(新)季語解説「シャワー(Shower)」

【はじめに】
この記事では、季語として採用する歳時記もある比較的新しい季語「シャワー(Shower)」について私(Rx)なりに調べてみたので、皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。

ウィキペディアにみる「シャワー」について

まず、日本語版ウィキペディアで「シャワー」を調べると、【曖昧さ回避】の記事でこんな纏め方をしていました。

シャワー (Shower)

我々が「シャワー」といえば、まず風呂場で使うものを想像しますが、確かに考えてみると、「ライスシャワー」だったり、「サンシャワー(天気雨)」などの用例も耳にすることがありますね。
(ちなみに、英語のShowerの原義は「北西の風」だという風にみかけました。語源は面白いですね)

そして、日本語版ウィキペディアで「シャワー」で調べてもあまり普及に関する記述はないのですが、

日本では1988年には朝早く起きてシャンプーをしてから通勤、通学する「朝シャン」が若い女性に流行した。
このためシャンプーが手軽に短時間でできるような「ハンディシャワー」という商品が発売された。雑誌の広告欄には「服を着たままシャンプーができる」というキャッチコピーを掲げ、セーラー服姿の女子高生がシャワーを持って微笑んでいる写真が掲載されていた。

シャワー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

という一節は確認できます。「朝シャン」が流行語になったのは知っていますが、シャワーが各家庭の風呂場に設置された時期はウィキペディアの記載では分かりませんでした。

別途、Googleで検索をすると、和室から洋室などに推移していった昭和の後半に一気に普及(我が家も五右衛門風呂から現代の風呂場に移行した昭和50年過ぎにシャワーが導入)した様で、日本に普及して約半世紀といった具合だと思います。

それこそ昭和以前の時間軸がメインの「俳句歳時記」の世界では、まだ新しい文化といえるでしょう。

見解わかれる「シャワー」は季語なのか問題

ここまで説明してきましたが、多くの方は「シャワー」はご存知と思います。そして、こういった疑問を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

待ってください。そもそも「シャワー」って季語なの?

うちの子どもなんて季節問わず年中シャワー生活だけど。

年中使うものは基本的に季節感を覚え難いので「季語」とならないのが鉄則ですが、この「シャワー」はどうなのでしょうか。シャワーに季節感を覚えるか否かは人によって意見がわかれそうです。

そしてこの感覚は、俳句歳時記を編む選者にとっても悩ましい問題なのかも知れません。「シャワー」を季語として採録するかは事実、見解がわかれています。

「シャワー」を季語としていない例

先に言ってしまうと私もどちらかというとこちらの立場なのですが、「シャワー」を季語としていない派が結構主流なように感じます。例えば、手元の電子辞書をみてみても、

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  • 『広辞苑 第七版』(伝統的な季語ならば説明文にその表示があるのに、シャワーの項には[夏]といって記載がないことから、季語と認識していないとみられる)
  • 角川俳句大歳時記(平成18年版)』(季語として収録されず)
  • 『ハンディ版 オールカラーよくわかる俳句歳時記(2021年版)』(数千単語収録も収録されず)
  • 『現代俳句歳時記(現代俳句協会)』(独自の編集方針、『無季』として収録)

このように、平成・令和年間の歳時記であっては収録されていないものが多くあります。現代俳句協会が平成中期に編纂した『現代俳句歳時記』でも、夏の季語ではなく「風呂(無季)」の傍題として収録されていますし、現代俳句協会のデータベースで「シャワー」と調べても、季語として取り上げている句は収録されていませんでした。

「シャワー」を季語としている例

では反対に、「シャワー」を季語としている例はどういったものがあるのでしょうか。具体的には、

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  • 『合本俳句歳時記(第四版)』(シャワーを夏の季語として記載)
  • 『俳句ポスト365(松山市主催)』(2014年5月8日に兼題「シャワー」を季語として出題)

『合本俳句歳時記』では夏の季語としている理由について、『夏は風呂に入らず、手軽にシャワーで汗を流してすますことが多い。』(引用:同書)とあります。これは一理ありますね。

そして、夏井いつき先生が査定をする「プレバト!!」でも『シャワー』の句の評で、「シャワー」を夏の季語として紹介しています。夏井先生は「諸説ある」といった感じではなく、完全に夏の季語として紹介していましたから、それはそれでスタンスが一貫、徹底されていると思います。

手元に昭和後半から平成初頭に区切った俳句歳時記が無いので確認できないのですが、「シャワー」の普及時期に合わせて『新しい季語』として歳時記に挙って収録されたり積極的に作句された時期があったものの、朝シャンや核家族化などによって一年中「シャワー」を使う人が増えた結果、季感が弱まりその結果として歳時記に積極的に収録されなくなった可能性もあるのかなと感じました。

