「セントサイモンの悲劇」をサンデー・ディープで書いてみた

【はじめに】
この記事では、今から100年あまり前に起きたイギリスでの「セントサイモンの悲劇」について検索される方が多いことを受け、わかりやすいよう日本のサンデーサイレンスやディープインパクト(そしてノーザンテースト)という身近な例を交えつつ、雑ではありますが考察していきたく思います。

Wikipediaとニコニコ大百科にみる「セントサイモンの悲劇」

ご好評いただいている上の記事はWikipediaをメインに書きましたが、「セントサイモン」の記事には『セントサイモンの悲劇』についてこの程度の記載しかなく、思ったよりかは分量が少ない印象です。

セントサイモン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

実際のところ、理屈が完全に判明した訳でもないですし、血統に疑問があるという部分もあります。Wikipediaとしてはあまり深入りしないスタンスだということなのでしょう。

対して、「セントサイモン」を語る上でこの『悲劇』をかなり重要視して内容も充実しているのが、「ニコニコ大百科」の当該記事です。

セントサイモン
出典:「ニコニコ大百科」

今回の記事では、上記記事の内容を踏まえつつ、もう少し現代日本人にもとっつきやすい様に、具体的に「サンデーサイレンス(及びディープインパクト)」を例にとってどういった状況だったのかを雑にではありますが見ていきたいと思います。

セントサイモンの話題を現代日本とざっくり比較してみる

まずは本題に入る前に基本情報をおさらいしておきましょう。改めてこうしてみると、セントサイモンとサンデーサイレンスはどちらもその国において一時代を築いた名種牡馬だったことが窺えます。

項目セントサイモンサンデーサイレンスディープインパクト
生年1881年1986年2002年
没年1908年(27歳)2002年(16歳)2019年(17歳)
生国イギリスアメリカ日本
父親ガロピンヘイローサンデーサイレンス
戦績10戦10勝14戦9勝14戦12勝
産駒
初出走
1889年
ランキング3位
1994年
ランキング44位
2010年
ランキング40位
LS1890-96、00-01
9回(歴代4位)
1995-2007
13回(歴代1位)
2012-2022※
11回(歴代2位)
BMS1903-07、16
6回(歴代1位)
2007-19
13回(歴代2位)
※1位 未獲得
クラシック
勝数
4+2+5+2+4
17勝(英国のみ)
3+7+3+6+4
23勝(日本のみ)
5+3+4+7+5
24勝(日本のみ)
産駒の
LS
3頭
セントフラスキン
パーシモン
デスモンド
3頭
アグネスタキオン
マンハッタンカフェ
ディープインパクト
(該当なし)

主な初年度産駒

それぞれのウィキペディアから「初年度産駒」をリストアップしていきましょう。

  • セントサイモン:1887年産
    • セントサーフ (St.Serf)
    • メモワール (Memoir) – オークス – セントレジャーステークス、ジュライカップ
    • セモリナ (Semolina) – 1000ギニー
    • シニョリーナ (Signorina) – ミドルパークステークス、オークス3着 – シニョリネッタ、シニョリーノの母

ディープインパクトの初年度産駒がマイラーっぽかったのは印象深いところですが、こうしてみると、サンデーサイレンスの充実ぶりが目に付きます。当時唯一だった2歳牡馬チャンピオンを輩出し、その翌年の春2冠×2のうち3レースを制していましたから。

