【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」で披露された千原ジュニアさんの傑作句を振り返っていきます。
一般参加者時代
俳句査定が始まって約半年の2014年5月に初挑戦した「千原ジュニア」さん。しかし初回は8位10点でした。1句目は『滝』という季語が立っておらず、どちらかというと川柳のような空気感でした。
4分10秒頃から「芸人が俳句を詠む難しさ」と、番組初期に「芸人」の性を出してスベる(失敗した)経験を語っておられます。
2016年上期:2回目の挑戦で初の才能アリ
しかし、2回目の挑戦で、千原ジュニアさんは初の才能アリを獲得しています。その俳句が、『大仏が見ているつつじを僕見てる』という作品でした。
まだ、『詠み手を信じていないから100%伝えようとしてしまう』芸人の性が出てしまっている部分はありますが、この遠近感を17音で描いている点は、後の名人の片鱗が窺えます。
2016年下期:初の才能1位は72点の高得点
初回から2回目の出演までに2年近く間があいたものの、2016年は下半期だけで4回出場することとなります。最初は得点も全く安定せず、10点→70点→60点→10点→45点 という推移でした。
そんな千原ジュニアさんが6回目となる年末の回で披露した句が、自身初の1位、そして72点という高得点となりました。その句が、『残業中窓下の聖樹灯が消える』というもの。夏井先生の添削では上五を『残業や』としていましたが、いずれにしても中七下五の緊張感ある調べが句全体の表現を鮮やかにしています。
ただ、ここで改めて注目すべき点の一つが、季語『聖樹(せいじゅ)』です。皆さんはご存知ですか? 俳句歳時記に詳しくない方はご存知ないかも知れませんが、いわゆる『クリスマスツリー』の事です。俳句によくある「外来語を音数の少ない漢語」にして使いやすくしたパターンの単語です。
皆さんが季語を知っているかどうか…… 微妙なラインな単語を、千原ジュニアさんは特待生になる前に使ってきたのです。ここが面白い点でして、どういった形かは分かりませんが、俳句歳時記に載っている俳句特有の表現『聖樹』を見つけて使う判断をされたのだと思います。
もともとご存知だったとしたら、その語彙に感服しますし、知らずに勉強していたのだとしたら本当に真面目(←本人は嫌がるかも知れませんが^^;)で実直なお方なのだなと感じます。どのタイミングで俳句に全力投球しないと「プレバト!! 的におもろない」と感じるようになったのか興味がありますね。
2017年上期:凡人2回→才能ナシ2回、才能アリ2回
2017年は上半期だけで6回出場し、最初の2回は凡人査定、そしてその後は「才能ナシ→アリ→アリ→ナシ」と初めての連続才能アリで「特待生候補」となったところで37点・才能ナシ最下位となるなど、あと一歩というところでした。それでも、好調だった時期の……(↓)
- (2017/5)『逆風を飲み込み昇る五月鯉』 →『山風を飲み込み昇る五月鯉』
- (2017/6)『五月雨を知る紙袋のビニール』→『紙袋にビニール五月雨と知る』
この上半期に披露された才能アリの句は、どちらも70点1位という高評価で、俳句の技巧的な部分での添削がなされましたが、着眼点や勢いみたいなものは高く評価されるようになり、句の内容もはっきりと「王道」気味で「底堅い」句柄になり始めた頃でした。
2017年下期:連続才能アリ! 750cc(ナナハン)で特待生昇格
そして、2017年下期になると、2回連続高得点での才能アリを叩き出し、過去に何度も才能ナシを経験していたものの、直近5回中4回「才能アリ」、しかも72→73点と高得点で成長著しいことを評価されて、挑戦14回、初挑戦から3年半にして念願の特待生昇格を果たします。2017年12月7日の事です。
特に自身最高点となる73点を獲得した『750cc(ナナハン)』の句は、初期の代表作となり、名人昇格を果たすまでの千原ジュニアさんの『代名詞』的存在となりました。
『750ccのタンクにしがみつく寒夜』
日常的に使っている俗な略語「ナナハン」という言葉を上五に置いたことによる「実体験」の強さが、リアリティーを高めています。これが「バイクのタンク」とした時と比べても、主人公である人物の年齢感などが窺えるような効果も出てきます。
