「プレバト!!」歳時記 ~夏の麺類 編~(冷やし中華 追加しました)

【はじめに】
この記事では「プレバト!!」で夏の定番の兼題ともなっている「夏の麺類」を詠んだ俳句を振り返っていき、夏の季語としてどんな麺類が歳時記に掲載されているのかを見ていきます。

冷麦(ひやむぎ)・冷し麦・切麦

まずは、敢えてこちらの季語から紹介します「冷麦」です。

ひやむぎ冷や麦冷麦)とは、小麦粉から作られるの一種である。

素麺などと同様に主に乾麺の形で市場に流通し、日本国内を中心に消費される。そのため、通年入手することが可能であるが、日本では冷やして食べることが多く、清涼感を求めて夏の麺料理に用いるのが一般的である。「冷麦」の語の由来は、うどんの旧称「熱麦」に対する語であるとされる。

後述のように、現代日本においては日本農林規格により、うどんや素麺などと太さによって分けられる。

製造・規格
ひやむぎの麺の太さは機械麺の場合、日本農林規格(JAS規格)の『乾めん類品質表示基準』において直径1.3mm以上1.6mm以下とされている(同基準を満たしている場合、「細うどん」と表示することも可能である)。素麺は直径1.2mm以下とされ、直径1.7mm以上はうどん(饂飩)に分類される。

ひやむぎ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

うどんの旧称が「熱麦」だということを知りませんでしたが、それとの対比での「冷麦」だったことはスッと納得できる部分もあるように思いました。

「ゆりやんレトリィバァ」さんの俳句を添削した後の形でご紹介しましょう(↓)。

  • 『昼は冷麦か店主のもぐもぐ来』/ゆりやんレトリィバァ’

ある意味で、「冷麦」という季語を選んだところにリアリティがあるという感じがします。事実だったとしても、想像だったとしても、少し生活感が他の季語よりも増すように思えるから不思議です。

これはきっと商店街のお昼どきで、予想外の来客に店主が慌てて店頭に来たのではないかというシーンを少しおかしみをもって描いていますよね。「夏」ならではの気だるさや生活の臨場感を堪能していただけたかと思います。

冷素麺・冷索麺・索麺冷す・索麺流し・冷麺(ひやめん)

「プレバト!!」ではちゃんとした作句例がないのですが、夏の麺類の代表格だと個人的に思うのは「おそうめん」です。傍題もたくさんあるので全てを掲載できませんが、まずは概略部分をウィキペディアから引用しておきます。

素麺(そうめん、索麺)は、小麦粉を原料とした日本および東アジアのひとつ。主に乾麺として流通するため、市場で通年入手できるが、冷やして食することが多く、清涼感を求めて麺料理として食するのが一般的である。

名称
索餅・索麺・素麺などの名称が混じって用いられた。

素麺
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本でも千数百年の歴史があるという「そうめん」の由緒についてはウィキペディアの記事などをお読みいただきたく思いますが、古代は『索餅』で、それが近世には『索麺』や『素麺』などと表記の混在を経て現代に至るようです。

今や安価で手軽に食べられる乾麺が全国で親しまれ、俳句も20世紀以降それなりの数に上ってきている印象です。例句には「素麺」単体での使用例も見られますが、自分の底本とする歳時記の原理主義な方などは「冷」などを含まないと季語として認めない人も居うるため、そこら辺は注意が必要そうです。

なお、手元の電子辞書には「ひやそうめん」が主季語として掲載されていて、「冷しそうめん」はなかった一方で、「そうめん冷す」という語順のものがありました。また、「そうめん流し」もちゃんと季語として掲載されていたのも特徴的でしょう。

一般的な「小麦粉」などを使ったもののほかに、例えば大きめな歳時記には葛粉を素麺のように細くしたものを出汁などで食べる「葛素麺(くずそうめん)」が掲載されていることもあります。
ウィキペディアに『素麺に形が似ていることから名付けられている食品』と書かれているものたち(例えば、イカそうめん や 鶏卵素麺)などは流石に季語とならないかも知れませんが、夏らしい食材を季語と見做して作句するのも面白そうです。


対して、個人的に扱いに困ってしまったのがこちらの季語です。「冷麺」と書いて皆さんは何と読みますか?

