注意して使い分けたい「震度」の捉え方について(揺れの大きさ/被害の程度)

【はじめに】
この記事では、「震度」という言葉についてウィキペディアの記載などを参考に私見を述べていきたいと思います。特に海外の地震などを報じる際に顕著なのですが、「震度」には、

  • 物理量ともいえる「揺れの大きさ」を表す意味での震度 と、
  • 現実に揺れによる「被害の大きさ」を表す意味での震度

の大きく2種類があって、国内の気象庁震度階級はほとんど大きな差は無いのですが、海外の地震では両者の差が広がっていくことが珍しくありません震度5強くらいの揺れの大きさでも、地震が珍しい国では日本でいう震度7のような被害が出るといった具合です)。

ウィキペディアで学ぶ「震度」

地震における震度(しんど、: seismic coefficient)とは、地震動の強さを表す尺度を言う。工学的震度という場合、主に地震動の加速度を言う。

工学的震度
地震動の強さを表す尺度として気象庁震度階級は便利なもので一般にも広く普及しているが、当初は個人の主観に頼って階級判断されていたこともあり、客観性のある尺度としては不十分なものであった。そのため、建築物の耐震設計などをするにあたっては科学的に正確な尺度として用いることができず、別途地震動の強さを表す工学的定義が必要となる。

震度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本語版ウィキペディアで「震度」と調べると、曖昧さ回避の項目に『この項目では、理工学的震度について説明しています。』と注釈があります。ウィキペディアにもある通り、『地震動の強さ』を表す尺度として物理量のデータ(加速度など)に由来するものが一つ大きな流派として存在します。

震度階級
地震動の強弱を表す尺度としては震度階級(seismic intensity scale)または単に震度階と呼ばれるものもある。それぞれ揺れの違いがある10前後のレベルで表現され、世界では地域により定義の異なるいくつかの震度階級が用いられている。現在の日本では気象庁震度階級が使われており、日本では一般的にこれを「震度」と呼ぶ。なお、震度階級と工学的震度(佐野震度)の強さは一概には比例しない。

震度階級の種類
震度の階級表は国際的に統一された標準的な規格はなく、それぞれの国や地域が採用したいくつかの指標がある。主な海外で使用されている震度階級としては以下のようなものがある。なお、それぞれの震度階級の間で、数式などを用いて対応関係を示すことは難しい。
また同じ震度階級でも機関によって運用や基準が異なり、単純に同じとはみなせない場合がある。各国の気象機関で公式に使用する震度を定めていないところも多いが、メルカリ震度階級を使用するところが多い。

気象庁震度階級
メルカリ震度階級
メドヴェーデフ・シュポンホイアー・カルニク震度階級
中国震度階級
・ヨーロッパ震度階級
中央気象局震度階級震度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

上に幾つか示しましたが、日本では「気象庁震度階級」が、世界的には「(改正)メルカリ震度階級」が最もポピュラーな震度階級です。階級の数(気象庁なら0~7、メルカリ震度階級なら1~12)や、算出方法・重視するものが違うため単純比較はできませんが、目的は、古くから世界でほぼ共通です。

【私見】震度の目的と手段 …… 時代と共に逆転!?

ここで一つ「答え」を出すのが難しい問いをしてみたいと思います。皆さん、

「震度階級」って何が目的だと思いますか?

これが意外と難題でして、私のように「震度」そのものに興味のある人はごく少数だと思います。本来は何らかの目的のために「震度階級」が設計されたはずです。ただ、あまりにも身近な指標である一方でその目的が思ったよりも不明瞭なのです。ここで気象庁震度階級をもとにざっくり私見を述べます。

第1段階:「階級」によって「物理量」をざっくりはかる

地震よりも古い気象の「階級」として代表的なものに、『ビューフォート風力階級』があります。これは(主に海上の)現象から「風力(風速)」をはかるというものです。

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例えば、海上で『波頭が砕ける。白波が現れ始め』たら「風力3(→7~10ノット)」、後に陸上で『屋根瓦が飛ぶ。人家に被害が出始め』たら「風力9(→41~47ノット)≒ 暴風域一歩手前」の様に、「現象や被害 → 風の強さ」という順番であり、求めたいものは「風の強さ」でした。

