【はじめに】
毎年11月5日は、2015年に国連が定めた「世界津波の日」です。これは日本の「稲むらの火」の逸話に由来し、1854年の旧11月5日(陽暦12月24日)に起きた安政南海地震によるものです。
今日は、日本発の『世界津波の日』ということで、日本列島に遠地津波をもたらすような大津波・巨大地震を、エリア別に振り返っていきたいと思います。もし仮に海外で大きな地震が発生した際に、過去にどういった地震が起きてきたかのヒントになれば幸いです。平時に学ぶキッカケにもなれば嬉しく思います、早速見ていきましょう!
アジア・オセアニア
日本付近
まずは、日本列島付近からおさらいしておきましょう。「歴史的な津波の一覧」に、10m超の具体的な高さが示されている歴史地震と、ここ半世紀で「大津波警報」が発表された地震を記載しています。
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 国内 | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
大宝元年(701年) | 京都府沖 | 7級 | 40-70m? | ||
貞観11年(869年) | 三陸沖 | 8級 | 3.11級 | ||
万寿3年(1026年) | 島根県沖 | 7級 | 20m超 | ||
明応7年(1498年) | 東海道沖 | 8級 | 36.4m? | ||
慶長16年(1611年) | 千島・日本 | 8-9 | 20m級 | ||
元禄16年(1703年) | 相模トラフ | 8級 | 17.3m | ||
宝永4年(1707年) | 南海トラフ | 8-9 | 25.7m | ||
明和8年(1771年) | 八重山諸島 | 8.7 | 30m級? | ||
嘉永7年(1854年) | 東海道沖 南海道沖 | 8.4 8.4 | 22.7m 16.1m | ||
1896/06/15 19:32 | 三陸沖 | 8級 | 38.2m | ||
1923/09/01 11:58 | 相模トラフ | 7.9 | 12 m | ||
1933/03/03 02:30 | 三陸沖 | 8.4 | 28.7m | ||
1983/05/26 12:00 | 日本海中部 | 7.7 | 14 m | 12:13 | 23:30 |
1993/07/12 22:17 | 北海道南西沖 | 7.8 | 31.7m | 22:22 | 07:00 |
2011/03/11 14:46 | 三陸沖 | 9.0 | 43 m | 03/11 14:49 | 03/13 17:58 |
ざっくり日本列島のどこでも巨大津波が襲う可能性があることはこの表からも見て取れます。そして、大宝地震や八重山地震の数値的な信憑性はともかくとしても、伝説になるほどの巨大津波が海溝・トラフ沿いに限らず起きてきたことを抑えておく必要はあるでしょう。
ここ数百年のスパンでみれば100年に数回、国内の地震では「大津波警報」が十数年に1回という頻度で発表されていることを思うと、『東日本大震災』が1000年に1度などと報じられましたが、それに準ずる様な巨大津波が21世紀の前半中に起こらないとも限らないと思えてきました。
台湾付近
続いて「台湾」付近です。日本語・中国語・英語のウィキペディアから情報をかき集めましたが、最も大きな津波の記録は、日本でいう幕末の「基隆津波」です。マグニチュードでは日本領だった大正年間(1920年)のM8クラスの花蓮県沖の地震が最大と見られますが、日台ともに津波の顕著な記録は私の調べた限りで見られませんでした。
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 日本(現地) | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
1867/12/18 | 基隆沖 | 7.0 | (15 m) | ||
1920/06/05 13:21 | 花蓮沖 | 8.2 | ? | ||
1959/08/15 17:57 | 恆春沖 | 7.1 | (4~5m) | ||
1986/11/15 06:20 | 花蓮沖 | 7.5 | 0.50m | ||
1994/05/24 13:00 | 6.6 | 微弱 | 13:07 | ||
1994/06/05 10:09 | 6.7 | - | 10:18 | 11:10 | |
1996/03/05 23:52 | 6.4 | - | 23:58 | 25:00 | |
2002/03/31 15:52 | 7.4 | 0.12m | 16:02 | 16:40 |
ここ最近、台湾付近を震源とする地震の多くは、内陸性の地震が中心であり、規模も中規模(M7未満)のことが多いため、日本に津波警報・注意報が発表されること自体が近年少なく、観測されても普通は先島諸島に数十センチ程度です。地震発生後すぐに発表されても、基本的には1時間前後で解除される傾向にあります。
2022年には内陸・台東県を震源とする最大震度6強(現地の基準)のM7前後の地震があり、その直後に津波予報(若干の海面変動)が発表されましたが、実際には津波は観測されませんでした。折しも、台風14号の接近する最中に報道資源が割かれてしまった訳ですが、数年に1度起きる程度の規模では、日本国内に被害をもたらすことは稀です。但し、大規模地震では話が別になってきそうな気もします。
