お天気歳時記「花冷え/花の冷え」

【はじめに】
この記事では、お天気にまつわる季語を紹介していきます。題して『お天気歳時記』、今日取り上げるのは「花冷え」です。俳句に興味のある方もそうで無い方も、早速みていきましょう!

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俳句歳時記にみる「花冷え」

まずは電子辞書などを駆使して、幾つかの「俳句歳時記」から共通して見える「花冷え」という季語についてまとめていきます。共通する要素(本意?)は以下のとおりです。

  • 「晩春」の時候の季語に分類される
  • 「桜の花が咲く頃」といった文言で解説文が始まる
  • 「一度暖かくなったのに、寒さが(一時的に)戻ってくる」と続く

こういった感じです。言葉から受けるイメージと皆さんにもおおよそ合致するのではないでしょうか。

もちろんここでいう「花」とは、基本的に「花吹雪」や「花追風」などという時と同じで「桜の花」のことを指します。

固有名詞としての「花冷え」

そして、具体例を列挙するのは控えますが、俳句を含めた文学作品やドラマ、音楽などの芸術作品に、この「花冷え」という言葉は結構頻繁に登場します。イメージもしやすいですし、何となく雅ですし、正直言って使いやすいフレーズではないかと思いますね。

俳句に関係するところでは大正・昭和の俳人【久保田万太郎】の著作に『春泥・花冷え』というものがありますし、令和の時代になっても、この記事を書いた2022年3月に、「三月のパンタシア」がYouTubeチャンネルTHE FIRST TAKEで『花冷列車』という楽曲をパフォーマンスしています。

三月のパンタシア – 花冷列車 / THE FIRST TAKE

「花冷え」を使った例句

それでは、俳句歳時記に載っている「花冷え」の句のうち、上の楽曲にも関連しそうなこちらの句を。

『花冷のわが運ばるゝ電車かな』/星野立子

「花冷え」は近代以降の例句が中心みたいですが、だとしても有り余る程の数の句が作られています。きっと皆さんの琴線に触れる作品があると思いますので、調べてみて見て下さい。

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そして、まだ俳句歳時記には掲載されていないものの、「プレバト!!」で披露された傑作を2句ご紹介したく思います。

『花冷えや解体前の観覧車』/岩永徹也

岩永徹也さんが特待生3級から2級へ昇格した作品です。上五に季語を置き、季語と関係のない12音のフレーズを取り合わせるという基本の型に忠実に作った一句です。

助詞2つで音数の多い単語3つを連結しているシンプルな構図ですが、言葉の奥に覗けるドラマがこの句の魅力ではないかと感じます。

『ユンボの一撃花冷えのごみ屋敷』/東国原英夫

東国原英夫名人10段が永世名人に王手となる☆4つで披露し、「永世名人」昇格を果たした1句です。2021年4月29日(昭和の日)に披露されたのですが、恐らく収録は「花冷」の時期だったでしょう。

この句は句またがりの形を使っていて、全体の後半パートの入り口(中七の後半)に「花冷え」という季語が出てきます。これが「底冷え」でも変わってきますし、「ごみ屋敷」と着地したところにも名人らしさが出ています。

気象データ(3月後半の寒い一日)にみる「花冷え」

ここまで文学・芸術作品などを見てきて雅な感覚に浸ってきましたが、2022年3月22日の「花冷え」を東日本で体感された方は、その苛烈さを深く印象に刻むことになったかも知れません。

「桜の開花」が春分の日を含む3連休中に発表された東京地方でしたが、その連休明けに「春の雪」と「花冷え」となって驚かれた方も多かったのではないでしょうか。

そこでここからは、過去の気象データから「花冷え」の日を見ていきたいと思います。抽出基準はこんな感じにしてみました。

  • 「花の咲く頃」と歳時記にあるため、「開花~満開」を含みやすい3月後半を対象
  • 1日の平均気温が「それまでのピークを約10℃下回った日」+「5℃未満」
  • 雪やみぞれ、春の冷たい雨が降った日を若干重視する傾向

以上の基準に基づき、過去のデータに合致する日がどの程度の頻度で出てくるか調べてみました。

気象官署「東京」

まずは「東京(千代田区大手町)」です。2001年以降を対象にしてみると、4年に3回ぐらいは「花冷え」と感じそうな気候の日がありますが、上の条件に当てはまる事例も数年に1度は発生しています。

年月日平均最高最低降 水 量降雪
2001/3/313.5℃7.6℃1.8℃12.0mm0cm
2004/3/204.8℃7.8℃2.7℃14.5mm
2010/3/294.4℃8.3℃2.4℃0.0mm
2011/3/174.6℃8.9℃1.8℃
2018/3/213.8℃6.6℃1.7℃31.0mm
2020/3/293.6℃7.7℃0.7℃51.5mm1cm
2022/3/223.7℃9.9℃1.2℃18.0mm

3月中旬にもなると、最低気温2桁の日も出てくる中、1日を通じて2桁に届かない日はそれだけでも寒く感じます。上に示した例のうち多くは降水を観測していて、昼間に気温が下がり「みぞれ」と判断される時間帯もあることも実は珍しくないのです。

気象官署「京都」

今度は西日本を代表して「京都(京都地方気象台)」を取り上げましょう。条件は基本的に同じです。

年月日平均最高最低降 水 量降雪
2005/3/253.9℃7.8℃0.8℃0.5mm0cm
2006/3/304.0℃8.9℃1.2℃1.0mm
2007/3/183.9℃9.2℃0.8℃1.5mm
2010/3/294.2℃9.4℃0.7℃
2011/3/171.7℃6.9℃-0.4℃0.5mm
2020/3/164.8℃8.6℃1.6℃5.0mm

上の条件を厳し目に設定したこともあり、合致する例は思ったより少なかったです。この理由として、

  • 京都の3月上旬は東京より寒く、日平均10℃を超えることが稀
  • みぞれを含めた降・積雪に至ることも東京ほど珍しくない
  • 3月後半であっても基本的には1桁気温の日は珍しくない

印象としては2年に1回ぐらいは「花冷え」と感じそうな日が来て、しかもそれが数日続きます。手元の俳句歳時記(角川俳句大歳時記)の解説文を引用しますと、

花冷えはどこの地方にも起こることであるが、特に京都の花冷えが有名。京都特有の地形による冷え込みと桜の華やぎが重なるからであろう。(西村和子)

『角川俳句大歳時記』>「花冷え」より

とあります。最低気温が2℃未満、最高気温1桁なんて日も、そこまで珍しくないのが京都の3月下旬のようです。

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