【はじめに】
この記事では、基本的には季語ではないとされる人事(スポーツ)の単語『サッカー』について、簡単に纏めていきます。
ウィキペディアで学ぶ「サッカー」の概要
サッカー(英: association football,football,soccer)は、サッカーボールを用いて1チームが11人の計2チームの間で行われるスポーツ競技の一つである。
アソシエーション・フットボール(英: association football; 協会式フットボールの意)またはアソシエーション式フットボールとも呼ばれている。他のフットボールコードと比較して、手の使用が極端に制限されるという特徴がある。蹴球とも言う。
サッカーは、210を越える国と地域で、多くの選手達によってプレーされており、4年に一度行われるFIFAワールドカップのテレビ視聴者数は全世界で通算310億人を超えており、世界で最も人気のあるスポーツといえる。
スポーツ文化としてのサッカーについては「サッカー文化」を参照
サッカー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ウィキペディアでは、ここから「サッカー」について詳細が記されていますが、詳しく知りたい方は、ご自身で関心のある部分をお読み頂ければと思います。長過ぎるのと、ポイントを絞って引用するのも私の力ではなかなか難しかったので思い切って、冒頭部分(↑)だけにしました。
むしろ、俳句を作るにあたっては、日本におけるサッカーの歴史などを背景知識として持っておいた方が良いのではないかと思い、「日本のサッカー」というウィキペディアの記事を以下引用します。
日本のサッカー(にほんのサッカー)では、日本国内におけるサッカー競技(蹴球)について記述する。
名称
日本ではサッカーという名称で呼ばれ、漢字では蹴球という文字が当てられる。日本にサッカーが伝来した1900年代初頭から1940年代にかけては、Footballをカタカナにしたフートボール、Association Footballをカタカナにしたアッソシエーションフットボール、Associationをカタカナにしたアソシエーションなど様々な呼び方が行われた。
蹴球という漢字の当て方もこの頃から存在した。蹴球という漢字は、蹴鞠からヒントを得ているが、実際サッカーが日本にもたらされた当初は、このスポーツは西洋人が行う蹴鞠の一種であるとみなされていた。更に「蹴球」という言葉が使われだした当初は「蹴球」と「蹴鞠」の使用が未分化であった。これは概念として「蹴球」と「蹴鞠」が未分化であった事を示している。「蹴球」という概念が「蹴鞠」別個に成立するのは、日本人が本格的にサッカーの受容を始めるのを待たねばならず、「蹴球」という呼び方が、完全に「蹴鞠」と分かれて確立するのもこれに沿っている。また、この蹴球とアッソシエーションフットボールを併せてア式蹴球という呼び方もなされた。
蹴球という言葉は戦後すぐの1946年に「蹴」の文字が当用漢字外となったことからマスメディアで使用できなくなった。当時はアメリカの占領下にあったが、アメリカでは一般的に「フットボール」とは「アメリカンフットボール」を指し、アソシエーション・フットボールは「サッカー」と呼称されていたこともあり、日本でも「サッカー」名称が使用されるようになった。
日本のサッカー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
そして、幕末から明治にかけて日本に伝来した現在の「サッカー」は、約150年を経て日本国内でも人気のスポーツに成長していきます。(以下、ウィキペディアをタイムライン形に整形)
- 幕末~明治横浜のイギリス軍か神戸の外国人居留地で日本初の試合が開催
- 明治~大正師範学校などで受容され、関西から波及的に全国へ
- 1917年
大正6年 - 1918年
大正7年現在の「全国高等学校サッカー選手権大会」が始まる - 1921年
大正10年日本サッカー協会の前身である大日本蹴球協会が創設 - 1936年
昭和11年初めてオリンピックのサッカー競技に出場ベルリンオリンピックで優勝候補のスウェーデン代表に勝利(ベルリンの奇跡)
