【はじめに】
この記事では、「スーパーG2」と呼ばれる(過去の)レースについて(個人的に考えた)パターン別に分類していき、漠然と皆さんの中にある「スーパーG2」という概念を考える際のヒントになれば嬉しいなと考えています。
ぜひ皆さんも、皆さんなりに考える「スーパーG2」について考察していただき、より競馬が盛り上がっていけば嬉しいなと考えています。それでは早速本題に入っていきましょう。
(↑)ちなみに、大変ご好評いただいている「スーパーG2」の記事については、こちらにリンクを張っておきますのでぜひご覧ください。1位は……やっぱりあのレースですよね!
「スーパーG2」の事例にみる判断基準
まずはパターンを考える上で、過去の「スーパーG2」の事例から『競馬ファンは何をもって“スーパーG2”と捉えるのか』を考えてみたいと思います。その判断基準の部分ですね。
事例1.1998年「毎日王冠」
平成年間における「スーパーG2」の代表格とされるのが、言わずと知れたあの1998年(平成10年)の「毎日王冠」かと思います。なかなかあのレースを超えるのは難しいのではないかと思うほどです。
第49回毎日王冠は1998年10月11日に東京競馬場で開催された競馬競走である。サイレンススズカ・エルコンドルパサー・グラスワンダーの3頭が出走しており、史上最高のGIIとも評価されている。年齢は全て旧表記にて表記。
レース施行時の状況
毎日王冠は例年天皇賞(秋)やマイルチャンピオンシップ等の前哨戦として好メンバーが集まるレベルの高いレースとして知られているが、この年(1998年)は出走頭数こそ少ないものの、例年にも増して豪華な顔ぶれとなった。……このように、いずれも競馬史上に残る名馬となった3頭が唯一相見えた一戦であったことから、このレースは史上最高のGIIと呼ばれ、伝説のレース・名勝負として今もなおファンの語り草となっている。
第49回毎日王冠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
開催当時をして歓声が「GIIではなくGI」と言わしめたこのレース。青嶋アナウンサーによる実況動画もネットを通じて時代を超えて愛され、いまや『ウマ娘』を通じて令和世代にも語り継がれています。
レース当時をして上位3頭が傑出しており、レース結果がドラマチックだったこともありますが、後世このレースが神格化されていったのは、圧勝したサイレンススズカが直後にこの世を去り、大差をつけられた馬が大活躍を遂げたことによるものでしょう。
少なくとも「年度代表馬」クラス、大きくいえば『顕彰馬』クラスの馬が複数頭直接対決というのは、その時代や番組表の形態にもよりますが、年に1度あるかどうかだと思います。GIであっても珍しい事なのに、それがGIIで実現したという点で「スーパーG2」の名をほしいままにしてるのだと思います。
一方、9頭立ての本レースでは上位3頭が傑出していた反面、その他の6頭はそこまでの実績や実力を持っていた訳ではないため、そこの点も冷静に捉える必要はあるのかも知れません。
事例2.2019年「中山記念」
2010年代は時期によって「スーパーG2」と捉えられるレースが変わりますが、平成最終盤に開催された2019年(平成31年)2月の「中山記念」をピックアップしてみます。単勝オッズ順上位7頭です。
11頭立てで単勝1桁台が6頭。7番人気との差から実質6頭立てといった感じのオッズでした。実際、1番人気のディアドラは6着と敗れる訳ですが、この上位6頭が1~6着までを独占したことを考えると、戦前の見立ては外れていなかったということが分かります。
そしてこの6頭はすべて最終的に国内外のGIを制する「GI馬」となっており、レースレーティングは「119.50」とGIの目安115ポンドを遥かに上回る屈指の高レートとなりました。もちろん、1998年の毎日王冠ほど伝説として語られるレースではないのですが、見方によってはスーパーG2でしょう。
事例3.2017年「中山記念」(全馬「重賞馬」に)
少し変わり種で、最後に2017年の「中山記念」をご紹介します。出走頭は11頭で、3番人気のネオリアリズムが優勝、2着には8番人気のサクラアンプルールが入着。1番人気のアンビシャスは4着で、ロゴタイプ3着、ヴィブロス5着、ヌーヴォレコルト7着、リアルスティール8着でした。
5年以上過ぎた今みると、上のレースに比べて多少見劣りしてしまうかも知れません。ただし、今回の記事を作るために調べる中でこんな発見があったのです。それが、
出走11頭全馬が「重賞馬」という数少ない例
だという点です。頭数が揃うGIなどでも『全馬重賞馬になる』レースというのは数少ないと思います。
このレースが開催された2017年2月時点で、2着のサクラアンプルールの主な勝鞍は準オープンでしたが、同年夏の「札幌記念」で重賞初制覇。その他の馬は(重賞勝利から数年経っている古豪がいたとはいえ)すべて重賞ウィナーでした。レースの段階で重賞馬10頭が共演していたという点では、単なるG2よりも格上だったと言えると思います。
メディアなどでの判断基準(案)3つ
これまで見てきたレースの事例などから判断基準を以下の3点に絞ってみました。こちらです(↓)。
厳密にいえば、「サイレンススズカ」はGI1勝馬ですし、「サウンズオブアース」や「エタリオウ」は重賞未勝利馬という分類になります。ここを個別に判断していくと集計が煩雑になってしまうので今回は実績のみで判断することとしました。
