【はじめに】
この記事では、複数の都道府県(この記事では「県」などと都道府を区別せずに表記しないことがあります)で「家屋が全壊」した過去の地震をまとめていきます。
この記事の概要について
建物の強度は時代などによって様々ですが、やはり人が住む家屋が全壊するほどの揺れは弱いものではないはずです。上の記事でいえば、全壊家屋が生じるのは「震度6(烈震)」あたりからとなりますので、県内で何軒か「全壊家屋」が出たという時点でかなり強烈な揺れなことが窺えます。
もともとは、今でいう震度6クラス以上の揺れに襲われた範囲から地震の規模なども推計できるのではないかと考えていたのです。ただ実際調べてみると、『家屋の倒壊』と『複数の都道府県』という縛りの該当例が、案外少ないんだなということに気づきました。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
過去の地震の経験則には、上のような式が示されているようなのですが、これをかなりざっくりとした解釈で簡略化してみました。調べ方としては、
といったざっくりしたものとなっています。また、ご注意いただきたい点として、
こういった点にはご留意いただいた上で、過去の事例を振り返っていきましょう。
令和時代:3県(2024能登半島地震)
令和時代では、2021・22年と2年連続で起きた「福島県沖」の地震が該当します。福島・宮城県で複数の全壊家屋が出ています。裏を返せば、M7クラスの大地震であっても、全壊家屋は両県ぐらいでしか出ていないのです。昨今の住宅の強度というのもありますが、それだけ「全壊家屋」が発生する地震はレアだということも言えるのでしょう。
発生日 | 震源/地震名 | M | 県数 | 1位 | 2位 |
---|---|---|---|---|---|
21/02/13 | 福島県沖 | 7.3 | 2 | 66 福島 | 3 宮城 |
22/03/16 | 福島県沖 | 7.4 | 2 | 153 福島 | 51 宮城 |
24/01/01 | 能登半島地震 | 7.6 | 3 | 2千 石川 | 91 新潟 |
そうした中で、熊本地震以来となる千軒単位での全壊が発生した「令和6年能登半島地震」は、古い建築基準で建てられた家屋の脆弱性とキラーパルスを大きく含んだ揺れの脅威を改めて実感させられる結果となってしまいました。
この表にない地震として、例えば令和元年に震度6強を観測した「山形県沖」の地震がありましたが、全壊は0で、半壊28といった具合でした。
平成時代:9県(2011東日本大震災)
続いて平成年間です。『面』としての広さは、津波被害が顕著だった『東日本大震災』ですが、それでも全壊家屋(津波による流出などを含む)が出たのは、青森・岩手・宮城・福島・茨城・栃木・埼玉・千葉・東京の9都県です。北海道や東北の日本海側、そして神奈川県などでは全壊家屋0だった事実は注目に値すると思います。
発生日 | 震源/地震名 | M | 県数 | 1位 | 2位 |
---|---|---|---|---|---|
95/01/17 | 阪神・淡路大震災 | 7.3 | 4 | 10万 兵庫 | 895 大阪 |
00/10/06 | 鳥取県西部地震 | 7.3 | 3 | 394 鳥取 | 34 島根 |
01/03/24 | 芸予地震 | 6.7 | 3 | 65 広島 | 3 山口 |
05/03/20 | 福岡県西方沖 | 7.0 | 2 | 143 福岡 | 1 長崎 |
08/06/14 | 岩手・宮城内陸地震 | 7.2 | 2 | 28 宮城 | 2 岩手 |
11/03/11 | 東日本大震災 | 8.4 | 9 | 8万 宮城 | 2万 岩手 |
11/03/12 | 長野県北部 | 6.7 | 2 | 34 長野 | 29 新潟 |
16/04/16 | 熊本地震 | 7.3 | 2 | 8千 熊本 | 10 大分 |
18/06/18 | 大阪府北部 | 6.1 | 2 | 20 大阪 | 1 兵庫 |
そして、県別の全壊家屋の多さでいえば『阪神・淡路大震災』の兵庫県が突出しています。しかし全壊家屋が出た府県数でいうと4府県(兵庫・大阪・徳島4・京都3)ということで、M7クラスの地震ではこれぐらいの値となるようです。
見方を変えれば、2000年頃の3県の2地震を除けばその他は2県以下であり、あの2016年の熊本地震ですら全壊家屋を出したのは基本的に熊本・大分に限定されています。2018年に震度7を観測した「北海道胆振東部地震」などは、場所もあって北海道のみです。
