『火山噴火等による潮位変化に関する情報』に関する時間を振り返ってみた(大規模噴火 → 津波予報)

【はじめに】
この記事では、2022年1月のフンガ・トンガの噴火により発生した潮位変化(以下「津波」と区別せずに書きます)から約2年。「火山噴火等による潮位変化に関する情報のあり方検討会」が取りまとめた報告書の内容と、運用後1年半での実績をもとに思ったことを書き綴っていこうと思います。

『火山噴火等による潮位変化に関する情報』に関する時間の例

①噴火発生 から ②気圧波到達予想まで

左から6列目までが「噴火」に関する情報で、噴火が発生した時刻(日本時間)を①で示しています。
※なお、3列目の「経過日数」については、前回この情報が発表されてから何日が経過したかを示したものです。軽く触れるだけにして、後ほど説明することにします。

そして、「②気圧波予想」の対象は、令和4年度に解説文が以下のように見直された予測時刻です。

(注)早い場合の日本への到達予想時刻は、火山の大規模噴火により発生した気圧波が310m/sで伝播し潮位変化させたと想定した時刻です。

今は、地震による通常の津波よりも早く伝わる“ラム波”が最も早く伝わるエリアの予想時刻が記載されるようになったので、それを上表に示しています。例えば、ロシア(カムチャツカ半島付近)であれば北海道に1時間あまり、赤道付近の太平洋であれば3時間程度ということになるようです。

とはいえここはおおよそ割り算の定式化なされているので、議論の余地はあまりないように思います。

②気圧波予想時刻から ③第1報発表まで

少し表を詰めて、「③第1報発表」の欄を追加しました。これは、気象庁ホームページの報道発表資料(ホーム >  各種申請・ご案内 >  報道発表資料)の右上に書かれている時刻を抜き出したものです。

実際には①から③までの間に、気象庁の「遠地地震に関する情報」を援用した津波予報(これも色々と課題のある点はありますが)が発表されます。
例えば、2023年11月20日のパプアニューギニア・ウラウン山の事例では、17時03分頃に発表されました。第1報として報道発表資料がリリースされる1時間ほど前です。

報道発表資料が出されるのは15分刻みぐらいなのでしょうか、①噴火発生から数えて2~3時間後で、②気圧波予想時刻から0~1時間半ぐらい掛かっています。一番右の列が「0:00」となっているものは、全国で最も気圧波が到達する予想される時刻に何とか間に合ったパターンで、プラスの数字となっているものは、仮に「気圧波が発生していた場合には既に日本列島への到達が始まっている」ことを表します。

確かに、津波予報などが出されるのは③よりも早いですし、仮に実測されれば速やかにメディアおよび気象庁の記者会見で情報提供が行われる……と信じたいですが、少なくとも「報道発表資料(1報)」が発表されるタイミングでは、既に来襲が始まっている可能性も否定できないことは抑えておきたいところです。

※なお、仮に2022年のフンガ・トンガ噴火の時のように『近場よりも遠いところの方が振幅が大きくなるのだとすれば、時間的余裕の少ないロシアでの火山噴火よりも直線距離が遠い南太平洋の事例の方が波が高くなるのかも知れません。それだと、ロシアでの事例で②に③が間に合わないという結果になっても、杞憂に終わるのかも知れません。

③第1報発表 から ④第2報まで

実際には津波が観測されなかった場合、報道発表資料は第1報と第2報で運用されます。第2報では、

●時●分現在、海外および国内の観測点で有意な潮位変化は観測されていません。今後の情報に注意してください。

状況に特段の変化がなければ、報道発表はこの第2報をもって終了とします。なお、日本への津波の心配がないと判断した際には、遠地地震に関する情報でお知らせします。

などと発表されます。具体的な時間については以下の表のとおりです。おおよそ、噴火が発生してから5時間ほど、気圧波の予想から3時間半ほどとなっています。①から②にかけては日本列島との距離の関係もありますが、

③報道発表資料(第1波)から④報道発表資料(第2報)までは2時間半程度が最頻値・中央値です。ここが一つの目安であり区切りとなるタイミングかと思います。

実際にはこの後、「遠地地震に関する情報」のページで『日本への津波の心配がない』ことをお知らせすることとなる訳ですが、そこまで含めると津波発生から半日弱かかる計算となります。