- 1954年
昭和29年1954 FIFAワールドカップ・予選で初めて日本はW杯の予選に参加 - 1965年
昭和40年日本サッカーリーグ(JSL)が開幕 - 1968年
昭和43年メキシコシティーオリンピックで銅メダル獲得・釜本邦茂が大会得点王を獲得
・詳細は「1968年メキシコシティーオリンピックのサッカー競技」を参照
釜本選手の活躍などは良く取り上げられますが、実は明治の俳人の頃には「サッカー」が日本で行われていたのです。そして、平成に入るとアジアの一国から少しステージが上がったかのように感じる時期が訪れます。
- 1993年
平成5年日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)が創設・開始 - 1993年
平成5年ドーハの悲劇 で、日本がW杯初出場ならず日本 2-2 イラク(@カタール・ドーハ)
- 1996年
平成8年Jリーグ百年構想を打ち出す - 1997年
平成9年1998 FIFAワールドカップ アジア第3代表決定戦(ジョホールバルの歓喜)イラン代表を破り、日本代表がW杯初出場
- 2002年
平成14年2002 FIFAワールドカップ(日韓大会)ロシア戦で初勝利 & 初のベスト16入り
- 2011年
平成23年なでしこジャパンが2011年のドイツワールドカップで初優勝
正直このあたりになると記憶がある方も多いのではないでしょうか? そして、日本のサッカーの歴史に意図して「Jリーグ」の項目を複数掲載したのは、『夏井いつきの一句一遊』というラジオ番組の兼題にも関する伏線というイメージです。
「サッカー」季語なのか論争
すっかり日本でもお馴染みのスポーツとなった「サッカー」ですが、俳句を作る上で最も大きな壁となるのが「サッカー」は季語なのか論争(勝手に命名)でしょう。
「夏井いつき俳句チャンネル」の初期の動画や上に示した俳句前夜本にも書かれているとおり、季語を認定する機関がある訳でもないので、100%季語だと言えるものでは本来ありません。
ただ、季語か否かは、多くの過去の俳人などの歴史と現代を生きる俳人の共通認識によるところが大きいものであり、そういった意味では、『過去からの歴史』と『現代の潮流』の両面から判断する必要があろうかと思います。
- 明治の俳人「正岡子規」の作品には、(季語として以外を含めても)サッカーは見られなそう
- 「蹴球」や「フットボール」を使った例句もあまり見られない。「野球」は当然としても、「ラグビー」などと比べても積極的に作句されてこなかったイメージ
- ネットで調べると昭和の歳時記のうち『日本大歳時記』に、冬の季語として掲載されているとの噂を見かけますが、そこに載っている例句は少なく、サッカーの歴史に比して季語としての歴史は浅そう
以上が歴史的なざっくりとした流れかと思います。そして、俳句歳時記ではないのですが『伝統的な季語か否か』の判定で参照されることの多い『広辞苑』には、季語のマークはありません。少なくとも、歴史的には「サッカー」を季語として使った事例は多くないことが見て取れました。
- 手元の電子辞書(EX-word)に収録されている歳時記のうち、「サッカー」を季語として立項しているのは『現代俳句歳時記』(現代俳句協会編)のみ
※これは普通の歳時記が季語としていないものも比較的積極的に「各季節の季語/無季の季語」として収録しているものであるため、これだけで「季語」認定するのは厳しい側面がある - 上を言い換えると、『角川俳句大歳時記』や『合本俳句歳時記』には季語として立項されていない
ちなみに、洒落神戸さんからツイートで情報提供を頂きました。
一方で、ネットで「サッカー+(冬の)季語」と調べると、書店の俳句歳時記とは対照的なまでに、「サッカーは冬の季語です」という論調の記事にたどり着きます。 ※ただ、これだけで冬の季語と決めるのは、夏井いつき先生なんかは最も嫌う短絡的な思考かも知れません。