世代別「クラシック」の寡占度

年度というか世代ごとの産駒のクラシックでの勝利度合いを以下の表にまとめてみました。左から5冠の頭文字が並んでいて、一番右の丸数字が「5冠中の勝利数」です。

年度セントSサンデーディープ
初年度1 オ セ ③ 皐オダ  ③桜     ①
2年目 皐  菊 ②桜 オダ  ③
3年目1 オ セ ③桜  ダ  ②
4年目  オ   ①   ダ  ①桜     ①
5年目1 オ   ②   ダ  ①  オ   ①
6年目桜皐 ダ菊 ④ 皐オダ菊 ④
7年目 2 ダセ ③ 皐  菊 ② 皐    ①
8年目   ダ菊 ②
9年目桜皐オダ  ④桜 オダ菊 ④
10年目桜皐オ   ③ 皐 ダ菊 ③
11年目12オダセ ⑤ 皐 ダ菊 ③   ダ  ①
12年目    菊 ①
42524 ⑰37364 ㉓53475 ㉔
  • セントサイモンの直の産駒では、1897年産(11年目)に19世紀最後の三冠馬となるダイヤモンドジュビリーを始め、牡牝5冠を独占しています。一方で、27歳まで生きたにも拘わらず、12年目以降は世代交代が進んだこともあってクラシックホースを輩出できず、孫以下に譲っています。
  • 対してサンデーサイレンスに関しては、チアズグレイスエアシャカールアグネスフライトといた1997年産や、スティルインラブネオユニヴァースを擁した2000年産など、2002年の早逝まで活躍馬を出し続けたことが印象的です。
  • ディープインパクトも似たような感じですが、特に注目すべきは全世代でクラシックホースを輩出し、一度も抜けがなかった点です。ディープインパクトにあたっては2010年代から晩年にかけて欧州の複数のクラシックホースを輩出する事態となっており、これは他の種牡馬では果たせなかった偉業です。

ニコニコ大百科に一つケチをつけるとすれば、

種牡馬入りしてからは産駒が走る走る。ノーザンダンサーもサンデーサイレンスも真っ青な大活躍を見せ、イギリスのリーディングサイアーに9回も輝き、産駒も種牡馬として大成功。一気にセントサイモン系を築き上げ、20世紀初頭にはイギリス重賞の半分以上をセントサイモン系が占めたとか。

セントサイモン(ニコニコ大百科より抜粋)

とありますが、直仔の大舞台での活躍ぶりを見る限りは『真っ青』なほどの寡占ぶりではなく、むしろ「サンデーサイレンス」の1990年代前半の衝撃や、「ディープインパクト」の卒のなさは、国こそ違えど、その国におけるインパクトは大差なかったのではないかと思います。

『真っ青な大活躍を見せ』たのは、『イギリスのリーディングサイアーに9回も輝き』の後の部分に修飾するべきではないかと思います。そして、産駒の勝ち上がり率(ステークス勝ち率の高さ)は傑出のものがあり、そういった意味で当時の重賞級の寡占率が高かったことも影響しているのだと思います。それがその次以降の世代において「セントサイモン」の血が濃くなりすぎた一因だったろうと思います。

20年目まで:「孫」世代の時代

ここから、「孫」世代の活躍する初年度産駒から20年目(セントサイモンなら1909年、サンデーサイレンスなら2014年)までを見ていきます。赤字が孫によりクラシックを独占した年です。

年度セントS
初:1890年
サンデー
初:1995年
9年目-----桜皐オダ◎
10年目-----桜皐オ-◎
11年目12オダセ×皐◎ダ菊
12年目---◎◎◎---●
13年目◎◎◎◎◎◎---●
14年目◎●-●●●◎●◎-
15年目-◎-◎-◎◎◎◎◎
16年目-◎--◎-◎◎-●
17年目◎●◎-★D◎◎◎◎
18年目-★--●D◎DD◎
19年目--●●◎D●◎D★
20年目--◎--D◎◎◎◎

-:非血統、◎:父父、☆:父父父、△:父母父、●:母父、★:母父父、▲:母母父
D:ディープインパクト(◎と同じ印の扱い)

サンデーサイレンスは9年目、セントサイモンは11年目に直仔で5冠を独占していますが、その2年後には孫(+直仔)で再び独占を果たしています。サンデーでいうなら「オルフェーヴル」、セントサイモンでいうなら、パーシモン産駒のセプターが牝馬にして4冠を達成した年です。しかし、15年目を過ぎたあたりからトレンドが大きく変わってきます。

  • 日本では、ディープインパクトの直仔・アユサンの桜花賞制覇に始まる孫世代が次々にクラシックを独占し、サンデーの血がなければクラシックを勝てないといった時代が何年も続いていきます。
  • 対して、イギリスでは、13年目に独占があった後は独占どころか過半を占められない年も出てきていて、18年目には父系の直系子孫が全敗するなど、1900年代後半には衰退が顕著となります。

ちなみに、この頃は「-」となっている馬の中に、セントサイモンの父と血統書上はされるガロピンの血を含んだ馬が居たため、後述のように「ガロピン系」と捉えるともう少し割合が増えることとはなりますが、いずれの年も独占が続くといった状況にはなりません。

つまり、「セントサイモンの悲劇」よりも、サンデーの血を占める馬によるクラシック独占は日本の方がより比率が高く、濃度が濃いことが(日本でいう2000年代後半の段階で)窺えるのです。