例えば、2023年11月20日の事例でいくと、噴火が発生したのが日本時間で15時30分で、第2報が22時に出されたので6時間半。そして『日本への津波の心配はない』と発表されたのは23時のことであり、噴火発生から7時間半です。

実際に津波がなかった場合に解除されるまで(判断されるまで)には、日本に近いところであれば約1時間ですし、通常の津波地震であれば数時間ですが、現時点においては不確定要素もある『噴火に伴うこの発表』は、通常よりも長時間にわたって警戒が余儀なくされる点は予め知っておくべきでしょう。

最後に私見と課題認識

最後に、私(Rx)としての私見とこの情報に対する課題認識を述べたいと思います。

基本的な部分については、フンガ・トンガの噴火の直後にnoteに書いているのでそちらに譲りまして、

☆【速報版】トンガ付近での大規模噴火に伴う潮位変化について|Rxのnote
 https://note.com/yequalrx/n/n256747297c7d

今回はそこから1年半あまりの実例をもとにした点に絞って書いていきます。

①過去140年で実例2回 …… 実例は数十年に1回の可能性も

2022年1月の段階で言われていたことですが、気象庁が『前例がない』と言ったことに対し、一部で『1883年のクラカタウ火山』が同様もしくは類似の事例ではないかとの指摘がなされていました。

^ なお、国際日本文化研究センター磯田道史やウェザーニュースの解説者山口剛央は、1883年に発生したインドネシアのクラカタウ火山の大規模噴火の際にも、今回日本に到達した、津波とみられるものと同様の潮位変化が起きていたことを指摘している。

“潮位変化「前例ない」は本当か 津波警報の遅れと防災情報のあり方”(ウェザーニュース)

“全国で気圧上昇、津波との関連調査 気象庁「経験ない」”日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2022年1月16日). オリジナルの2022年1月18日時点におけるアーカイブ。 2022年1月19日閲覧. “今村明恒(地震学者)が「地震漫談 (其の十)」1934年にこう記す。大気波動が「クラカトアから出発して」地球を巡回、「三回半までも追跡」。津波も発生。”

2022年のフンガ・トンガ噴火
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

『経験がない』のは事実で、気象庁の近現代的な観測における『前例がない』のも事実。ただ、『前例があった』ことも事実で、観測の歴史がたかだか百数十年であることに対して地象のタイムスパンがもっと長いことに真摯である必要があったことも事実かと思います。

前例が少ないなかでこうした推計を使うのは些か危険かも知れませんが、過去140年(1883年以降)で実例らしきものが「1回ないし2回」な事象(しかも地球上という面積でみて)であることは、今一度認識する必要があると思います。

仮に、実例を、1883年と2022年の2回としても、140年間で2回となれば、単純平均は70年に1度。ざっくりで言えば100年に1度スパンの現象となります。百数十年で1~2回の頻度となれば、地象でいえば『●●トラフでの巨大地震』と近いぐらいに、人間の人生の長さと比すれば『珍しい現象』となってしまいます。

もちろん現代の観測網ならばもっと頻度の高い現象だったのかも知れませんし、今後こういった現象の起こる確率が高まっていく可能性もあります。何より前例が少なすぎて、こういった推論をするのには慎重にならざるを得ない部分です。

②この情報は2年足らずで5回 …… 数百回連続空振りのおそれ

対して、この情報(大規模噴火が観測された際に発表する「遠地地震に関する情報」)は、2022年度以降どの程度発表されているのでしょうか。 ここで冒頭の表の左側で触れた「経過日数」が出てきます。

フンガトンガの事例を起点として、2022年は3回(フンガトンガを含めると4回)、2023年は2回、既に発表されています。マナム火山以降は実際に津波は観測されませんでした。

こちらも事例が少ないですが、発表される間隔をみると「平均日数135日」で標準偏差は65。ざっと、『年に複数回は出される情報』という見通しに落ち着きそうな気がします。

日本全国を対象に『年に2~3回』となると、分野は違いますが「大雨の特別警報」が大体それぐらいの感じではないかと思います。……ただ、特別警報と大きくことなるのが『災害の逼迫度合い』とその『的中率』ではないかと思います。

③140年に1~2度の現象に、135日平均で情報を出すと、376回目。的中率は0.266%!?