そして、ネットを注意深く調べてみると確かに、上に示した『日本大歳時記』や『現代俳句歳時記』のほかにも、山本健吉氏や辻桃子氏の編んだ歳時記に「冬の季語」として掲載されているものもありそうな印象を受けました(実見して確認した訳ではないので私の記事では伝聞とさせていただきます)。
そしてここからは私見なのですが、昭和での「サッカー」と含まれた例句を見る限り、世代間での認識の差が多少垣間見えるような気がするのです。具体的に申しますと、大正から昭和前半生まれの俳人は「サッカー」に別の季語を取り合わせて作句するケースが多く(例外は樋笠文など)、戦後生まれ世代などは一歩踏み込んで「サッカー」以外に季語を含まない句を作った事例が多いように感じました。
ここらへんは、それぞれの世代が愛用した俳句歳時記の編集方針の見解の一致や、師匠の価値観などがかなり反映していた部分があったのではないかと推測しています。
ちなみに、他のスポーツの季語と比較してみると……
- 「野球」は季語になりづらく、戦後生まれの「ナイター(夏の季語)」などが数少ない例外で、これは多くの歳時記に今や掲載されている
- 「テニス」や「バスケットボール」、「バレーボール」のほか「マラソン」なども含めて、季節感が強くないスポーツは基本的に季語となっていない
- 逆に、「スキー」は当然として、歳時記によっては「スノーボード」や「スケート」、「リュージュ」などが冬の季語として掲載されている
こういった傾向が現代の多くの歳時記に共通しているのです。そして、この文脈の中で「サッカー」と良く対比されるのが「(ラ式蹴球こと)ラグビー」です。こちらは、広辞苑も電子辞書も積極的に「冬の季語」として認めています。
もともとは冒頭にも示したとおり、「ラグビー」も「サッカー」も元を辿れば『フットボール(football)』であって、日本でア式蹴球・ラ式蹴球と呼び習わされていた時期が比較的長かったことを思えば、ある時期において「ラグビー」は冬の季語なのに「サッカー」が季語じゃないのは不釣り合いだと感じたのかも知れません。
じゃあ結局、「サッカー」は季語なの? 季語じゃないの?
という疑問が浮かんできた頃かと思いますので、以下のような結論(?)を提示したく思います。
- ひとまず、底本としている歳時記や、自分の信念に従って「季語か季語じゃないか」を自分で判断して欲しい
- ただ、句会や師匠、そして投句をする選者のことを十分に理解し、相手に合わせる柔軟性は必要(我を通しても白い目で見られかねないし)
- 特に、案外微妙だなという今回のようなパターンでは、寧ろ器用さが問われる!
(参考)洒落神戸さんからの補足ツイート
洒落神戸さんから情報提供のツイートをいただきましたので、上にツイートを貼らせて頂くと共に、同氏のブログの投稿記事のリンクを貼っておきますので、ぜひそちらを訪れて投句してみて下さいね!(↓)
☆洒落神戸の俳句はじめました|夏井いつきの一句一遊
兼題「【テーマ】サッカー吟行で一句」 (2023年5月28日〆切)
https://haiku.no-iroha.com/2023/05/01/20230528/
サッカーに関する俳句(例句)
どちらの立場を取るかは皆さんの判断にお任せするにしても、サッカーに関する例句は、基本的に季語として調べられないため探すのに苦心します。
例えば、普段の感覚で「プレバト!!」の過去回の作品をExcelで検索してみても、『サッカー』の文字列を含んだ俳句は見当たりませんでした。強いて挙げるとしたら、周辺情報でこんな作品でしょうか。
どちらも別途季語を置くことで五七五としていますが、『軸足の~~~~』という構図とすることで、サッカー(もしくは足を使うスポーツ)であることを示しています。
このほか、ネット上で見かけた(著名俳人が作った)例句をお示ししてみますと、
など、少年・学生っぽいところからプロのサッカー選手まで、裾野の広さを感じるワードであると痛感します。
(特設)「夏井いつきの一句一遊」投句者向け
取止めもない文章となってしまいましたが、長々とお読みいただきありがとうございました。最後までお読みいただいた貴方に、『虎の巻』ではないですが、ちょっとしたポイントを伝授したく思います。
ポイント1:夏井先生は、基本、季語と認めない派
