【はじめに】
この記事では、中央競馬のG1レースのうち、各競走で「1000m通過」が最も早かったレースを振り返りたいと思います。俗に『驚異的なハイペース』だとか言われる展開が数年に1度あるのですが、実際にどれぐらいのペースで駆け抜けたのか、改めて振り返っていこうというのが趣旨です。
必ずしも馬券に繋がるものではないのですが、競馬を観戦する中で、時として『伝説』となるレースの伏線となることも少なくないハイペースの前半戦から、名勝負を期待して後半戦を『手に汗握』ってもらう際の参考としてもらえれば幸いです。早速みていきましょう!
58秒台:距離によってはハイペースになるあたり
【58.8秒】1.58.4(2022年)大阪杯
エフフォーリアが大敗を喫し、ポタジェが58.7倍で優勝した2022年の大阪杯。このレースをG1昇格後で最速58.7秒で1000mを通過したのが、金鯱賞でレイパパレを下していた【ジャックドール】でした。
- ジャックドール:5着 「12.3 – 10.3 – 12.0 – 12.2 – 12.0」
【58.7秒】3.05.9(2002年)菊花賞
1枠2番からスタートして、中団後方に位置。1番人気ノーリーズンはスタート直後に競走中止している。前方では2頭がハナを争い、ハイペースとなっていた。
ヒシミラクルは、2周目の向こう正面で外から進出し、第3コーナーの坂の上り下りを利用し逃げ馬など先行勢を吸収。同じように動いたメガスターダム、ヤマノブリザードとともに先頭で最終コーナーを通過した。早めに仕掛けられたヒシミラクルは、他2頭を下して直線で抜け出した。後方大外から追い込んできた16番人気ファストタテヤマに寸前で並ばれて入線。ヒシミラクルがハナ差退けており、GI初勝利となった。
ヒシミラクル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
- ローエングリン:16着 「12.9 – 10.7 – 11.0 – 11.7 – 12.0」
この後も、ローエングリンは何度も登場してきますので、どうぞこの名をお忘れなきように!
【58.4秒】2.29.5(2003年)有馬記念
タップダンスシチーがジャパンCで9馬身差の圧勝劇を見せた翌月の有馬記念。菊花賞馬のザッツザプレンティが折り合いをかき、58.4秒ほどで1000mを通過する逃げを見せて失速する中、俗に9馬身返しなどとも言われる圧勝劇を見せつけ返したのが【シンボリクリスエス】でした。
- ザッツザプレンティ:11着
ダイユウサクの記録したレコードを1秒縮める2分29秒台の背景には、ザッツザプレンティやアクティブバイオといった馬たちの逃げ・先行がありました。
【58.3秒】3.12.5(2017年)天皇賞(春)
2001年はテイエムオペラオーがメイショウドトウやナリタトップロードを下し、2017年はキタサンブラックがシュヴァルグランやサトノダイヤモンドを下した天皇賞(春)。どちらも1000m通過が「58.3秒」という3200m戦とは思えぬタイムで逃げた馬が居たレースでした。
- タガジョーノーブル:11着(2001年)、ヤマカツライデン:15着(2017年)
57秒台:阪神JFを57.5秒で逃げて勝った馬といえば?
【57.9秒】2.23.0(2020年)ジャパンC
ウィキペディアに最大の讃辞が送られている2020年の「ジャパンC」は、3頭の三冠馬(牡馬・牝馬)が1・2・3着を占めるという劇的な結末となり、アーモンドアイがG1・9勝目を挙げて後輩2頭に初黒星をつけてターフを去りました。しかし、名脇役の存在を忘れてはなりません。
- キセキ:8着 「12.7 – 10.8 – 11.8 – 11.3 – 11.3」
レースを引っ張ることとなったキセキが後続を突き放しに懸かるタイミングはむしろレースの中盤以降でした。2ハロン目から12秒を切るタイムを重ね続け1頭、後続を突き放して向正面へ向かいますが、激走の印象とは裏腹に、1000mとしては「57.9秒」となります。もちろん2400mで57秒台で行くことが如何に普通のことでないか、競馬ファンであればお分かりでしょうが(💦
【57.7秒】2.24.0(2024年)優駿牝馬 ←New
平成までの最速は、2006年の58.1秒。17着と敗れたヤマニンファビュルが逃げて途中で失速し2分33秒9と力尽き、勝ったのは4連勝でG1制覇を決めた【カワカミプリンセス】でした。
そして令和に入ってからは、2024年の57.7秒。未勝利馬も出走できるレベル差の大きなオークスとなったこの年は、向正面に入るあたりでかなり縦長の展開となり、前を行く2頭が後続を大きく突き放しました。
新馬以来勝てず大敗が続いていたショウナンマヌエラが逃げて17着(2.30.7)、2番手で3角までに先頭となった未勝利勝ち馬のヴィントシュティレが18着(2.33.8)と非常に厳しいペースで駆けました。
