【春・天文】季語「春一番(はるいちばん)」

【はじめに】
この記事では、春の天文の季語である『春一番』について纏めていきます。本来の意味としては、春先に吹く強風です。決してイメージされるような長閑な春の風ではないことをこの記事で再確認して頂ければ幸いです。早速見ていきましょう!

春一番(はるいちばん)は、北日本(北海道東北)と沖縄を除く地域で春先に吹く南寄り(東南東から西南西)の強風。春一番が吹いた日は気温が上昇し、その後は寒さが戻ることが多い。

春一番
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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ウィキペディアに学ぶ「春一番」

まずは、日本語版ウィキペディアの記載を少し整理し直した形で「春一番」について学んでいきます。

語源

「春一番」の語源および初出については諸説があるが、現在広く用いられている「春一番」という語の直接の源は長崎県壱岐島であるとされる。

民俗学者宮本常一は災害以前の1775年に江戸で刊行された越谷吾山の方言辞典『物類称呼』に「ハルイチ」が掲載されていると指摘している。

池田市史 史料編』に収録された『稲束家日記』の天保2年1月11日1831年2月23日)の記事に「晴天午ノ刻より雨、春一番東風」との記載が見られる。

気象庁は、石川県能登地方や三重県志摩地方以西で昔から用いられていたという例を挙げつつ、安政6年2月13日1859年3月17日)、長崎県壱岐郡郷ノ浦町(現・壱岐市)で、おりからの強風によって出漁中の漁船が転覆し、53人の死者を出して以降、地元の漁師らがこの強い南風を「春一」または「春一番」と呼ぶようになったと紹介している。

宮本常一は研究のためにこの郷ノ浦町を訪れたことがあり、その際採集したこの「春一番」をいう語を、1959年平凡社版『俳句歳時記 春の部』(富安風生編)で紹介した。これをきっかけに、「春一番」は新聞などで使われるようになり、一般に広まったとされる。

なお、「春一番」の新聞での初出は、1963年2月15日の朝日新聞朝刊での「春の突風」という記事であるとされ、このため2月15日は「春一番名付けの日」とされている。

( 同上 )

要するに、幕末の災害が100年を経て再注目され、昭和30年代になって『俳句歳時記』や「新聞」などを経て注目されるようになった。ただ、言葉自体は少なくとも江戸時代には遡れるといった具合です。

そして言葉の原義としては、『災害をもたらす春先の怖い強風/突風』が根底にあるのだと思います。

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気象庁による春一番の発表
気象予報士の饒村曜(にょうむら よう)によれば、気象庁が「春一番」を定義し、それを発表するようになったのは、キャンディーズ『春一番』のヒットが大きな要因となっているという。

ヤフーニュース 2019年2月2日の記事では、「キャンデーズがきっかけ 気象庁の『春一番』の情報」には、「気象庁には『春一番』の問い合わせが殺到するようになり、気象庁は春一番の定義を決め、昭和26年(1951年)まで遡って春一番が吹いた日を特定し、平年値を作り、『春一番の情報』を発表せざるをえなくなっています。というより、春一番という言葉が浸透したことを利用し、防災情報の充実をはかっています。ヒット曲が気象庁の業務を変えたのです。」とある。

春一番
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

饒村さんが仰っているのだからまず間違いないでしょうが、現在、気象庁が『春一番』を発表するようになった背景に、キャンディーズ『春一番』(1976年3月1日発売、オリコン週間3位、年間21位)があるとのこと。

そしてやや専門的な観点からいえば、春一番の『平年値(10年刻みでの30年間)』を作った時に遡った範囲が1951年(~1980年)だったということに鑑みれば、気象庁の発表は1980年代に始まったものと推測されます。

裏を返せば、『春一番』が季語として掲載されて65年ほどであり、一般に定着したり公的に発表されるようになったのは40年前後というスパンであることを思えば、「季語」としての歴史は古いような短いような複雑な感じがしてきます。

