梅沢富美男『句集 一人十色』勝手に+α(その1) ~オリジナル作品編~

【はじめに】
この記事では、梅沢富美男さんの句集『一人十色』が発売されたことを記念しまして、私(Rx)が主観で勝手に+αをしていきたいと思います。

第1弾の今回は、『50句』でなくて『60句」ならば入っていたのではないかと思う梅沢富美男特別永世名人の傑作選です。添削された句も一部含まれていますが、梅沢さんのオリジナルで十分素晴らしくてぜひとも追加して余白に書きたくなるような作品をピックアップしています。

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これらの作品に勝るとも劣らない傑作が掲載された梅沢富美男さんの第一句集『一人十色』も、ぜひ皆さんお手にとって見てください!

平成時代(~名人9段)

①2014/03『頬紅き少女の髪に六つの花』

初挑戦で85点という高得点を獲得した梅沢富美男さんの初・才能アリ作品。もちろん出来という意味ではまだまだかも知れませんが、「俳人・梅沢富美男」の歴史を語る上では決して見逃すことのできない作品だと思います。

②2015/09『たいくつなコスモス風を揺すりけり』

通常回を9回連続才能アリで駆け抜けた梅沢富美男さんが、結果的に「特待生昇格」を決めた時の作品がこの『たいくつなコスモス風を揺すりけり』です。

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女性医師でもある「友利新」さんが『梅沢さんは井の中の蛙』だと言い切って、本当に梅沢さんを下す73点で才能アリ1位を獲得したこの回は、2015年の中でも屈指の名勝負だったと思います。

それでも、この梅沢さんの句も才能アリ2位72点ですから、「特待生昇格」を決めた1句として句集に載っていてもおかしくなかったと思います。

③2016/12『蜜柑「け」とばっちゃが降りた無人駅』

梅沢さんが特待生昇格から僅か1年ほどで名人3段にまで駆け上がり、一進一退を繰り返した後に自身最高位の名人4段昇格を決めたのがこの作品でした。

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夏井いつき先生のYouTubeチャンネルで「凡人ワード」の代表格として紹介された『無人駅』ですが、この句の季語「蜜柑」を支えているのが、上五に括弧付きで示されている「け」という方言です。

④2017/08『いさばのかっちゃスカーフはあけびの色』

そして同じく方言として、『イサバのカッチャ(魚売りのお母ちゃん)』を大胆に置いたのが、2017年に披露されたこちらの句でした。

放送されたのが8月(暦の上では秋)ということで『あけび』という果物が選ばれたのでしょう。もちろん一般的には「~~の色」となれば季語としての力はめっきり弱まってしまいますが、何となく下五に置かれたことで印象を余韻として残すのはお見事だったと思います。

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⑤2017/09『夜学果てまだ読みふけるおとがひよ』

「おとがい」は「頤」と書き、下にあるとおり体の部位のことです。夜学を終えてもまだ読書にふけっている女学生の「おとがい」にフォーカスを絞った作品として、強く印象に残っています。

(おとがい)は、ヒト下あごまたは下あごの先端をさす語である。解剖学用語ではオトガイと表記し、下顎骨の先端部をさす。ヒトでは頤の形にかなり大きな変異(個体差)がある。

おとがい
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

おそらく、鯨尺の句でも触れられていた「まだ」→「なほ」とする副詞の添削があったために句集への掲載とはならなかったのでしょうが、これは載った形で味わいたかったなと感じました。

令和時代(名人10段~)

⑥2019/07『鯉やはらか喜雨に水輪の十重二十重』

惜しくも2位と敗れた2019年の炎帝戦(令和最初のタイトル戦)で2位となったのが、この句でした。

この句はテレビ(プレバト!!)で映像と共に鯉の靭やかさや鮮やかさを味わうのも良いのですが、句集という形で活字として読んでも魅力に溢れると感じました。

テレビのような映像メディアが発達していなかった昔でも、きっとこの句を読んだならばテレビと同じ映像を多くの人が脳内再生したことでしょう。

⑦2020/08『行合の空の御朱印めぐりかな』

続いても炎帝戦から。こちらは4位となった作品ですが、句の内容が悪かった訳では無い証拠に、夏井先生からの添削はありませんでした。

行合ゆきあいの空』は狭義では七夕、広義では2つの季節の狭間の空を指す表現であり、一つの季節による言葉を季語として認めて集めた『俳句歳時記』には載りづらい語彙です。

しかしだからこそ微妙な季節の移ろいを余すところなく表現できているのだと思いますし、こういった作品を余白たっぷりの句集に載せていたら、また違った趣きもあったのではないかなと感じました。 後半の『御朱印めぐりかな』という切れ字での下五も(珍しく?)しっかり成功していましたよね。

⑧2021/03「最初はグー」聞こゆ志村忌春の星

続いて、2021年の春光戦は、東国原さんと若干のネタ被りをしてしまったものの、こちらを3位として善戦していました。そして、新たな忌日の季語を作ったのではないかと個人的には感じるほどに、鮮烈な印象を残しています。

3月29日が志村けんさんの命日。2020年3月というのは、まだその驚異が現実味を帯びていなかった「新型コロナウイルス」の驚異が身近に迫りつつあると感じざるを得なかったタイミングでした。それから1年を経た時期に開催された春光戦について、上の記事でも触れていますのでぜひご一読を!

⑨2022/01『冬旱地図から消えた村の数』

2022年の冬麗戦は5位と苦しみましたが、結果はさておき。句は非常に寂しさを覚えつつも味わい深いものであり、あまり話題になりませんでしたが、今後も噛み締めていきたい作品だと感じています。

タイトル戦初優勝を決めた時は「旱星」という夏の季語でしたが、今度は「冬旱(ふゆひでり)」という季語を上五に据えてきました。そして後半は凝ったことをせず、淡々と平易に語ることでその寂しさが弥増すという風に捉えました。

これが東国原さんの詠んだ句だったとすると、どこか地方自治に関する意図が垣間見えてしまいそうですが(笑)、これが福島県出身のおっちゃんの句だと分かるとまた違った感慨がある様に思います。

⑩2023/03『鞦韆に退職の日の花束と』

春光戦3位で、シード権のボーダーの下に入ってしまって一悶着ありましたが、句の内容は非常に良かったと思います。これはタイミング的に『句集 一人十色』に掲載される50句目が発表された直後の週に行われたタイトル戦なので当然入るはずがないのですが、10句目としてご紹介したく思いまして。

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