【はじめに】
この記事では(『夏井いつきの一句一遊』で2023年10月29日に兼題として出題された)「帰り花」という季語について紹介していきます。
Wikipediaに学ぶ「帰り花」
帰り花(かえりばな)とは、11月頃の小春日和に、桜、梅、梨、躑躅などの草木が本来の季節とは異なって咲かせた花のこと。ひとが忘れた頃に咲くので、「忘れ花」といった言い方もされる。「返り花」とも書き、「二度咲」「狂い咲」ともいう。
また、帰り花には、遊女が再び遊郭に勤めに出る意味もある。
帰り花
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
上の記事に前提知識の補足を入れておきますと、「小春日和」というのは俳句では冬の季語に分類されていて、「帰り花」も同様に初冬の季語です。
ここでいう「冬」とは、立冬を迎えた後の期間を指すもので、現在の暦でいう「11月中旬以降」ぐらいを指すものと見られます。
意味をかなり雑に取り扱えば、『本来の時期とは違った時期に花が咲く』ことを指しますが、より解像度を上げると、いわゆる『冬が始まったのに、季節が逆戻りしたような陽気となった(が続いた)ことで、植物が本来の時期じゃないのに咲いた』様子を表すのだと思います。
ネットなどで「帰り花」や「狂い咲き」と調べると、その多くが『桜の花』を指しているようです。 また、俳句の世界で「花」といえば、『花吹雪』などに代表されるように『桜の花』を指すことも影響しているのでしょうが、『帰り花』などの季語は、ウィキペディアにもあるように、『桜の花』が代表格であるものの、『桜の花』以外にも使える季語と解釈するのが一般的なようです。
俳句歳時記などにみる「帰り花」の例句
俳句における帰り花 [編集]
( 同上 )
俳句では冬の季語の一つとなっている。和歌や連歌には詠題としてはないが、俳諧に到って盛んに作られるようになり、「凩に匂ひやつけし帰花」(松尾芭蕉『後の旅』)、「かへり花暁の月にちりつくす」(与謝蕪村『夜半叟句集』)、「あたら日のついと入りけり帰り花」(小林一茶『享和句帖』)などの例が見られる。
「帰り花」という季語の歴史は、俳諧の時代以降に始まるようで、和歌・連歌の時代には遡らないとする歳時記が多いようです。反対にいえば、ウィキペディアにも掲句されているように、江戸時代の名俳人たちも詠んできたようで、300年ほどの歴史は遡れそうです。
- 『何の木ととふまでもなし帰り花』/来山
- 『汗拭いて米搗く僧や帰り花』/蓼太
- 『二三日ちらでゐにけりかへり花』/太祇
以上のように、江戸の三大俳人以外によってもそれなりの数が詠まれてきています。そして、もう少し時代が下ると、以下のような句も出てきます。
- 『日に消えて又現れぬ帰り花』/高浜虚子
- 『真青な葉も二三枚返り花』/高野素十
- 『返り咲くつゝじわが家にこの家に』/高濱年尾
- 『返り花まばゆき方にありにけり』/軽部烏帽子
- 『返り花三年教へし書にはさむ』/中村草田男
- 『返り花咲けば小さな山のこゑ』/飯田龍太
- 『帰り花空は風音もて応ふ』/廣瀬直人
- 『石油基地見えたんぽぽの返り花』/山本洋子
- 『返り花海近ければ海の色』/九鬼あきゑ
- 『祭神は兵士十万帰り花』/林十九楼
他にも取り上げたい佳作が山程ありました。ぜひ俳句歳時記を引いてみて下さい。たくさんの例句のある歳時記を当たってみると更に楽しそうですよー
(参考)気象にみる「帰り花」
「お天気歳時記」と銘打った企画ですので、少し気象の面についても考えてみようと思います。例えば『Yahoo! ニュース』で “狂い咲き”と検索すると、ウェザーニュースの記事に繋がりました。こちら。
2018年の台風というと大阪湾周辺に大きな爪痕を残した9月上旬の「台風第21号」が印象的ですが、その半月後に日本列島を襲った「台風第24号」では、街路樹をはじめとする植物への影響が各地で見られたことを記憶しています。
