梅沢富美男『句集 一人十色』勝手に+α(その2) ~渾身の添削編~

【はじめに】
この記事では、梅沢富美男さんの句集『一人十色』が発売されたことを記念しまして、私(Rx)が主観で勝手に+αをしていきたいと思います。

第2弾の今回は、夏井先生の渾身の添削後 編として紹介していきます。「プレバト!!」的には入らないのでしょうが、本来の俳句の世界ならば添削された句を“取って”収録することも認められので、そういった観点からご覧ください。

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梅沢富美男さんの第一句集『一人十色』には、夏井先生との対談や過去の添削例も載っていますので、ぜひ皆さんお手にとって見てください!

初挑戦から2020年まで

①2015/10『千枚田海にくだけり稲すずめ』

一般参加者時代は(特番を除いて)9回連続才能アリだったため、悪いから添削という例はあまりありませんでした。(もちろん初期だから今よりも拙い部分があったことは事実でしょうが)

そうした梅沢さんが本格的に文法面などで徹底的に添削されたのが、2015年10月、当時はまだ「◯級」といった区分けがされていない時代の「特待生」としての初披露の句です。(↓)

『千枚田海にくだけり稲すずめ』
↓
『千枚田海くだけ稲すずめ』

夏井先生曰く、原句では「稲雀(秋の季語)が海に入水自殺してしまう」ようにも読めてしまうということで、本来梅沢さんが言いたかった「千枚田にいる稲雀が飛び立つ様が海の岩に当たる波しぶきのようだ」という方向に寄せていったのだと思います。

後に犬山さんが「片乳を出す」句が誤読されて特待生剥奪された事例がありましたが、それと同じ様な酷い誤解を招くという意味でいくと、危うく「特待生剥奪」の最初の事例になっていたかも知れませんが、今振り返るとそれを何とか回避したというワンシーンだったのかもですね。

②2020/01『湯豆腐にすの立ちはじむ四方の春』

そこから約5年で名人10段から永世名人を目指した梅沢さん。2020年の冬麗戦で4位となった時に詠んだ作品がこちらでした。

『湯豆腐にすの立ちはじむ四方の春』
↓
『湯豆腐にすの立ち四方の春の酒

梅沢さんが思わず『なーんでそんなにうまく直すの!』と逆ギレをしながら叫ぶほどに収まり良く定型に纏めたのが添削後の形です。

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文法的にいえば、「すの立ちはじむる」と連体形で繋げるべきながら、中八になるのを避けようとした結果としての原作の形だったので、そこに『🍶』という1単語を足すことによって更に句の奥行きが広がるという点で素晴らしかったと思います。

③2020/09『口立てのカセットの声秋彼岸』

コロナ禍に入ってからの1句。家族を詠んだ句があまり採用されないとお怒りの梅沢さんですが、この句は本当に家族との思い出、つながりを感じる良い作品でした。

『口立てのカセットの秋彼岸』
↓
『カセットに父の口立て秋彼岸』

カセットとあれば収録できるのは音/声のみですからそれを省略し、代わりに本当に入れるべきだった「(亡き)父」という情報を加えたことで誰にも秋彼岸に父を偲んだ句なのだとはっきり分かります。

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④2020/11『真珠婚妻の手の染み冬紅葉』

これは句集完成記念回にも登場していた有名な添削なので印象に残っている方も多いでしょうね(笑)

『真珠婚妻の手の染み紅葉』
↓
『手の染みも愛し紅葉の真珠婚』

こちらも家族(奥様)を詠んだ作品です。「も愛し」とあえて感情語をぶつけることで、素直な旦那様の存在を描けた格好になっていると思います。

2021年から句集完成まで

⑤2021/02『〆に出るオモニ自慢の干鱈汁』

「干鱈」といえば、柴田理恵さんの2ランクアップ昇格の句が印象的ですが、このおっちゃんの句も、かなり美味しそうに思わさせられる作品です。

『〆に出るオモニ自慢の干鱈汁』
↓
『酒足りてあとはオモニの干鱈汁』

ただ、確かに「〆に出る」という表現が説明的だというのは理解できるため、ここで登場したのが先ほどと同じく「酒(🍶)」です。そして、「〆」という言葉も捨てがたいですが、「あとは」と中七に誘導する形を取って後半の季語を含んだフレーズを立てるというのも見事でした。

