「プレバト!!」歳時記 ~蝉を詠み込んだ俳句たち~

【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」で詠まれた『蝉』俳句を振り返っていきます。『蝉』と言っても、季節によって、種類によって季語が幾つもあり、どの季語をチョイスするかで作品全体の雰囲気が変わります。特に作句をするという視点でお読みいただければ、季語選びのヒントなどにもなると思いますし、実際の鳴き声で聞き分けができるようになれば、周囲と差がつくと思いますので、ぜひ最後までお読み下さい! 早速参りましょう。

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仲夏(6月頃)までの蝉の季語

まずは、図鑑的な「特定の種類」を指すものではなく、一般名詞なような蝉の季語を見ていきます。『春蝉・春の蝉』という春の季語もありますが、大半は夏から秋(細かくいえば「晩夏」と「初秋」に集中しています)。

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(晩春~初夏)松蝉

ハルゼミ(春蟬、学名: Yezoterpnosia vacua)は、カメムシ目(半翅目)・セミ科に分類されるセミの一種。日本中国各地のマツ林に生息する小型のセミで、和名通りに成虫が発生する。晩春や初夏を表す季語松蝉」(まつぜみ)はハルゼミを指す。

ある程度の規模があるマツ林に生息するが、マツ林の外に出ることは少なく、生息域は局所的である。市街地にはまず出現しないが、周囲の山林で見られる場合がある。

日本では、セミの多くはに成虫が現れるが、ハルゼミは和名のとおり4月末から6月にかけて発生する。オスの鳴き声は他のセミに比べるとゆっくりしている。人によって表現は異なり「ジーッ・ジーッ…」「ゲーキョ・ゲーキョ…」「ムゼー・ムゼー…」などと聞きなしされる。鳴き声はわりと大きいが生息地に入らないと聞くことができない。黒い小型のセミで高木の梢に多いため、発見も難しい。

ハルゼミ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

晩春では「春の蝉」、初夏では「松蝉」などと言われる蝉は、Wikipediaによれば『ハルゼミ』という種を指すようです。そして、ぜひYouTubeなどで鳴き声を聞いていただきたいのですが、「強弱強弱」を繰り返す単調気味なタイプの鳴き声は、音として認識しやすいと思います。

  • 『千年を鳴き継ぐ松蝉の鎌倉』/河野玄斗’
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(仲夏)蝉生る・蝉の穴

蝉が幼虫から羽化して成虫になるまでの過程を総称して、「蝉生る」などの季語で表します。「空蝉」と違って、蝉が羽化する瞬間は数時間のスパンのため、あまり単独の季語とはなっていないようです。

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「蝉」という季語の主たる季節が晩夏となっている関係で、相対的に一つ早い「仲夏」の季語となっている「蝉生る」ですが、実際には種だけでなく個体によっても微妙に季節が異なるため、絶対的な基準ではないという風に捉えるべきかと思います。

また、「蝉生る」には、実際に蝉が羽化して成虫になる工程をバッチリ指すだけでなく、そういった頃合い(時期)であることをふんわり示す用例も少なくないように感じますが、やはりあくまでも動物の季語であることには留意したいところでしょう。

晩夏(7月頃)の蝉の季語

(晩夏)蝉

セミ(蟬・蝉)は、カメムシ目(半翅目)・頸吻亜目・セミ上科(Cicadoidea)に分類される昆虫の総称。「鳴く昆虫」の一つとして知られる。

日本の場合、成虫が出現するのは主に夏だが、ハルゼミのようにに出現するもの、チョウセンケナガニイニイのようにに出現するものもいる。温暖化が進む近年では、東京などの都市部や九州などでは、10月に入ってもわずかながらセミが鳴いていることも珍しくなくなった。

セミ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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ちなみに、鳴かない雌蝉のことを古くは「唖蝉(おしぜみ)」と呼んでいたそうですが、あまり現代においては馴染みのない表現です。また、「蝉」と単体で言うのは、個体認識をしていないか、音数的に2音の季語が求められるパターンか、敢えて具体的に書かないことによる効果のある場合などに限定される節はありますが、Kis-My-Ft2の北山さんはこんな句(添削後)を披露しています。

  • 『蝉歌う僕らの「さんぽ」の歌にのせ』/北山宏光’

その年はじめて聞いた蝉の鳴き声を「初蝉」というそうです。ぜひ皆さんも『生物気象観測』にトライしてみてはいかがでしょうか?

