お天気歳時記「菜種梅雨」

【はじめに】
今日は、お天気歳時記と題して、春本番(3月後半から4月頃にかけて)に降る雨を指す季語である「菜種梅雨」について皆さんと一緒に見ていきたいと思います。

まずは、例によって「日本語版ウィキペディア」を読んでみるところから理解を深めていきましょう。

まずはウィキペディアを読んでみる

類似の気象現象 [編集]

菜種梅雨
おもに3月下旬から4月上旬にかけての、連日降りつづく寒々とした降雨を「菜種梅雨」(なたねづゆ)という。
菜の花が咲くころに降るためこの名前があり、花を催す雨という意味で「催花雨」(さいかう)とも呼ばれる。梅雨のように何日も降り続いたり、集中豪雨をみたりすることは少ないが、やはり、曇りや雨の日が多く、すっきりしない天気が何日も続くことが多い。

日本語版ウィキペディア > 梅雨 > 類似の気象現象 より引用

この後ウィキペディアでは、

  • 「春の雨」に関する他の季語との細かなニュアンスの違い
  • NHKの記事を引用しての「春の天気配置」に基づく解説
  • 1990~2000年代における「菜種梅雨」の事例

について詳しく(口悪くいえば纏まりがなく)説明されています。上に貼ったリンクから興味のある方だけお読みいただければと思います。

また、今一度「菜種」について調べようと、ウィキペディアで調べてみると、直リンクで「アブラナ」に転送されます。冒頭部のみを引用しますと、

アブラナ(油菜)は、アブラナ科アブラナ属の二年生植物。古くから野菜として、また油を採るため栽培されてきた作物で、別名としてナノハナ(菜の花)、ナタネ(菜種は正式な作物名である)などがあり、江戸時代には胡菜または蕓薹と呼ばれた。

実際にはアブラナ属の花はどれも黄色で似通っていることから、すべて「菜の花」と呼ばれる傾向がある。

……また、菜種畑は明るい黄色が畑を覆う「菜の花畑」として春の風物詩とされ、歌や文学作品の題材となるが、明治時代以降はセイヨウアブラナに置き換わっている。

日本語版ウィキペディア > アブラナ

とあります。また、「菜の花」の中の「文化」の項にも「菜種梅雨」に関する記載があって、

菜の花(なのはな)は、アブラナ科アブラナ属の花の総称。

…(中略)…

文化 [編集]
菜の花は身近な春の光景として親しまれてきたため、文学や言葉に登場することも多い。 文学作品などに登場する菜の花は、明治以降は栽培が拡大したセイヨウアブラナが主体と見られる。

菜種梅雨
春雨前線が停滞する頃の雨の多い時期、ないしその雨を指す言葉。気象庁がその時期を明確に定めているわけではないが、主に3月半ばから4月前半にかけてのぐずついた天気を言う。この時期には、関東南部から九州にかけてアブラナが開花している事から名付けられた。ただし、いわゆる6月下旬から7月中旬の梅雨で起こるような激しい豪雨になる事は比較的少ない。

日本語版ウィキペディア > 菜の花

とあります。私が下線を引いた部分が実は重要でして、「梅雨」や「春一番」などとは異なり、気象庁が現代において基準を設けている訳ではないというところを抑えておきましょう。

俳句歳時記を読み比べてみたら

そして、手元の電子辞書で「菜種梅雨」について調べていると、面白い基準を見つけました。

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■解説 三月から四月頃、菜の花が咲く。その頃降り続く長雨をいう。「梅雨」は当然、夏の季語。また、「菜種」は菜の花の結実したもの、アブラナの実である。季節は夏となる。その二つが合わさると、春の季語になるというのが不思議である。……後略……(小澤 實)

「角川俳句大歳時記 春」 > 「菜種梅雨」の項より一部引用

確かに言われてみればという事実です。「マイナス × マイナス=プラス」というのも納得するのに時間を要しましたが、「夏の季語 × 夏の季語 = 春の季語」というのも言われてみれば不思議ですね。これに気づく小澤 實さん始め俳人の方々の感性が素敵ですね。

そしてもう一つ、この季語においてポイントになりそうなのが「対象期間」です。季語を使うにあたり季節感は重要なのですが、歳時記によって微妙な差があることが窺えます。

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例えば、国語辞書などは「三月下旬から四月まで」と書いていたり、多くの歳時記は「三月から四月」または「三月下旬から四月」と表現しています。その一方で、「三月中旬から」と書いている辞書(ブリタニカ)などもあったりして、こういったところに季語の奥深さ、面白さがあろうかと思いますね。

「菜種梅雨」の名句を振り返る

ここで、「菜種梅雨」という季語を使った古今東西の名句をご紹介していきましょう。手元の歳時記に例句として記載されていた中から、5句厳選してみました。皆さんはどんな句が好きですか?

  • 『唄はねば夜なべさびしや菜種梅雨』/森川暁水
  • 『菜種梅雨 牛に豆電球一個』/木田千女
  • 『朝刊の匂ひをひらく菜種梅雨』/井上雪
  • 『夜の明ける色に従ひ菜種梅雨』/廣瀬直人
  • 『サラダ油に日暮のひかり菜種梅雨』/廣瀬町子

雨の句、どんよりとした空気感、色味の作品が多い中で、この「菜種梅雨」という季語から感じ取れる明るい黄色のイメージがどこか作品に明かりを灯したような効果があるように感じます。

例えば、同じく晩春の雨の季語に「花の雨」や「桜流し」といったものがありますが、どこか儚さだったり、花の季節の終わりを思って寂しさを覚えたりしがちな季語です。明るさばかりでない春の陰鬱さに着目する傾向が強いかも知れません。

そうしてみると、この「菜種梅雨」は菜の花が枯れてしまうところに思いを馳せるというより、やはり「菜の花(畑)」が咲き誇っている見頃を読む傾向が強い季語だと再認識します。(だからこそ却って枯れるシーンと合わせて句を詠むのも面白いかも知れませんね)

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