⑥2021/04『飯盒を逆さにしばし揚げ雲雀』

季節が春に進んで、「揚雲雀」ののどかな春を迎え、おっちゃんが素敵な句を詠んでおられました。「飯盒炊さん」で最後に蒸らすために逆さにしたことのある世代の方も多いかと思いますが、そのことを知らない若い世代に誤解を招きかねないとして夏井先生が添削したのがこちらでした(↓)。

『飯盒を逆さにしばし揚げ雲雀』
↓
『飯盒を逆さに蒸らし揚げ雲雀』

「逆さにしばし」という中七が、ひょっとすると「揚雲雀」にかかると誤解してしまう人もいるという可能性を抑えるために、「逆さに蒸らし」とすることで「季語と関係のない12音のフレーズ+揚雲雀」とはっきりさせています。「蒸らし」であれば「しばし」の時間軸も明らかになりますもんね。

⑦2021/05『帰国の日アガシの白いハイヒール』

再び韓国での思い出を語るおっちゃん。若かりし頃(?)、ロッテのデパートの売り子のお姉ちゃんと仲良くなって、帰国の日に想い人に白い靴を送る習慣が云々……と語っておられましたが、原句では、なかなか通じにくい部分がある上に、季語「白靴」もアレンジされているためあと一歩な印象です。

『帰国の日アガシの白いハイヒール』 
↓
『帰国の日アガシの白悲し/眩し

ここはしっかりと夏の季語として掲載されている「白靴」という季語の形にした上で、この恋が悲恋であることを示す意味で、「悲し」という再び登場の感情語を入れてしまって良いという判断がなされました。確かにこうするとそういった風習があることを知らなくても察する部分が増えそうですよね。

⑧2021/08『白秋や漢字ドリルに書く名前』

句集完成が見えてきた2021年8月、「白秋」という流石永世名人! といった季語を使って詠んだのがこちらの句でした。ただ、季語以外は小学1年生でも通じる内容なだけに、季語だけでおっちゃんの年齢を想像させるのは容易でないと判断され、以下のような添削がなされました。

『白秋や漢字ドリルに書く名前』
↓
『漢字ドリル白秋の我が記す

こうすることで、上五は小学生を連想させても、中七以降で小学生ではないのではないか? と読み手を誘導することができます。最後まで詠んで謎が深まるのは避けるべきで、最後まで詠んで謎が解けるのが理想的なことがこれからもわかります。

おっちゃんはボケ防止に「漢字ドリル」と仰っていましたが、この俳句づくりで十分その役目は果たしていると思いますよ!

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⑨2022/06『まず眼鏡次に手のひらすぐ夕立』

残り6句となった場面で詠まれたこちらの句は、添削後の臨場感が素晴らしく、17音の時間をフルに使った名添削になっていると感じましたので、ぜひともご紹介したい! こちらです(↓)。

『まず眼鏡次に手のひらすぐ夕立』
↓
『まず眼鏡おでこ手の平あら夕立』

こちらも「次に」とか「すぐ」とかいった副詞などが説明的であり、最後の3音「ゆだち」という季語まで体の部位を3つ畳み掛けることでのリアリティを確保しています。音で詠んだ時の気持ちよさも、大変良く考慮されています。

⑩2023/02『お三時は固めのプリン春の雪』

最後に、49句が掲載決定となり50句目を目指した梅沢永世名人の作品です。「お三時」という言葉を使いたかったのでしょうが、夏井先生にバッサリと行かれ、以下のような添削例が示されました。

『お三時は固めのプリン春の雪』
↓
『甘すぎる固めのプリン春の雪』
『あの頃の固めのプリン春の雪』

「固めのプリン」というだけで伝わらない世代に向けて「あの頃の」と付けるのも手だとされますが、個人的には世代の方々の実感に訴える意味で、一つ目の添削例である「甘すぎる」を推したいです。

このように、夏井先生の添削後を入れて欲しいというニーズは特に番組視聴者に多そうなので、私なりに10句ほど選んでご紹介してみました。他にも(特に名人10段昇格前)にも色々な添削例がありましたので、句集も番組も様々なブログ記事もお楽しみ頂ければと思います。最後までご覧いただきありがとうございました!

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