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発生条件

気象庁が発表する季節の風に「木枯らし」などがありますが、それと比べて「春一番」は全国的に発表される数少ない項目です。地形的な関係から、地域差が結構あることも特徴です。

春一番の発生条件及び認定基準は、地域・気象台により、多少異なる。

おおむね立春から春分までの間に、日本海を進む低気圧に向かって、南側の高気圧から10分間平均で風速8m/s以上の風が吹き込み、前日に比べて気温が上昇することを発生条件とする。ただし、「日本海を進む低気圧に向かって」という条件は比較的幅広く解釈されることもある。

また、春一番は必ずしも毎年発生する訳ではなく、風が春分の日までに気象台の認定基準にあてはまらず「春一番の観測なし」とされる年もある。

( 同上 )

観測日

ここからは気象庁の観測データを見ていくことにしましょう。細かくは触れず、ウィキペディアの画像引用に留めますが、『春一番』が認められる季節は1ヶ月半(俳句歳時記の季語における春の半分)に相当する訳ですから、年によって実態の『春一番』は結構なブレがあることは抑えておきましょう。

例えば、気象庁にあったデータベースをもとにしたという表がウィキペディアに掲載されていますが、既にリンク切れとなっています。(↓)

ひとまず言えることとして、“気象学的な根拠・意味が明確でないことから平年値などの統計は行っていません”(引用元:岐阜地方気象台・令和4年3月5日発表『東海地方の春一番に関するお知らせ』)とあるように、市民の要望が大きいことによるものだということは抑えておきたいところでしょう。

データを見る限り、地域によっても振れ幅が大きく、観測されれば2月となることが多いように感じる一方で、実際のところ『観測されず』がこれだけありますし、『これって春一番じゃないの?』などと感じるものの、基準の厳格な運用のために『春一番』に認定されないケースも珍しくありません。こうしてみると、あまり吹かない年は3月までずれ込む印象が強いのもまた事実だという風に感じます。

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俳句歳時記では「仲春」などに分類しているものが多いですが、「仲春(啓蟄 ~ 清明の前日)」の中の半数しか該当せず、対象期間としてはむしろ「初春(立春から啓蟄の前日まで)」の方が長いことも抑えておけると良いでしょう。

俳句歳時記にみる「春一番」の例句

では最後に、俳句歳時記にみる「春一番」の例句を幾つか見ていきましょう。ちなみに、俳句歳時記で「春一番」と引くと、『春二番』から書籍によっては『春三番』・『春四番』などというものまで掲載されています。

  • 『春一番武蔵野の池 波あげて』/水原秋櫻子
  • 春一や列島藻塩まぶれとす』/阿波野青畝
  • 『春一番見かけ倒しも芸のうち』/佐藤鬼房
  • 『春一番二番ふところ火の車』/小出秋光
  • 『春一番灯台守を眠らせず』/吉年虹ニ
  • 『山峡に星を片寄せ春一番』/戸恒東人
  • 『春一番鞄の軽き日なりけり』/藺草慶子

こうしてみると、水原秋桜子や阿波野青畝といった19世紀生まれの俳人も、亡くなったのは1980~90年代ですから、やはり昭和の後半に定着してからの作句例が中心だというのは間違いなさそうです。

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そして、どうしても『春一番』というと春の明るい陽気を感じる作品が浮かびがちですが、実際に春に

今日、○○では『春一番』が……

などとニュースで読まれる日の映像を見ると、街行く人が強風に煽られる姿(横断歩道をコートを抑えて歩く人など)が良く映されています。もし外に出る機会があれば、『春一番』というより『春の嵐』と風の強さから感じるかも知れません。

『春一番』の江戸時代の防災の意味合いの言葉は、昭和の後半にはキャンディーズによって長閑な風の印象が半ば上書きされ今に至っています。貴方はどちらの立場から季語『春一番』に向き合いますか? ぜひコメント欄にお寄せ下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう。Rxでした。

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