(新)季語解説「志村忌」(梅沢富美男永世名人の創作季語)

【はじめに】
コロナ禍の最初期にあたる2020年(令和2年)3月29日に、お笑いタレント・志村けん(ザ・ドリフターズのメンバー)さんが亡くなりました。その翌年(2021年)には、「プレバト!!」のタイトル戦・春光戦において、2人の名人(梅沢、東国原)が「志村けん」さんへの追悼句を披露しています。

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今日は、番組内で梅沢富美男・永世名人が造語をした季語「志村忌」について、改めて振り返っていきたいと思います。

「忌日の季語」について

命日めいにちは、ある人が死亡した日のこと。忌日ともいう。対義語は誕生日。

命日
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

上記が辞書的な「忌日」の説明となります。一方、俳句歳時記における季語のジャンル分けとしても、「忌日」は時候や動物などと並んで独立して設けられていることが良くあります。(人事・生活・暮らしなどに内包されることもありますが)

簡単に言ってしまえば、俳人などの文芸の世界の人間などの命日を「季語」として悼む/偲ぶという考え方が俳句の世界にはあり、そういった古くからの季語を纏めたのが「歳時記〔忌日〕」の項となるのです。代表的なところで行きますと、

  • (春)4月8日:虚子忌 【俳人・高浜虚子】
  • (夏)7月24日:河童忌 【小説家・芥川龍之介】
  • (秋)9月19日:子規忌 【俳人・正岡子規】
  • (冬)11月25日:憂国忌 【小説家・三島由紀夫】

こういった具合です。生前に親交があればその時の思い出を詠み込むのでしょうし、親交がなくても、遺した作品やエピソードをキッカケに俳句を作るというものです。

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(問題意識)noteで歳時記 〔秋・忌日〕分冊|y=Rx|note で解説

ただし、これまでの俳句歳時記における「忌日」の季語については、幾つか課題があると感じており、その解消を目指して、過去に「note」で【新たな忌日の季語】を模索したことがあります。


noteで歳時記 〔秋・忌日〕分冊|y=Rx|note より

この記事を書くキッカケになったのが、まさしく「志村忌」との出会いでした。

「志村さん」追悼の「プレバト!!」2句

新型コロナウイルスへの感染と死去
2020年3月29日23時10分、国立国際医療研究センター病院に於いて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺炎の為に死去。70歳没。

死去の時点で自身の舞台志村魂、志村けんショーの地方公演の予定が組まれていた他、映画主演、朝の連続ドラマに出演が決まっており、俳優業にも本腰を入れて掛かろうとしていた矢先の悲劇だった。

志村の訃報は翌30日の9時40分頃から各テレビ局のニュース速報で報道された。速報が出た当時は大半のテレビ局が朝の情報番組の生放送中であったため、志村の訃報を知って驚く出演者達の様子が映し出された。
中でも当時『スッキリ』のレギュラー出演者で、志村とは「志村どうぶつ園」等で共演しており親交があった近藤春菜は生放送中に志村の訃報に接し、大変ショックを受けて号泣した。

志村けん
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

この記述で、当時の報道を思い出した方もいらっしゃるかも知れません。2020年3月末のことでした。

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これからおよそ1年後の2021年3月25日に放送された「プレバト!!」の俳句タイトル戦・春光戦の決勝で、こんな作品が詠まれました。先に紹介されて7位に沈んだのが永世名人にリーチ(当時)だった、東国原英夫名人です。

7位:東国原さんは「最初はグー」で追悼

時に、俳句(句集など)では17音の作品とは別に「前書き」を添えることがあります。東国原名人は、追悼の思いをより多くの人に明確に伝えるために「志村けんさん一周忌」と書き添えました。

【7位】<志村けんさん一周忌>
山も笑う「最初はグー」の発明者/東国原英夫

『「最初はグー」の発明者』が志村けんさんだというのは令和になり知った方も多いかも知れません。そして、名人も追悼の思いが深いがあまり、夏井先生からも、有季定型の骨法としては、

