【はじめに】
この記事では、世界的にみても珍しく偉業である『無敗』の名馬を、地域と時代で区切ってご紹介していきたいと思います。
最近では、距離延長の英インターナショナルSを勝って10戦10勝とした「バーイード」が、引退レースとして選んだ英チャンピオンSで4着と敗れ、『無敗』のまま引退することが出来なかった(初黒星を喫した)ことが記憶に新しいところですが、過去にはどんな『無敗馬』が伝説となっていったのか、早速みていきましょう。皆さんは何頭知っていますか? 他にどんな馬が思い浮かびますか?
18~19世紀の世界の主な無敗馬
記事を書くにあたって参考としたのが、日本語と英語の「ウィキペディア」の以下の記事です。
- 無敗馬一覧(むはいばいちらん)は、競馬で一戦以上を経験し無敗であり、現役を引退している競走馬の一覧の事である。
- List of leading Thoroughbred racehorses(英語版ウィキペディア)
英語版の「Undefeated horses」を中心に、そこに記載されていない日本語版の「無敗馬一覧」を適宜補って全体像を作り上げました。まずは、古い時代18~19世紀を纏めました、こちらです(↓)。
国名 | 1850-99 | 1800-49 | 1750-99 | 1700-49 |
---|---|---|---|---|
オースト ラリア | Grand Flaneur 1877 9戦 | |||
イギリス | オーモンド 1883 16戦 St. Simon 1886 10戦 | Ardrossan 1809 12戦 Crucifix 1837 12戦 | エクリプス 1764 18戦? Highflyer 1774 12~14 Goldfinder 1764 11~13 | Flying Childers 1714 8戦? Dismal 1733 8戦 |
フランス | Salvator 1872 7戦 | |||
ハンガリー | キンチェム 1874 54戦 | |||
アメリカ | トレモント 1884 13戦 | American Eclipse 1814 8戦 |
イギリスの無敗馬
- フライングチルダーズ(Flying Childers、1714年 – 1741年)は、イギリスの競走馬・種牡馬。近代競馬における最初の名馬とも言うべき馬で、18世紀3名馬の一頭に数えられている。
- エクリプス(Eclipse、1764年 – 1789年)は、18世紀後半に活躍したイギリスの競走馬・種牡馬である。18戦18勝の戦績を持つ。サラブレッドの基礎を作ったと言われる。
- ことわざ「Eclipse first, the rest nowhere.」(意味 : 「唯一抜きん出て並ぶ者なし」で知られる。
- エクリプスは、極めて激しい気性を持ちながらも当時の競馬に適応した。18戦18勝(うちヒートレース7、マッチレース1、単走8)という成績を残し、かつ全ての競走が楽勝だった。エクリプスは18世紀の最強馬とされることが多い。少なくともこの時代最も重要な競走馬であり、かつ後世に最も知られているというのは確かである。
- 今日のサラブレッドの父系(サイアーライン)を遡っていくとその98%までもがポテイトーズ、キングファーガスというエクリプスの2頭の産駒にたどり着くとされ、これらを総称してエクリプス系と呼ばれる。同時代を生きていたマッチェムの子孫(2%)や、ヘロドの子孫(ごく少数)に対して圧倒的優勢である。
- ハイフライヤー(Highflyer、1774年 – 1793年)は、18世紀後半に活躍したイギリスの競走馬・種牡馬。18世紀を代表する名馬で、無敗の成績と種牡馬としての大きな成功を残した。18世紀を代表する名馬であり、サラブレッド種の成立にも貢献した1頭である。
- 競走馬としては主にニューマーケット競馬場で走り12戦不敗。英語版Wikipediaでは14戦となっているが、負けなかったことは間違いない。全て圧勝でフライングチルダーズ、エクリプスと並ぶ18世紀の名馬と評価されている。
- セントサイモン系のY染色体に関する疑惑
2017年になってセントサイモン系のY染色体ハプロタイプがヘロド系と一致することが指摘され、サラブレッドのハイフライヤー系がまだ滅んでいない可能性が浮上した。セントサイモンの父系には2ヶ所疑惑があり、そのうちの1つとして、セントサイモンの6代前のホワイトロックの父はハンブルトニアンではなく、実際にはデルピニが正しいというものがある。デルピニの父はハイフライヤーである。
- オーモンド (Ormonde) は、イギリスの競走馬・種牡馬である。19世紀末に史上4頭目のイギリスクラシック三冠を達成し、16戦不敗の成績を残した名馬である。不遇の晩年を送り、種牡馬としても成功することはできなかった。代表産駒はオーム。
- セントサイモンあるいはサンシモン (St. Simon) は、19世紀末に活躍したイギリスの競走馬である。以後のサラブレッドに絶大な影響を残した馬で、史上もっとも偉大なサラブレッド種牡馬と言われることもある。異名は「煮えたぎる蒸気機関車」 (Blooming steam-engine) 。
