【プレバト!! 俳人列伝】村上健志・永世名人

【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」で披露された「村上健志」さんの傑作句を振り返っていきます。

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一般参加者時代:僅か2回で特待生のスーパールーキー

日本語版ウィキペディアに以上のようにある通り、元々は「短歌」を専門に作っていました。そうした中で、俳句査定が注目され始めていた2016年秋、「プレバト!!」俳句査定に初出場を果たします。

【コラボ】ジュニア感動!フルポン村上と俳句

1回目:(2016/09/29)75点『コスモスや女子を名字でよぶ男子』

2016年9月29日、俳句査定に初挑戦した村上さんは、俳句での実力が半信半疑、半分「噛ませ犬」的な立ち位置だったかと思います。

『コスモスや女子を名字でよぶ男子』

しかし、『才能アリ1位75点』という高得点で披露された句は、短歌らしさを内包した『俳句』で、切れ字の力や平仮名書き(よぶ)の効果等をしっかりと掴んでいます。

この句の「女子」と「男子」という言葉から来る世代感と距離感。そして、それに合わせる季語が他の花(植物)でなく『コスモス』なところの取り合わせのセンスも初回から抜群だったと思います。

2回目:(2016/11/24)78点『テーブルに君の丸みのマスクかな』

初挑戦75点から2か月後、2度目の挑戦を迎えます。特待生制度発足当初は、俳句査定でも他の査定と同じように1回で昇格することもありましたが、この頃には「3回連続才能アリ」が一つの昇進の目安と見做されていました。なので当然、初回の高得点が(視聴者や共演者からは)半信半疑であるため、まさか2回の挑戦で特待生昇格を果たすとは、句をみるまでは夢にも思っていませんでした。

しかし、披露された句は、『コロナ禍』が訪れる直前、まだ「冬の季語」としての力を持っていた頃の「マスク」の現代句として、私は俳句歳時記に載る日が来るのではないかと考えるほどの名句です。

『テーブルに君の丸みのマスクかな』

「テーブルに君のマスク」というのが文法的に言えば基本構造かと思うのですが、そこに『丸みの』という修飾が入ることで、主人公の男性が『君』と呼ぶ女性との関係性に想像の余地が広がります。

そして下五で季語「マスク」に達し、それを『かな』という切れ字が余韻深く受け止めているのです。この『かな』という切れ字がうまく効いています。こうした2回で2種類の「切れ字」を使ってきましたが、そもそも短歌では使用頻度が少ないはずのものであり、「短歌」の延長ではなくて、「俳句」という17音の器の勘所を掴んでいました。

結果発表後、『この人は本物です。本物の詩人です』と夏井先生に絶賛され、僅か2回での特待生昇格を果たしましたが、これには本人も驚きの表情を隠しきれませんでした。

特待生時代:初の2ランク昇格、名人昇格も史上最速

「プレバト!!」の俳句査定が現行基準となって「初めて2回での特待生昇格」を果たし、自らスーパールーキーを自称するようになった村上さん。特待生から名人への昇格スピードも、史上最速級でした。

5→3級(2017/01/05)『初日記とめはねに差すひかりかな』

タイトル戦が始まる直前、2017年の年明け一発目の新春SPは、名人・特待生を集めた「一斉査定」。級位の低い順に俳句が紹介されるため、特待生初の村上さんが先陣を切ります。そこで披露したのが、

『初日記とめはねに差すひかりかな』

こちらの句で、「俳句査定」史上初の【2ランク昇格】を果たしたのです。特待生昇格を告げる前に、夏井先生が『他の特待生を蹴落とすかも知れない』と予言したとおり、ミッツ・マングローブさんなど先に特待生となった他の参加者を追い抜かす「5→3級」昇格となりました。

名人昇格(2017/09/21)『夜晴れにペリッと剥がせそうな月』

そして1ランク降格や炎帝戦9位を経てその年の秋には、特待生としての昇格査定8回目にして、何と名人昇格を決めるのです。それも特待生1級昇格までは(降格を1回挟みましたが)その他は全て昇格査定で、特待生1級での3度目の正直を決めたのが、こちらの句でした。