昭和時代:22県(1946昭和南海地震)
昭和年間と一口にいっても長いので、時代ごとに見ていきますが、昭和中期以降で顕著だったのは1964年の新潟地震のようです。また棟数は多くないですが1952年の吉野地震なども3府県に跨っています。
この時代あたりになるとデータも断片的なので漏れもあるかと思いますが、戦後になるとほぼ平成以降と同じぐらいの範囲に収斂していってる様子が窺えます。
発生日 | 震源/地震名 | M | 県数 | 1位 | 2位 |
---|---|---|---|---|---|
33/03/03 | 昭和三陸地震 | 8.1 | 複数 | 4千 岩手 | 5百 宮城 |
44/12/07 | 昭和東南海地震 | 7.9 | 12 | 7千 静岡 | 6千 愛知 |
46/12/21 | 昭和南海地震 | 8.0 | 22 | 5千 高知 | 13百 徳島 |
48/06/18 | 福井地震 | 7.1 | 2 | 3.5万 福井 | 8百 石川 |
52/07/18 | 吉野地震 | 6.7 | 3 | 9 大阪 | 6 滋賀 |
64/06/16 | 新潟地震 | 7.5 | 4+ | 3千 新潟 | 5百 山形 |
68/02/21 | えびの地震 | 6.1 | 2 | 333 宮崎 | 35鹿児島 |
68/05/16 | 十勝沖地震 | 7.9 | 3 | 657 青森 | 17北海道 |
78/06/12 | 宮城県沖地震 | 7.4 | 2 | 648 宮城 | 3 福島 |
83/05/26 | 日本海中部地震 | 7.7 | 2 | 757 秋田 | 167 青森 |
注目すべきはやはり昭和前半の地震です。昭和三陸地震や昭和東南海地震はかなり広域に被害が及び、特に1946年の「昭和南海地震」は全壊家屋が22府県に及んだとのこと。(↓)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
昭和南海地震が「南海トラフ巨大地震」の中では小規模とされる中でも、47都道府県の半数弱で全壊家屋を出しているという意味で、決して油断ならないことを物語っていると思います。
もちろんこういった時代は、戦中戦後の混乱期でバラック小屋のような粗末な家屋が多かったことも影響しているかとは思いますが、それにしても長野県から大分県にかけて全壊家屋が出ていたという事実はあまり取り上げられない気がするので、今一度注意が必要そうです。
明治・大正時代:10県(1923関東大震災)
最後に、大正時代以前です。都道府県別に被害を出している地震が少ないので本当に一部のみですが、表の形で纏めました。やはり顕著なのが元号を代表する巨大地震です。
発生日 | 震源/地震名 | M | 県数 | 1位 | 2位 |
---|---|---|---|---|---|
1891/10 | 濃尾地震 | 8.0 | 7万 岐阜 | 7万 愛知 | |
1905/06 | 芸予地震 | 7.2 | 56 広島 | 8 愛媛 | |
1909/08 | 姉川地震 | 6.8 | 約千 滋賀 | 6 岐阜 | |
1923/09 | 関東大震災 | 7.9 | 10 | 6万 神奈川 | 2万 東京 |
1923年(大正12年)の「関東大震災」は東日本大震災以上の都県数に及んでいますし、全壊家屋と規模という観点で「濃尾地震」は内陸地震の最大級といえそうです。美濃・尾張で6~7万棟が全壊したというのは、阪神・淡路大震災の兵庫県に近い値ですし、当時が今ほど人口密度も密集していなかったことが想像されるため、その激烈さがはっきりと分かります。
以上をまとめると、歴史的にみても「全壊家屋」が2桁都道府県に及ぶような地震は、地震史に名を残すような巨大地震のようです。そして、3都道府県以上にまたがる地震も数えるほどしかなく、近年では複数に跨がる地震ですら年に1回も起きないような状況のようです。
家屋の状況や揺れも地震によってケースバイケースでしょうが、以上が『全壊家屋』の範囲からみた、ざっくりとした地震の規模の推計の目安になろうかと思います。より精度の高い研究は専門家の方々がなさっているでしょうが、今後『複数県で全壊家屋』が出るような地震が起きた時にこの記事を思い出して頂ければ幸いです(起きないことをもちろん祈っておりますが)。では、次の記事でお会いしましょう。Rxでした。
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