はじめに
(前提)理念 と 算出方法
理念を一言で書いてしまえば、
「過去の名馬の獲得賞金について、時代を越えて、現代の価値に割り直して計算し、ランキング化」
となります。ただ、これが難しいのは、他のテーマで取り組んだことのある人なら明らかでしょう。 何を基準に「現代の価値」に割り直すのかも物差しによって様々ですし、時代が違えば、競走馬も競走の位置づけも馬への考え方も異なりますから。ただ、そこに挑む面白みがあることもお分かりのはず。
ひとまず、今回(2023年11月)、イクイノックスが平成時代からの記録を抜き、日本馬として初めて20億円の大台を突破しました。で、「イクイノックスの獲得賞金:22.2億円」となるよう計算します。
もともとの獲得賞金については、当時記録されたものをそのまま採用することとし、調整などは行いません。ここはシンプルに行きます。そしてここからが工夫のしどころ、「基準づくり」です。
現代換算の基準を作る際に、いわゆる“インフレ度合い”などを考慮するのが一般的です。
ここでいう“インフレ”とは、消費者物価指数やGDPに関する方というより、『中央競馬における賞金額の変遷』に基づき算出すると捉えて下さい。極端にいえば、第1回日本ダービー1着賞金が1万円で、今や3億円(=30,000万円)ですから、90年あまりで3万倍になった計算になる訳です。
なお、日本ダービーだけでは補足しきれない部分があるとも考えて、当該の馬の競走馬生活における『日本ダービー + 古馬最高賞金レース の1着賞金の合計』を『基準pt』として表示しています。
- 但し、日本ダービー発足前については「連合ニ哩」の値を2倍したものを『基準pt』とする。
- 現役年が複数年に亘る馬については、原則、引退年の『古馬最高賞金レース』を基準とするが、現役は続けたものの満足な獲得を賞金する機会がなかったと判断した場合は短縮する。
- データはネット上のものなどを参考としたが、正確性には自信がないため、正確な指標というよりも一案として雰囲気を掴む程度にしていただきたい。
- 外国での賞金も含むことを基本としたが、変動相場制移行以前については、円換算の値が極端にブレてしまうため一律除外した(ハクチカラ、スピードシンボリなど)。
具体的にいえば、イクイノックスが出走して2着だった日本ダービー、2022年の1着賞金の「2億円」と、無敗の活躍をみせた2023年のジャパンCの1着賞金の「5億円」を足して、『7億円』がイクイノックス、そして全体の現代換算値の『基準pt』となる流れです。
0.ボツにした戦前含む「獲得賞金」現代換算ランキング
いつものように、データを遡れるだけいくらでも! と意気込んで、現代からどんどんと遡っていきました。が、明治・大正期に来て手が止まってしまいました。手を止めた時のデータがこちらです(↓)
ネット上で拾った値では、半数以上を一般の方が知らない馬で占められてしまったからです。もちろんその時代を代表する一線級の名馬であることは確かなのですが……。この集計方法の粗さが出てしまう面も否めないと判断し、ここは一定の連続性を見込めそうな『クラシック競走整備後』ぐらいに絞ろうと方針転換しました。
前置きが長くなりましたが、ここからが本題となります(↓)
1.戦後の「獲得賞金」現代換算ランキング
どうでしょう、皆さんどのぐらい知っていますでしょうか。『ウマ娘』から競馬を好きになった方にもおなじみの名前もありますが、反対に『生年』からうかがえるように、かなり古い馬も入ってきます。戦後生まれの【トサミドリ】に関しては、実数549万円でありながら、現代に換算すると27.5億円相当となり、イクイノックスを上回ってしまいます。
※なお、トサミドリは通算31戦21勝、特に単勝1.5倍ながら7着と敗れたダービーの前後は、17戦16勝(中央競馬記録タイの11連勝を含む)という抜群の安定感で、種牡馬、母父としても記録的だった戦後(国営)期を代表する名馬です。……『JRA顕彰馬』ですからね、皆さん。
ただよく見てみると錚々たるメンツが並んでいて、21世紀であれば20戦近く5歳まで戦ったジェンティルやオルフェ、キタサン、ブエナなどが並び、更に下位には見えますが、出走数の少ないアーモンドアイやディープの名前も見てます。ハクチカラは海外を除いているので引退4歳と表示されていますが、本当に現役を4歳で終えたディープインパクトがここに名を連ねているのは立派です。
反対に上からみると、現在でいう7歳までグランプリを賑わせた【スピードシンボリ】は、現在価値で38.1億円相当という賞金を積み上げた計算となります。これは、有馬記念5年連続掲示板(うち2勝)をあげた同馬が、(1着賞金5億換算の)有馬記念だけで十数億円を稼いでいる計算となるからです。(同じく7歳まで走ったグランドマーチスがここに名を連ねるのにも驚かされます。賞金水準の違いもありそうです。)
2位以下は、オペラオー、オグリ、ルドルフ、ジェンティルと続き、これらは現代ならば30億円に匹敵する賞金を稼いでいたという扱いになります。オペラオーの完全制覇やルドルフの7冠が仮に2023年からの1着賞金5億円だったらばと考えると、あながち嘘でもないのだと思うのです。
気分を害さないで頂きたいのは、【イクイノックス】をはじめ、この表に名前が載っていない馬の存在を下げることが目的ではない点です。現代の「獲得賞金ランキング」をみるとここ数年の名馬が中心で平成の名馬もどんどんと上書きされていくでしょうから、ここは経済学でいう『名目と実質』の関係ではないですが、同じ10億円ではないことを抑えておいて頂きたいというだけなのです。
とはいえ、こういったデータというのは反対に、今をいきる名馬が過去の名馬たちのどこに勝っていたかを分析するのも魅力の一つ。ということで、こんなデータを作って【イクイノックス】をたたえてみようと思います。
2.「獲得賞金」現代換算ランキング【10戦あたり】
これは実際のデータでもそうですが、当然、長く活躍して沢山走った馬、そして何度も得意分野で賞金を積み増せる環境にある馬が有利となるのは明らかです。反対に、トキノミノルやマルゼンスキーなどのように競走馬生活の短かった馬にスポットライトはなかなか当たりづらい側面があります。
イクイノックスの凄さ、20億円を日本競馬史上初めて突破したところだけでなく、ここに注目しようと思い、もうひとつ揃えてみたデータを公開します。
『仮に、JRA顕彰馬などの名馬を10戦しか走っていないことにしたら』というシミュレーションです。
集計方法はシンプルで、緑色で表で示した「現代換算の賞金(単位:億円)」を、左から3列目にある「戦(=生涯出走数)」で割り、10を掛け算しただけです。
セントライトならば、24.5億円÷12戦×10=20.4億円(10戦あたり)となる計算です。結果はこう↓
10戦で現代なら10億円まで達していた換算となる馬たちのラインナップです。(※もちろん牝馬三冠が5億円なので、実際にメジロラモーヌが現代のレーシングカレンダーで10戦で11億円稼げるかは別問題として捉えて下さい)
この表にすると、歴代の牡牝の三冠馬をも抑えて、イクイノックスが堂々1位となるのです。こうすると全体1位のスピードシンボリは表外となり、テイエムオペラオーも14位となります。「10戦8勝2着2回」で世界1位と世界レコードを手にしたイクイノックスの鮮烈ぶりは日本競馬にも残るものであると共に、幾多の名馬にも『実質の』賞金面で劣らない活躍であったことが伺い知れたと思い、個人的には面白く作らせてもらいました。あなたは如何ですか? 漏れや気付きがあればコメント欄にどうぞ。
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