塩分を保ったまま海水を上昇気流でたたえ、それを日本列島に塩分を含んだまま降らせ、土中に染み込ませた影響は大きく、樹木を根こそぎ倒してしまうといった事例もありましたが、「季節外れの開花」が各地で見られたのも、一種の『帰り花』かと思います。
俳句歳時記では「小春日和」と絡めている関係で冬の季語となっていますが、X(旧Twitter)などのポストを見る限り、秋も中盤以降となると散発的に全国のところどころで『帰り花』の事例が見られ、有名な地点だとローカルニュースとなることもあるようです。 ※むしろ思ったよりもありふれた出来事であり、異常現象だと騒ぐほどではないことが窺えます。
2018年10月の気温推移を振り返る
ウェザーニュースの記事が書かれた2018年10月(アンケート期間:10/12~14)の中旬の最高・最低気温を表にしてみました。台風第21号の被災地を代表して「大阪」と、24号が通過した鹿児島・東京をピックアップしてみています。
10月 | 鹿児島 | 大阪 | 東京 |
---|---|---|---|
10日 | 26.2 20.3 | 23.3 19.5 | 26.2 20.3 |
11日 | 20.4 15.1 | 20.5 17.5 | 20.4 15.1 |
12日 | 21.1 14.2 | 21.6 15.5 | 21.1 14.2 |
13日 | 23.7 12.1 | 24.3 13.2 | 23.7 12.1 |
14日 | 23.1 15.6 | 25.2 17.1 | 23.1 15.6 |
(出典)気象庁 ホーム > 各種データ・資料 > 過去の気象データ検索 > 日ごとの値
10月10日は最低気温が20℃前後、夏日近く「残暑」が続いていました。しかし11日になると曇~雨が優勢となり、12~13日にかけて最低気温も低下。鹿児島でも最低気温12℃という秋本番の寒さを迎えます。しかし、13日の日中は気温が戻り、夏日一歩手前、そして14日は最低気温も切り上がり、大阪では再び夏日が戻ってきています。
この年は塩害による異常現象の面もあったかとは思いますが、アンケートを取ったタイミングはちょうど、ソメイヨシノが『春の訪れ』と誤ることも理解できなくはない温度推移のようにも感じます。
ここ最近の立冬の後の最高気温を振り返る
各年の11月7日以降の「東京」での最高気温について試しにまとめてみました。
年月日 | 最高気温 | 風向 |
---|---|---|
15/11/17 | 23.7℃ | 北西 |
16/11/20 | 20.4℃ | 西北西 |
17/11/11 | 20.7℃ | 南南西 |
18/11/10 | 22.8℃ | 東南東 |
19/11/14 | 22.3℃ | 南 |
20/11/19 | 24.9℃ | 南 |
21/11/08 | 21.5℃ | 東 |
22/11/13 | 24.1℃ | 南南西 |
小春日和の傍題に「小六月」というものがあります。まるで6月のような暑い陽気になることです。現代の6月は真夏日も珍しくないように感じますが、古来の夏を思えば、この20℃から夏日一歩手前ぐらいのこの辺りが本来の「小六月」だったのかも知れません。
その日の最大風速の風向も参考に載せましたが、やはり夏日近くなる時は南からの暖かな風が吹き込むことで、季節外れの暖かさと報じられるような天候になるのだと思います。そこは人間も植物も同じなのだろうと推察できますね。
『帰り花』には様々な傍題があります。大判の俳句歳時記であれば特にバリエーション豊かな表現が掲載をされているでしょう。ただ、『夏井いつきの一句一遊』に関しては、基本的に兼題となっている主たる季語に真っ向勝負をして欲しいと考えているようですので、よく俳句歳時記を読んで、作句に努めていただければと思います。
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