競馬歳時記【10月3週】「秋華賞」

【はじめに】
重賞競走の歴史を振り返りながら季節の移ろいを感じる「競馬歳時記」。今回は「秋華賞」の歴史をWikipediaと共に振り返っていきましょう。

秋華賞(しゅうかしょう)は、日本中央競馬会(JRA)が京都競馬場で施行する中央競馬重賞競走GI)である。

「秋華」とは、中国の詩人である杜甫張衡が「あきのはな」として詩のなかで用いた言葉。「秋」は大きな実りを表し、「華」は名誉・盛り・容姿が美しいという意味がこめられている

秋華賞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

20世紀

前史:秋の現3歳牝馬限定競走

1995年まではエリザベス女王杯が4歳(現3歳)牝馬三冠の最終戦として行われていたが、1996年よりエリザベス女王杯が古馬にも開放され4歳(現3歳)以上の牝馬限定戦となったため、新たな4歳(現3歳)牝馬限定のGI競走として新設された。

( 同上 )

日本のクラシック競走は、昭和のはじめにヨーロッパ(特にイギリス)の体系を参考に持ち込まれる形で創設されました。Bahramが17年ぶりに史上14頭目(無敗では3頭目)で達成したのが1935年であり、その直後に日本では「東京優駿」以外の競走が矢継ぎ早に建てられていったのです。

イギリスでは、1000ギニー、オークスという2つの牝馬限定競走は春に開催され、牡馬三冠とこの2レースをあわせた5競走のみが「3歳クラシック競走」とされています。日本において開催されるような「牝馬限定の秋の3冠目」はオリジナルには一切存在しないのです。

20世紀のイギリス競馬における「牝馬三冠」とは「1000ギニー → オークス → セントレジャー」を制することとされ、3冠目は日本でいう「菊花賞」に該当。牡馬を相手に長距離を勝てなければ三冠の栄誉に浴せないというハードな設定となっていました。ここ100年での達成馬は3頭のみ。

中央競馬クラシック競走優勝馬一覧
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本では「菊花賞」を牝馬が制した事例は戦中戦後の2例のみであり、名牝【クリフジ】の変則三冠を除けば、「桜花賞→東京優駿/優駿牝馬→菊花賞」という形での三冠を達成した馬は日本競馬史上1例もありませんでした。1952年の「スウヰイスー」の菊花賞2着が最高成績で、4頭が敗れています。

20世紀の「秋の現3歳牝馬限定競走」
  • 1928年
    ~ 
    1937年
    「牝馬連合」(各内国産牝馬連合競走

    現在地に移って日本で最も馬券売上の多い競馬場となった「京都競馬場」。初の目玉となる競走として、全国のチャンピオンを決める「連合二哩」の牝馬限定戦として創設。春と秋(初冬)の年2回開催。
    1938年の番組表大幅改正により、春開催が横浜競馬の「四・五歳牝馬特別競走」となり、秋開催は実質的に「阪神優駿牝馬(オークス)」へと分裂。

  • 1938年
    ~ 
    1952年
    「阪神優駿牝馬 → 優駿牝馬」(オークス)

    1938年に「阪神優駿牝馬」として創設された「オークス」が1952年までは秋の開催。上述「牝馬連合」の名残を受けて、本家イギリスとは異なる時期での開催となっていたものと思われます。
    この時代は「桜花賞/皐月賞 → 日本ダービー → オークス」などという三冠路線の位置づけだったと思われ、牝馬三冠はイギリスとは異なる体系でした。

  • 1953年
    ~ 
    1969年
    「クイーンステークス」

    オークスが春に移った穴を埋めるかのごとく、1953年には「クイーンS」と古馬混合の「東京牝馬特別」が創設。特に「クイーンS」は今の札幌・古馬混合戦ではなく、現3歳牝馬限定競走で、秋の2000m戦だったため、今の「秋華賞」に近い位置づけの重賞でした。

    他方、牝馬三冠には「菊花賞」に挑戦せねばならず、3頭とも敗れています。
     ・1954年:3着・ヤマイチ
     ・1957年:10着・ミスオンワード
     ・1964年:5着・カネケヤキ

  • 1970年
    ~ 
    1975年
    「ビクトリアカップ」

    戦前の「牝馬連合」が復活するかのごとくして、京都競馬場の秋(11月後半)に「ビクトリアカップ」が創設。ここで範としたイギリス競馬と決別し、牝馬限定の3冠目が創設され、牡馬を相手にせずに三冠を獲得する路線が確立します。
    ただ、距離は2400m戦と長めで、距離が縮まらない流れは継承していました。

  • 1976年
    ~ 
    1995年
    「エリザベス女王杯」

    エリザベス2世が来日されたことを記念して、1976年に名称を変更。実質的にはレース名が変わっただけで、京都2400mなどの条件面は踏襲しました。
    牝馬限定戦を戦う日本独自の形で、「メジロラモーヌ」が戦後初の“牝馬三冠”を達成します。

普段、「牝馬三冠」というと『エリザベス女王杯』が前身であることばかりが語られますが、少なくとも時代ごとに現3歳牝馬による限定競走がこれだけ開催されてきた歴史があり、古くは90年近く遡ります。牝馬路線の充実に伴い、いま存在している3冠目というのが『秋華賞』なのです。

1990年代:女帝が10着と敗れる波乱の初回

1996年に創設された「秋華賞」は、エリザベス女王杯と異なり、距離が2000m。牡馬・牝馬ともに、駒を進めるたびに距離が伸びるという“常識”も覆しました。

その初回から「1分58秒1」というものすごいタイムでフランス産馬の【ファビラスラフイン】が優勝し、時代の変化を印象付けました。一方、順調にレースに望めず、骨折による長期離脱の憂き目にあった女帝・エアグルーヴは10着に大敗するという波乱もありました。