イギリス以外の世界の無敗馬
- アメリカンエクリプス(American Eclipse、1814年 – 1847年)は、19世紀初頭に活躍したアメリカ合衆国の競走馬・種牡馬である。アメリカ競馬最初期の名馬で、1970年にU.S. Racing Hall of Hame(アメリカ競馬殿堂)に選定されている。
- キンチェム(Kincsem、1874年 – 1887年)はハンガリーの歴史的競走馬。名前はハンガリー語で「私の宝物」の意味(恋人同士や夫婦の間で使うと「あなた」の意味になる)。
デビューから引退までの無敗記録としては世界記録となる54戦54勝の記録を持つ。
デビューからの連勝記録としてもプエルトリコのカマレロに破られたものの、いまだそれに次ぐ2位の記録である。 - トレモント(Tremont、1884年 – 1898年?)は、19世紀のアメリカ合衆国で競走生活を送ったサラブレッドの競走馬、および種牡馬。怪我により大競走を経験する前に引退したが、2歳時に無類の強さで13連勝を飾る伝説的な成績を残した。
20~21世紀の世界の主な無敗馬
国名 | 2000-24 | 1975-99 | 1950-74 | 1925-49 | 1900-24 |
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日本中央 | アグネス タキオン 1998 4戦 フジキセキ 1994 4戦 | マルゼン スキー 1974 8戦 | クリフジ 1940 11戦 トキノミノル 1948 10戦 | ||
地方競馬 | マジック カーペット 2014 8戦 | ツルマル サンデー 1995 15戦 | ホウリン (アア) 1960 16戦 | ||
トルコ | Karayel 1970 18戦 | ||||
オースト ラリア | Black Caviar 2006 25戦 | Malt Queen 1905 7戦 | |||
ドイツ | Nereide 1933 10戦 | Landgraf 1914 5戦 | |||
イギリス | フランケル 2008 14戦 | Precocious 1981 5戦 | バーラム 1932 9戦 | ハリーオン 1913 6戦 | |
アイル ランド産 | ザルカヴァ 2005 7戦 | Queen’s Logic 1999 5戦 | Windsor Slipper 1939 6戦 | ザテトラーク 1911 7戦 | |
フランス | La Cressonniere 2013 8戦 | Madelia 1974 4戦 | Caracalla 1942 8戦 | Prestige 1905 16戦 | |
イタリア | リボー 1952 16戦 | ネアルコ 1935 14戦 | |||
アメリカ | Peppers Pride 2003 19戦 | Personal Ensign 1983 13戦 | Raise a Native 1961 4戦 | Dice 1925 5戦 | Colin 1905 15戦 |
アルゼ ンチン | Husson 2003 5戦 | Candy Ride 1999 6戦 | Manantial 1955 6戦 | Payaso 1929 6戦 | Macón 1922 15戦 |
ブラジル | Derek 1978 8戦 | Emerson 1958 5戦 | |||
チリ | Moscona 1986 9戦 |
日本競馬(中央・地方)
日本馬については、先ほどもご紹介した「無敗馬一覧」が世界的にみても充実しています。1戦1勝の馬や戦前の馬まで大方網羅されているのは本当に頭が下がります。
戦績 | 馬名 | 備考 |
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16戦16勝 | ホウリン | (1960年代)アングロアラブでの国内平地の最長記録 |
15戦15勝 | ツルマルサンデー | (1990年代)サラブレッドの国内(地方)の最長記録 |
11戦11勝 | クリフジ | (1940年代)変則三冠を達成、中央での最長記録 |
以上が11連勝以上を達成している名馬です。これに続く中央の名馬としては、10戦10勝の【トキノミノル】、8戦8勝の【マルゼンスキー】、7戦7勝の【キタノダイオー】、6戦6勝の【月家】などが連なっていきます。平成以降では4戦4勝の【アグネスタキオン】と【フジキセキ】が目立ちますね。
アジア・オセアニアの主な無敗馬
- ブラックキャビア(Black Caviar、2006年 – )は、オーストラリアの競走馬である。G1競走15勝を含めた、オーストラリアの競馬の連勝記録を無敗で達成している。
- 4月にはTJスミスステークスへ出走し優勝、25連勝となった。このレースを最後に現役を引退、繁殖牝馬となった。 また、ブラックキャビアライトニングとTJスミスステークスのレーティングはいずれも130となり、この年の10月に凱旋門賞を圧勝したトレヴと並ぶ評価を獲得した。これによりオーストラリア調教馬史上初の世界ランキング年間1位を獲得した。