(晩夏)蝉しぐれ/蝉時雨

ウィキペディアには『多くのセミが一斉に鳴きたてる声を時雨の降る音に見立てた語。夏の季語。』と説明されている「蝉しぐれ/蝉時雨」は、多くの方が使いたがる決定版な季語です。

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もはや俳句という世界を離れて、文学や音楽といったサブカルの世界でもお馴染みとなっていますし、もちろん俳句においては5音であるという点でも使われやすいのは間違いないでしょう。

  • 『蝉時雨時をかき消すアスファルト』/YOU’
  • 『朝まだき町家蝉しぐれのボレロ』/梅沢富美男’

ちなみに、おっちゃんは『朝まだき』という上五を使っていましたが、俳句歳時記には「朝蝉」・「夕蝉」・「夜蝉」といったものも掲載されています。時間と蝉を共存させるのが効果的なタイミングには使ってみると良いかも知れませんね。

そして、人事・生活にカテゴライズされていませんが、人間の営みとして「蝉取り」という季語もちゃんと夏の歳時記には掲載されていました。大人が何らかの目的をもって採取することもありましょうが、やはりイメージするのは夏休みとか子供の遊びとか自由研究とかそういったところでしょう。

(晩夏)油蝉

先ほど「夕蝉」や「夜蝉」といった季語を紹介しましたが、『夜鳴き』をするセミの代表格に「油蝉」がいます。詳細はウィキペディアの当該ページが非常に充実しているのでそちらで生態を知っていただければと思いますが、エリアによってはポピュラーな蝉として都会・田舎を問わず見られるでしょう。

  • 『じいじじいじと孫も油蝉も笑う』/六平直政’

音は「じいじ」と強弱がある感じではなく、むしろジリリリとかジジジジとか大音量で一定の感じが個人的にはするのですが、皆さんいかがでしょうか? 音声データなどを探して聞いてみて下さいませ。

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(晩夏)みんみん蝉

ミンミンゼミ(ミンミン蟬、蛁蟟、学名 Hyalessa maculaticollis) はセミの一種。和名通りの「ミーンミンミンミンミンミー…」という鳴き声がよく知られている。

また、このセミはアブラゼミやニイニイゼミなどとは異なり、ヒグラシエゾハルゼミと同じく森林性であるが、東京都区部神奈川県横浜市宮城県仙台市などでは例外的に街中でもミンミンゼミが数多く生息する。

ミンミンゼミ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

こちらも細かくはウィキペディアを参照していただきたく思うのですが、人口密集地ではあまり見かけないのが“みんみん蝉”だそう。となると、次の句はどうでしょうか。

  • 『みんみん蝉は街の広場のコンダクター』/菊池桃子’

もちろん東京都心などにも生息しているようですが、この「街」という感じからイメージする最寄りの都会が案外曲者です。ウィキペディアには『日本のミンミンゼミは土地の気候条件によって分布する範囲が限定されやすい。そのためアブラゼミをはじめとする他のセミと比べ、非常にいびつな分布をしている。』とあるように、気候環境による部分が大きくエリアが思った以上に限定される点は注意が必要そうです。

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鳴き声は種名のとおりで非常に分かりやすい一方で、イメージだけで句を作ってしまうと実際の生態と異なる世界に登場させてしまうおそれもあるため、吟行などでリアリティを担保する営みは欠かせないと改めて感じます。

この他、手元の電子辞書の歳時記には「ニイニイゼミ」、「クマゼミ」などのほか「深山蝉」といった季語も掲載されていました。更にエリア性のある蝉も全国各地で命名されているので、そちらも季語として作句するのは宜しいかと思います。

(晩夏)空蝉・蝉の殻・蝉の抜け殻・蝉のもぬけ

日本では、種毎に独特の鳴き声を発し、地上に出ると短期間で死んでいくセミは、古来より感動と無常観を呼び起こさせ「もののあはれ」の代表だった。蝉の終齢幼虫が羽化した際に残す抜け殻を空蝉(うつせみ)と呼んで、現身(うつしみ)と連して考えたものである。珍しくはあるが、阿波の由岐氏などがセミの家紋を用いている。また日本では、蝉の鳴き声はを連想させる背景音としてしばしば利用される。

空蝉(うつせみ)」はセミの抜け殻の古語である。また、セミの抜け殻を蛻(もぬけ)と呼ぶこともあるが、この言葉はヘビなど脱皮をする動物全般の抜け殻を指しセミに限らないほか、現在は専ら『蛻の殻』という慣用句として用いることが殆どである。

セミ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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俳句歳時記的にはギリギリ「晩夏」の季語となっていますが、現実には立秋を迎えた8月の中盤以降に見かける印象があります。そして、作者によってこの蝉の抜け殻に託す思いも様々です。

  • 『空蝉の艶やか髪を編み直す』/山村紅葉
  • 『からからと蝉の抜け殻山の風』/高橋真麻’
  • 『木洩れ日に晒され空蝉のしずか』/森口瑤子
  • 『空蝉の転がるベンチ海の駅』/中田喜子
  • 『今日も空蝉を拾らふだけの朝か』/立川志らく

中田喜子さんのように、下灘駅が兼題写真という中でベンチに空蝉を置くのも手ですし、場所を敢えて限定せずに季語以外のフレーズで俳句作品に仕上げるのも技の一つでしょう。