なお、この他、中国や朝鮮半島などでは、日本に津波をもたらすような顕著な地震は近代の観測史上はありませんので、今回は省略します。但し、朝鮮半島沖では江戸以前に事例があると見られています。
東南アジア
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 日本(現地) | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
76/08/17 01:11 | ミンダナオ島 | 7.8 | (4.27m) | ||
90/07/16 16:28 | ルソン島 | 7.8 | 17:22 | 19:14 | |
96/09/27 14:59 | ニューギニア | 8.1 | 1.03m | 17:30 | 25:00 |
04/12/26 09:58 | スマトラ島沖 | 9.1 | (34m) | ||
09/01/04 04:43 | ニューギニア | 7.6 | 0.43m | 10:08 | 15:45 |
12/08/31 21:47 | フィリピン | 7.6 | 0.5 m | 22:07 | 24:10 |
18/09/28 19:02 | スラウェシ島 | 7.5 | (11.3m) | ||
23/12/02 23:37 | ミンダナオ島 | 7.6 | 0.4 m | 23:56 |
東南アジアでは、平成以降だと、M7後半の地震で津波注意報が発表され、国内で注意報クラスの津波が観測された事例があります。
むしろ、インドネシア国内に関しては、2004年の年末に起き、インド洋一帯に激甚な被害をもたらした「スマトラ島沖地震」や、2018年のスラウェシ島付近での地震などと、日本からみると「島」を挟んだ向こう側で起き、国内には被害のなかった地震による津波が今のところ目立っています。
南太平洋
更に南太平洋(赤道付近から南半球)でも、日本に津波注意報級をもたらす地震が起きています。そもそもバヌアツなどは有数の地震多発地域ですが、巨大地震が起きた際に日本列島との位置関係によっては津波が日本まで到達することがあります。
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 日本 | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
09/09/30 02:48 | サモア諸島 | 7.9 | 0.36m | 09:00 | 15:00 |
13/02/06 10:12 | サンタクルーズ諸島 | 7.9 | 0.4 m | 14:41 | 22:45 |
22/01/15 13時頃 | フンガ・トンガ | 噴火 | 1.2 m | 00:15 | 14:00 |
また、2022年には地震ではなく火山噴火に伴う空気振動で、日本国内に津波警報級の海面変動(津波)が襲ったことも記憶に新しいところでしょうか。
千島・カムチャツカ~アリューシャン
樺太~千島列島
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 国内 | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
71/09/06 03:35 | 樺太西部 | 6.9 | 0.35m | ||
06/11/15 20:15 | 千島中部 | 8.3 | 0.84m | 20:29 | 25:30 |
07/01/13 13:23 | 千島中部 | 8.1 | 0.43m | 13:36 | 22:10 |
07/08/02 11:38 | 樺太南部 | 6.4 | 0.3m? | 13:37 | 14:26 |
日本に比較的近いところだと、サハリン(樺太)の中南部で道北などで海面変動が認められたことがあり、また2000年代には千島列島沖を震源とする巨大地震が連発し、日本列島の広い範囲に津波が来襲しました。遠く離れた地点でも注意報クラスの高さとなったほか、津波注意報が解除されてから最高値を更新した地点もあるなど、厄介な面があります。
アリューシャン列島~カムチャツカ半島
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 国内 | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
52/11/05 01:58 | カムチャツカ | 9.0 | 8.5 m | ||
57/03/09 23:22 | アリューシャン | 9.1 | (33m) | ||
65/02/04 14:01 | アリューシャン | 8.7 | 到達 | ||
86/05/08 07:47 | アリューシャン | 7.6 | 0.28m | 09:30 | 21:30 |
21/07/29 15:16 | アリューシャン | 8.2 | (2.7m) | 18:08 | 予報 |
1986年には津波注意報が2度にわたって発表され、半日にわたって継続された事象があります。また1950年代まで遡ると、2度の超巨大地震が起きており、1952年には国内で大津波警報級の津波が観測されたと伝わります。(今ほどの大騒ぎにはならなかった様ですが、各地で津波を観測した模様)