そして後半の『しがみつく』という動詞にもリアリティーが増し、最後の『寒夜』という漢語の響きが非常に季語の鮮度を高めています。こうしてみると初期の才能アリの句は、漢語や固い表現がうまく効いていたのだなと感じました。
特待生時代
2018年上期:昇格も降格も現状維持もタイトル戦最下位も
2018年に特待生5級に昇格しますが、平場の頃と同様、好不調がはっきりとしていました。すなわち、『新春SP才能アリ1位 → 冬麗戦8位 → 昇格 → 昇格 → 降格 → 俳桜戦8位 → 現状維持』と、タイトル戦の本戦では最下位に沈み、通常回では「昇格」も「降格」も「現状維持」も記録していました。
この頃までは、『ナナハンを読ませたら怖い』というのが、半分ネタとして笑っていられた時期です。
2018年下期:特待生ながらタイトル戦で次々と善戦
2018年下期は通常回で昇格1回・現状維持が4回で、特待生3級への昇格のみにとどまりますが、他の査定でもみられるように「タイトル戦で活躍する実力がつき、級位より実力が上」の状態となります。
- 金秋戦・予選2位『750ccのアクセル戻し紅葉踏む』
- 金秋戦・決勝3位『
御出席の葉書投函秋日和』 - 冬麗戦・予選2位『ヘビメタの担ぐギターと破魔矢かな』
特に個人的には、金秋戦で特待生ながら本戦3位となった『葉書投函』の作品での表記(↓)
千賀さんも仰っていましたが、これを使ってくることの「芸人としての度胸」に感服しました。目でも楽しませる工夫という点において、「芸人としての性」がタイトル戦の舞台で成功した事例だったという風に感じます。ここで千原さんのリミッターが解除されたかのように感じましたね。
ちなみに、この金秋戦前に特待生3級に昇格した時の句『舌先に鰡子の粒現れる』のように一物仕立ての手堅い作品に、夏井先生は驚いておられたのも印象的でした。
2019年上期:一つずつ学んで、名人への階段を一歩ずつ
2019年の年明けスペシャルの冬麗戦において『ヘビメタ×破魔矢』という奇抜な句で決勝進出を果たした千原ジュニアさんは、『皹に窓の結露を吸わせけり』という予選とは全く違った句柄をぶつけ、特待生で準優勝となる決勝2位となります。この出世には、芸人の名人たちも驚きを隠せない表情でした。
続く春光戦では6位となりますが、『ふらここを待つ我が子見つ飲むコーヒー』という句の添削例として登場した「吾子」や「子」といった省略の仕方を学んだジュニアさんは、
- (2019/5)『子の利き手左と知りて風光る』
- (2019/6)『甥っ子とおいっ子と子と夕虹と』
と、添削された内容をしっかりと覚えて、次に活かすという素直さを発揮しました。個人的には「子の利き手」の句が大好きです。「吾子」俳句は月並みになりがちですが、千原さんの句は違いますねぇ~
そして、『壺焼きの壺傾きてジュッと鳴る』という春光戦の予選を通過した句も、フジモン名人からは『壺・壺』言い過ぎちゃう? とイジられていましたが、上の「甥っ子」の句の「子」と同じで、畳み掛けることの効果を狙って作れているあたり、急成長ぶりを感じさせる時期でした。
2019年下期:吾子俳句で名人昇格!
そうした流れの中、特待生1級昇格から半年後の2019年11月、ついに悲願の名人昇格を果たします。
『パティシエに告げる吾子の名冬うらら』
2019年に培ってきた「吾子」俳句の決定版です。句に登場する人物は「パティシエ」と「吾子」の2人ではあるのですが、確実に「吾子の親」である主人公の姿が浮かんできます。何とも優しい光景です。最後の「冬麗」をカタい漢字表記とせず、「うらら」と平仮名にしたことの効果も感じられますね。
ここまでタイトル戦(本番)での強さが光ってきていた千原ジュニアさん。名人昇格を叶えるまでに、真面目に学び続け、その実力を高めてきたのだと感じました。
名人時代
2020年上期:顔面骨折で初の予選1位通過
この都市の春光戦の予選Bブロックで披露した作品『顔面骨折カニューレの接ぐ春の朝』は、ジュニアさんの事故系の句の中でも圧倒的な破壊力(パワー)を持っていました。予選にも大変強いジュニアさんにとっては意外ともいえる初の予選1位通過を果たしました。
特待生の頃までは、タイトル戦に滅法強かった千原ジュニアさんですが、名人に昇格した頃から通常回と強さが逆転します。2020年は夏までの決勝3回とも7位でなり、予選に回る事を余儀なくされます。
2020年下期:吾子俳句で、ついにタイトル戦初優勝!
