【プレバト!! 俳人列伝】Kis-My-Ft2・千賀健永名人

【はじめに】
この記事では、『雪原や星を指す大樹の骸』や『宵宮の慈雨は屋台の人波へ』などの傑作句を「プレバト!!」で披露している、Kis-My-Ft2(キスマイ)の千賀健永せんがけんとさんの作品を振り返っていきます。

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他の名人からは「三振かホームランか」などとイジられがちな千賀名人ですが、今回は「半年に1句」という縛りを設けて一気に名句を紹介していきます。キスマイ&千賀さんのファンの方も、プレバト!! ファンの方も、その他の方もぜひお楽しみください!

(2015年下期~2016年上期)一般参加者時代

今でこそ「俳句アイドル」の立ち位置を確立したKis-My-Ft2(キスマイフットツー)ですが、当初は、横尾さん以外は一進一退といった感じでした。

2015/08/13:2位72点『我が心穂波の海を疾走す』

初出場が、2位ではあったものの「才能アリ72点」だった千賀健永さん。句をいま振り返ってみると、いわゆる「定型」とは少し外れた形を取っています。しかしそれでも才能アリの評価だったのです。

夏井先生も言われていましたが、「稲穂」などは季語として歳時記に収録されていますが、「穂波」や「穂波の海」では季語とはなりません。また、「我が心」と大胆に心情的かつ漠然とした単語を上五に置くというチャレンジングな形になっています。

但し、この句からは若々しさや定型にとらわれない勢いが感じられますよね。夏井先生も、有季定型を軸に番組では評価していますが、こういったフレッシュな傾向の句もちゃんと高く評価されています。

初出場2位ながら高得点かつ「添削ナシ」となった横尾名人と千賀名人のその後の活躍は、現在番組をご覧になっている方ならばご存知でしょう。

2016/05/05:1位75点『青く濃きさつきの空に舞う大魚』

初出場は才能アリだったものの、その後2回は凡人査定だった千賀さん。約半年ぶりに出演したのは、2016年のちょうど「こどもの日」に放送された回でした。4回目で初の1位、しかも75点と高得点。

この句、実は表面的には季語1つ(さつき)ですが、複合的に様々な季語を17音に読み込んでいます。

  1. 夏の時候の季語「さつき」
  2. 夏の天文っぽい「さつきの空」
  3. 「さつきの空に舞う大魚」= 夏の生活の季語「鯉のぼり」の比喩
  4. 「青く濃きさつきの空」 = 「夏の空」の【一物仕立て】っぽい

これぐらいの4つの季語の要素を盛り込んでいるのです。だからこそ夏井先生は「75点」という高評価を付けたのだと思います。上に書いた4つのうち2つぐらいは偶然巧く行った感じも否めず、当時から「当たればホームラン」的な感じもしましたが(^^ その嗅覚も感性であり、実力だと思います。

※なお、夏井先生は「舞う」という動詞を添削し、『青く濃きさつきの空を行く大魚』としています。

そして、この句をキッカケに一気に浜田さんも驚く(?)3連続才能アリで特待生昇格を果たします。

(2016年下期~2018年上期)特待生時代【初優勝まで】

特待生昇格後は、昇格 → 降格となり、5級から出直しとなった2016年11月3日(文化の日)の放送、初登場時以来となる「添削ナシ」の句が誕生し、4級に昇格します。

2016/11/03:5→4級『紅葉山暮れて紫紺に匂う頃』

この句は、普通なら「映像」描写で17音を終えてしまいたくなるところです。実際、中七まではそうでした。しかし下五を『匂う頃』とすることで、まず「視覚」から「嗅覚」に訴えかけます

そして最後に「頃」と着地する事で前半の『暮れて』とも呼応して時間経過を打ち出しているのです。

こういった情報量の多さ や 難しそうな構成 をしっかりと纏め上げることに成功することがあるため、その爆発力を自分で制御できるようになれば、名人になれると期待が高まっていったのです。

2017/04/06:俳桜戦3位『桜花風の名残の空の波』

初の俳句タイトル戦(当時の名称は俳桜戦)に特待生3級として出場した千賀さん。一歩先を行く名人の横尾さんに勝つチャンスと意気込んで詠んだのが『桜花風の名残の空の波』という作品でした。

結果的には、3位で喜ぶ千賀さんを僅かに上回る2位に横尾さんが入り、直接対決では惜敗してしまいますが、個人的には横尾さんにも負けない素晴らしい句だと当時思いました。

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まずは何よりも『風の名残の空の波』と、助詞「の」が3回出ているにも関わらずバランス感覚が絶妙で、声に出した時の口誦性もピカイチです。「名残」という名詞を使ったことで、他の3つのフレーズ(風、空、波)は既視感のある単語たちですが、それをオリジナリティある12音にできていました。

