実上の最高点でなかった時代のため今回は割愛します。

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さて、見出しでお示しした句の解説に入ります。2017年8月に【柴田理恵】さんが披露した作品です。

『もてなしの豆腐ぶら下げ風の盆』/柴田理恵

4回連続才能アリながら前回凡人で「特待生」候補から少し遠ざかっていた「柴田理恵(現/特待生)」が披露した句です。

季語「風の盆」は、『二百十日』にあたる9月1日~3日に風の神を鎮め、豊年を祈るために行われる富山市八尾町のお祭りです。ですから、ローカルの行事ではあるのですが、伝統があり全国的にも知られるため、俳句歳時記に秋の季語として掲載されています。

当時はまだ俳句特待生ではなかった柴田理恵さんですが、俳句歳時記を読み、地元(旧・八尾町出身)のお祭りが季語になっていることを知って、恐らく実体験を元に詠んだ句だったと思います。

おわら風の盆は、富山県富山市八尾地区で、毎年9月1日から3日にかけて行われている富山県を代表する行事(年中行事)である。

越中おわら節の哀切感に満ちた旋律にのって、坂が多い町の道筋で無言の踊り手たちが洗練された踊りを披露する。艶やかで優雅な女踊り、勇壮な男踊り、哀調のある音色を奏でる胡弓の調べなどが来訪者を魅了する。

おわら風の盆
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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句について見ていくと、「もてなしの」という“経済効率の良い言葉”から始まり、どんな豪勢なおもてなしが来るのかと思ったら「豆腐(非季語)」という庶民的なものが出てきて、一つそこにギャップがあります。そして前半12音が「もてなしの豆腐ぶら下げ」となることで、豆腐を買って帰宅なりをする情景であることがしっかりと説明できています。

こうなると下五の「季語」勝負となるのですが、そこで登場するのが『風の盆』という地域性の強い祭りです。夏井先生は番組内で『俳人誰しも憧れ』の季語/祭りであると語っておられました。そして、この地元の水で作ったお豆腐で「酒が呑みたい」と語るほどに絶賛していました。

(2017/10)子らの引く綱の雄々しく匂ひけり/武井壮

12回挑戦して才能ナシが1度もないという安定感を見せ続けており、NHKでは俳句番組のMCも務めることとなった武井壮さん(直近では4回連続「才能アリ」)は、過去8回中6回が凡人査定という中でしたが、この9回目の出場で覚醒をします。

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『子らの引く綱の雄々しく匂ひけり』/武井壮

こちらの句は、季語を見つけ出すとしたら「引く綱」から「綱引(つなひき)」になるかと思います。現代人にとって「綱引き」といえば運動会の定番種目ですが、俳句歳時記を引いてみると全く別の物が登場します。日本語版ウィキペディアにも、

日本では、古くはカヤを使った縄を使って引き合い一年を占う神事が行われている。綱を大蛇などになぞらえる例もある。現在の大綱引は小正月に行われることが多く、中国の上元の綱引がルーツとも言われているが、九州や沖縄では旧盆や夏の行事として定着しており、地域によって時期や由来は異なる。終わったあとは綱を川や海などに流すところもある。

綱引き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

とあります。伝統的な新年の季語「綱引」の句だと読めば有季定型となるかも知れません。但し、大人が主役の年中行事の方ではなく、この句は「子らの引く綱」とあることから、我々が最初に想像をする『運動会の種目としての綱引き』の方を詠んだ句だと言えるでしょう。

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20世紀に由来する俳句歳時記では「秋の季語」として掲載されている『運動会』ですが、昨今の状況に鑑みれば秋だけでなく春や初夏の学校も増えてきています。そして、『運動会の綱引き』は単体で季語となっているケースは少ないのですが、この句は兼題写真も合わせて考えると、形式的な季語の議論を一旦抜きにして、その躍動感や五感に訴えかける力強さに満ちています。