21年目以降:「ひ孫」の世代

「ひ孫」がクラシックを制覇しだす17年目(セントサイモンでいう1906年)から30年目ぐらいまでを見ていきます。日本では19年目(2013年)にひ孫世代がクラシックを制し始めます。この表の下の方すなわち29年目が記事を書いたリアルタイムの2023年にあたり、30年目は未到来(2024年のこと)となります。

年度セントS
初:1890年
サンデー
初:1995年
17年目◎●◎-★D◎◎◎◎
18年目-★--●D◎DD◎
19年目--●●◎D●◎D★
20年目--◎--D◎◎◎◎
21年目◎-◎-△★●D●◎
22年目--●-◎☆DDDD
23年目--◎-△◎D--★
24年目-▲-◎-●☆●DD
25年目☆△☆◎-D★DDD
26年目-★★●★▲D▲DD
27年目◎★---▲★☆D△
28年目--*--△▲△◎D
29年目*★*★★△☆△★ 
30年目☆*-★★(未到来)

-:非血統、◎:父父、☆:父父父、△:父母父、●:母父、★:母父父、▲:母母父、*:4代以降
D:ディープインパクト(◎と同じ印の扱い)

セントサイモンに関しては、4代目までを含めてようやく29年目(1918年)に独占する年が出てきますが、それまでの15年間は5冠のうち幾つかのレースはセントサイモンの血を引かない馬が勝っていました。その前年の28年目(1917年)に至っては3代子までの勝ち馬はおらず、また26年目あたりからは父系ではなく母親を介してのクラシックホースばかりが目立つようになります。

1912年の種牡馬リーディングでは首位パーシモンを筆頭としてデスモンド、セントフラスキン、チョーサーウィリアムザサードの5頭が7位までにひしめいた。この頃イギリス国内で行われる重賞勝ち馬の半分までをセントサイモン系が占めるまでになったという。「セントサイモン系でなければサラブレッドではない」という言葉も使われた。

セントサイモンの悲劇 [編集]
しかし、この繁栄は長くは続かず1910年代半ばには衰退を始めた。1908年から1914年にかけ有力な種牡馬が相次いで死亡、その上残った種牡馬も輸出されたり失敗したりで活躍馬を出せなくなり、牡馬のクラシックホースは1914年のエプソムダービー優勝馬ダーバー(Durbar、フランス産)が最後となる。最終的に、産駒世代が17勝、その下の孫世代が27勝に達したセントサイモン系の英クラシック勝利数が、その下のひ孫世代では5勝に急減した。しかも5勝全てが牝馬(1000ギニー2勝、オークス3勝)に偏り、牡馬はついに0勝に終わった。

( 同上 )

対して、サンデーサイレンス系をみるとどうでしょう。改めて集計してみて驚かされたのですが、17年目(2010年産:アユサンが桜花賞を勝った年)以降、ディープインパクトなどの孫以下の世代が全てのレースを独占する年ばかりが目立ち、そのトレンドはディープが亡くなるまでほぼ維持されているのです。俗な言い方をしてしまえば、「サンデーサイレンスの血」を引かない馬はクラシックホースになれないといった状況なのです。(しかも現在進行系

手元集計で例外的にサンデーの血を引かずにクラシックを勝てた馬は2頭=23年目(2017年)世代。オークス馬【ソウルスターリング】、ダービー馬【レイデオロ】のみのようです。

そしてサンデーサイレンス時代の「サンデー直系」でない馬をみても、セントサイモン時代との共通項があって、母にサンデーサイレンスもしくは、ドゥラメンテ(アドマイヤグルーヴ)を介してサンデーの血を持つ馬は、父系が「キングカメハメハ」なことが多いという傾向です。

セントサイモンの頃に比べ「2×3,5」やら「3×3」といった濃いインブリードは減っていますが、日本でもサンデーのインブリードをできるだけ遠ざけようとした結果、サンデーの血を持たないキングカメハメハ系をかける配合の馬が顕著に活躍するようになってきています。

今(2020年代)は良いのですが、この仔の世代となった時に、新たな血を入れられないと、キンカメ、サンデー、ディープといった血で多重インブリードが多発してしまう恐れが無いかは21世紀初頭から危惧されていたところだったかと思います。