- ショウナンマヌエラ:17着 「12.4-10.8-11.5-11.5-11.5」
前4頭のうち未勝利勝ちのランスオブクイーンは見どころありの5着健闘。直線では多くの馬がバテながら横一線でしのぎを削り、最後は2冠を目指すステレンボッシュをチェルヴィニアが半馬身捉えるという展開となりました。
【57.6秒】2.23.3(2004年)東京優駿
単勝2.6倍の1番人気に推されたキングカメハメハは、マイネルマクロスが後続を引き離して作り出した1000m通過が57秒6というハイペースを中団から追走。
レースは残り600mの最終コーナーから大きく動き、2番人気のコスモバルクが押して先頭に立ったことにより、他の有力馬が一気に進出を開始。キングカメハメハは青葉賞を圧勝してきた3番人気のハイアーゲームとともに外から進出をすると、直線の坂の入り口で早くも先頭に立った。ハイペースかつ有力馬が早めに仕掛けたため、最後の直線は消耗戦の様相を呈しており、早めに動いたコスモバルクが先頭争いから脱落、皐月賞馬ダイワメジャーを始め、先行勢が早々に失速していった。
これは最終コーナーから早めに仕掛けられていたキングカメハメハにとっても非常に厳しい展開だったが、ゴール前でハイアーゲームを競り落とすと、上がり3ハロンを出走馬中4番目(1~3位は全て追い込み馬)となる35秒4でまとめ、後方2番手から追い込んできたハーツクライに1馬身半という決定的な差をつけて優勝した。
走破タイムは2分23秒3で、1990年にアイネスフウジンが記録した2分25秒3のレースレコードを2秒も更新した。
キングカメハメハ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
- マイネルマクロス:16着 「12.5 – 10.6 – 11.3 – 11.5 – 11.7」
皐月賞の分までと逃げた【マイネルマクロス】の逃げが、2秒更新の大ダービーレコードの伏線となりました。俗に「殺人的な高速馬場」と呼ばれましたが、その真意は不明です。
【57.5秒】2.12.4(2007年)宝塚記念
第2コーナーを過ぎると、馬群は縦長となり1000m通過タイムが57秒台という馬場状態を考慮するとスプリント戦並みの超ハイペースで進んだ。
第48回宝塚記念
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ウオッカが1番人気で出走、レース史上初のフルゲートが揃った春のグランプリ・宝塚記念を、2ハロン目から連続10秒台で走り最下位に沈んだのが【ローエングリン】でした。なおこのレースを勝ったのが、国内に復帰した【アドマイヤムーン】で、秋にはジャパンCも制し、年度代表馬となっています。
- ローエングリン:18着 「12.1 – 10.5 – 10.9 – 11.9 – 12.1」
【57.5秒】1.32.7(2019年)阪神JF
ここまでもこれからもハイペースで逃げた馬たちを紹介していきますが、2歳牝馬が57秒台中盤で逃げて勝った事例はこの馬ぐらいでしょうか。2019年の阪神ジュベナイルフィリーズを57.5秒をもって逃げ、5馬身差のレコード勝ちで制したのが【レシステンシア】です。
- レシステンシア:1着 「12.2 – 10.5 – 11.0 – 11.8 – 12.0」
G1で2着5回と3歳以降はG1を勝てていませんが、この時の強いレースができれば……という思いを抱かざるを得ない強いレースでした。
【57.5秒】1.57.1(2024年)皐月賞 ←New
平成時代における最速は、2013年の皐月賞で前半1000m58.0秒をコパノリチャード。レコードタイムは、2017年のアルアインの1分57秒8でした。
2024年の皐月賞は、牝馬・レガレイラが1番人気に支持されるも後方を走り、人気馬の中ではジャンタルマンタル、シンエンペラーなども中団やや前めを走りますが、レースを引っ張ったのは、4番人気のメイショウタバルでした。前走、重馬場の毎日杯で6馬身差の逃げ切り勝ちを収めたこともあり、果敢先頭に立ってレースを引っ張りますが、1000m通過のタイムは実況も驚く57秒5。
- メイショウタバル:17着 「12.2 – 10.5 – 11.5 – 11.7 – 11.6」
中山の短い直線の入口でメイショウタバルは力尽き17着。ジャンタルマンタルが粘りこみを図るも最後は交わされ、2番人気で牡馬では最も支持を集めたジャスティンミラノが優勝。外からコスモキュランダが2着に詰めますがクビ差及ばずでした。ジャスティンミラノの勝ちタイム1分57秒1は、2015年の中山金杯でラブリーデイが記録したコースレコードを0.7秒も更新する破格の記録となりました。