ただ、いずれにしても作句する際は、『季語を誤解していませんよー』と積極的にアピールする工夫をしておくことをオススメします。投句すると大抵は文字面だけの勝負となりますので、『こいつ、季語の本意を全然分かってねぇな』と思われないようしておくのがセオリーかと思いますね。

(2019/01)賽銭の音や初鳩青空へ/鈴木光

2017年は2回登場した「75点」でしたが、2018年は一度も誕生せず最高でも73点でした。そうした中で、2019年1月3日のお正月3時間SPで、久々の「75点」が飛び出しました。番組対抗戦に出場した「東大王」チームの【鈴木光】さんの作品です。

『賽銭の音や初鳩青空へ』/鈴木光

季語は「初鳩(はつばと)」です。『新年最初にみた◯◯』を『初◯』として季語としているパターンが多くあるのですが、そのうちの一つに「初鳩」というものがあります。ですから、新年のおめでたい季語です。

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ここからはじまる立川志らく名人(当時・特待生)との因縁の対決は、平成から令和にかけての時代の一つの見ものとなっていましたよね。立川志らくさんの添削ナシの句にも勝利した鈴木光さんの俳句を簡単に振り返っていきましょう。

賽銭」自体は季語ではありません。「初詣」などは新年の季語ですが、お賽銭を投げる行為自体は、年中行う方のいるものですからね。しかし鈴木光さんは、「賽銭の音や」と上五を崩して「音」の方を詠嘆する技巧的な始まり方をします。

さらにそこから「初鳩」という季語が中盤に出てきて、「青空」という方向を示す助詞によって新春の清々しい青空に視野が広がっていく感じ。まさにその明瞭さと穏やかな感じが75点に値する洗練された表現だと感じました。鈴木光さん、お元気でしょうかね?

(2020/05)万緑に提げて遺品の紙袋/春風亭昇吉

年1ペースとなった「75点」の俳句。令和に入り初めて誕生したのが2020年(令和2年)5月、まだ出演者が別室からリモートで出るといった時期でした。

鈴木光さんの快進撃の印象がまだ強い中、約1年ぶりに「2回目での特待生昇格」を決めたのが、鈴木さんと同じく東大卒という肩書きと共に鳴り物入りで参戦した落語家の【春風亭昇吉】さんでした。

初登場時の『風信子数にあまれる失意あり』は72点1位という期待に違わぬ好成績でしたが、2回目の登場時に披露した作品は、両永世名人からも絶賛される秀逸なものでした。

『万緑に提げて遺品の紙袋』/春風亭昇吉

漠然とした感じのする夏の季語『万緑』から始まり、『万緑に提げて』と急に動詞が出てきて、提げるという主体と提げられる客体の存在が示唆されます。『万緑に提げて遺品』という万緑にも勝るかも知れないほどの強烈なインパクトを持つ熟語が出てきます。いわば、緑色を真っ黒に上塗りするかの様な強力なドラマ性を持った熟語です。

そして最後まで読むと、『万緑に提げて遺品の紙袋』と、具体的な物を表現せずに『紙袋に入った遺品である何か』の存在を17音で表現しない「余白」を詠み手に与えているのです。これだけのことを僅か2回の出場で果たすとなれば、それは過去の2回目での特待生昇格者と並ぶだけのスーパールーキー感がある逸材といえるでしょう。

(2022/01)冬天よ母を泣かせて来る街か/福田麻貴

2021年は該当例がなく、2022年。事前のCMで暗示されてはいたのですが、鈴木光さんの回以来、新年一発目(この年は通常回)の放送で「75点」が誕生しました。それが「3時のヒロイン」のリーダーであり、過去2回才能アリを獲得している【福田麻貴】さんでした。

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季語は「冬天」、それに対する詠嘆が「や」ではなく「よ」です。呼び掛ける様な切れ字を使ってくるだけでも並の参加者とは違うなと感じます。そして、上五で季語が出てくるタイプの俳句は、そこからの12音で勝負しなければならないため、否が応でも期待値が高まります。