仮にですよ? 1883年に今回のような仕組みがスタートしたとして、135日平均で1回「この情報」が出され続けたとします。既に確認したように、実際の歴史上、次にラム波による津波が起きるのは約140年後(2022年)です。

日付事象情報発表的中
1883/08/27クラカタウの大噴火0回目
1884/01/07上から135日後1回目×
1884/05/21上から135日後2回目×
1884/10/03上から135日後3回目×
・・・×
1900/04/12上から135日後46回目×
・・・×
2000/10/25上から135日後318回目×
・・・×
2021/11/19上から135日後375回目×
2022/01/15フンガ・トンガ376回目

仮に140年間、今の制度のまま変わらずに続いたとすると、1883年の前回から2022年の今回まで375回発表され、それがいずれも『ラム波による津波が発生せず』、376回目にしてようやく的中するかも知れないのです。的中率を試算すると【 1÷376=0.266% 】であり、1,000回に2~3回という情報となってしまうのです。

もちろん実際には、375回も不的中な情報には世間や研究者からの非難の声が上がったり、制度設計の変更がなされるに決まっています。
ただ、現状の仕組みでは『この程度』なのだということを把握し、この程度の情報に対して、他の気象庁から出される情報(例えば7~8割の緊急地震速報や、数割の津波注意報、数%程度となりそうな北海道・三陸沖後発地震注意情報)と同列に扱うべきものなのかを、各メディアと市民が一定程度区別する必要があるのではないかと思います。
(少なくとも、毎回SNS上で過度に反応したり不安を煽ったり、それに加担することはNG)

まだ『北海道・三陸沖後発地震注意情報』は曲りなりにも算出根拠らしきものが開示されていますが、この情報に関しては算定根拠や発表基準すら洗練されていないように感じてしまいます。(後述)

④【提案】せめて、やっぱり対象をもう少し絞ったら?

そこで、ここ2年の実経験をもとに提案をさせてもらうと、『情報を出す対象となる火山』をもっと絞ったらどう? ということに現状ではひとまず尽きます。

2022年1月15日の噴火を捉えた気象衛星GOES17号からの画像 として、『2022年のフンガ・トンガ噴火』出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
  • 衛星画像で同心円状に広がる『衝撃波』のようなものが確認できるか
  • 『衝撃波』が確認できた場合、その波が日本列島を通過したか
  • 日本列島を通過する前後で、日本列島各地で気圧の変化が計測されたか

(噴煙が5万フィートに達するような大規模な噴火であることも基準の一つとするのは良いですが、)むしろ上に示したような項目こそが『津波』の直接的な要因・解析基準となるのではないかと感じるのです。 

現実的な改定案として、

世界中で起こる噴煙5万フィート程度の噴火“だけ”では、1883・2022年の事例と同様の可能性は低いとしてリスクを受け入れる。『遠地地震に関する情報』として一般に発表するのは、

  • 【同心円状の衝撃波が衛星画像で確認された場合】
  • 【衝撃波による気圧変化が確認された場合】
  • 【地震津波よりも早く潮位変化が実測され始めた場合】

など危険度が高まった場合(もしくはこれに準ずる場合を含む)だけとする。一方、諸外国の機関との連携を密にし、国内外で潮位変化が実測された場合は速やかに「記者会見」ないし津波に関する情報を発表できる体勢としておく。

こうするだけでも恐らく、375回も空振りに終わることもなくなって情報のレア度が増します。加えてフンガ・トンガの事例では、実測されていたのに津波警報・注意報の発表が遅れたのですから、そのことについてこそ、反省を行ってほしいとも思います。


(出典)火山噴火等による潮位変化に関する情報のあり方(報告書(概要)) [PDF形式:288KB] P1より抜粋

気象庁の「火山噴火等による潮位変化に関する情報のあり方検討会」の報告書(概要)P1に書かれている内容が速やかに実現されることを願います。

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