一般的には「冷麺(れいめん)」と読むでしょう。これは朝鮮半島(現在の北朝鮮)に端を発し、日本では盛岡冷麺別府冷麺が代表的とされている麺料理です。

しかし、手元の『角川俳句大歳時記』を引くと、「冷麺」と書いて『ひやめん』と読み、これまで触れてきた『冷素麺』の傍題となっているのです。対して、朝鮮半島由来のものは手元の電子辞書の歳時記には一切記載されていませんでした。

すなわち、俳句の世界で「冷麺」と書かれていたら、赤かったりキムチが入ったものを想像するのではなく、冷した素麺のことを想像するのが正しいケースが皆さんの思う何倍もありそうなのです。勿論、ケースバイケースなのでしょうが、少なくとも「冷麺(ひやめん)」と読む夏の季語があることを知っておくだけでも誤解を避けられるかも知れないので要注意です。


と、熱弁してきたのですが……2023年7月6日放送回に登場した『冷麺』はまた別物でした。中田喜子さんが8ヶ月間昇格できず、昇格が告げられて解説を受ける間、涙目になって喜びを噛みしめる姿がとにかく印象でした。

  • 『遠き日の銀座冷麺待つもよし』/中田喜子

夏井先生も「冷麺」がどんな料理であるかの解説は濁しましたが、どんな料理であれ「冷」の字が入っていることで夏の季語としての力を発揮していますし、何より句の出来が良かったことが名人8段への昇格の決め手だったのだろうと思います。

これに関しては、恐らく後述する『冷やし中華』のことを指していたのだろうと想像しますが、歳時記に載っている『冷麺』とは別物である可能性が高いことは申し添えておきましょう。

冷し中華・冷やし中華

そして、手元の電子辞書には「冷やし中華」を掲載しているものと掲載していないものがありました。ウィキペディアでは『茹でた中華麺を冷水で冷やすのが特徴で、素麺と並んで夏の食べ物とされる。』と書かれているにも拘わらず、案外載っていなかったりするのです。

冷やし中華(ひやしちゅうか)とは、冷やした中華麺を使った料理の一種。野菜叉焼ハム錦糸卵などの色とりどりの具材を麺にのせて、冷たいかけ汁を掛けて食べる、夏の麺料理として日本各地で食べられている。地方によって呼び方に相違があり、西日本、特に関西では「冷麺」と呼ぶことが多く、北海道では「冷やしラーメン」とも呼ばれる。

日本では昭和初期から知られている。中国の冷やし麺「涼拌麺(涼麺)」をルーツに持つとされるが、味も作り方も大きく異なるものであるため、一般的には日本発祥の料理とみられている。

冷やし中華
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これについては、日本での歴史が100年弱(昭和初頭から)ということで、歴史の長い俳句歳時記にとっては『冷し中華』ですら「新しい文化・風習」というイメージがあったのかも知れません。

但し、特に若い世代には「冷やし中華始めました」というフレーズは夏の訪れを感じさせるものとして広く知られていますし、季語として俳句に詠まれることに抵抗が少ないように思います。例えば、

  • 『冷やし中華明日も朝練あるってよ』/水野真紀

水野真紀さんが披露した上の句もリアルな感じがよく表されていると思いました。

「冷やし中華」というフレーズが全国区になったタイミングも今ひとつ分かりませんが、先ほどの中田さんの句は、町中華のメニューにあったとのことなので、恐らく『冷し素麺』でなくて『冷やし中華』に近い料理だったのでしょうね。

(参考)夏の季語とはなっていない冷たい麺類たち

「冷やし中華」が日本料理かは一旦脇に置くとしても、「冷やし素麺」や「冷麦」といった日本らしい夏の麺類を解説してきましたが、他の冷たい麺類は殆ど歳時記に掲載されていませんでした。

それこそ、夏バテだったり夏休みの昼飯の定番かも知れない「冷した饂飩(うどん)」や「ざるそば」的なものは掲載されていないのです。反対に、

  • 『あじさいや三日続けて昼は蕎麦』/武田鉄矢

「蕎麦」という料理(店)は示しつつも、主たる季語は上五の「あじさい」であり、紫陽花が咲く頃であることから『仲夏』であり、仲夏であるならばジメジメ感から蕎麦はざるそばではないか? などと間接的に想像させる技もお見事です。(もちろん、梅雨寒で温かい蕎麦かも知れませんが。)

ちなみにこの句は75点という高評価がなされ、武田鉄矢さんが特待生へのスピード出世を果たす起点となった句ではあるのですが、夏の季語としての麺類ではないのでここで紹介するだけにしておきます。

夏はどうしても冷たい麺類に頼ってしまいがちですが、体(特に内臓など)を考えたときには連続するとよくないかも知れません。「夏バテ」を悪化させないためにも食生活には気を配りつつ、もし仮に、皆さんが夏バテになってしまったとしたら、その辛さ・気だるさを含めて、「俳句」という形にしたり他の方の作品を鑑賞して辛い時期をやり過ごしていただければと思います。

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