『夜晴れにペリッと剥がせそうな月』

夏井先生は、『夜を晴れて』と上五に添削が入りましたが、それでも『月』という三大季語に対する『一物仕立て』の姿勢が高く評価されて、僅か9か月、10回前後での名人昇格となりました。

名人時代:1年で8段昇格、翌年にはタイトル戦連覇

2018年:通常査定9回中7回昇格、名人初段→8段へ

2018年に名人として句を発表し始める村上さんですが、年内には何と「名人8段」にまで急速に出世をし、梅沢・東国原という名人10段を追う最有力候補となっていきます。

  • 初→2段『オルゴールのネジ巻く妊婦窓の雪』
  • 5→6段『八月の海を置き去るバイクかな』
  • 6→7段『作家別に揃え直して夜は長し』

などが個人的には好きです。(良くも悪くも)村上ワールドが全開となり始めた時期で、きっと当時の句を読めば、好きな句が人によって分かれる。そんな充実ぶりを見せていた頃だったと思います。どの句が『句集完成』時に収録されるのか楽しみです(^^

対して、『林道の朽ちし廃バス額の花』のように、教科書に(添削された句が題材として)掲載される句が生まれたのもこの時期でした。

2019年:『サイフォン』→『次頁の影』で史上2例目の連覇

2018年の金秋戦では自身最高位の準優勝を果たすも、自句解説を語ると夏井先生から『もう喋んなさんな。』と言われてしまい、消化不良に終わってしまいます。しかし、翌年度となる2019年度。梅沢名人と2人残されて迎えた「春光戦」で、タイトル戦初優勝を果たします。それがこちらの句でしたね。

『サイフォンに潰れる炎花の雨』
(↑)句の詳細は、上の記事をご参照ください。

そして、春の他流試合での敗戦を経て、名人10段への昇格を達成。そして、ディフェンディング・チャンピオンとして迎える炎帝戦で披露したのがこちらの句でした。

『行間に次頁の影夕立晴』

半径30cmの世界にある「影」を描いて、史上2人目の「タイトル戦 連覇」を達成。スーパールーキーがそのまま新時代のチャンピオンに上り詰めたことを印象付けた瞬間でした。

プレバト!!
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

特待生の人数が増え、ルールの多様化によって「連覇」が難しくなった現代において、連覇の直近例が村上名人というのも興味深いところかも知れません。そして、通常回でも、

  • 9→10段『記念樹の若葉へホース伸ばしけり』
  • ☆1前進『エルメスの騎士像翳りゆき驟雨』 【ベスト50・人選】
  • ☆2前進『八月の機内に点る読書灯』

など、傑作が次々と誕生して、さらなる充実期を迎えたのがこの頃でした。

名人10段時代:史上3人目の永世名人を目指す戦い

フジモンに続く史上4人目の名人10段に昇格した頃には、多くの特待生・名人をごぼう抜きしていて、まさに『他の特待生を蹴落とす』という予言の的中となる大出世を果たします。

2020年:教科書に続き「俳句歳時記」にも掲載決定!

2019年年末の冬麗戦予選を『抜型を重ねて仕事納めかな』という句で2位となった村上さん。本戦でも3位と名人10段としての意地を見せる戦いを見せます。そして、その時に披露した句、

『双六の駒にポン酢の蓋のあり』

が、原句のまま【石寒太】さんの俳句歳時記に例句として掲載されたのです。これは、「プレバト!!」の俳句特待生・名人としては史上初の快挙であると共に、「俳句歳時記 & 国語の教科書」両方に掲載された史上初のプレバト!! 俳人ともなりました。

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  • ☆2前進『観覧車の列に春ショールの教師』
  • 春光6位『ネーブルの君の爪痕から潤む』
  • 炎帝予選『二枚目はベランダで読む手紙かな』