20世紀に入ると風速の物理値との関係式が定められた。
……なお、現在は風速計ドップラー・レーダーなどの風速値が分かる観測器が広く用いられているため、気象観測において、風力階級表を用いた目視観測で風速を決定することはほとんどない。しかし、風速計の故障時には代替として用いるほか、広い範囲の風の強さを評価するとき、また野外で風速の目安を目視で知りたい時などに活用できる。ビューフォート風力階級
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

かつて「風速計」が十分に発達・普及していなかった頃、分かりやすい現象から「物理量」をおおよそ把握するために考案されたのがこういった「階級」の指標でした。

この流れは、19世紀頃の各国の震度階級でも同じでした。日本の気象庁震度階級が導入された明治時代には、まだ『地震計』が気象官署などにしか設置できない大型で高価なものだったため、役所などを含めた民間委託(区内観測所等)に、被害状況などと共に「震度」を報告してもらっていました。当時は震度階級(≒現象や被害)によって「物理量(揺れの大きさ)」をざっくりはかることが目的でした。

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古い時代であれば、「強い震度が広い範囲から報告されれば、大きな地震だ」といったことが日本地図に図示できるだけでも、それ以前に比べれば発見が大きかったと思います。(江戸時代までのナマズなどに比べれば雲泥の差でしょう)

第2段階:「階級」によって「被害」をざっくりはかる

そうした「階級」と「現象」の経験則の蓄積によって、新たなフェーズに入っていきます。すなわち、「階級」によって「被害」がざっくり想定されるようになっていくのです。特に、メディアの報道や、公的な資料などで用いられる文脈では「被害」というのが非常に重要な意味を持ってきます。例えば、

  • 連動型の巨大地震で、このあたりは「震度6強」の揺れが想定されるので対策しよう
  • 今度の台風○号は、中心の最大風速××mが予想されているから気をつけよう
  • 明日は氷点下○℃になる予想だから、水道の蛇口を少し開けておこう

などといった時の下2つと上の「震度階級」は厳密には異なるかも知れませんが意味合いは似ていて、かつ階級や数値で目的とされるのは「被害」の部分です。

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昭和の前半までは「震度いくつ」という部分がまだ一般的でなかったと思いますが、昭和の後半でメディアが普及し、地震が起きると「どこそこが震度いくつ」という情報が一般に広く知られるようになると、階級の普及・一般化によって「被害」の精度への期待度が高まっていきます。

「震度1」なのに大災害になったとか、「震度7」なのに殆ど物も落ちず被害がなかったとか、そういったことは今の震度階級ではまず見られません。震度階級への信頼は、昭和までの長い蓄積で(1~2ランクぐらいの誤差こそあれ)おおよそ保たれてきた歴史があったのです。加速度の「何gal」で小数点まで示される値よりも遥かに一般人には馴染み深いものとなっていったのです。

第3段階:「階級」が数値メイン、被害がサブとなる

一方で、「地震計」の改良と普及が進み工学が進むと、物理量の測定の精度が高まります。その結果として追究がきわまり、数学・物理を駆使した『厳密な』ものに発展していきます。

例えば「1秒」や「メートル」などの基準も数百~数千年前に原型が生まれ、それが時代と共に精密化されていきましたが、「地震動の揺れ」という数値も数十年前(明治・大正)とは比較にならないほどどんどんと精度が高まっていきました。その結果どうなるのか、

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気象庁震度階級
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

現在の気象庁震度階級は、上に示されるような複雑な計算式となっていったのです。大枠は「0~7」といった数字(平成に5弱・強、6弱・強に分類されましたが)で示されます。メルカリ震度階級も、基本的には「0~12」という枠組みは変えずにここまで来ています。

しかし実態は、戦前に4→6→7→8段階で区分していた頃とは明らかに違った指標になっています。気づけば、『階級』が「数値(物理量)メイン、被害サブ」となっていたのです。もちろん一般には、

この頃の震度の判定は、観測員(気象台の職員など)が、自身の体感、建物などの被害状況などを、指針にある階級表に当てはめて震度を決定していた。指針があるといっても、観測員の主観に頼るため客観的ではなかった。平成初期には、各気象台から管区気象台が震度情報を収集して規模などとともに発表するまでに、10分程度かそれ以上かかっていた。

