【夏・天文】季語「やませ(山背/山瀬風)」

【はじめに】
この記事では、夏の天文の季語である『やませ』について、ウィキペディアの記載や歳時記に掲載されている例句を纏めていきます。

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ウィキペディアで学ぶ「やませ」

やませ=偏東風(山背)とは、北日本の(主に東北地方)太平洋側で春から夏(6月から8月)に吹く冷たく湿った東よりの風のこと。

寒流親潮の上を吹き渡ってくるため冷たく、水稲を中心に農産物の生育と経済活動に大きな影響を与える。やませが続いた場合、太平洋側沿岸地域では最高気温が20℃程度を越えない日が続く。

下層雲のほか、しばしば小雨霧雨を伴うことが多く、日照不足と低温による水稲の作柄不良(冷害)を招く。気象学においては、山を越えて吹いてくるフェーン現象の性質を有する乾燥した風を意味し北日本の太平洋側に吹く風とは異なっていた。

やませ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

語源

語源は定かでは無い。卜藏・平野(2003)によれば公的な文書(官報)に初めて登場したのは1907年4月で盛岡高等農林学校の関豊太郞による片仮名書きの「ヤマセ」とされている。

また、堀口(1983)は、気象に関する書籍への登場は、気象学者である岡田武松明治41年(1908年)発刊の気象学講話が最初としている。岡田武松はその解説の中で漢字の「山背」は、函館地域を例にしたもので3月に吹く冷涼・乾燥した東風のこと、東北地方の湿った冷風は片仮名の「ヤマセ」とし表記を区別している。また、坂倉源次郎著の『北海随筆』(1739年)にも、「所(三厩)にて東風をやませと云」と書きとめられている。

( 同上 )

発生

発生メカニズムの詳細解明は、気象衛星による観測技術の登場までを要した。

ヤマセ発生時は約1500mまでの低層大気は低温であるが1500mよりも高い空気は高温であるため、冷涼な空気は脊梁山脈(奥羽山脈など)を越えられず滞留するため低温傾向が継続する。やませによって夏季の気温が上がらない地域では、ケッペンの気候区分において西岸海洋性気候(Cfb)に属する地点も存在する。逆にやませの低層大気は山脈に遮られるため日本海側に脊梁山脈から吹き下ろす風は、フェーン現象による日照時間の増大と気温上昇をもたらす。

歴史上も出羽は豊作、陸奥は凶作という場合もあり、秋田民謡生保内節では、東風は宝風として唄われている。但し、脊梁山脈が低い箇所は冷涼な空気が吹き抜けるため、日本海側でも水稲作柄の悪化が生じる地域もある。

( 同上 )

農業への影響

やませが吹き付ける範囲を「影響範囲」とすると、北海道の影響範囲では元々稲作をおこなわず、酪農などの牛馬の牧畜や畑作がなされており、やませが長く吹き付けても農業への影響は少ない。青森県の太平洋側(南部地方など)から三陸海岸の影響範囲も畑作牧畜が中心で、北海道と同様にやませの影響は折込済みである。また、関東地方の太平洋岸の影響範囲も畑作・牧畜中心であり、且つ、やませが到達する回数自体が少ないので、「冷害」とはなりづらい。影響範囲で最もやませの影響を受けるのは、温暖湿潤気候(Cfa)に属し稲作地である岩手県の北上盆地・宮城県の仙台平野・福島県の浜通り北部である。青森県の津軽平野や福島県中通りも影響を受ける場合がある。

現代の東北地方のの栽培方法は、春季はビニールハウスなどで育苗し、気温が上がると露地栽培が可能となるため晩春に田植えをし、夏季の高温を利用して収量を確保する。夏の盛りは、現在の東北地方における稲の出穂・開花時期に該当するが、この時期にやませが長く吹き付けて日照時間減少と気温低下が起きると、収量が激減して「冷害」となる。

江戸時代はが産業の中心であったこと、江戸時代を通じて寒冷な気候であったこと、また、現在ほど品種改良が進んでいなかったことなどのため、盛岡藩仙台藩を中心に、やませの長期化が東北地方の太平洋側に凶作を引き起こした。凶作は東北地方での飢饉を発生させたのみならず、三都での米価の上昇を引き起こし、打ちこわしが発生するなど経済が混乱した。
戦後は冷害に強い品種がつくられ、さらには海外からの安価な小麦の大量輸入によるパン食の普及もあって、飢饉に至ることはなくなった。しかし、高度経済成長期からバブル期にかけて、消費者が食味・品質を追求する傾向が強まったため、生産地において、ブランド米志向が顕在化し、冷害時に頻発するいもち病に弱いが味のいい品種が集中栽培される傾向が進んだため、「1993年米騒動」が発生した。その後はその反省からササニシキやコシヒカリの栽培はすたれ、いもち病耐性を持つひとめぼれコシヒカリBLの栽培が広まった。