など、その世界観に磨きがかかるような句が多い一方で、タイトル戦本戦での活躍からは遠ざかってしまいました。

2021年:☆3から☆1へ後退

2021年の冬麗戦は、例年より少し遅い1月14日の開催。この回で、女性として初優勝を果たした森口瑤子さんに敗れ準優勝となった村上さんが披露したのが、

『一月やゴム動力のプロペラ機』

という句で、同じ「◯月」という形で4音の季語との違いを区別して、「一月」を選ぶだけの季語への理解を評価されていました。名人10段昇格前には、「八月」という月の中でも最も難しい季語を巧みに使って昇格を果たしていたことも印象深いです。

その他にも炎帝戦3位となった『まだマシなTシャツを貸す夜の雷』など良い句がありましたが、季語のチョイスなどで後退査定を喰らい、2021年11月には「☆1」にまで下がってしまいます。

しかしそこから、通常査定で1つまた1つと「☆」を掴む句を発表していくこととなります。翌12月には『冴ゆる夜やショウウインドウに黄の鞄』ですぐに「☆2」まで復帰。寅年の2022年を迎えます。

2022年:番組3人目の永世名人へ!

冬麗戦は『寅の尾が迷路』の句が精度を欠き9位でしたが、春麗戦は『卒業や階段に階段の影』という村上名人お得意の句で堂々予選1位通過、そして決勝でも『控え選手のペンの減り』という非常に細かい所に着目して3位となります。

そして何より着目すべきは、☆1に落ちた所から通常査定3回連続「前進」で永世名人にリーチというところまでノンストップで進んだ点でしょう。

  1. → ☆2:12/16『冴ゆる夜やショウウインドウに黄の鞄』
  2. → ☆3:01/27『白鳥の波紋や御御籤をひらく』
  3. → ☆4:04/21『春の色絵本の並ぶ美容院』

☆1から☆4まで通常査定3回連続の前進は、半年足らずの間に達成されました。気づけば他の名人をごぼう抜きする形で、番組史上3人目の永世名人に王手となります。

そして、浜田さんが欠席で梅沢永世名人が代理MCを務めた5月には『中華鍋』の句で現状維持の査定となり、剥奪をされなかったことで、更に翌6月に繋がりました。そこで披露した作品が、

『夕立や楽譜にカンマ書き入れる』

まさに王道にして正攻法の「季語ある上五+取り合わせの12音」で、大変シンプルでムダがなく、村上さんが推敲でこだわり抜く『動詞』のチョイスも相俟って、番組史上3人目の「永世名人」に昇格します。☆1つまで後退したところから半年あまりでのスピード昇格。まさにスーパールーキーとして飛ぶ鳥を落とす勢いだった最初の頃を思い出す躍進でした。

☆「村上健志の俳句実況」1周年!(2021~2022年をまとめてみた)
https://note.com/yequalrx/n/na5c060c2ee1d

永世名人時代:

2022年:初掲載から5回連続での高評価

永世名人としての初査定から2回連続でボツとなり、永世名人として初のタイトル戦は炎帝戦15名出場でまさかの最下位(15位)で、情緒が不安定になった笑顔で結果発表のワンシーンカットを迎える姿は『永世名人の苦悩』を感じさせるものでした。

しかし、その翌週に放送された回で、『アシカのミリア』の句を披露し初掲載となると、通常回3連続の『掲載決定』と絶好調に。特に25句目の収録となった『ピザ窯の奥に小さき火朝寒し』は、フジモン名人の句と並んで海外の風を強く感じる作品となりました。

更に9月の2時間スペシャルで披露された「ふるさと戦」では、出身地・茨城県の霞ヶ浦(北浦橋梁)を通過する列車の句で『秋夕焼へ音失っていく列車』と詠んで梅沢名人を下して1位となり、観光ポスターに収録されるという形で故郷に錦を飾ることとなりました。

久々のタイトル戦優勝を目指した金秋戦では、『大谷の球大谷が打つ案山子』と詠み準優勝。そして、連勝を目指した通常査定では、『暖房や(間奏約30秒)』という見事な着眼点の句を披露しますが、『約』という所に真面目に拘ってしまったことが仇となり、夏以来のボツ査定となりました。

『暖房や(間奏30秒)』→『暖房が熱い(間奏30秒)』

To Be Continued…

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