種牡馬ランキングTop10にみる寡占度

以下、サンデーサイレンスが初めてリーディングサイアーに輝いた1995年から、中央競馬の種牡馬ランキング(リーディングサイアー)のTop10をみていきます。

’95’00’05’10’15’20
サンデーササンデーササンデーサキングカメディープイディープイ
ノーザンテトニービンブライアンフジキセキキングカメロードカナ
ブライアンブライアンフジキセキシンボリクハーツクラハーツクラ
トニービンオペラハウダンスインクロフネダイワメジオルフェー
リアルシャアフリートサクラバクマンハッタステイゴーキングカメ
サクラユタフジキセキエンドスウアグネスタマンハッタルーラーシ
タマモクロジェイドロスペシャルスペシャルゼンノロブダイワメジ
アンバーシコマンダータイキシャサクラバクネオユニヴキズナ
ニホンピロノーザンテエルコンドネオユニヴクロフネエピファネ
10サッカーボダンシングアフリートジャングルゴールドアヘニーヒュ

赤色:サンデーサイレンス父系緑色:キングカメハメハ父系水色:サンデーサイレンス母父系

セントサイモンの項に下のような記載がありますが、適当に拾った2015年に至ってはTop10のうち8頭がサンデー父系という事態に。冷静に考えると、この頃のサンデーの寡占ぶりは驚かされる程でした。

1912年の種牡馬リーディングでは首位パーシモンを筆頭としてデスモンド、セントフラスキン、チョーサーウィリアムザサードの5頭が7位までにひしめいた。

( 同上 )

もう少し足元のトレンドを見るために、令和時代のランキングを年ごとに比較しましたので、どうぞ。

’15’19’20’21’22’23/8時点
ディープイディープイディープイディープイディープイロードカナ
キングカメハーツクラロードカナロードカナロードカナドゥラメン
ハーツクラロードカナハーツクラハーツクラハーツクラディープイ
ダイワメジステイゴーオルフェーキズナキズナキズナ
ステイゴールーラーシキングカメキングカメドゥラメンハーツクラ
マンハッタキングカメルーラーシエピファネキングカメモーリス
ゼンノロブダイワメジダイワメジルーラーシルーラーシキタサンブ
ネオユニヴハービンジキズナオルフェーモーリスハービンジ
クロフネゴールドアエピファネダイワメジエピファネルーラーシ
10ゴールドアオルフェーヘニーヒュヘニーヒュダイワメジヘニーヒュ

赤色:サンデーサイレンス父系緑色:キングカメハメハ父系水色:サンデーサイレンス母父系、 太字:サンデーサイレンスを上記以外で含む馬

まず目につくのは「サンデーサイレンス」を直系以外に含む馬の台頭です。まるでセントサイモンの1910年代を見ているかのようで、父系が上位独占した数年後に有力種牡馬が死亡し、少しずつ赤色の寡占が崩れ始めています。

2023年夏競馬時点ではディープインパクトがサイアーの連続記録を伸ばせるのかが微妙な状況で、ロードカナロアとドゥラメンテがディープを抑えています。ロードカナロアはキンカメ×Storm Cat産駒なのでサンデーサイレンス血統を持っていませんが、ドゥラメンテはアドマイヤグルーヴを介して母父がサンデーサイレンスなので、産駒にSSの血が入ってしまいます。

主戦場がマイル以下のロードカナロア産駒およびダートに強いヘニーヒューズ・ハービンジャーを除くと、芝のマイル超路線で活躍する種牡馬上位勢は全てサンデーサイレンスの血を引いていることになります。しかも既にその半数近くはサンデー父系ではなく母を介しての血量なのです。

未来は予測できないので、それに代わって

「セントサイモンの悲劇」を調べる方は、過去のエピソードとして知りたい方も多いでしょうが、実際に『日本競馬の未来』を憂いて調べる方も多いだろうと思います。

ただ、血統も競馬も詳しくない私が、まして「未来予測」なんて全く出来るはずがないので、それに代えて幾つか分析していきたく思います。

ガロピンをサンデーサイレンスの時間軸に置き換えると?