- カライエル(Karayel):1970年生まれのトルコ三冠馬。戦績は18戦18勝。アジア地区最長級。
ヨーロッパの主な無敗馬
- リボー(Ribot、1952年 – 1972年)は、1950年代中ごろに活躍したイタリアの競走馬・種牡馬。20世紀を代表する名馬の1頭で、20世紀のヨーロッパ記録となる16戦無敗、凱旋門賞連覇の成績を持つ。引退後は種牡馬としても成功した。
- ネアルコ (Nearco) はイタリアの競走馬。1930年代後半に活躍した。リボーに並ぶフェデリコ・テシオの傑作といわれ、競走馬として14戦14勝の戦績を残し、種牡馬として1947年と1949年にイギリス・アイルランドのリーディングサイアーとなった。
- 直系子孫は世界のサラブレッドの約半数を占めるまでに発展している。
ヨーロッパの2桁連勝馬というと、イタリア(フェデリコ・テシオ)生産の上記馬が著名ですが、それに近づいたのが2010年代に活躍した【フランケル】でしょう。今や種牡馬として欧州を席巻してます。
- フランケル(欧字名:Frankel、2008年2月11日 – )は、イギリスの競走馬、種牡馬である。
- 競走馬として、G1競走10勝を含む14戦14勝の生涯成績を残し、2年連続で欧州年度代表馬となった。2着馬につけた着差の合計は76馬身1/4に及び、特に2012年のクイーンアンステークスおよびインターナショナルステークスの圧勝は、ワールドサラブレッドランキングで史上最高の評価を受けている。
- 種牡馬としても成功し、ダービー馬アダイヤーなど多くのG1馬を輩出している。イギリス・アイルランドのリーディングサイアー(2021年)。
もしここに冒頭に触れた【バーイード】が並んでいたら、21世紀のヨーロッパ平地では2位にランクインしているということになっただけに、現地の落胆ぶりは計り知れなかったでしょう。
ちなみに、2014年生まれの【Honeysuckle】が障害路線で16連勝を決めていましたが、2022年12月に初黒星を喫し、21世紀の欧州の最長記録更新とはなりませんでした。
- エースインパクト(Ace Impact)はアイルランド生産・フランス調教の競走馬である。主な勝ち鞍は2023年のジョッケクルブ賞、凱旋門賞。
10月1日の凱旋門賞(G1)は1番人気の支持を受けた。明確な逃げ馬がいない中で先手を奪ったのはミスターハリウッドで、エースインパクトは後方3・4番手あたりをスルーセブンシーズと並んで追走。フォルスストレートの後半から前を捕らえる態勢に入り大外へと持ち出す。向かえた直線ではオープンストレッチの部分から各馬一斉に追い出しを開始。大外から順調に加速し一気に突き抜けて、2着のウエストオーバーに1馬身3/4差を付ける快勝であった。デビューから無傷の6連勝で世界の頂点とも言えるこの競走を制した。
その後はチャンピオンステークスやジャパンカップなどへの参戦のプランもあったが、10月13日、現役を引退することが複数のメディアにより伝えられた。
アメリカの主な無敗馬
- コリン(Colin、1905年 – 1932年)は、アメリカ合衆国出身のサラブレッドの競走馬、種牡馬。2歳から3歳にかけて15戦無敗を記録し、1907年・1908年にアメリカ年度代表馬として選ばれた。のちの1956年にアメリカ競馬の殿堂入りを果たした。
- パーソナルエンスン (Personal Ensign) はアメリカ合衆国の競走馬、繁殖牝馬である。生涯成績13戦13勝、うちG1競走8勝という成績を残し「ミス・パーフェクト」の異名を取った。また繁殖牝馬としても3頭のG1競走優勝馬を輩出している。1988年度エクリプス賞最優秀古牝馬、1996年度ケンタッキー州最優秀繁殖牝馬。1993年アメリカ競馬殿堂入り。
- ペッパーズプライド (Peppers Pride) はアメリカ合衆国の競走馬、および繁殖牝馬である。デビューから2008年までに無敗の19連勝を記録し、当時の近代北アメリカ競馬の連勝記録を更新した。
但し、ペッパーズプライドは『ニューメキシコ州産馬限定競走・牝馬限定競走』にしか出走しなかった中での19連勝で、全米クラスでの大レースを勝った馬とはレベルに差があると言われています。21世紀のアメリカでの無敗馬(大レース勝ち馬)としては、
- ジャスティファイ(英:Justify)は、アメリカ合衆国の競走馬、種牡馬。2015年のアメリカンファラオ以来3年ぶり、史上13頭目のアメリカクラシック三冠を達成した。無敗の三冠馬としては、1977年のシアトルスルー以来41年ぶりで、史上2頭目の快挙となった。【6戦6勝】
- フライトライン (Flightline、2018年3月14日 – )は、アメリカ合衆国の競走馬。主な勝ち鞍は2021年のマリブステークス、2022年のメトロポリタンハンデキャップ、パシフィッククラシックステークス、ブリーダーズカップ・クラシック。……6戦9,400mでトータル71馬身差を付けるという成績を残した。【6戦6勝】
などが著名です。果たして、次はいつ、ここに名を連ねる名馬が誕生するのか……気長に、楽しみに待ちたいと思います。
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