結果的に6着と敗れたレガレイラまで従来のレコードタイムを更新しており、6着まで0.5秒差の力戦は、まさに消耗戦といった形でスピードとタフさを求められる結果となりました。
【57.4秒】2.11.6(2006年)エリザベス女王杯
スタート後にシェルズレイが大逃げ。カワカミプリンセスは中団を追走。対するスイープトウショウは後方を追走していた。
直線はカワカミプリンセスが真ん中から突き抜け、フサイチパンドラに1馬身半振り切って無傷の5連勝を成し遂げた。しかし、最後の直線で内側に斜行、ヤマニンシュクルの走行を妨害したため12着に降着となり、7番人気のフサイチパンドラが繰り上がり優勝した(降着制度導入以後15年ぶりの1位入線降着)。
第31回エリザベス女王杯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
- シェルズレイ:13着 「12.5 – 10.6 – 11.7 – 11.3 – 11.3」
【57.4秒】1.56.9(2015年)秋華賞
1番人気の【ミッキークイーン】がオークスとの2冠を達成した2015年の秋華賞。初の1分56秒台に達した背景には、ノットフォーマルの57.4秒での逃げがありました。
- ノットフォーマル:15着 「12.0 – 10.5 – 11.3 – 11.6 – 12.0」
【57.4秒】1.34.9(2006年)フェブラリーS
前年に圧倒的な強さでダート転戦3連勝でG1制覇を決めた「メイショウボーラー」。2006年はダートレースとは思えぬ「57.4秒」での逃げを見せるもブービーに大敗。
- メイショウボーラー:15着 「12.2 – 10.7 – 11.0 – 11.4 – 12.1」
上がり2位が36.5秒、3位が36.7秒で3頭という中で、上がり最速“35.7秒”で3馬身差を付けたのが、明け4歳の【カネヒキリ】でした。この後、ドバイワールドCでも4着と大健闘しています。
56秒台:天皇賞秋・安田記念を駆け抜けた逃げ馬といえば?
【56.9秒】1.32.3(2020年)朝日杯FS
中山時代であれば2002年、そして阪神開催としては2020年に「1000m通過:56.9秒」を記録している朝日杯フューチュリティステークス。逃げたのは、2002年はサイレントディール、2020年はモントライゼで、勝ったのは2002年がエイシンチャンプ、2020年はグレナディアガーズでした。
- サイレントディール:8着(2002年)、モントライゼ:10着(2020年)
【56.8秒】1.31.1(2021年)桜花賞
【サトノレイナス】を【ソダシ】が下し、白毛馬として初めてクラシックを制覇。勝ちタイムが1分31秒1という驚異的なものとなった2021年の「桜花賞」。しかし、その裏には、あの人気馬の激走(というか暴走)があったことを思い起こしましょう。1000m通過は56秒8となりました。
- ストゥーティ:7着、メイケイエール:18着
しかし馬場入り時からすでにテンションが高まるなど落ち着きがなく、レースでもスタートで出遅れ、途中から暴走気味に先頭に立つなど終始制御が利かず、直線では余力無くズルズル後退し18着のシンガリ負けを喫した。レース後、同馬は向正面で銜(はみ)受け不良となったことについて平地調教再審査が課されることになった。
メイケイエール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【56.5秒】1.33.3(1997年)マイルCS
秋華賞後、キョウエイマーチは距離適性を考えてエリザベス女王杯ではなく、マイルチャンピオンシップに出走。快速馬サイレンススズカとの逃げ合戦に競り勝ち、前半の1000mが56秒5という驚異的なハイペースで逃げ粘ったが、ゴール手前でタイキシャトルに差し切られ、2着に終わった。
キョウエイマーチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
- キョウエイマーチ:2着 「12.1 – 10.5 – 10.6 – 11.4 – 11.9」
ウィキペディアには「2着に終わった」とありますが、顕彰馬・タイキシャトルを相手に、『粘る粘る粘』った結果の2着であり、驚異的なハイペースで後続を抑え込んだことは評価に値すると思います。
【56.5秒】1.56.1(2011年)天皇賞(秋)
第144回天皇賞・秋にニコラ・ピンナ騎乗で出走、後方待機から直線で先頭に立つとダークシャドウ、ペルーサの追撃を抑えて1着となり初のGI制覇となった。
勝ち時計の1分56秒1は、2008年の天皇賞(秋)でウオッカがマークした1分57秒2というコースレコードを1秒1更新すると同時に、2001年にツジノワンダーが新潟競馬場でマークした芝2000mの日本レコードをも0秒3上回る日本レコードタイムとなった。