時代の変遷を確認できる程度に俳句歳時記をお持ちの方がいたら、ぜひ調べて見て頂きたく思います。

「シャワー」で作句する際に意識したい点

以上を踏まえると、「シャワー」を季語として捉えるかは、派閥や時代にとって認識が若干異なって、「シャワーを季語として認めるなんて少数派だ!」という感じではないものの、「プレバト!! でも言ってたし、誰がどう考えても季語だ!」といえるほど多勢でもない様に感じます。要するに極めてグレーな立ち位置の単語なのです。

こういった“季語”を使う際に注意すべき点は、他の季語にもいえますがこんなところでしょうか。

  • 場(~~派、保守か否か、師匠などの見解)に応じて、積極的に使うかを見極める
  • 自分と周囲で季語とするかの判断が割れた場合に、微妙な雰囲気になる恐れがあるので、使う場、発表する場をある程度は気にする方が無難
  • 「シャワー」を夏の季語と仮定しても、句の雰囲気に「夏」感がなければ、そもそも有季定型としては魅力に欠ける。その点で他の季語より扱いが難しい
  • 鑑賞する際は、「シャワー」を季語として使っているか否かの両面から考察し、季感がない場合は無季の句(別の季語を主たる季語としているケースも)と捉えるべし

こういった感じで、鑑賞する際も、作句する際も、こういうグレーな季語は主義主張がぶつかりやすいので細心の注意を払って、好意的に接することをオススメします。

(参考)類似の夏の季語について

ここまで「シャワー」が夏の季語とするかの両論をご紹介してきましたが、「シャワー」が夏の季語として認定される背景として、夏の生活の季語が以下のような幾つか先例があったことも影響していると思います。具体的にいうと、

  • 「行水(ぎょうずい)」
  • 「行水名残(ぎょうずいなごり)」
  • 「日向水(ひなたみず)」
  • 「髪洗う/洗い髪」
  • 「水浴び」
  • 「海水浴」
  • 「海の家/サマーハウス」

こういった季語の延長線上(昭和当時でいう現代風)に「シャワー」があったのではないかと推察できます。一方で、現代人の生活で「髪洗う」が年中行われるようになったのと似て、かつては季感のあった生活の季語も時代の変遷によって季節感の威力を失ってきている点も興味深いと思いますね。

「シャワー」を使った例句3句(+プレバト!! 2句)

ここから「シャワー」を使った例句を5句(うちプレバト!! 俳句2句)をご紹介します。最初の3句は先ほども登場した『合本俳句歳時記』に掲載されていたものから引用しています。

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  • 『絵タイルの薔薇華やかにシャワー浴ぶ』/赤尾恵以
  • 『シャワー浴ぶくちびる汚れたる昼は』/櫂未知子
  • 『口開けて叫ばずシャワー浴びており』/五島高資

特にこの真ん中の「櫂未知子」さんの作品は、平成以降の俳句界における櫂未知子さんの名を世に知らしめている代表句の一つに数えられる傑作とされています。

櫂 未知子(かい みちこ、1960年9月3日 – )は、俳人。「群青」共同代表、「銀化」同人。俳人協会理事。

北海道余市郡出身。当初は短歌を学んだがのちに俳句に転向、口語表現を生かしつつ、男女の性愛や、強さとエレガンスを持つ女性像を描き出した作品で知られる。

代表句に「シャワー浴ぶくちびる汚れたる昼は」「春は曙そろそろ帰つてくれないか」「佐渡ヶ島ほどに布団を離しけり」「雪まみれにもなる笑つてくれるなら」などがある。

櫂未知子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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そして、「プレバト!!」でも「シャワー」を使った句が2作品披露されていましたので、そちらも振り返っていきましょう。どちらも名人の作品です。

  • (2020/5)
    『オペレッタ歌ってコインシャワー浴ぶ』/藤本敏史
  • (2022/7)
    『メールぴこんぴこんシャワー中だってば』/森口瑤子

特に2句目の「メールぴこんぴこんシャワー中だってば」は、季語であったとしてもなかったとしても傑作で、『メール』という兼題から来る前半に負けない、『シャワー』という単語から来る艶っぽさにクラクラとしてしまいます。

夏のタイトル戦「炎帝戦」に提出した句ということで、夏の季語としての認識が強かったのかも知れませんが、これを無季の句として捉え、仮に冬の作品(シャワーは年中使う女性で、アイテムの一つ)と捉えることすら可能なほどのドラマ性を擁しています。

おそらくは、森口瑤子さんがこの句を作る根底……というか「シャワー」を使って俳句を作るに際しては、櫂未知子さんの『シャワー浴ぶくちびる汚れたる昼は』という句の存在を抜きにすることは難しいと思います。それほどまでにインパクトの強い傑出句だからです。

ただ、「汚れた」と明言されている櫂さんの句と比べて、森口さんの句からは『満更でもない』感じが漂っていますし、夏井先生の仰るように「大人かわいい」感じに終始する工夫も凝らされていました。
私が仮に「シャワー」を夏の季語として歳時記に収録するなら、この森口さんの句も例句として掲載したいなと感じた次第です。皆さんは5句の中でどの作品が好きでしたか?

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