【はじめに】
この記事では、沖縄本島の気象官署「那覇」での観測データをもとに、日平均海面気圧が1000hPa未満だった期間が長かった(およそ5日以上)台風をピックアップしていきます。
観測有史以来、台風の常習地帯だった沖縄県。観測の歴史の長い「那覇」でも、1000hPaを下回る気圧が1週間以上連続したのは約半世紀で3例しかありませんでした。物資の乗せた船が近づけず、沖縄旅行に訪れていた観光客の船も飛べず。そういった事例に該当するものを集めてみましたので、ぜひ参考になさってください。
20世紀前半:逆進して10日間 … 大正の「沖縄台風」
気象庁の現在の統計では1951年以降が対象となっていることが多いですが、「過去の気象データ検索」の日ごとの気圧のデータは1961年からしか揃っていませんでした。
月ごとのデータは明治時代の1890年代から揃っているので、今回のタイトルに該当しそうな「月」の候補を自分なりに列挙しておきたく思います。
時代 | 年月 | 月平均気圧 | 降水量 | 参考 |
---|---|---|---|---|
明治 | 1899/7 | 1000.2 | 314.6 | |
大正 | 1924/8 | 1002.2 | 557.3 | 通称:沖縄台風 |
戦前 | 1939/8 | 1001.8 | 387.6 |
(出所)気象庁 ホーム > 各種データ・資料 > 過去の気象データ検索 > 月ごとの値(データ抜粋のうえ筆者加工)
明治時代には海面気圧の月平均が1000.2hPaという月もあったようですが詳細は分かりませんでした。今と観測機器が違うこともあるのかも知れませんが、データ上は極端に低い値となっています。
大正時代を代表する事例として、1924年8月の「沖縄台風(非公式命名)」があります。これに関しては戦前の台風としては珍しく「ウィキペディア」に記事がありますので、そこを引用します。
沖縄台風(おきなわたいふう)は、1924年(大正13年)8月9日から8月18日にかけて、沖縄地方を襲った台風である。複雑な動きをしたことで知られ、「沖縄台風」という名称は非公式に付いたものである。(中略)なお、沖縄台風の推定進路を「気象要覧」に基づいて要約すると次のようになる。
8月6日小笠原諸島の南西に現われた台風は北西に進み、紀州はるか沖で進路を西向きに変え、10日に沖縄本島北部をかすめて、12日には少し南に移り宮古島付近に到ったが,これよりそれまでの経路をほぼ逆進し、14・15日に再び沖縄本島を過ぎて、遂に大東島付近に引き返し、17日に北西に向きを変え、奄美大島付近を経て肥前五島の外側をまわり、20日に壱岐・対馬の間を、21日に隠岐を、22日に青森県を経て23日に千島に去る。6日出現から23日千島に去るまで18日間を要し、大東島・宮古島の往復に1週間かかった。
沖縄台風
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
これから100年近く後の2023年の「台風6号」も似たようなコースを辿ったのですが、全てが一回り上のエピソードとなっています。台風の常習地帯である「沖縄」を冠した台風だけあります。
20世紀後半:本土復帰の年に10日に渡る事例が
沖縄戦の後などデータが一部途切れている箇所もありますが、1972年の本土復帰前の情報も気象庁HPにはしっかりと掲載されています。前述のとおり1960年以降の主な例をまとめてみますとこのとおり。
1960年代(本土復帰前)
ローマ五輪が行われた1960年8月には「五輪台風」と呼ばれる5つの台風が同時に存在し「天気図」に並んだことがありました。それぞれ変わった動きをしたこれらの台風の一つ(15号)が沖縄本島の南でとぐろを巻くようにしながら北上をし、低気圧となった後に北樺太まで進んだことがあったようです。
具体的な日数は判然としませんが、月の平均海面気圧が1001.9hPaだったことを思うと、影響が長引いたことが窺えます。
そして、沖縄の本土復帰前(1960年代)の事例としては、
64/8/17~22 (6日間) | 14号 16号 | 989.8 | 991.6 | 989.3 | 988.4 | 991.6 | 997.6 |
66/8/18~22 (5日間) | 15号 | 999.9 | 999.3 | 996.9 | 993.6 | 997.0 |
などがあり、どちらも5日以上にわたって海面気圧1000hPa未満が続きました。1966年は、この前後にも台風が発生するなど半月近く気圧の低い状態が続いた時期でもありました。
1970・80年代(本土復帰後)
本土復帰となった1972年の夏、歴史的な長寿台風が発生し、沖縄県を長期間にわたって苦しめました。
昭和47年台風第7号です。
7月7日にマリアナ諸島の南で発生後、北西進しながら発達。しかし12日から14日にかけて、沖ノ鳥島の南西で動きを止め、反転して東北東に進む。この時に台風6号と藤原効果となる。その後は奄美大島の北を西進した後に、南に進み、沖縄の西海上にて4日間かけて大きな楕円を描くような不思議な進路を辿った。この影響で南西諸島は長期間暴風域に入り、影響も長引いた。
複雑な動きをする台風
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
台風7号の記事の中には『この影響で、南西諸島では1週間以上も7号の暴風域に入り、離島への船が長期間欠航し、食品や日用品等が不足する等深刻な事態になった。』ともあるなど、長い期間影響を及ぼした台風の怖さは時代を問いません。
この台風で「那覇」で「海面気圧1000hPa未満」が10日連続となりましたが、これは令和の事例などをも上回るここ約半世紀での最長記録となりました。この他、5~6日程度の事例は昭和の後期に何例か見られましたので列挙しておきます。
75/8/17~21 (5日間) | 6号 | 998.4 | 998.3 | 997.8 | 992.6 | 998.5 | |
78/7/27~8/1 (6日間) | 8号 | 997.8 | 982.1 | 990.0 | 997.3 | 996.9 | 995.2 |
83/8/12~16 (5日間) | 5号 | 997.9 | 994.8 | 994.8 | 995.3 | 999.1 | |
84/8/16~20 (5日間) | 10号 | 998.0 | 995.1 | 983.7 | 980.4 | 995.6 |
平成年間となると最長4日程度の台風が中心となり、気圧の低く被害の大きな台風は何個か来襲をしますが、ここまでの事例はしばらく見られませんでした。
21世紀前半:令和に入って1週間以上の事例が連発
昭和50年代まで時折みられた「1000hPa未満が長期に及ぶ事例」ですが、実は平成年間では極端に長い事例がなく、令和に入って2・3位となるような長い事例が発生しています。
21/7/20~28 (9日間) | 6号 | 999.1 | 992.5 | 993.2 | 991.7 | 993.2 | 999.1 | 998.7 | 997.6 | 998.5 |
23/8/01~08 (8日間) | 6号 | 987.9 | 978.2 | 995.6 | 995.3 | 988.0 | 989.2 | 993.9 | 997.3 |
2021年7月の事例(6号)では、1972年以来約半世紀ぶりに「1週間以上(結果9日)」にわたって「那覇での海面気圧が1000hPa未満」となりました。ただし、沖縄本島とは離れたところを進んだため、日平均気圧が990hPaを割り込む日はありませんでした。
対して、2023年8月の台風6号でも、昭和後期以降で3位となる「8日間」も「1000hPa未満」となりました。上の2021年とは異なり、990hPaを割り込む日も複数あるなど、「Ζ」のような形で沖縄本島地方を再襲し、夏休みの観光客も住民の方々も大きな影響を受けたことは記憶に新しいところです。(飛行機は中々飛べず、また食べ物などを乗せた船が来航できず、離島の品不足が深刻化しました)
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