お天気歳時記「花の雨(花時の雨)」

【はじめに】
この記事では、桜の咲く頃の雨を指す季語「花の雨」について、気象庁のデータなどと関連付けながらお話ししていきたいと思います。

季語「花の雨」について

今回と時期が近い季語「初花」を紹介した記事でもご説明したとおり、俳句の世界で「花」と言ったら基本的には「桜の花」のことを指します(「花吹雪」が桜の花びらを指すのと似ています)。

俳句の世界では、特に4~5音の言葉が重宝される傾向にあり、更に全てを説明しきってしまうのではなく、意味に若干のゆとりがあるタイプの言葉も魅力的なケースがあります。

冒頭触れた「花の雨」という季語についても、「花」が桜の花を指していることは上で述べたとおりですが、では「花の雨」という5音の季語になった時に、それがどういった意味かというと案外、微妙なようなのです。幾つか手元にある歳時記を読み比べてみると、

  1. 桜の花の咲いている時期(花時)に降る雨のこと
  2. 眼前にある実物の「桜の花」に降る雨のこと

これらの両方の意味をほぼ並列にしている俳句歳時記が多いかなって感じです。どちらの意味でも作句されており、どちらかが決定的に間違っているとも言い切れないようでした。却って、そういう曖昧さが好まれるケースもあろうかと思います。

そして、この「花の雨」という季語は、風流な感じがすると同時に、人間の心情も投影しやすい季語かなと思います。これは俳句に限らず桜の時期に雨が降れば皆こんな事を感じるのではないでしょうか。

  • 開花直後:桜の咲くのが遅くならないか/また蕾になってしまわないか
  • 満開前後:お花見に行く予定/行きたいのに、雨が気になる!
  • 散り始め:今日のこの雨で桜が一気に散ってしまわないか心配だー

時期に応じて皆んなが覚えるこういった感想を、「季語」の力によって伝えることが出来るという意味でも、重宝されやすい季語かも知れません。「季語」に心情を託すってのがマスターしたい技法です。

私が選ぶ「花の雨」の好きな3句

ではここから、私が俳句歳時記などで出会った「花の雨」の好きな俳句に触れていきます。皆さんも、「花の雨」の例句を探ってみてください。様々なドラマや心情が託された句が目に入るはずです。

『花の雨エレベーターのなか濡れて』/宮津昭彦

「プレバト!!」風にいえば、「雨」とあれば「濡れて」と書くのが説明になるパターンも少なくないかと思います。また、「花の雨」という外の光景の季語と「建物内」を1句の中に盛り込むのはそう簡単でないです。

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しかし、宮津昭彦さんのこの句は、そういった課題を軽々とクリアして、「花の雨」という少し暖かくなってきた季節感ともマッチした作品だと感じました。「エレベーター」という6音のカタカナ語は、日常感に溢れていて、「花の雨」という雅な言葉と共存させるのが本来難しいはずですが、中七以降のフレーズは、誰しもが経験があって、脳内に想像を広げさせる映像喚起力が強くありますね。

『村あげて教師を送る花の雨』/時野穂邨

こちらも生活がベースになっている句ですが、どちらかというと3~4月ならではの「非日常」を巧く切り取った作品だと思います。「村」よりも都会で生活してきた方々は、直接この状況を体感したことは無いかも知れませんが、それでも想像で思いを寄せることが出来ます。これも喚起力の強い句です。

上五で「村あげて」とするのは非常に経済効率が良い言葉遣いで、「村」だけで空間や社会性、そして「あげて」とすることで村民が大勢いることを表現します。「大勢 → 一人」という対比として“教師”の存在が中七で出て、『村あげて教師を送る』という12音のフレーズがそれだけで詩情に溢れています。

この句の「花の雨」には、『出会いと別れの季節』とされる3月のイメージが託されていて、もちろん「別れの寂しさ」も感じさせますが、それだけでなく「新年度への希望」みたいなものも一定量含まれています。ここらへんのバランス感覚は大変勉強になりました。

『サイフォンに潰れる炎花の雨』/村上健志

数多ある「花の雨」の名句の中にも引けを取らないと個人的に思うのが、2019年4月4日に放送された「プレバト!!」俳句査定/春のタイトル戦「春光戦」を優勝したフルーツポンチ村上名人のこの句です。

悲願のタイトル戦初優勝を果たしたこの句は、「花の雨」という5音の季語を下五に置く基本の形ですが、それに取り合わせる12音のフレーズが、まさに村上ワールドといった感じで、“らしさ”が極まったが故の初優勝だったと思います。

「花の雨」の若干の冷たさと「サイフォンコーヒー」の暖かさ、「屋外」と「室内」、コーヒーの黒と花の桜色、静と動であり静と静。小さな対比をこれでもかと詰め込んだ技巧的な作品を真ん中で支えているのは「潰れる」という動詞だとも感じました。これは夏井先生も講評で話されていたとおりです。

☆フルポン村上が俳句頂上戦初Ⅴ、夏井先生「五感をゆっくり刺激。いいねえ!」
 https://www.mbs.jp/mbs-column/p-battle/archive/2019/04/05/016742.shtml

お天気のデータを振り返る

次に示す表は、気象庁の「過去の気象データ検索」を使って作成したものです。

「東京(千代田区大手町)」の「開花日から14日間」を対象に、降水量0mmおよび1mm以上の日と、対象期間中の降水量・日最高値のリストです。

開花日0mm1mm日最高値
20113/287日2日(4/11) 12.0mm
20123/316日4日(4/03) 21.5mm
20133/1611日4日(3/25) 5.0mm
20143/258日5日(4/03) 65.0mm
20153/237日2日(4/05) 8.0mm
20163/218日4日(4/04) 8.0mm
20173/218日6日(3/21) 25.5mm
20183/176日4日(3/21) 31.0mm
20193/2110日3日(4/01) 5.5mm
20203/147日2日(3/14) 25.0mm
20213/145日1日(3/21) 46.5mm
(参考)ホーム > 各種データ・資料 > 過去の気象データ検索 > 都府県・地方の選択 > 地点の選択 > 「東京」で検索

開花日は年によって2週間程度バラつきがありますが、この春先の時期ということもあって、14日中の約半数で降水量0mm以上を記録しています。ただ、1mm以上の日は4日あるかどうかなので、全体的にグズついた天気ではあるものの、はっきりとした雨が降る日は数日に1回(続いて数日)かも知れません。

一方で、対象期間中、約半数では日10mm以上とはっきりとした「雨の日」になることもあり、こういった日はまさに『花の雨』って感じの一日になろうかと思います。

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