2020年・金秋戦の予選を兄・千原せいじさんの物悲しい句で2位通過した千原ジュニアさん。決勝では今までの吾子俳句とは違ったアプローチのこんな句を詠み、悲願のタイトル戦・初優勝を果たします!
『痙攣の吾子の吐物に林檎の香』
確かに、梅沢永世名人のおっしゃる通り、「食べ物俳句なのに全然おいしそうじゃない」という指摘もありはしますが、これは月並みな季語・林檎の句にはないパワーをもっています。子どもと林檎を取り合わせる時には平仮名などにするのが鉄板ですが、この句の内容からして「痙攣」も「吐物」も、大人が感じる切迫感を漢語の響きに載せています。
2021年上期:4連続高評価(準優勝+名人5段へ)
タイトル保持者となった千原ジュニアさんは、冬麗戦は7位となりますが、前年から続く通常回の連勝記録を伸ばしていきます。春光戦・決勝2位と合わせて上半期は4連続高評価という快進撃でした。
- (2021/1)3→4段『自画像に手鏡も描く春隣』
- (2021/3)4→5段『銭湯の脱衣所小銭無き春よ』
- (2021/3)春光2位『サザエさんに後出しあいこ吾子の春』
- (2021/5)5→6段『とぅるとぅるの求肥に透けている苺』
すべてどこか「実体験」が含まれているからか、オリジナリティーとリアリティーに溢れていて、他の人には生み出せない句の世界観に溢れています。
これらの句はすべて、永世名人を目指すこととなった暁には、「句集」に収録する候補としても良いような作品だという風に感じています。『半生』を描くような第一句集になりそうな気がしてきますね。
2021年下期:驚異の番組記録=6連続昇格
2020年9月に名人初段から2段に昇格して以来、2021年にかけて、通常回での「昇格」査定が続き、気づけば驚異の番組記録となる「6連続昇格」という偉業を成し遂げます。
ある種、特待生の時代にタイトル戦で発揮した実力を思うと、一時期の水彩画査定などであった様に、実力と段位が見合っていない状態にあったのが、ようやく追いついてきたという感じでしょうか。
名人6→7段『手花火の火に手花火と手花火を』
2021年8月に披露された上の句については、好みが分かれそうという意見も同意しますが、個人的には好きでした。『手花火』という季語=物だけで手花火を持つ複数名の賑やかさが感じ取れるからです。かつてあった「壺焼の壺」だったり「甥っ子と子と」のノウハウがしっかりと反映された傑作でした。
2022年上期:名人10段に到達!
前年から続く快進撃、個人的に刺さったのが「家族」を詠んだ句たちです。具体的に列挙すれば、
こうして、祖父母との思い出だったり、白杖というモノで人物を想像させたりだったり。個人的には、上2句は千原さんの句の中でも上位に入りますし、将来『句集』が出来た時には掲載して欲しいです。
そして、2022年5月26日の放送回で、番組史上5人目の「名人10段」に昇格を果たします。一昨年(2020年)の炎帝戦の予選を1位通過した『亡き猫に病院からの夏見舞』を連想するペット句です。
『帰省して貼られたままの(犬)シール』
過去の10段昇格句と比べて手堅い感じもしますが、逆に飛び道具に頼らない技術を手に入れた千原ジュニア名人の「真面目」さが伝わる句であり、ここからのさらなるハイレベルな査定にも耐えうる世界観を期待できるという評価のもとの10段昇格だったと感じました。
To Be Continued…
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