秋(8月頃~)の蝉の季語

俳句歳時記では「立秋」の後を『秋』としています。上の記事にも書きましたが、立秋は8月上旬ですから、現代人の感覚からすると「子供の夏休みの中盤戦」であり、いよいよ「夏本番」といった感じがしてしまう時期です。

(初秋)秋の蝉・秋蝉・残る蝉・ちっち蝉

「秋の蝉」と言うとき、俳句では立秋の後に鳴いている蝉を指すのであって、現代人が風流などと感じる「秋の蝉」よりもかなり真夏に食い込むことは抑えておきたいギャップでしょう。

  • 『仰向いてぎぎと鳴きけり秋の蝉』/森口瑤子

空蝉との季節感の差にも注意が必要ですし、秋の蝉という儚くも生き続けている状況をうまく捉えないと微妙になってしまう点で、少し難易度が高いかも知れません。

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ちなみに、秋の蝉の傍題として載っていた「ちっち蝉」。確かに夏の蝉の賑やかさと比べると大人しい鳴き振りで、これは秋の訪れを感じさせるには申し分ない種類の蝉かも知れません。

チッチゼミ は、カメムシ目(半翅目)・セミ科に分類されるセミの一種。日本では最小のセミの一つである。

分布:日本北海道渡島半島本州四国九州

生態:マツ、スギなど針葉樹でみられる。出現期は8月上旬から10月中旬。「チッチ」と鳴く。

チッチゼミ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

なお、俳句歳時記が編まれた頃から数十年ないし百数十年経った現代においては、都市部を中心にヒートアイランド現象などが更に深刻化しており、『真夏』には暑すぎて蝉が活動できず、旧来の真夏に相当する温度が秋本番(例えば9~10月)となったこともあって、蝉シーズンが後ろ倒しになっているといったニュースもちらほら聞かれます。

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「秋の蝉」という季語の持つ意味も、そもそも「秋」という季節から連想される気温も、現実とかけ離れていってしまう怖さを覚える令和の俳人たちなのでした。

(初秋)蜩・日暮・茅蜩・かなかな

ヒグラシ(日暮、Tanna japonensis)は、カメムシ目(半翅目)・セミ科に属するセミの一種。日本を含む東アジアに分布する中型のセミで、朝夕に甲高い声で鳴く。

日本ではその鳴き声からカナカナカナカナ蟬などとも呼ばれる。漢字表記は茅蜩秋蜩日暮晩蟬などがあり、季語にもなっている。

ヒグラシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

秋の蝉を代表する存在は、やはり「蜩(ひぐらし)」ではないでしょうか。その名称も多くの作品に登場しますし、鳴き声も物悲しさを覚えます。

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  • 『追憶のひぐらし蜩の駅に』/立川志らく’
  • 『蜩やイヤフォン外し立ち尽くす』/玉城ティナ
  • 『はずれ棒タクトに蜩の空を』/高木晋哉(ジョイマン)’
  • 『蜩の声かけ流す湯殿かな』/梅沢富美男
  • 『かなかなの遠のいてゆく かずら橋』/馬場典子

音を聞けば一発で分かる方も多いと思うので、ぜひ音声データを探してみると良いかと思いますよー

(初秋)法師蝉・つくつくぼうし・寒蝉

そして、異名も多い「つくつくぼうし」を最後に触れています。「プレバト!!」ではあまり作句例がないようですが、聞きなし=名前と似ていることから初心者でもすぐに聞き分けられるタイプの蝉です。

ツクツクボウシ(つくつく法師、寒蟬、Meimuna opalifera)はカメムシ目(半翅目)ヨコバイ亜目(同翅亜目)セミ科に分類されるセミの一種。晩夏から初秋に発生するセミで、特徴的な鳴き声を発する。ツクツクホーシオーシンツクと呼ばれることもある。

成虫は7月から発生するが、この頃はまだ数が少なく、鳴き声も他のセミにかき消されて目立たない。しかし他のセミが少なくなる8月下旬から9月上旬頃には鳴き声が際立つようになる。9月下旬にはさすがに数が少なくなるが、九州などの西南日本では10月上旬に鳴き声が聞かれることがある。

ツクツクボウシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

なるほど、この話はどこかで見た覚えが他にもありますが、秋に地中から生まれるのではなく、他の蝉の大きな鳴き声に夏の間はかき消され、それらの鳴き声がなくなった後も鳴き続けるから季節感として一つ遅い秋の季語となっているのですね。動物の生態と人間の営みというのは面白いものがあります。

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ややもすると「蝉=うるさい」で終わってしまいがちな現代人ですが、古くから蝉を聞き分け、その中に風流を感じて詩歌としてきました。皆さんもぜひ蝉の鳴き声を聞いた際は1句捻ってみて下さい。 句という形でなくても、蝉の種類を聞き分けられるようになるだけで、季節の移ろいや時代の変化を楽しめるようになるかも知れませんよ~?

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