夏井先生は『桜花さくらばな』ではなく、『桜さくら』と上五を添削して、さらに口に出して読みたくなる調べにしていましたが、中七以降は添削がありませんでした。後にタイトル戦の優勝句にも繋がる1単語ごとに描かれる描写が変わるという手法がすでに確立される兆しを見せていたように感じます。

2017/08/03:3→2級『潮浴びの頭驟雨で洗いけり』

特待生3級から2級に昇格した夏の作品。『驟雨しゅうう』という季語を歳時記から見つけ出し、不必要に言葉を飾ることなく描けていると評価され、1ランクアップとなりました。

夏井先生からは、『で』という助詞が散文的として、『潮浴びの頭驟雨洗いけり』とする1文字だけの添削を受けましたが、この年は3回のタイトル戦(いずれも決勝相当)で5位以内に入るなど抜群の安定感を見せている頃でした。

2018/01/04:冬麗戦優勝『雪原や星を指す大樹の骸』

そして、千賀さんファンが最も誇らしいであろう作品が誕生します。決勝一発勝負だった当時の第1回冬麗戦で、史上初めて名人以外(特待生2級)でタイトル戦優勝を果たした作品です。

  • 冬の季語「雪原」と来たら普通は昼間を思い出す。「や」という助詞で季語を詠嘆する
                ↓
    すると「星」が出てきて【夜】だったのだと気付かされる
  • 「星を指す」と動詞が出てくる。当然、人間だと思う。
                ↓
    「星を指す【大樹】」と、人でなく大樹だったと気付かされる
                ↓
    「星を指す大樹の【むくろ】」だったと更に気付かされる

自立語の出る度に一つ一つ前の情報の固定観念を「裏切る」ような配置が巧みに17音に当てはめられ、最後まで詠んだ時に一つの絵画のような光景として浮かび上がってくる。五五七の調べにも緊張感。

そして、夏井先生が『自分の句をちゃんと説明できる』ようになった千賀さんを手放しで絶賛をし、『努力する子は偉い!』と涙ぐみながら拍手で讃える姿に、千賀さんの方が貰い泣きをしてしまう一幕も。そしてこれは番組を2年間見てきた視聴者には堪らない感動的なワンシーンでした。

(2018年下期~2019年下期)特待生時代【名人昇格まで】

優勝がマグレで無かったと証明したい千賀さん。冬麗戦優勝の翌月に放送された通常査定でも1ランク昇格を果たし特待生1級に昇格(2018/2/8)。名人昇格に王手をかけます。

2018/08/09:炎帝戦・番外編『ベイエリアから届く短波や処暑の風』

しかしこのあたりから、タイトル戦で予選が導入されるようになり、ホームラン率は高いものの、打率が思うように上がらない千賀さんは、タイトル戦での活躍から少しずつ遠ざかってしまいます。

2018年の炎帝戦では予選5位と沈み予選敗退。ただ翌週の決勝戦の放送回では「番外」として千賀さんの句が紹介されます。それが上に示した「ベイエリア」の句でした。

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忌野清志郎さんの『トランジスタ・ラジオ』を実質“本歌取り”する形を取りながら、冬麗戦のように1単語ごとに新たな展開を喚起しています。加えて、難しい「処暑」という時候の季語を周囲の言葉の力をうまく取り込んでいます。

タイトル戦決勝での結果に結びつかなくても、こうして印象深い句を作り出せて、さらに「番外」とはいえ紹介してもらえる機会があることは、我々視聴者にとっても幸せなことです。

2019/04/18:春の他流試合SP『「運命」のドア叩く音春疾風』

高校生俳人たちと団体戦が組まれた2019年4月の「他流試合スペシャル」に出演した千賀さん。

3人の審査員の先生方からは、「運命」のカギカッコを付けずに一般名詞とした方が良いなどの評価を頂きながらも、句の出来を高く評価され30点満点の28点。対戦相手と同点「28-28」となりました。

2019/07/18:予選1位『黒き地の正体は海揚花火』

決勝では、飲めないお酒の句(ギムレット)を詠んで8位に沈むこととなる訳ですが、2019年炎帝戦の予選では、東国原英夫名人も絶賛するこの句で、堂々予選1位通過のホームランを打ちました。

上五で「黒き地」という謎のものが出てきます。しかもそこから中七で「正体は」などと勿体ぶるような表現を大胆にも使ってきます。だって俳句は17音しかないんですよ? そこで「しょうたいは」と、中七で4音も勿体ぶるのはハイリスクな作戦だと感じていただきたいです。