  • (夏井先生は許容したが)「山笑う」という本来の季語の形を崩して、「山笑う」とすることを許容しない意見も多い
  • 前書きに頼らないと、作品だけでは作者の意図があまり伝わらない
  • 「発明者」というのが説明になってしまっている

といった問題点があるとされ、その結果として「タイトル戦:7位」となったのでした。

そして何よりすごかったのが、この句の夏井先生の添削でした。

【添削後】<志村けんさん一周忌>
 山も笑う最初の最初の「最初はグー」/東国原英夫

「山も笑う」や「前書き」、「最初はグー」を、作者の意図を尊重して残した上で、『発明者』という説明の部分を削って、『最初の最初の』と中七にリズムを畳み掛けて力を溜め、句を最後まで読んだ時に、<志村けんさん一周忌>という前書きに戻ってくる形に仕立て直したのです。

添削後だと、「最初はグー」が、音であったり映像であったりに五感を刺激する着地点となり、原句と比べても(個人的には)格段に良くなったと感じました。「山笑う」としたことも活きてきました。

春光戦に出演した名人たちが揃って、「これはできない」と首を横に振ったり、感嘆の声をあげたり、思わず唸ったりするのも納得です。(名人の句だと畜魂二十九万頭に匹敵する名添削だと思います。)

【3位】梅沢さんが「志村忌」で入賞

そして、東国原英夫名人の句をそれとなくフォローしており、3位と発表された時に「良く3位に入ったよなぁ~」と自分に言い聞かせるようにボソボソ呟いていたのは、梅沢富美男永世名人も、東さんと同じく「志村けん」さんの追悼句、しかも「最初はグー」を詠んでいたからでした(^^

【3位】「最初はグー」聞こゆ志村忌 春の星/梅沢富美男
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しかしこの句は、東さんの句よりも原句の状態では完成度が上かなと思いました。確かに「三段切れ」っぽくなっていますが、強い言葉が3つも入っている中で、五感を刺激しようと苦心したり、なんとか季語を主役に立てようとする工夫が垣間見えたからです。

俳句歳時記的には「春の星」が季語となりますが、この句で最も主役に推したいのは間違いなく志村忌という梅沢永世名人による造語の季語でしょう。

生まれた(1950/2/20)のも亡くなった(2020/3/29)のも「春」だという志村けんさんについて、『きっと亡くなって春の星になったのだ』という作者の感性を、伝統的な春の季語である「春の星」に託しつつ、既存の季語の力を借りて新たな季語を目指す造語「志村忌」を採り入れたのですから。

(※)造語が季語として認められ、俳句歳時記に掲載されるまでに長い道のりが必要となることは、下の記事「花追風はなおいて」で解説していますので、ぜひご覧ください。

ちなみに、梅沢富美男さんは、放送当日にこんなツイートをされています。「志村忌」という言葉を、俳句歳時記に載せたいと大々的にアピールする。それもある意味で、「季語」として認められるためには欠かせないことかも知れません。(↓)

貴方もぜひ「志村忌」に思いを馳せていただければ

梅沢永世名人のように俳句を詠む方は、この3月29日【志村忌】に、志村けんさんを追悼する作品を詠んでいくことが素晴らしいかと思います。ただ、俳句が詠めない方であっても、世代によって「志村けん」さんへの印象や思い出は様々かと思います。

故人を偲ぶときと同じように、時々思い出すというその思いが根底にあり、人によってはそれを17音の俳句などの文芸に昇華させているに過ぎないと思います。

俳句を普段詠めなくても、「あっ、今日は志村けんさんの命日だったんだ」と思いを寄せるだけでも、後世に繋がっていく営みになると信じて已みません(私のこの記事も表現の仕方は違いますが、思いは同じです)。

ツイッター検索:「志村忌」

例えば、「志村忌」を使った俳句が、今年も幾つもインターネット上に発表されていますし、ひょっとすると全国の俳句愛好家たちが作品を生み出しているかも知れません。皆さんもぜひ今一度「志村忌」や、他の方に思いを馳せるそんな日にしていただければ幸いです。

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