【はじめに】
この記事では、津波注意報などが解除された後に「20cm以上の津波」を観測した事例を振り返っていきます。
2020年代
23/12/03:フィリピン付近 → 愛知県で解除1時間後に20cm
2023年12月2日にフィリピン付近で起きたMw7.6の大地震で、日本列島でも各地で津波が観測されました。八丈島八重根で0.4mを観測し、本州でも20cm以上の津波を観測した地点がありました。
日付跨いで日本時間の3日午前0時過ぎに津波注意報が発表されて、午前9時に全国で注意報から津波予報に切り替えられました。ここで翌月公開された報道発表資料から各地の最大波の情報を部分的に画像引用します(↓)
着目すべきは「愛知県外海」の田原市赤羽根の観測点です。最大波で0.2m(津波注意報の下限)を観測したのですが、これが記録されたのが「3日10時21分」だったとのこと。
これはつまり、津波注意報が解除されるまでは0.1mだったものの、津波注意報が解除されて津波予報に切り替えられた後に「注意報」下限に達する津波が観測され、最大波が更新されたことを意味します。
もちろん、0.1mと0.2m(実際に更新した高さは数センチ程度と見られる)で極端な差はないかも知れませんし、0.2mの津波が脅威とはいえ、気象庁の呼びかけどおりに行動していれば、まず人命に影響を及ぼすことは考えにくいかとは思います。
加えて、公的には津波注意報が解除された後に「『最大波0.2m』を観測」などとメディアに大々的に報じられてしまっては、『気象庁の解除が早かったのではないか?』などと不必要に批判を受ける可能性も否定できません。影響を考えると、現実的でないとも理解しています。
むしろ我々に必要なのは、
- 津波注意報が解除された後に最大波を観測することもあること
- 気象庁は『津波注意報解除後に最大波を観測』したことを積極的に発信しないこと
- 気象庁が発信するとおり、『しばらく若干の海面変動がある』ので、不用意に海に近づかず況して海に入らないこと
これらを再認識することだと思います。
現実的にあるのかは分かりませんが、今回のように「0.2m」だと軽視されてしまうかも知れませんが、もっと高い津波が津波注意報解除後に観測されても、恐らく当日には発表されず、事後的にひっそりと発表されるのみかと思います。
いつかこの運用が、防げる事故・被害をもたらさないかを心配しつつ、それが杞憂となることを願いもしつつ、以下は平成時代の主な事例を振り返っていくこととしたく思います。
※ちなみに、2022年1月の「フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火」に伴う海面変動では、日本列島に衝撃波が伝わってから約1日経って、福井県敦賀港で12cmの最大波を観測しています。ただこれは20cmの津波注意報に満たないため記事の対象から除外しますことをご了承ください。
2010年代
16/11/22:福島県沖 → 注意報発表なしの北海道で海面変動
これは少し違うのですが、2016年11月22日に福島県沖で起きた大地震についてです。この時は、東北地方を中心に津波に関する情報が出され、午前5時59分の地震発生から3分後に福島県に津波警報が、そして1.4mを仙台港で観測したことを受けて午前8時9分に宮城県の津波注意報が警報に切り替えられました。
他方、今回注目したいのは、津波注意報も出ていなかった「北海道」です。地震・火山月報によると、12時46分に「浦河」で32cmという津波注意報に相当する津波が観測されていたことが記録されています。午前中にも、えりも町庶野、苫小牧東港や白老港で0.2m以上の津波が観測されていました。
全国で津波注意報が解除されたのが12時50分のことであり、浦河で32cmを観測したのはその4分前のことでした。本来であれば、北海道にも津波注意報を追加すべき状況であったにも関わらず発表されず、津波注意報が解除される頃に浦河で32cmの津波が観測されていた事実は軽くないと思います。
地震・火山月報によれば、翌日にかけて20cm未満の海面変動とはいえ、函館・釧路・十勝で15~16cmという0.2mに近い値が観測されており、この事実はその当時では殆ど知られていませんでした。仮に、気象庁の公式情報を安心側に捉えてしまった場合、所によって津波注意報クラスに相当する海面変動に知らず知らずのうちに晒されていた可能性もあるのではないかと思うと少し怖く感じます。
14/04/03:チリ北部沖 → 解除1時間後に仙台港で24cm
2014年4月2日に南米西部イキケ付近を震源とする巨大地震があり、東日本を中心に津波注意報が出されました。日本時間の午前3時に発表され、午後6時に解除されました。
但し、16時36分には全く津波注意報の出ていなかった高知県・須崎港で25cmの津波を観測したほか、津波注意報が東北地方で解除されてから約1時間後、仙台港で24cm、宮古で21cmの最大波を観測しました。
遠地地震はスパンが長いため、津波注意報も長期化しやすいですし、実際に海沿いにいても見た目には分かりづらいかとは思いますが、津波注意報クラスの海面変動が起きていることには留意が必要です。
13/02/06:サンタクルーズ諸島 → 解除後に複数地点で最大波更新