回数施行日競馬場距離優勝馬性齢タイム
第1回1996年10月20日京都2000mファビラスラフイン牝31:58.1
第2回1997年10月19日京都2000mメジロドーベル牝32:00.1
第3回1998年10月25日京都2000mファレノプシス牝32:02.4
第4回1999年10月24日京都2000mブゼンキャンドル牝31:59.3

第2回(1997年)は、桜花賞馬【キョウエイマーチ】を、オークス馬【メジロドーベル】が2馬身半突き放して最優秀4歳牝馬(当時)の評価を決定づける勝利となります。

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一方で、1999年は障害馬としての活躍も期待されて生を受けた【ブゼンキャンドル】が、12番人気で激走し単勝5760円、馬連94630円の大波乱。【ドゥザヴィクトリー】が13着に敗れるなど、秋を無事に越せるとは限らないことを示すには十分な結果となりました。

※さらに2000年も、10番人気の【ティコティコタック】が優勝し、単勝2710円、馬連30010円という波乱が続きますが、ここまでの勝ち馬の波乱はこの時期に限定されています。

21世紀

2000年代:2番人気が5年連続(計6勝)

2000年代は、2000年に前述の【ティコティコタック】が10番人気、2008年に【ブラックエンブレム】が11番人気で勝利し、3連単が1098万馬券となる大波乱を見せました。時折驚く大波乱を見せるのが秋華賞の怖いところでもあります。

しかし、それ以外の年は全て1~2番人気が勝っており、更に2003年から2007年にかけて2番人気が5連勝を果たしています。

第6回2001年10月14日テイエムオーシャン1:58.5本田優
第7回2002年10月13日ファインモーション1:58.1武豊
第8回2003年10月19日スティルインラブ1:59.1幸英明
第9回2004年10月17日スイープトウショウ1:58.4池添謙一
第10回2005年10月16日エアメサイア1:59.2武豊
第11回2006年10月15日カワカミプリンセス1:58.2本田優
第12回2007年10月14日ダイワスカーレット1:59.1安藤勝己
第13回2008年10月19日ブラックエンブレム1:58.4岩田康誠
第14回2009年10月18日レッドディザイア1:58.2四位洋文

このように記憶に残る名勝負や偉業達成の瞬間の場として、そして距離的にも幅広い適性の馬が積極的に3冠目として選ぶようになり、最強3歳牝馬決定戦として存在感を示します。

2010年代:3冠牝馬が3頭も誕生

2010年代に入ると、そのまま「天皇賞」も勝てるのではないか? と感じてしまうほどのハイレベルな勝ち馬が名を連ねるようになると共に、太字で示したように「3冠牝馬」が3頭も誕生します。

20世紀で1頭(クリフジを含めても2頭)しか誕生しなかったと思うと、時代の変化を感じさせます。やはり距離が2000mという手頃なところに落ち着く体系になったことが大きいでしょうか。

第15回2010年10月17日アパパネ1:58.4蛯名正義
第16回2011年10月16日アヴェンチュラ1:58.2岩田康誠
第17回2012年10月14日ジェンティルドンナ2:00.4岩田康誠
第18回2013年10月13日メイショウマンボ1:58.6武幸四郎
第19回2014年10月19日ショウナンパンドラ1:57.0浜中俊
第20回2015年10月18日ミッキークイーン1:56.9浜中俊
第21回2016年10月16日ヴィブロス1:58.6福永祐一
第22回2017年10月15日ディアドラ2:00.2C.ルメール
第23回2018年10月14日アーモンドアイ1:58.5C.ルメール
第24回2019年10月13日クロノジェネシス1:59.9北村友一

もうひとつ、古馬になっても活躍を続け、G1を勝ったり、王道中長距離路線で活躍する馬が増えたのもこの時代の特徴のように感じます。【ジェンティルドンナ】や【アーモンドアイ】がジャパンカップで見せたレースは圧巻そのもので、その年の年度代表馬にも繋がるものでした。

2020年代:無敗での牝馬三冠 → 初の母娘制覇

2020年には、かつてミスオンワードが果たせなかった無敗での牝馬三冠を達成する馬が現れます。記憶に新しいところでしょうか、【デアリングタクト】です。

さらにその翌年には【アカイトリノムスメ】が、母【アパパネ】との母娘制覇を達成。1996年に創設された「秋華賞」で初めての偉業を成し遂げて注目を集めました。

ここ最近のレースレーティングをみても、春のクラシック2冠にわずかに劣る程度で、ほぼクラシック競走と区別されないほどのレベルを維持しています。そのドラマの劇的さは春2冠をも上回るかも知れません。

レースR勝ち馬
2016111.25ヴィブロス
2017111.25ディアドラ
2018113.00アーモンドアイ
2019111.75クロノジェネシス
2020111.75デアリングタクト
2021112.00アカイトリノムスメ
2022

牝馬限定戦ということで「GIの目安:111ポンド」です。牡馬に換算すれば、すべて4ポンドを加えることになりますが、全年で115相当を超えており、歴史の浅いG1としては及第点かと思います。特に、アーモンドアイの勝った2018年の「113ポンド」が光っていますね。

2000→2400→3000mと未知の距離に挑む牡馬三冠に比べ、1600→2400→2000mとなった牝馬三冠は正直ハードルが大きく下がっていると思います。今後も、牡馬相手に戦える中長距離馬であれば十分「牝馬三冠」を目指せると思います。

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