……震度観測点の不足、観測員の主観による精度不足、震度5以上の被害のばらつきなどの問題点、震度発表の迅速化などの課題が浮上したことで、無人観測可能な計器による震度観測が検討されるようになり、1985年(昭和60年)には気象庁内に震度の計測化を検討する委員会が発足した。1988年(昭和63年)には同委員会の報告に基づいて震度計による計器観測を試験的に開始、1994年(平成6年)3月末までに観測点すべてに震度計を設置した。この間、1993年(平成5年)には300か所、1996年(平成8年)には600か所と観測点を増やした。

その間にも、1994年(平成6年)12月28日の三陸はるか沖地震、1995年(平成7年)1月17日の兵庫県南部地震阪神・淡路大震災)などの大地震が相次ぎ、震度5や6の地域で被害の程度の幅が広かったことや、震度7の判定に時間がかかった(気象庁地震課機動観測班の実地調査が必要だった)ことが課題として浮き彫りとなった。これにより、より細かな被害の判定を迅速に行うことが求められた。

1996年(平成8年)4月1日の震度階級改定により、体感による観測を全廃して震度計による観測に完全移行するとともに、震度5と6にそれぞれ「弱」と「強」が設けられて10段階となった。これに伴い、「微震」「軽震」などの名称は廃止され、従来の説明文に相当するものとして「関連解説表」が新たに作成された。また、例外的に被害率で判定することとされていた震度7も震度計による観測に統一され、計測震度6.5以上を10段階中の震度7とした。気象庁震度階級
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

主観性が廃されるため「客観性」が高まる、震度発表の「速報性」が高まるといった利点ばかりが語られましたが、その裏に「人間の主観性や体感という複雑な機微」のデジタル化が確かにあったのです。

第4段階:「階級」の被害との乖離

第3段階となると「階級」を算出するための数値の算出方法は基本的に不変となります。しかし、初期段階で「数値化の算式」が実態と違うケースもありますし、初期は一致していても時間の経過によって現象・被害が実態と乖離していくことも有りえます。事実、「気象庁震度階級」についても、

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体感震度と計測震度の関係
1968年十勝沖地震から1995年兵庫県南部地震までの体感震度(1990年代以降は試行的な計測震度を含む)による旧気象庁震度階と、これらの地震の強震計によるデータから現在の計測震度計算方法に基づいて計算された計測震度とを比較検討した研究がある。

これによると、震度3以上では旧気象庁震度階と現在の計測震度との間に概ね良好な相関関係が認められ、統計的な連続性をほぼ維持してることが判った。
しかし、震度2以下では相関が悪く、例えば旧気象庁震度階で震度0とされた観測点の強震記録をもとに計測震度を計算すると0 – 2.7(震度0 – 震度3)までバラつきがあり、特に計測震度1.0から1.8(震度1 – 震度2)付近に集中している。すなわち、計測震度計によって震度1や2が観測されても体感震度では「無感」となることも大いにあり得る。

「関連解説表」と長周期地震動の検討
その後、岩手・宮城内陸地震岩手県沿岸北部地震などで実際の被害の様子とその震度で起こるとされていた被害との乖離が目立ち、2008年(平成20年)夏には震度階級の解説表を見直す検討に入ったことが報道された。同年冬から2009年(平成21年)春にかけて検討会が開かれ、3月31日から改定した「気象庁震度階級関連解説表」の運用が開始された。
主な変更点は、耐震工事の普及に合わせて建物の耐震度に応じた被害を記したほか、建物・地形への被害をそれぞれ別記し、特に建物は木造・鉄筋コンクリートを分け、インフラや大規模構造物への影響を注記したことなどが挙げられる。震度の算出式自体は変更されていない。気象庁震度階級
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

このようにあります。そして今度も視点を変えると、『震度の算出式自体は変更されていない』という一節にもあるとおり、「数値がメイン」となった段階から、『被害』の方を合わせに行く事態となっていくのです。

気をつけるべき点として、「『数値』は変わらないのに『被害』は変わっていく」というのは、連続性の観点からすると難しさがあります。『昔の震度4と今の震度4が違う』といった意見を聞くこともありますが、以上に言ったような要因から「肌感覚と違う」ケースが出てくるのです。

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