そこで、「冬天よ」と来ます。普通であれば家族を詠んだ句は五万とあり、高評価の句となるのは難しいのですが、『冬天よ母を泣かせて来る街か』と展開する大胆さに惚れました。これは確実に詠み手に決意とドラマがあって故郷を離れ、街と呼べる程の規模の都会に引っ越してきたのだと分かります。そして、文法的なところで言えば、

  • 上五の切れ字を定番の「や」ではなく、呼び掛けるような「よ」としたのは技あり
  • 「来た」や「来し」などの過去形とせず、「来る」と現在形にすることの臨場感
  • 「街」を「町」ではなく明確に規模感を表す過不足ない表現
  • 「よ」と「か」で若干切れ字っぽいものが2つ入っているのに成立している
  • 「か」という溜め息のような吐露で句を締めることによる余韻や余情

17音の一単語一単語すべてを深読みすれば何かしらの意図が見えてくるレベルの秀句でした。これも、どこまで狙ってきたのかは分かりませんが、過去に才能アリを獲得した句も70点とはいえ着眼点が素晴らしいものがありました。そうした意味で、個人的には特待生候補の最有力だと信じて疑いません。

(2022/06)喪服着てメロンソーダの列に居る/犬山紙子

これまで年に1回出るか出ないかだった75点の俳句。2022年は、2017年以来実に5年ぶりに2例目が飛び出しました。二階堂高嗣さんとどちらが1位かドキドキの発表を経て、表示されたのが「75点」という高得点。これによって、番組史上初、特待生剥奪(降格)からの再昇格を果たしたのです!

ある意味で、春風亭昇吉さんの句と構造は似ているかも知れません。こちらは「喪服」という非日常の物から始まります。こちらもインパクトがあるのは中七、季語として取り上げられた「メロンソーダ」というカタカナ語でしょう。そして、喪服の黒とそれに不釣り合いにも感じるビビッドな緑色の対比。

【プレバト!!】2ランクアップ(2つ前進)の俳句」の記事で、パンサー向井慧さんが披露した句も「母の余命」と「レイトショー」の絶妙な距離感が描かれてましたが、この句も「メロンソーダの列」に並んで買う僅かな時間に自分を取り戻す、そんな感じが読み取れます。

(2023/05)鯖喰ふや係船柱の錆硬し/武井壮

犬山さんから約1年。令和に入って75点が登場しやすい夏前半に、再び「75点」の傑作が誕生します。

放送直前になって「今年最高得点」が「75点」となったことで、出場者4名の中でも実績面で格上と目されていた武井壮さんが、その期待通りに高評価・高得点を叩き出します。

『鯖喰ふや係船柱の錆硬し』/武井壮

この句に登場する中七の見慣れないかも知れない言葉を簡単に補足しておきますと、(↓)

一昔前のマドロスさん(船乗り)が、港で足をかけてパイプをくわえるアレのことです。忘れないためにもう一度、句を掲載しておきますが、

『鯖喰ふや係船柱の錆硬し』/武井壮

上から読んでみた時に、「鯖喰ふ」という表記一つにも工夫が見えますし、そこから「や」で切った後に登場する『係船柱(けいせんちゅう):ポラード』によって舞台が港だと分かります。そうすると、港にいる人間が鯖(弁当)をかっこんでいる情景がこの12音だけで分かります。

そして着地の下五が、番組内でも言われていた通り「硬き錆」ではなく、「錆硬し」と言い切りの形(前者も体言止めではあるのですが)で余韻を残す所も実に見事だったと思います。4年前(前回迄)と同じく、基本の型をしっかりと抑えつつ有季定型のどっしりとした俳句を詠んだことが「75点」という最高評価に繋がったのだと思います。

なお、番組内で触れられていなかった面として、「鯖」と「錆」という漢字の見た目的な対比もそうですし、音読したときに「さば」と「さび」と母音1つ違いなところも個人的には高く評価をしました。不自然にならないどころか、自然にこういった技巧を入れられるのであれば、個人的にはこれだけでも十分に特待生上級の実力があるのではないかなと感じた次第です。皆さんは如何ですか?

To Be Continued…

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