日本時間の6日10時過ぎにソロモン諸島付近で起きた大地震を受けて、14時41分に津波注意報が全国に発表。22時45分に津波注意報が解除されました。しかし、解除された後だけをみても、
津波注意報解除と時を同じくして、22時46分に「浦河」で20cmの津波を観測し、更に東京都神津島港で23時24分に20cm、そして鹿児島県南大隅町(佐多岬方面)では日付変わって午前0時4分に22cmを観測しています。
12/08/31:フィリピン付近 → 津波注意報解除後に八丈島で0.5m
これまでは20~30cmといった具合に、いわゆる津波注意報の下限ギリギリなところが中心でしたが、2012年8月31日にフィリピンで起きた地震による津波の事例をここで取り上げます。
22時07分に津波注意報が発表され、翌1日0時10分には津波注意報が解除されました。当時、湾内側にあるフィリピンの都市・ダバオで9cm、ミッドウェーで4cmなど海外からは10cm未満の海面変動しか出されず、日本国内でも離島で若干の海面変動が観測されたのみでした。これで気象庁は、深夜の時間帯でしたし、足早に津波注意報を解除する決断に至ったのではないかと思われます。
しかし、各地には津波注意報が解除されてから1時間以上経って第1波が到達し、最大波は予測に近く津波注意報クラスとなった地点もありました。確かに離島以外では20cm未満であり、気象庁が示した
最終的にこの地震で観測した津波の高さは、 副振動が励起した結果であると思われる八丈島八重根の観測値を除き、全ての津波観測点で20cm程度以下に収まるものであり、津波注意報解除の時期は妥当であった。
(出典)ホーム > 各種データ・資料 > 発表した津波警報・注意報の検証 > 2012/08/31 フィリピン諸島の地震
という結論に至るのかも知れませんが、当時、やや時期尚早であったようにも感じましたし、加えて解除後に情報が発信されなかった点も気になりました。
【おわりに】
ここで気象庁のホームページから、「津波予報」に関する部分を画像引用します。
津波警報・津波注意報などと比べて「津波予報」という表現は馴染みが薄い方も多いかとは思います。広く知られた表現でいうところ、
- 地震発生直後に『若干の海面変動があるかも知れませんが、津波による被害の心配はありません』などとメディアで報じられる情報が一つ。これは最大でも津波は20cm未満と予測されることを示しています。
- 津波注意報などが解除されたタイミングで発表され、『しばらくは海面変動が続くと見られるため(以下略)』と伝えられる情報がもう一つです。
今回は2つ目の方に絞ってお話ししてきましたが、どちらの項目でもオフィシャルには「20cm未満の海面変動」が予想される基準となっています。しかし現実にはここまで見てきたとおり、数年に1回の頻度で、津波注意報の解除後に最大波が更新され「津波注意報の下限」を上回る津波が観測されてきていました。
確かに高さは大半が20~30cm台であるものの、津波注意報の基準に照らせば、本来ならば津波注意報を追加で発表し直してもおかしくない額面の数字ですし、更に気になるのは「津波注意報解除後に観測された情報が直後には全くといって良いほど発表されない」点でしょう。
今回みてきたように「地震・火山月報(防災編)」などを見ればしれっと載っていますが、これは地震発生の翌月などに取りまとめられた情報です。現実的な津波の高さとして、そこまで真剣に捉えるべきでないとの声があることも理解はしますが、『万が一、この情報が発表されていたら被害を受けなかった』といった悲しい事故が起きた場合には反論できません。
この記事を最後までお読み頂いた皆さんに伝えたい点としては、
- 津波注意報が解除された後に、最大波を観測したり、20cm以上の津波注意報クラスの津波が観測されることも決して珍しいことではない
- 津波注意報が解除されるタイミングは、津波のトレンドを捉えて判断されるとされているが、現実には『避難疲れ』など社会科学的な面の影響が大きいと見られ、本当に津波が注意報レベルを下回ったという保証を与えるものではないと考えられる
- 気象庁ホームページには「潮位観測情報」などリアルタイムの情報を得られるページもあるが、津波注意報等が解除された後に最大波が観測されたという情報を発表することは少なく、まして「注意報再発表」となることは前例がない
こういったことは、災害情報のリテラシーを高める意味でも重要かと思います。そして気象庁とメディアには、
- 実際に津波を観測したら、せめて気象庁ホームページでは即時情報開示してほしい(これは解除後に限らず普段からそう、即時性が求められるものということを考えると基本的に情報発表が遅い)
- 『津波注意報』の解除そのものに、必要以上に人的な面(避難疲れなど)を考慮しすぎてはいけない(本当に考慮の必要があるならば、制度設計や基準を改める方向に調整するべき)
- また、メディア・気象庁は一般人への情報発信に関して、『津波警報』と『津波注意報』の違いを明確にし、積極的にメリハリをつけて発信するべき(不必要な人々が津波注意報で避難をしてしまうことが一つの足かせになっている印象。反対に津波警報の場合は迅速な避難が求められる)
こういったことを改めて依頼したく感じます。
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