今回の取り組みはあくまで『体感』のざっくりとした数値化が目的であり、ファンの肌感覚の具体化が目標です。メディアで『スーパーG2』と見出しに打つ際の多くは上記3項目を基準にしている感じがします(例:○○対×× 初の直接対決、GI馬▲頭が集結、重賞ウィナー□頭が秋の飛躍を誓う! etc)からね。
レース | GI複数 | GI馬 | 非重賞馬 |
---|---|---|---|
1998毎日王冠 | 2頭 エルコンドルパサー グラスワンダー | 3頭 (左2頭+) サイレンススズカ | ▲1頭 9頭中8頭 が重賞馬 |
2017中山記念 | 2頭 ヴィブロス ロゴタイプ | 5頭 ネオリアリズム ヌーヴォレコルト リアルスティール | ▲0頭 11頭すべて 最終的には 重賞馬に |
2019中山記念 | 4頭 ウインブライト ラッキーライラック スワーヴリチャード ディアドラ | 6頭 ステルヴィオ エポカドーロ | ▲4頭 ハッピーグリン マイネルサージュ シベリアンスパーヴ トルークマクト |
以上のように我々が「スーパーG2」と認識するレースにもいくつかパターンがあって、1998年「毎日王冠」のようなレースだけが「スーパーG2」と呼ばれる訳ではない点には注意が必要です。
むしろ1998年の「毎日王冠」のような3強対決などは2~3年続くことはあっても、数年単位で継続的に実現することは稀です。中長期的にみてこのレースが「スーパーG2」なのかについては、むしろ「GI馬」の出走頭数や「重賞馬(非重賞馬)」の頭数も重要なファクターになるかと思います。
ではここから具体的にレースや事象でみていきたいと思います。
レースレーティング上位を比べてみると……?
「スーパーG2」の記事で、GIの目安:115ポンドを平均して上回っている競走を8つご紹介しました。
これらのレースの出走メンバーは、どれぐらい充実しているのか、以下の表にまとめてみました。
レース名 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
札幌記念 | 1/5/3 | 0/0/5 | 0/3/4 | 2/4/4 | 2/3/3 | 2/4/4 | 7/16/23 |
中山記念 | 2/4/3 | 2/5/0 | 2/4/2 | 4/6/4 | 4/6/2 | 0/1/6 | 14/26/17 |
神戸新聞杯 | 1/2/12 | 1/2/8 | 0/3/4 | 2/2/4 | 1/2/13 | 1/1/6 | 6/12/47 |
毎日王冠 | 1/2/1 | 2/6/2 | 0/4/4 | 2/6/2 | 0/1/2 | 0/3/1 | 5/22/12 |
京都記念 | 1/2/6 | 1/3/5 | 3/5/3 | 0/2/5 | 1/1/4 | 1/2/5 | 7/15/28 |
京都大賞典 | 2/2/4 | 0/2/7 | 1/2/3 | 1/1/7 | 1/2/7 | 0/2/5 | 5/11/33 |
金鯱賞 | 0/1/4 | 0/1/5 | 2/2/1 | 2/5/2 | 1/1/2 | 2/5/1 | 6/15/15 |
オールカマー | 1/3/4 | 0/0/8 | 2/3/3 | 2/2/3 | 0/0/3 | 1/2/7 | 6/10/28 |
レーティングでみた時は「札幌記念」が唯一117ポンドを平均で上回るという極めて優秀な値でした。しかし、2017~18年が今ひとつなためトータルでは伸び悩んでいますし、極めてハイレベルになったのは令和に入ってからという見方もできそうです。
この指標でみたときに突出して好成績なのは「中山記念」です。非重賞馬よりもGI馬の方が数としては多いぐらいになっています。GIを複数回勝利している馬が毎年のように複数頭出走してきていました。
また、「毎日王冠」については、近年「天皇賞(秋)」を緒戦に選ぶケースなどが増えてきているため一概には言えませんが、GIIを秋緒戦として選ぶ場合に最有力候補なこともあってか、GI馬の出走頭数が全体の2位となっています。
(1)「札幌記念」
モーリスをネオリアリズムが破った2016年と、ブラストワンピース → ノームコア → ソダシが勝った2019年以降はまさに「スーパーG2」と呼ぶに相応しいメンバー、そして結果となった「札幌記念」。
レース名 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
札幌記念 | 1/5/3 | 0/0/5 | 0/3/4 | 2/4/4 | 2/3/3 | 2/4/4 | 7/16/23 |
今でこそ「GI昇格」の機運が一部で高まっている節もありますが、例えば2017年(サクラアンプルールが6番人気で1着、2着は古豪8歳で12番人気だったナリタハリケーン)は結局GI馬不在でしたから、やはり年によってバラツキがあるというのが実情でしょう。
2022年は並のGIをも上回るメンバーが揃うことが確定的となってますが、果たしてこれが2023年以降も続くかどうかは分かりません。むしろ個人的には、優勝賞金を今の7,000万円から更に増額するというのを提案したいという風に思います。(GI昇格勢とスーパーG2でこそ勢の折衷案として)
(2)「中山記念」