一方、稲作に拘らず冷涼であることを利用し、リンドウなどの花卉レタスキャベツ等の高温を好まない作物や根菜類の栽培も行われている。

( 同上 )

気象データにみる「冷夏」と社会情勢

ここから参考までに、気象庁・気象官署の観測データに基づいて東北地方(太平洋側)の「冷夏」を、軽く振り返っていきたいと思います。

明治時代から130年以上の観測歴がある「宮古」と「石巻」の2地点の7~8月の気温データを画像で引用していきたいと思います(出典:気象庁 ホーム >各種データ・資料 > 過去の気象データ検索 > 観測史上1~10位の値)

7月:宮古(岩手県)

7月:石巻(宮城県)

8月:宮古(岩手県)

8月:石巻(宮城県)

7月には1桁気温を観測したこともある(宮古では昭和51年に4℃台!?)し、最高気温20℃未満は平成になってからも記録されています。そして、以上の表について8月の値をもう少し実情と纏めてみると

宮古(岩手)石巻(宮城)Wikipediaの記載
1902年最高16.0℃最高18.0℃
最低12.8℃
北海道東北地方
冷夏に見舞われ大凶作
1905年最高17.1℃最高18.1℃東北地方冷夏に見舞われ大凶作
1910年最低10.0℃最低12.7℃明治43年の大水害
1913年最高17.1℃
最低9.8℃

最低13.0℃
東北地方冷夏に見舞われ大凶作
秋の収穫が十分に得られずに飢饉
1934年最高18.3℃記録的な大凶作
1953年最低10.8℃最低13.0℃異常気象により稲作が
1934年以来の凶作となった
1976年最高18.5℃9月も顕著な低温で長雨の傾向が続き、
全国的に農作物の不作に見舞われた。
1977年最低10.9℃
1993年最高15.3℃
平均19.3℃

平均21.0℃
この年は記録的な冷夏により、
1993年米騒動といわれる米不足に。
2009年最高16.9℃最高18.5℃冷夏のイメージをもつ人が少なくない。
「久しぶりの涼しい夏」
「近年では稀な凌ぎやすい夏」
2021年最高17.0℃最高19.2℃

収穫にとって大事な8月に最高気温が20℃未満、最低気温が10℃そこそこになってくるようになると、それこそ現代風に言えば「(記録的な)冷夏」となり、社会の教科書で取り上げられるような事態になることも含めて凶作や冷夏の年となります。

もちろんこれら全てが「やませ」を伴っているとも限りませんが、並の台風や高/低気圧にはここまでの記録的な低温にならないことも事実でしょう。上に示した値の多くは8月後半に記録されたものですが、月平均が低い年(直近で1993年)などは、タイ米が食卓に並んだあの1993年の不作の年です。

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こうしてみると、角川俳句大歳時記に『餓死風』や『凶作風』と書かれている異名も、あながち大げさではないことが見て取れると思います。

俳句歳時記にみる「やませ」の例句10句

もちろん「やませ」がそこまで悪化せず、農作物に影響を及ぼさなければ結果オーライかも知れませんし、実際に「やませ」が実害を及ぼすようになれば非常にシビアな社会情勢となることは想像にかたくありません。

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ただ、「『やませ』が来そう」だったり、「『やませ』が去ったが、農作物が凶作となるかが現時点では分からない」といった状況を詠んだ作品について、その温度感は微妙なものとなっていきます。以下の例句をリアリティをもって読み進めて頂ければと思います。

  • 『馬の眸を蒼しと思ふやませかな』/高千夏子
  • 『山瀬吹くな吹くなと祭太鼓かな』/鈴木鷹夫

下のブロックに来ると、「やませ」が実際に来ている状況となってきています。

  • 『丘越えて南部風土記のやませ来る』/郡川宏一
  • 『草原や何を病ませに山背来る』/小沢克己
  • 『山背いま竜飛の宿の屋根鳴らす』/桑田陽子
  • 『やませ続く鉛筆舐めて農日記』/桜庭梵子

そして、実際に植物(農作物)に実害が訪れてきた場合の句としてご紹介しましょう。

  • 『丈低き麦に南部の青やませ』/木附沢麦青
  • 『岬の馬やませの草を喰みにけり』/安部元気
  • 『減反に追ひうちやませ続きをり』/菊地のぼる
  • 『やませの根 村は無口になるばかり』/新谷ひろし

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