二十四節気「立秋(りっしゅう)」

【はじめに】
この記事では、二十四節気「立秋」についての気になるポイントを纏め、俳句歳時記に載っている名句を鑑賞して、「立秋」の頃の魅力について一緒に学んでいきたいと思います。

立秋(りっしゅう)は、二十四節気の第13。七月節(旧暦6月後半から7月前半)。

現在広まっている定気法では太陽黄経が135のときで8月7日ごろ。ではそれが起こるだが、天文学ではその瞬間とする。恒気法では冬至から5/8年(約228.28日)後で8月8日ごろ。

期間としての意味もあり、そのように用いる場合は、この日から、次の節気の処暑前日までの期間を指す。

立秋
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ウィキペディアにみる「(日本の)立秋」について

夏が極まり秋の気配が立ち始める日。七月節(旧暦7月)。
『暦便覧』では「初めて秋の気立つがゆゑなれば也」と説明している。

立秋からの暑さを「残暑」といい、手紙や文書等の時候の挨拶などで用いられる。また、この日から暑中見舞いではなく残暑見舞いを出すことになる。

7月に始まる「小暑」・「大暑」の期間中は、『暑中見舞い』、「立秋」以降は『残暑見舞い』

藤原敏行は「秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」(古今和歌集)と詠んだ。

2004年以降より、この日に至っても梅雨が明けない場合は「梅雨明け」の発表はされなくなる(明確な区切り無く秋雨に移る。立秋以降の長雨は秋雨という)。それゆえに、東北地方(特に北東北)などでは「梅雨明け特定せず(梅雨明けなし)」となることも決して少なくない。
詳細は「梅雨#梅雨明けの特定なしの年」を参照

全国高等学校野球選手権大会も立秋頃に開幕を迎える。

( 同上 )
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日本と中国の「立秋」の比較について

2008年から2039年の間は、基本的に「8月7日」、閏年の前の年は「8月8日」が立秋となります。日本と中国で2030年代後半になるとズレが生じる年も出ますが、基本的にこう覚えておきましょう。

七十二候
立秋の期間の七十二候は以下の通り。

初候
 涼風至(すづかぜいたる): 涼しい風が立ち始める(日本・中国)
次候
 寒蝉鳴(ひぐらしなく): が鳴き始める(日本)
 白露降(はくろ くだる): 朝露が降り始める(中国)
末候
 蒙霧升降(ふかききりまとう): 深いが立ち込める(日本)
 寒蝉鳴(ひぐらしなく): 蜩が鳴き始める(中国)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

そして、二十四節気を3つに分けて表現される「七十二候」も、日本と中国で微妙に異なるのですが、8月上旬に「涼風至る」と言われても正直ピンと来ないかも知れません。強いて言えば、『ひぐらし』が鳴き始めるタイミングは大きく今も変わらないかもですが(^^;

(参考)千賀名人もプレバト!!で使った「涼風至」の本当の意味

そして上の「七十二候」のフレーズのうち、「プレバト!!」で披露された句の中で季語として使われた事例があります。Kis-My-Ft2の千賀健永名人が2022年8月に詠んだこちらの作品です。

7→8段涼風至る駅弁の木箱の香』/千賀健永

季語以外の12音のフレーズについては、木の箱で作られた駅弁を新幹線(列車)内で開いて食べた時に「木箱の木の香り」がした、という素朴な実感・体感を描いた実直な作品です。

そして、今回取り上げたい季語についてです。この句の季語は『涼風(すずかぜ)』ではありません。夏の天文の季語『涼風』ではなく、時候の季語『涼風至』です。季節も分類も違うという点に一つ注目していけるようになると、既に俳句の知識は“上級レベル”かも知れません。(↓)

『涼風』は、夏の終わり(晩夏)の暑い中に吹く涼しい風のことです。なのであくまで季語の分類上は夏の範疇となります。そしてポイントとなるのは『実際に涼しい風が吹いている』という点でしょう。

『涼風至』の方も季語の持つ空気感や涼しい風の感じは一見、同じです。だからこそ、千賀さんの句を一読した時に涼やかな風が吹いたように感じるのです。ただ、季語の分類からすると、あくまで時候の季語に分類される『涼風至』の意味は、あくまで“涼しい風が吹く/吹き続けそうな季節/頃”です。

『啓蟄』という春の季語が、虫が這い出てくる様子を直接意味するのではなく「虫が冬眠から覚めて地中から出てきそうな陽気の」というのと同じで、『涼風至』を含めた時候の季語は「~~しそうな陽気の頃」ぐらいの意味合いしかありません。
実際にその出来事が起きてる確証はないのですし、本来そのことが起きている前提で作句するのは避けるべきとされます(松岡充さんが啓蟄で最下位に沈んだ事も参考になるでしょう)。

勿論俳句を一読したときに『涼風』が吹いてるのを想像してしまうのは自然なことですし、千賀さんもそれを狙っていたと思います。ご本人も「風が吹いて木の香りが……」と語っておられましたからね。

ただ、在来線ではなく新幹線の中だとしたら今はあまり窓を開ける機会もないかと思います。それで『涼風や』だと虚構が混じってしまいますが、実態を伴わない『涼風至る』という季語だとそこらへんの論理的な弱点を補うことにも繋がるのです。

窓の外を見て、「外には涼しい風が吹いているのかなぁ」と想像する頃合いですね、というニュアンスで読むことも許容されるはずですからですね。

いずれにしても、作句する際などに、特にこうした時候の季語が実景や実態を持っていないのは抑えておきたい点ですので、ご存知なかった方はぜひステップアップのキッカケになさってください。

