【はじめに】
この記事では、二十四節気「夏至」について、日本語版ウィキペディアなどで調べると共に、プレバト!! 俳人による作品を含めた名句をみていきたいと思います。
ウィキペディアにみる「夏至」について
夏至(げし、英: summer solstice)は、二十四節気の第10。北半球ではこの日が一年のうちで最も昼(日の出から日没まで)の時間が長い。南半球では、北半球の夏至の日に最も昼の時間が短くなる。日本における旧暦5月内に発生する。
現在広まっている定気法では太陽黄経が90度のときで6月21日ごろ。暦ではそれが起こる日だが、天文学ではその瞬間を夏至とし、それを含む日を夏至日(げしび)と呼ぶ。平気法では冬至から1/2年(約182.62日)後で6月22日ごろ。期間としての意味もあり、この日から次の節気の小暑前日までである。
夏至
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
その他の「二十四節気」に比べても、ウィキペディアの記載が充実していることからも明らかな様に、かなりメジャーな部類かと思います。「二十四節気」を普段意識しない or 知らないという方でも夏至はご存知じゃないでしょうか?
七十二候
二十四節気「芒種」という約15日間の期間を更に3つに分けて定められている「七十二候」。この夏至の季節に設けられている「七十二候」は以下のとおりです。
- 初候
- 乃東枯(ないとう かるる):夏枯草が枯れる
- 鹿角解(しかの つの おつ):鹿が角を落とす(中国)
俳句歳時記やプレバト!! にみる「夏至」の名句6選
ここからは、角川俳句大歳時記「夏」に収録されている例句と「プレバト!!」などから6句ほどピックアップしましたので一緒に鑑賞していきましょう。
『夏至』は、二十四節気の元となった中国大陸であれば最も日差しが強く暑くなる時期に差し掛かりますが、日本では「梅雨」と重なる時期で、まだ暑さ本番は少し先といった季節感です。
音合わせ始まる夏至の広場かな/坂本宮尾「木馬の螺子」
恐らく「夏至」の少し夏らしい暑さが深まり始めた、晴れの昼間の広場。吹奏楽部の学生か、市民などの団体かは分かりませんが、高いところにある太陽からの日差しが降り注ぐ中で、まさに今、音合わせが始まる。そんな躍動感を感じさせる一句です。
夏至夜風余ったコーラで煮る角煮/篠田麻里子「プレバト!!」より
「夏至夜風」は、夏至の傍題で、その字のとおり「夏至の日の夜に吹く風」のことを指します。一年で最も昼間が長いことの裏返しが「一年で最も夜が短い」ということになる訳ですが、そんな夏至という日の夜風を特別なものにするのが「夏至夜風」という季語です。
そんな特別な風と取り合わせるのが、『余ったコーラで煮る角煮』というフレーズ。「コーラ」は流石に季語として掲載されていなさそうですし、何より調理されていますから夏の季語としての力は無いでしょう。
【で】という助詞も含めて、散文的になりそうなフレーズと古式ゆかしい季語との取り合わせを、若い篠田麻里子さんが披露し、夏井先生からは高い評価を受けていました。
硝子屋に硝子が重ねられて夏至/岡崎光魚「薔薇未明」
懐かしい響きのする「硝子屋」にとっては、「硝子を重ねる」という動作は日々繰り返されている仕事の一つでしょうが、『夏至』という季語と取り合わせられることで特別感が出ます。
取り合わせる物のチョイスとして、やはり「昼が長い」ことから「光」のイメージが強いのだと感じました。こうして「光」そのものを描写するだけでなく、間接的に「夏至の日差しによる光」を暗示させるのも効果的かと思います。
地下鉄にかすかな峠ありて夏至/正木ゆう子「静かな水」
「夏至」という映像を持たない季語に対する取り合わせの距離感として、ここまで絶妙なものは他にないのではないかと感じてしまうほどの秀句だと初見の時に思ったのを思い出します。
地下鉄の「かすかな峠」と呼べるほどの高低差を、恐らく座席に座っているなどして感じ取ったのだと思います。この日常からあるものの気づきが、「夏至」という季語によって、少し特別なものとなる。これこそがまさに「夏至」という1年に1度の特別な日に詠む贅沢な楽しみではないかと感じますね。
夏至ゆうべ地軸の軋きしむ音すこし/和田悟朗「少閒」
そしてここまで「日常」を特別にした『夏至』の句を紹介してきましたが、最後に『夏至』ならではの句をご紹介しましょう。
武庫郡御影町(現・神戸市東灘区御影町)出身、大阪大学理学部卒業。神戸大学理学部助教授、奈良女子大学理学部教授を経て同女子大学名誉教授(物理化学)。
時間、地球、宇宙、次元といった自然科学的な概念語を用いた大きな把握を持つ句が特徴。
和田悟朗
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
物理化学の教授でもあった和田さんが、その(世間的な肩書きに違わぬ)科学的な知見をもとに俳句の詩心をもって詠んだ渾身の1句だと感じます。これまでの「日常」の句とは対極で、他の季語であれば全くもって大袈裟な取り合わせになってしまうのですが、「夏至」というスケールの大きな季語との間の究極のバランス感覚は常人に真似できるものではありませんね(^^
加えて、句のイメージが堅苦しくなりすぎないように、「ゆうべ」や「すこし」など平仮名書きを徹底する事によって、漢字の見た目から響き、地学用語の浮かび上がらせる効果も計算し尽くされていて、17音の持つ無限の広がりに呆然としてしまいました。
行商の老婆は夏至の逆光に/立川志らく’ 「プレバト!!」より
そして、2023年6月15日(夏至の前週)に立川志らくさんが「夏至」の作品を披露していたものの、春風亭昇吉さんに続いて現状維持査定となり上の形に添削されました。当初は(↓)、
(原句)『夏至の古色蒼然 行商老婆』
という破調でしたが、やはり「古色蒼然」という季語によってしまった上に、漢字が多くて俳句というよりも近代の小説のような重たい描写となってしまいました。
(原句)『夏至の古色蒼然 行商老婆』
↓
(添削後)『行商の老婆は夏至の逆光に』
添削後の方は句またがりで五七五のリズムに乗りやすくなりましたし、助詞が4つ入ったことで日本語の奥行きの広さを感じられるものとなっています。後半で『夏至の逆光に』とすることでキラキラとした夏至の日差しの強烈さを想起されます。
「夏至」という一日の『一年で一番長い昼間』の時間帯にも、敢えて『一年で一番短い夜』の時間帯にも、この記事やご紹介した名句を鑑賞して、一年に一度の特別な日を共に楽しんでいければな、と感じます。最後までお読み頂きありがとうございました!
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