【はじめに】
この記事では、春の時候の季語となっている「春」を、単独で使って「プレバト!!」で披露された作品を5つピックアップしました。
通常であれば「春の●●」という形になりがちな中で、情報も映像も少ない「春」という季語を単独で使って高評価を得た作品から、貴方の俳句づくりのヒントを掴んで頂ければと思います。早速どうぞ。
2019年:藤井隆さんの「タオル」の句
まずは、平成から令和へと移った2019年の春に詠まれた才能アリの句からです。過去には『6の次7の菜の花漕ぐペダル』という俳句で73点を獲得するなど春を得意としている藤井隆さんが詠んだのがこちらの作品でした。(↓)
1位72点『実家から持ち出すタオル選ぶ春』/藤井隆
「実家から持ち出す」と前半で言われれば不穏な空気が漂います。預金通帳か財布かの不良息子かと思ってしまいますが、「持ち出すタオル」と中七で一回落とします。意外性(ギャップ)のあるものを、中七で提示しておいて、下五で「タオル選ぶ春」と『種明かし』のような形を取っているのです。
動詞が複数ありますし、季語「春」は映像を持たないという点で難しいバランスの作品のはずなのですが、うまく纏まっていて、誤読もなく、分かりやすさも抜群。文句なしの才能アリ査定となりました。
正直こうした2音の季語というのは、『無理やり詰め込んじゃって残り2音分しかない』っていう時にも重宝する面は否定しません。私も良くその手を使ってしまいます(^^;
ただ「春」という季語に委ねるのはそう簡単ではなく、ひょっとすると選者に上のような過程を経たことが見透かされてしまうこともあるでしょう。藤井さんのように「春」を最後に置く形で成功するのは決して簡単ではなく寧ろ季語を信頼して託さねばならない点で注意が必要です。
2021年:永世名人・特待生が『春』の句を発表
そして、2021年には名人・特待生が披露しています。まずは、2月中旬の春光戦・予選で3位となった筒井真理子さんの作品です。
『海苔一帖等間隔に刻みて春』/筒井真理子
↓
『海苔刻む等間隔の音や春』
厳密にいえば「海苔(のり)」も季語ですが、ここは『 春 』という季語が他の情報を包み込むほどの大きさを持っていますから、そのバランス的な意味で主たる季語は『春』と見るべきでしょう。
添削後の句の方がメリハリがきいて、より『春』という季語が立っていますが、海苔を刻む音や動作の等間隔さに『春』を感じるという感性が何より素晴らしく思います。
そして、その翌月2021年3月4日には、おっちゃんが自力で『~~や春』という形を使って掲載決定を掴み取っています。
『トリミング終えて仔犬の腹や春』/梅沢富美男
おっちゃんから「トリミング」という上五が出るとは当時思いませんでしたが^^ そこから「終えて」と展開していき、後半で『仔犬の腹』と焦点を絞ることに成功します。そしてそれにとどまらず、最後に「仔犬の腹や春」と季語で空間を広げることで、15音の光景が『春』の一幕として温かなものとなりました。
これは、梅沢富美男さんが永世名人に昇格した時の作品『花束の出来る工程春深し』の時と同様、季語を信じて最後に配置するというのは難しいですが、懐の大きさを活かせると最高ですね。
2023年:勝村さんが「排水溝」の句を披露
そして、2023年2月には、同じ回で2度『春』を詠んだ作品が登場します。まずは、夏井門下生として俳筋力を付け直した勝村さんが、3位ながら特待生昇格を決めた作品です。
『つまずいて春を見つけた排水溝』/勝村政信
ここで数百、数千とある個別の「春の季語」ではなくて、『春』という大きな季語を使ってきたことが高評価に繋がったのだと思います。決してキレイとは限らない『排水溝』というものを取り合わせる一方で、生命と共に春の息吹を感じさせるのが見事でした。
そして、軽妙な語り口が『句柄』となりつつあった森口瑤子さんが、2段から3段に昇格したこの句も『春』という季語を口語に取り入れていて見事でした。
『覚えなき青痣きっと春のせい』/森口瑤子
季語部分に他の2音の季語を入れても成立はするのでしょうが、やはりここは『春』が良いですよね。
To Be Continued…
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