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『立秋が秋っぽくない』:中国との気温のピークの違いが原因

夏至秋分の中間で、昼夜の長短を基準に季節を区分する場合、この日から立冬の前日までがとなる。

二十四節気が成立した中国内陸部は大陸性気候のためこの頃には徐々に涼しくなり始めるが、海に囲まれた日本列島は立秋を過ぎてもしばらくは猛暑が続く。

( 同上 )

この色を引いた部分が特に重要です。「二十四節気」そのものの問題というか、特に気圧配置などから差が生じやすいのがこの「立秋」の頃だというのをもう少し解説しておきたいと思います。

(↑)上のnoteの記事が、今回のような「二十四節気」の疑問をかなり解決してくれると信じていますので、ぜひ合わせてお読み頂きたいと思います。自分で言うのも何ですが力作です。
( 上記記事より引用 ) 平年値が更新前のものである点はご了承ください。

要約すれば、中国内陸部では「8月」には気温が明確に下がり始めるので「秋」っぽさを感じられるのですが、日本では(太平洋高気圧などにも覆われ、梅雨も明けた後の真夏の日が続く関係で)「8月」が一年のピークとなる点で大きな差があるのです。それを数値データでもお示ししてあります。

最高気温最高気温
200933.2℃201633.6℃
201033.2℃201733.2℃
201133.2℃201825.0℃
201232.4℃201935.5℃
201334.5℃202035.4℃
201434.2℃202128.8℃
201532.6℃202233.0℃
(参考)「東京」の『立秋』日の最高気温

試しに「東京(千代田区大手町)」のアメダスで観測された『立秋』日の最高気温を並べてみました。2018年と2021年は雨が降ったりで真夏日に達していませんが、その他の年は30℃を超えていますし、2019・2020年は2年連続で猛暑日を記録しています。

35℃は極端でも、33℃で「秋」を感じろ! という方が無理難題というのは実際のところでしょう。こうした過去の実績からして、日本では『暦の上では秋ですが、夏本番……』というのが常套句となってしまったのだと思います。これは本州などの気圧配置などからして仕方のないことなのです。

(参考)個人的には……だが、有名な和歌「秋来ぬと~」

大判の俳句歳時記や日本語版ウィキペディアにも記載されている和歌があります。日本における古代の「立秋」を見事に詠んだ歌だとされていますので、引用をしますと、

藤原敏行「秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」(古今和歌集)と詠んだ。

立秋
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

こちらの句です。暦の上での秋の訪れを、「目には清かに見えないけれども、風の音に……」という雅な感性で詠んでいるというのが一般的な解釈です。そして、俳句の世界でも、この歌がある程度前提の知識となってこういった着眼点の句がたくさん詠まれてきました(後述します)。

しかし、前提として上で見てきたとおり、中国と日本では気圧配置などの違いがあって、「秋の訪れ」が日本に限っては来ていません。保守的な意見として、『まだ残暑だけど、そうした8月の前半の気候の中に秋の訪れを見出すのが風流』みたいなものを聞くことがありますが、それはある種、捻じ曲げて『合理化』してしまっている様にも感じます。

(※)もはや数百年から千年単位でそういった文化の蓄積がなされているため、そちらが正解という風に考えるのが自然かとは思いますが、『お天気歳時記』と題した本記事においては、少し捻くれた見方をさせてもらいたいと思います。ご賛同いただける方がいらっしゃると心強いです(–;

『立秋』に「秋の訪れ」を感じなければならない、という(誤った)前提と固定観念があるからです。私は、とりわけ平年の現代においては、8月上旬(夏休みの中盤、お盆休み前)に『秋』を見出すのは決して容易ではないので、『無理に』見つけ出そうとしなくて良いのではないかと感じています。

俳句歳時記にみる「立秋」の10句

とまあ、愚痴(?)はこれ位にして「立秋」の伝統的な立場にたった名句を幾つか見ていきましょう。

  • 秋立つやたてかけてある竹箒/荷兮
  • 秋たつや沖行く雲のそぞろなる/素丸
  • 夕やけや人の中より秋の立つ/一茶

まずは近世の作品から。人と自然の境界のようなところに着目した句が目立ちますね。

次の3句は明治時代生まれの俳人の作品達です。説明を忘れていましたけれど、「立秋」の傍題には、『秋立つ』とか『秋来る』とか『今朝の秋』とか『今日の秋』などがあります。

  • 秋立つや川瀬にまじる風の音/飯田蛇笏
  • 穂高岳秋立つ空の紺青に/及川貞
  • 手をのせし胸の薄さや今朝の秋/鈴木真砂女

飯田蛇笏の句は例句としても著名かと思いますが、やはり「風」だったり空気・大気に着目した作品が目立ちます。最後に、比較的新しい4句をご紹介したいと思います。

  • 秋立つと傘の雫を海へ振る/中拓夫
  • 秋立つや図書館にある遠眼鏡/嶋田麻紀
  • 秋立つや旅の名残の十セント/都甲龍生
  • 今朝秋と思へば手足軽きかな/薄井年子

上の3句は人工物との取り合わせの句ですが、一番下は伝統的な立秋の『空気感』と「私の身体」との関係性だけで詠み上げた句です。現実の『立秋』はまだまだ日本では暑い盛りですが、その字面から、俳句を作る際には僅かに見つけ出す『秋の始まり』を詠み込んでいけたら素晴らしい句ができそうな気がしてきます。

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皆さんはどんな句が好きですか? まだ短夜な所から少しずつ夜長が近づく夕刻に手元の歳時記などを引いてみるのも良いかも知れませんよ? ただ、真夏の暑さにはどうぞお気をつけて。以上Rxでした。

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