トーセンジョーダン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
- シルポート:16着 「12.5 – 11.0 – 10.8 – 10.8 – 11.4」
あの伝説となった「ウオッカ vs ダイワスカーレット」の天皇賞(秋)で記録されたレコードタイムも衝撃的でしたが、それを実に1秒1も更新されては恐怖を覚えました。1分56秒1というレコードタイムの裏には、【シルポート】による56.5秒という狂気的なラップでの逃げがありました。
なお、(良くも悪くも)今なお語り継がれる2003年の【ローエングリン】は56.9秒でした。しかし、当時のタイムを考えると、無謀すぎるレースだったと言わざるを得ないペースだったでしょう。
夏場は同馬主のテレグノシスとともにヨーロッパに遠征し、ジャック・ル・マロワ賞は10着、ムーラン・ド・ロンシャン賞は2着という成績を残した。帰国後は天皇賞(秋)に出走し、2番人気に支持される。しかしレースはゴーステディとの激しい逃げ争い。結果は自殺的なハイペースが祟り13着と大敗。人気馬らしからぬ騎乗に関係者・ファンからも鞍上の後藤への批判も強かったと言われている。この件が響き、暫く後藤への騎乗は遠退くこととなる。
ローエングリン (競走馬)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【56.3秒】1.31.3(2012年)安田記念
2010年のエーシンフォワードも56.3秒でしたが、勝ちタイム、そしてその逃げっぷりで印象的なのが2012年の安田記念でしょう。1番人気が6.6倍(サダムパテック)と大混戦の中、シルポートが56.3秒で爆走。2番人気のストロングリターンが上がり2位で差し切り、前年2着のリベンジで初G1でした。
- シルポート:12着 「12.2 – 10.7 – 10.9 – 11.1 – 11.4」
【56.3秒】1.31.4(2010年)NHKマイルC
5月9日、NHKマイルカップに出走、単勝1番人気に支持される。前半1000mが56.3というレース史上最速のハイペースとなったが、鞍上の安藤勝己はこのレースを後方待機策でスタミナを温存、直線大外に持ち出し、直線だけで15頭を差し切ってGIを初制覇した。
そして変則二冠を目指し東京優駿に出走する予定だったが、前日に右後脚の骨折が判明したため出走取消となった。
ダノンシャンティ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
- エーシンダックマン:18着 「12.1 – 10.4 – 10.9 – 11.4 – 11.5」
キングカメハメハやディープスカイという前例がある中、衝撃的なレコードタイムでの優勝を収めた【ダノンシャンティ】、日本ダービーに無事出走できていたらと想像してしまうほどのタイムでした。
55秒台:マイルG1で決めた牝馬といえば?
【55.9秒】1.31.9(2011年)ヴィクトリアマイル
- オウケンサクラ:15着 「12.0 – 10.6 – 10.9 – 11.1 – 11.3」
一般には「アパパネ vs ブエナビスタ」のマッチレースとして語り継がれている2011年のヴィクトリアマイル。しかし、この強い2頭に絞られる伏線となったのが【オウケンサクラ】の55秒台での逃げでした。そして、3番手で追走して1・2着と0.1秒差に粘ったレディアルバローザも大健闘でした。
【55.1秒】1.07.0(2001年)スプリンターズS
- メジロダーリング:2着 「11.8 – 10.1 – 10.6 – 11.2 – 11.4 – 11.9」
1番人気のゼンノエルシドが12頭立ての10着と敗れた2001年のスプリンターズS。人気を分け合っていたダイタクヤマトはタイム差なしの3着に粘り、勝ったのは24kg増で4番人気だったトロットスター。
しかし何より驚くのは「アイビスサマーダッシュ」を53.9秒で駆け抜けて優勝し、過去好走できていなかったG1の1200mでも2着に粘った牝馬【メジロダーリング】の激走でしょう。溜め逃げで行って、各馬が中山の坂で死力を尽くす中で、垂れず連対を死守する姿は印象的でした。
54秒台:高松宮記念でレコード勝ちを決めたのは?
【54.6秒】1.06.7(2016年)高松宮記念
- ローレルベローチェ:16着 「11.7 – 10.1 – 10.9 – 10.8 – 11.1」
国内のG1での最も早い1000m通過は「ビッグアーサー」が勝った2016年の高松宮記念。入り3ハロンが32.7秒で、前2頭を見る位置にいた3番手のミッキーアイルが2着、4番手のビッグアーサーが3/4馬身差で優勝しました。
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