しかしそこは流石は予選1位の句です。『黒き地の正体は海』と中七の最後の3音(「は海」の助詞も見事)で一つの謎を解明します。

ああ、夜の海のことを言っていたのね。

ただそこで終わらないのが千賀さんのパワーです。『黒き地の正体は揚花火と展開します。

中七で「海」と気付かされた瞬間に揚花火が打ち上がったように脳内で追体験させます。「影→光」、「静→動」、「非季語→季語」という明暗のハッキリとした対比を何重にも織り込んだ作品です。

そして、年末(2019/12/05)には『黒革の匂い雪の滑走路』で、名人初段へ昇格。特待生昇格からで3年半、特待生1級から1年半での名人昇格は、応援する側も嬉しかったに違いありません(^^

(2020年上期~)名人時代

名人に昇格はしたものの、「予選」か「予選通過後の決勝」で下位に沈むパターンがすっかり定着してしまった千賀名人。それでも、5月には2段昇格を果たしています。

2020/05/28:初段→2段『ゲネプロのあとはどら焼き夏の空』

「ゲネプロ」という単語だけで、詠んだ人間の存在感が限定される経済効率の良い言葉ですし、「ゲネプロのあとは」と期待を持たせた後で『どら焼き』という庶民的なものが来ることへのギャップも非常にトリッキーです。

恐らくは「偶然」の要素が強いのでしょうが、もし仮にこれらを完全にコントロールして作句しているのだとしたら(いわゆる「計算済み」)、底知れぬ天才だということになりますね(^^;

2020/11/05:予選1位『夏の海を描くスプレーの秋思』

11月ですので、当然「金秋戦」=秋のタイトル戦です。その予選で1位通過を果たしたホームランが、こちらの句でした。表面的には「夏の海」と「秋思」で季語が2つありますが、当然、これら2つは、季語同士でも「虚と実」、「従と主」の関係にあります。

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脳内に映像を再現すると、最初に出てくる「夏の海」のインパクトは確かに強いのですが、この季語でのメインの季語は「秋思」で、文字通り秋の季語でしょう。

仮に、これが「夏の海を描く」の後もダラダラ続けていたらバランスが崩れてしまっていたのですが、「夏の海を描く/スプレーの秋思」とちょうど17音を半々に分けるようにして意味をカットしたことで完全に句またがりとして対比構造がハッキリとします。

……この句に関しては、流石に相当「練って」来たと思います。ちゃんと歳時記を調べて季語を1つに絞ることが多い(うっかり季重なりは殆どゼロ)千賀さんですから、予選をしっかりと通過するためにも“敢えて”季重なりを意図的に挑戦(しかも、強弱をハッキリつける事に専念)したのだと思います。

この「虚と実」や「主と従」といった「強・弱」を意識するだけでも、『季重なり』の句にチャレンジしやすくなるかと思いますので、ぜひ参考になさってください。(実は、千賀さんの句は、特待生・名人クラスを目指す上での良い手本となる「俳句の上級型」が多くあります。ぜひご参考に!)

2021/06/24:2→4段(2ランク昇格)『宵宮の慈雨は屋台の人波へ』

「プレバト!!」俳句査定では、あまり複数ランクの昇格は誕生していませんでした。年に1回程度出るにしても、特待生5級など下位に限られていました。しかし、名人以上(厳密には特待生上級)では初となる【2ランク昇格】を果たしたのが、2021年6月24日放送分での千賀さんの句でした。

詳細は↓の「note」の記事に詳しく書いてありますので、ぜひそちらをご参照ください。

「プレバト!!」の俳句査定で『2ランクアップ』となった作品を振り返る
https://note.com/yequalrx/n/nf5ecb3eea1ec

ここまでの流れで見てみると、「宵宮」+「慈雨」の季重なりとなっていますし、こちらは先ほどの「スプレーの秋思」の句とは違って、「宵宮の慈雨」と2つセットにすることで相乗効果が発揮されているのです(一口に“季重なり”と言っても、実は更に難しい型に挑戦している)

横尾名人が苦労した名人下段を2ランクアップの飛び級昇格を果たし、一気に4段に出世したのです。

2021/07/22:炎帝戦4位『光るシャツひるぎの森を行くカヌー』

予選免除で迎えた2021年の炎帝戦決勝、あの犬山紙子さんが非特待生での史上初の優勝を果たしたあの大会で、千賀さんとしては(当時)健闘の部類といえる決勝4位となったのが上の句でした。

夏井先生はベスト3を目指すための添削として、『シャツ光らせひるぎの森を行くカヌー』と添削されていましたが、これも単語ごとに情景が変わり、しかも多くの自立語を入れて成立させています。非常に難易度が高い句に挑戦していることを改めて感じて頂ければ幸いです。

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