ここまでサンデーサイレンスと比較するのをセントサイモンとしてきましたが、ガロピンと比較しても面白いかなと思い、ここから歴史の軸を揃えてみようと思います。

項目ガロピンサンデー
サイレンス
(参考)
生年1872年1986年
ダービー優勝1875年1989年
種牡馬入り1876年1991年
産駒デビュー1879年 01994年 0
初クラシック1883年 ④1995年 ①
種牡馬初1位1888年 ⑨1995年 ①
初ダービー1889年 ⑩1995年 ①
仔牡馬初1位1890年 ⑪2008年 ⑭
最後のBMS1910年 ㉛2019年 ㉖初クラシックから約四半世紀後
ランキング寡占1912頃 332015頃 22初1位から約四半世紀後
直系滅亡1930頃 50上記から約20年後?

セントサイモンが誕生してから父の評価が増した晩成型のガロピン(セントサイモンと並列して活躍)とサンデーサイレンスの最後の名馬として後継の座を継承したディープインパクトでは微妙に時間軸が違いますが、ざっくりと纏めてみました。(↑)

歴史は繰り返すのか? 分からないけど同じ結末を辿るなら……?

産駒が十数世代経ったあたりで主に孫世代が活躍するようになり、母父ランキングのBMSでも首位を明け渡すのがおよそ産駒デビューから四半世紀後という感じです。そして、初ダービー・種牡馬1位から20年ほど経ったところで直系での種牡馬ランキングの寡占が極まります。

  • 1・2代目までは「直系」が圧倒的に活躍し、直系2代まででクラシックを寡占
  • 母親の血統にガロピンないしサンデーの血を含んだ馬が増え、直系の父親と交配をさせるとインブリードが濃くなるため、一旦非血統との交配が主流派に
  • その過程で直系が衰退し始め、今度は「3×4」ぐらいがクラシックを寡占
  • それらの子世代が「3×4×4×5」のような多重になって血量が多重化(この頃には直系である重要性が十分低まっているので直系が衰退)

こんな感じの流れを辿ったのだと思います。そうしてみると、平成の時代が第1段階であり、令和に入った現代(2020年代)はまさに2~3段階目に差し掛かっているように思います。血統表を見ていると「サンデーサイレンスの3×4」は珍しくなくなってきていますし、「キングカメハメハ父系 × サンデーサイレンス母父系」なども目立ちます。そうした意味でキングカメハメハの直仔が種牡馬ランキングで一時的に上位に来るのでしょう。

となるとです。ガロピン系がランキングを寡占してから直系が衰退するのに四半世紀もかからなかったことを思うと、単純に足し算すれば21世紀の中盤頃までに「サンデーサイレンス」の直系が衰退する可能性があるということになります。

本国で直系が衰退した後に、諸外国で父系が1世紀弱 残ったという伏線に、ディープインパクトの産駒が欧州や豪州で活躍していることが共通して(しまって)いることも興味深くはあります。ひょっとしたら、21世紀中盤で日本で衰退したサンデーの直系が、欧米等で花開く可能性も無くはないでしょう。

もちろん違うところも一杯ありそうだけど

ガロピンとサンデーサイレンスに、セントサイモンをディープインパクトに置き換えると、似通った部分は幾つか見えてきそうな感じですが、現実はそうとも限りません。

  • セントサイモンの産駒は、クラシック級の活躍馬は牝馬が多く種牡馬のサイアーラインが細かったが、サンデーサイレンス系はそこまでではない
  • 1908~14年にかけて主要種牡馬が相次いで死亡したような事例は今のところ起きていない
  • セントサイモンの父ガロピンが同じ英国内で種牡馬として活躍したのと比べて、サンデーサイレンスの血統は当時日本国内でメインではなかったため、サンデーより上の代での血統飽和の可能性が高くない
  • 日本では古くから(それこそノーザンテーストの時代)から「セントサイモンの悲劇」はある程度知られていたので、同じ轍を踏むまいという思想が生産サイドには根付いている可能性が高い
  • 3×3などの未来を見通さない濃いインブリードを乱発するような生産は少なく、そういった馬がクラシックを席巻するような事態も今のところ起きていない

こういった相違点もありますし、何より「セントサイモン」の血統表が血統書と異なるといった事例はまず考えにくいところです。1世紀を経て、血統書と違う馬が配合されていたなんて可能性は限りなくゼロに近づき、そういった事例が過去にあったとしても世代が遥かに遠ざかりました。

ただ、現時点で過去十数年で生まれたクラシックホースの大半が「サンデーの血を引いていて」、サンデーの血を一切引いていない馬が2頭とかしかいないことを考えると、遅かれ早かれ「セントサイモンの悲劇」みたいなことは程度は軽くても起こりうるのかも知れません。

ノーザンテーストは半世紀足らず。21世紀中盤の行方は?