今回改めて集計をしてみて最上位だったのが「中山記念」でした。2020年まではそれこそGIに引けを取らないほどのメンバーが揃っており、表外の2022年はパンサラッサが強さを見せたことで記憶に新しい同レース。ただ、「サウジ」での国際競走への遠征が本格化し始めている昨今(21年以降)はやや低調に転じる可能性が出てきているかなという印象です。
レース名 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
中山記念 | 2/4/3 | 2/5/0 | 2/4/2 | 4/6/4 | 4/6/2 | 0/1/6 | 14/26/17 |
「中山記念」に有力馬が集結しやすかった理由として想像にかたくないところとしては、
こういった各陣営の思惑が交差する部分もあろうかと思います。2020年は僅か9頭立てだったものの、
- 56kg ダノンキングリー
- 55kg ラッキーライラック
- 54kg ソウルスターリング
- 58kg インディチャンプ
- 57kg ペルシアンナイト
- 56kg マルターズアポジー
- 58kg ウインブライト
と、1800mならでは層の厚いメンバーが揃い、非重賞馬2頭を3馬身突き放しての1~7着独占となりました。但し、過去は過去として、未来は未来として、このまま安閑とはしていられない状況にあろうかと思いますので、2023年以降、平成の終わりの頃のような盛り上がりが戻るか注目しましょう。
(3)「神戸新聞杯」
レーティング的には3歳戦ではダントツで、全体でも並み居るGIIを上回る数値を残しているのですが、この「スーパーG2」の指標でみると、やや様相が変わってきます。
レース名 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
神戸新聞杯 | 1/2/12 | 1/2/8 | 0/3/4 | 2/2/4 | 1/2/13 | 1/1/6 | 6/12/47 |
2019年にはサートゥルナーリアが優勝、ワールドプレミアが3着となるなど八大競走優勝馬を2頭輩出する形となっていますが、その他の年はGI複数勝利馬が1頭以下、そしてGI馬まで範囲を広げても1~2頭のみです。
それとともに目立つのが「非重賞馬」の多さです。これは、いわゆる菊花賞への「権利取り」を目指す非重賞馬が挙って出走するというトライアルレースの宿命かと思います。しかも、本番として見据えるのが3000mの長距離戦という点で、その後の活躍(重賞クラス)になかなか結びつかない印象です。
(4)「毎日王冠」
1998年が著名な「毎日王冠」ですが、近年も一定程度の水準は維持しています。それでも、特にこの2010年代に入って以降、前述のとおり秋の緒戦を『天皇賞(秋)』というパターンも増えてきた結果、別定戦を回避する馬も出てきている印象です。
レース名 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
毎日王冠 | 1/2/1 | 2/6/2 | 0/4/4 | 2/6/2 | 0/1/2 | 0/3/1 | 5/22/12 |
このレースで注目すべき点としては、非重賞馬の少なさが挙げられると思います。18頭立てになったことが今までに一度もなく、10頭台前半の年の方が多いレースであるとはいえ、出走する殆どが重賞馬というのはハイレベルなレースの証といえるでしょう。
(5)「金鯱賞」
京都の2レースを飛ばして、最後にご紹介したいのが「金鯱賞」です。表外ですが、2022年はジャックドールが優勝し「スーパーG2」の見方を不動のものとした印象があります。
レース名 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
金鯱賞 | 0/1/4 | 0/1/5 | 2/2/1 | 2/5/2 | 1/1/2 | 2/5/1 | 6/15/15 |
2018年はスワーヴリチャードがサトノダイヤモンドを、2019年はダノンプレミアムがリスグラシューを抑えて優勝し、2020年はサートゥルナーリアが年明け緒戦に挑んだ舞台となった「金鯱賞」。そして2021年は3冠牝馬【デアリングタクト】を最低人気のギベオンが下すという大金星が大変ドラマチックでした。但し、ポタジェ、グローリーヴェイズ、キセキ、サンレイポケット、ペルシアンナイトといったGI級の馬が3着以下に名を連ねていたことはあまり注目されませんので、そちらも触れておきましょう。
さらに2022年は、ジャックドールが2馬身半差でのレコード勝ち。しかも下した相手というのが、レイパパレやアカイイト、ポタジェなどですから更にその価値が増しました。
しかし、2016・2017年と【ヤマカツエース】が連覇を達成した頃の「金鯱賞」は、その翌年以降と比べて非常に寂しい感じでした。ですから、「大阪杯がGIに昇格して役割分担が明確化した」ことでここ5年は『スーパーG2』としての存在感をアピールしています。しかし、「中山記念」とは反対ですが、いずれにしてもこの傾向が未来永劫続くとは限らないことは念頭に置いておく必要があるでしょう。
……果たして、2022年の夏競馬、そして秋競馬はどう推移していくのか、注目していきましょう! 皆さんも、新たな「スーパーG2」の伝説の目撃者となるのです!
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