直近例を1つ掲載していますが、2021年7月には巨大地震(M8.2)が起き、津波予報が発表されていましたが、津波の国内での実測はありませんでした。方角的な意味でも日本列島よりハワイなどに被害が顕著となるケースもあるため、慌てず周辺での観測情報なども踏まえた冷静な対応が必要となるでしょう。
アメリカ大陸
北中米
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 国内 | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
1700/01/27 | カスケード | 8.7-9.2 | 到達 | ||
1964/03/28 12:36 | アラスカ | 9.2 | 0.9m | ||
1985/09/19 22:17 | メキシコ中部 | 8.1 | - | 08:50 | 13:50 |
北米(アラスカ付近)からアメリカ合衆国の西海岸にかけてでは、1700年の「みなしご元禄津波」が、アメリカからカナダにかけて起きた(超)巨大地震・カスケード地震によるものだったという説が広く知られるようになりました。また、1964年の「アラスカ地震」は、日本でも1m近い津波が到達したと伝わります。
また、1985年の「メキシコ地震」では日本に津波注意報が出されたほか、2010年代に入っても、津波予報が出されるような巨大地震の事例は幾つかあります。ただ、やはり日本に津波を明瞭にもたらす様な地震はめったに起きないというのがここまでの実績です。
エクアドル ~ ペルー沖
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 日本(現地) | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
1586/07/10 | リマ沖 | 8.9 | (26m) | ||
1687/10/20 | カヤオ沖 | 8.7 | 到達 | ||
1868/08/14 06:30 | アリカ沖 | 9.1 | 約2m | ||
1906/02/01 00:36 | エクアドル・ コロンビア | 8.8 | 0.48m | ||
2001/06/23 05:33 | ペルー沖 | 8.2 | 0.28m | 21:40 | 予報 |
2007/08/16 08:40 | ペルー沖 | 8.0 | 0.15m | 01:04 | 13:00 |
南米のうち、チリとの国境付近までをまずはご紹介します。21世紀に入ってからも巨大地震だと日本に津波が来襲していますが、古くは明治に改元される直前の1868年8月に超巨大地震があり、日本でも、函館で2mといった大津波が遠地から来襲していたと伝わります。
また、1906年の「エクアドル・コロンビア地震」でも、串本(潮岬)で注意報クラスの津波が到達していたとされ、『チリ地震』以外にも南米の地震には油断禁物だという事がここからも分かりそうです。
チリ沖
そして、日本における「遠地地震」の代表格とされるのが、『チリ地震』でしょう。最も著名なのが1960年の「バルディビア」の地震ですが、その他も巨大地震が頻発し、2010年代だけで3度も被害が出るほどの津波が日本に来襲しています。
発生時刻(JST) | 震央 | Mw | 国内 | 発表 | 解除 |
---|---|---|---|---|---|
1575/12/17 03:30 | バルディビア | 8.5+ | (巨大) | ||
1877/05/10 09:59 | イキケ | 9.0 | 約3m | ||
1960/05/23 04:11 | バルディビア | 9.5 | 約6m | ||
1995/07/30 14:11 | アントファガスタ | 8.0 | 0.29m | 07/31 15:00 | 07/31 20:30 |
2010/02/27 15:34 | マウレ | 8.8 | 1.28m | 09:33 | 34:15 |
2014/04/02 08:46 | イキケ | 8.1 | 0.55m | 03:00 | 18:00 |
2015/09/17 07:54 | イヤペル | 8.3 | 0.78m | 03:00 | 16:40 |
古くは1575年や1877年に超巨大地震が起き、明治初頭のイキケ地震(幕末のアリカ地震を含む)では日本でも大津波警報に近い高さの津波が観測されたといいます。近年では、2010年のチリ地震で、国内17年ぶりの大津波警報が発表され、約半分とはいえ1m超の津波が実際に来襲しました。
最も知られた1960年の『チリ地震』では、三陸海岸などで6mクラスの大津波が観測され、揺れを伴わなかったことや時間帯の影響もあって被害が拡大したと伝わります。今でこそ海外津波の代表例の様に語られる「チリ地震」ですが、それまではほぼ無名な存在でした。
まだ知らぬ……或いは古文書の世界でしか伝わらない様な古い事例であっても、令和のこの時代に世界を、そして日本を襲うことがあるかもしれません。
そして日本に直接の影響はないものの、ヨーロッパや中東・アフリカ、大西洋でも大津波を伴う地震は歴史上記録されており、時に「神話」や「伝説」となっているものもあると見られます。日本国内でも伝説として語られる大津波があるような現象が、今一度起きないとも限りませんので、どうぞ皆さん、様々な機会を通じて、津波への見識を深めて頂ければと思います。
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