上の方で「サッカー」を季語と認める派と認めない派がいるとお話ししましたが、夏井先生は基本的に『サッカーを季語と認めない派』だったと記憶しています。
まずもって「底本」としている2つの歳時記に載っていないのではないかと思いますし、仮にサッカーを季語として認めているとしたら、夏から秋にかけて行われるテーマと季節感が全く合っていません。このあたりの出題の本意(ほい)を理解しておくことが必要かと思います。
もちろん、「サッカー」を季語として詠んでも内容次第かとは思うのですが、夏井先生をうならせる程の永世名人クラスの作品でなければ上位は狙いづらいですし、月曜日狙いでもなければ下手に夏井先生に喧嘩を売らなくても、基本に忠実に作った方がリターンは大きそうに思います。
ポイント2:普段と違って「テーマ」としての出題
「月曜」脱出大作戦という上の記事にも書きましたが、ラジオ番組「夏井いつきの一句一遊」の兼題には大きく2パターンがあります。『季語』か『季語以外』かです。(某ローランちゃんみたいww)
そして、『季語以外』が兼題の場合は、有季定型をベースとする夏井先生の番組にあっては、無季での挑戦を望んでいるというより『自分で季語を探してくること』を学習して欲しいと考えているんです。実は、過去の採用作をみても、基本的にサッカーに関する12音とは別に季語が立てられているのです。
ここで私の金曜日選の句……があればカッコいいのですが、残念ながら水曜日に詠まれた1例しか自作句はないので、それを今回例としてご紹介することと致しましょう。(↓)
19/08/21 | 水 | 夏芝や故郷のチームカラー濃し |
下の記事で私の作った作品が見られるのでご確認いただければと思うのですが、私も「夏芝」という夏の季語を使って俳句をつくり、実際に水曜日(才能アリ相当)に選ばれています。仮に「サッカー」という言葉が入っていても、『それで季重なりと言われちゃうんじゃ……』と不必要に心配しなくてもOKかと思います。
また普段の「兼題」であれば、その言葉(季語か傍題もしくは漢字)を作中に直接読み込んでいなければ月曜日行きとなってしまいますが、この「【テーマ】サッカー吟行で一句」に関しては、必ずしも「サッカー」や「サッカー吟行」という語を入れなくても構いません。文字通り「テーマ」であって、むしろ『サッカー吟行(FC今治のサッカー観戦に行っての経験や感想から)で一句」だからです。
ポイント3:「FC今治」応援企画であること
最後に、この「【テーマ】サッカー吟行で一句」というのがどういった経緯で毎年出題されているのかについてご案内しておきましょう。
- (2017/07/19)【リリース】南海放送ラジオ「夏井いつきの一句一遊」とのコラボ企画 ネームプレート掲載句の発表
- (2018/05/15)【お知らせ】南海放送ラジオ「夏井いつきの一句一遊」×FC今治 コラボ第2弾のご報告
- (2019/09/09)【お知らせ】南海放送ラジオ「夏井いつきの一句一遊」×FC今治 コラボ第3弾のご報告
FC今治は、愛媛県今治市をホームタウンとするサッカーチームで、2020年からJ3としてプレーをしています。そして、夏井いつきの一句一遊というラジオ番組を放送しているキー局の南海放送は、愛媛県松山市に本社があります。「南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』×FC今治」のコラボ企画だということが最大のキモと言っても良いでしょう。
大人の事情として言ってしまえば、何のための企画かというところをしっかりと把握しておかなければいけません。単なる「テーマ:サッカー」ではなく、「テーマ:サッカー吟行で一句」なのは、ここがミソなのです。
ですから、正直、『サッカーに詳しくなかった』り、そもそも『サッカーに何の興味もなかった』り、或いは『Jリーグは興味がなかった』りと皆さん思い思いの感想はお持ちでしょうが、こういったコラボが前提にあることを念頭に(笑) 作句していただければと思います。
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