【はじめに】
この記事では、甚大な人的被害をもたらした地震に関する『犠牲者数の報道の時間的推移』に注目していきます。なお、厳密に集計することを目的したものではなく、どちらかというと他にまとめた記事が見当たらなかったため、私の手元の資料やネット上の情報などをもとにざっくり纏めた程度である点は予めご了承頂ければと思います。
日本の事例:阪神・淡路大震災と東日本大震災
平成以降に起きた地震の中で多くの犠牲者を出した1995年の「阪神・淡路大震災」と2011年の「東日本大震災」をピックアップしました。「死者数」と「行方不明者数」(テレビ・ラジオなどのテロップで表示されるイメージ)を地震発生からのおおよその時間経過で縦に並べてみました。
時間経過 | 2011 死 者 | 不 明 | 1995 死 者 | 不 明 |
---|---|---|---|---|
1時間後 | ||||
2時間後 | 1 | |||
3時間後 | 23 | 多数 | 13 | |
4時間後 | 28 | 23 | ||
5時間後 | 44 | 74 | ||
6時間後 | 63 | 181 | ||
7時間後 | 90 | 203 | 331 | |
8時間後 | 200 | 数百 | 337 | 580 |
12時間後 | 350 | 550 | 1100 | 800 |
16時間後 | 計1000 | 1300 | 1000 | |
1日後 | 計1600 | 1800 | 1000 | |
2日後 | 1万 | 3000 | 900 | |
3日後 | 1500 | 1万 | 4000 | 700 |
4日後 | 1900 | 計1.5万 | ||
現 在 | 16146 | 3333 | 6434 | 3 |
犠牲者数に関しては、報じるにあたって細心の注意が払われます。誤報があってはならないため、十分な裏取りを行います(特にNHKなどは数字に関して慎重派な傾向は今も昔も変わりません)。
両者に共通して言えるのは、大規模災害ともなると半日ではとても全容は掴めず、数日経ってようやく概要が掴め始めるという時間軸である点です。東日本大震災であれば3月11日の夜、阪神・淡路大震災であれば1月17日の午後にはまだ実際の数の1割程度といった数字が報じられ、それでも『大事だ』という印象を与えているほどだったことは頭の片隅に記憶しておく必要があるでしょう。
改めて比較してみると違いもあります。阪神・淡路大震災では被害の大半が兵庫県に集中していたこともあり、数の特定スピードは東日本大震災よりスピーディーでした。対して、東日本大震災は、東北・関東地方を大混乱に陥れ、津波による壊滅的な被害によって確認作業は困難を極めました。この表には反映させていない部分もありますが、一時『南三陸町で1万人の安否不明』という形で報じられるなど情報の取捨選択によって数に大きな差が出ました。
例えば、M7クラスの地震でも熊本地震では本震とされる4月16日の地震の翌日は概要が明らかになっていました。そうした意味では、広域災害、そして津波の恐ろしさを感じると共に、発災当初の情報(特に数字)を鵜呑みにしてはいけないことを痛感します。
世界の事例:スマトラ・四川・ハイチ ほか
同様の手法を取ることは難しいものの、可能な範囲で世界の事例も見ていきます。下に示したのは、21世紀に入ってからの人的被害の大きかった地震の表です。英語版ウィキペディアから画像引用し、上位8位まで貼り付けました。
犠牲者が多く、日本でも著名と思われる2004年スマトラ島沖地震、2008年四川大地震、2010年ハイチ大地震の3例(+暫定として2023年のトルコ・シリア国境の地震)をまとめてみました。
時間経過 | 2023 トルコ | 2010 ハイチ | 2008 四 川 | 2004 スマトラ島 |
---|---|---|---|---|
1日後 | 0.5万 | 1.2万 | 0.6万 | |
2日後 | 1.1万 | 10万超 | 1.5万 | 2.0万 |
3日後 | 2.0万 | 14万 | 5万超 | |
4日後 | 2.4万 | |||
1週間後 | 3.3万 | |||
2週間後 | 4.6万 | 15万 | ||
現 在 | 約32万 | 約9万 | 約23万 |
メディアによって振れ幅が大きいため概算値としていますが、10万人程度以上の犠牲者を出した地震でも、最初は『海外で大きな地震が発生』したことが第一報として伝えられ、半日後には『数十~数百人の犠牲者』が報じられ始めます。今であれば即時にSNSで現地の映像が拡散されますが、平成中頃までは海外メディアなどを通じた同じ映像が繰り返しテレビで流されていました。
冒頭数日の段階では数万人の前半と報じられていた(ハイチ地震も10万人超というのは高官の発言であっても確定的ではなく、数万人という報じられ方も多かった)上記地震も、半月や1ヶ月といった長いスパンを経て全容が明らかになっていくのです(これは東日本大震災も大差はなかったと思います)。
これも国内と同様に被害の広域度合いや津波の有無などによっても変わってきますが、いずれにしても『甚大な人的被害をもたらす地震』であっても初期の報道の値は頻度の高い地震とそこまで区別がなかったりもします。報じられている最新の数字も全容をどこまで想像させるものかはケースバイケースですから、今回の記事で分かるようなことを把握した上で、地震報道の情報に触れていきたいと改めて感じました。以上、Rxでした。
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