ここで忘れてはならないのはサンデーサイレンスの前に日本競馬を席巻していた「ノーザンテースト」の存在でしょう。中央競馬では11年連続のリーディングサイアーとなった後、15年連続でブールドメアサイアーに輝きました。父サンデーサイレンス × 母父ノーザンテーストはありふれた血統でした。

ノーザンテーストは昭和50年代に種牡馬入りした訳ですが、その直系が2010年代にはほぼ途絶してしまいました。こちらも半世紀かからずです。
「ノーザンテースト」から15年ほど時代を遅れて日本に輸入された「サンデーサイレンス」ですから、早ければ2020年代の終わりにも直系が衰退を始め、21世紀の前半には直系が途絶に近づいている可能性もゼロでないという単純な見方もできなくありません。

となると、セントサイモンやノーザンテーストの事例から、悪いシナリオを敢えて考えるとこんな感じになるのでしょうか。種牡馬の勢力図から考えるシナリオ

  • 「サンデーサイレンスの3×4」や「ディープインパクトの3×3」、「ディープインパクト3×ブラックタイド4」などが当たり前になっていき、セントサイモンのように血量が飽和する
  • それと同時に「キングカメハメハ」もその相手として父母両方に血統が入り始め、サンデーとキンカメで複雑に血統が絡み合う牡馬牝馬が続出する
  • 血をリフレッシュさせるため、海外から全く血統の異なる種牡馬(および繁殖牝馬)が導入される
  • 「新たな血統の種牡馬」と「サンデーキンカメ多数な平成以降の日本血統を集約した牝馬」がアウトブリードないし「4×4」ぐらいの薄いクロスで誕生し始める
  • 同じ血統で「3×4(いわゆる奇跡の血量)」ぐらいで時代を変革するような活躍を見せる競走馬ないし種牡馬が誕生し、サンデーサイレンス直系が取って代わられる
  • 新たな種牡馬が今でいうディープインパクト、サンデーサイレンスがノーザンテースト的な存在に追いやられ、気づけばサンデー直系が滅亡の危機に瀕する(海外では地味に残る)

これが最短で行けば21世紀の前半といった感じです。きっと大事になってくるのは、直のサンデー直系にこだわる生産サイドがどれだけ日本(および世界)に残るかだと思います。そうでなければあっという間に淘汰されうる危険性を孕んでいるように、過去の事例からは思います。

おわりに:サンデーの直系、サンデーを持たない馬のクラシック率を注視

色々な表やシナリオを見せてきましたが、結局のところ未来はわかりません。しかし、今あらためて振り返ってみると「サンデーの血を持たない馬はここ十数年殆どクラシックを勝てていない」という事実に気付かされました。これは予想にも役立つかも知れません。

2023年の日本ダービーでは、
3番人気のファントムシーフ(皐月賞1番人気3着 → ダービー10着)や
後に札幌記念で2着となった10番人気のトップナイフ(ダービー14着)が該当します。

そして今や、サンデーサイレンスのクロスは珍しくなくなってきました。となると今後注目となってくるのはBMSを長期獲得したサンデーサイレンスの直仔(ディープインパクト系を含む)がどこまで父系を維持できるかということになります。

血統表にサンデーサイレンスの名があるのが当たり前になる反面、父系がどこまで繋がっているのかを意識すると案外そのウェイトが減ってきているかも知れないのです。

「セントサイモンの悲劇」自体は1世紀前の出来事であり、現代日本と20世紀イギリスでは環境も大きくことなりますが、例えば分数や人間の考え方・欲求・欲望は大して変わらないのかも知れません。 そうしてみたときに、直近で「ノーザンテースト」の直系がかなり衰退してしまった次の代の日本競馬で、「サンデーサイレンスないしディープインパクトの悲劇」が近づいているのかどうか。それを見るわかりやすい指標の一つにきっと「クラシック」での直系の比率があるのでしょう。

未来は分かりませんが、歴史で韻を踏む可能性があるとしたら、こういった予兆をしっかりと時々に捉え、「セントサイモンの悲劇」が目の前で着々と進行していないか、未来を予見できない我々、一競馬ファンにあっても意識していこうではないかと思います。2023年夏競馬時点では以上です。間違いも多々あろうかと思いますので、適宜コメントお待ちしております。

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