【はじめに】
今回は、前半で『音』のイメージが強い季語にどういったものがあるのかを考察していき、後半では、過去に「プレバト!!」で披露された『音』俳句を通じて、どうすれば読み手の『聴覚』を刺激することができるのかを考えていきたいと思います。
『風鈴の音』とか『花火の音』とか、ついつい癖で【の音】みたいな音数調整しちゃっていませんか? プレバト!! 俳人の名人・特待生の句などを参考に一緒に学んでいきましょう!
「音」を本意に含む代表的な季語たち
夏井いつき先生の著作『季語道場』の帯に触れられている『季語の六角成分図』を活用してみると、
「五感+α」の六角形のチャートで構成される6つの角のうち、『聴覚』の印象が強いか弱いか(出っ張っているか引っ込んでいるか)が分かりやすいかと思います。
『季語の本意』なんて難しい言葉を使うと読むのが疲れてしまいそうなので、イメージ的には(↓)
この言葉(季語)はやっぱり『音』のイメージ強いよね!
ってものが幾つかあると思います。俳句歳時記が手元にある方はペラペラと捲ってみて頂きたいのですが、『音』を連想しやすいものと余り連想されないものに二極化されるのではないでしょうか?
例えば、普通の俳句歳時記の見出しになっているような季語から『音を連想しやすそうなもの』を二十数個ほどピックアップしてみました。(↓) もし知らない季語があってもOKです。時間がある時に、その季語を調べてみるキッカケになれば幸いです。
分類 | 春 | 夏 | 秋 | 冬 |
---|---|---|---|---|
時候 | ||||
天文 | 雪崩 春一番 | 梅雨 雷 | 秋の声 台風 | 凩 虎落笛 |
地理 | 野焼 流氷 | 滝 | 秋の海 | |
生活 | 風鈴 扇風機 | 花火 | 雪合戦 | |
行事 | 運動会 | 初商 | ||
動物 | 猫の恋 蛙 鶯 囀り | 蝉 蚊 時鳥 郭公 | 蜩 蚯蚓鳴く | |
植物 |
特に、『花火』とか『風鈴』、『蚊』などは誰の脳にも似たような音が再現されるでしょうし、一方で『運動会』とか『台風』などは多少違っても様々な音が聞こえてきそうな気がします。極端に言えば、『無音のこれ(=季語)があったら怖い』レベルのものでなければ、何かしら『音』の要素があるものだと思います。
どうも『音』を含みやすいかどうか、俳句歳時記の『分類』でみるとある程度傾向がありそうなので、目安を5段階の「☆」で表してみましたので、こちらの表を参考にしてみてください。(↓)
分類 | 音の目安 | 解説 |
---|---|---|
時候 | ★☆☆☆☆ | 時候の季語そのものに「音」を含むものは稀 |
天文 | ★★★☆☆ | 荒天(雨や風)は「音」があり、雷などは強い |
地理 | ★★★☆☆ | 地面系は弱いが、水(海・川・氷)などは強い |
生活 | ★★★☆☆ | 範囲が広いため、「音」が強いかは季語次第 |
行事 | ★★★☆☆ | 物によって賑やかだが、万人が連想するかは疑問 |
忌日 | ★☆☆☆☆ | 「音」そのものを喚起させる季語は非常に限定的 |
動物 | ★★★★☆ | 魚介類などを除けば、鳥など「音」の印象が強い |
植物 | ★★☆☆☆ | 落ちたり食べたり「音」を連想させるパターンも |
一番評価点が高かったのは『動物』です。そして、『天文』や『地理』、『生活・行事』といった季語は、物によって『聴覚』を刺激するかが二極化する印象がありました。
「プレバト!!」の『音』俳句・厳選10句
さて、ここからは「プレバト!!」で披露された俳句(添削後を含む)のうち『音』を含む傑作を幾つかみていきたいと思います。どうやって文字の文芸に『音』を響かせてきたのでしょうか?
「季語」に『音』を付けた事例
まずは「季語」を付けた事例からみていきましょう。1句目の梅沢名人の句は『滂沱たる風鈴の音や』といきなり音のする季語に『音』を付けた上で切れ字『や』で強調しています。
『滂沱(ぼうだ)』も『風鈴』も『音(ね)』も『や』もそれぞれに主張して強い単語のはずなのですが、それを12音で並立させ、季語でない下五の『市の朝』で纏め上げるテクニックは流石の名人です。
あと例えば6句目のしょこたんの猫の句などは、『梅雨の音』というふうに天文の季語を補強した上五の形をつくることで、『猫が眺める洗濯機』という後半12音に負けないバランスを保っています。
「季語」以外に『音』を付けた事例
2句目以降は、基本的に季語以外のものに『音』の一字が付けられています。
例えば、2句目(ハモニカのソの音)や5句目(運命のドア叩く音)などは音楽と関連してはっきりと『音』と連携した取り合わせとなっていますが、4(賽銭の音)・7(海苔刻む音)・8句目(割り箸の音)などは日常・生活の中の音にスポットライトを当てています。
そして、音のしないものに音を取り合わせるという高等テクニックを見せたのが、現在は特待生に昇格をしている『パンサー・向井慧』さんです。3句目『君の耳ただ満月の照らす音』は75点という高得点を叩き出した訳ですが、
- 「君の耳」という季語でない5音で上五を作っている(バランスを取るのが難しい)
- 「ただ」という単語を俳句の中で使うのが難しい(散文的になりやすい)
- 「満月の照らす音」と音のしないもので『聴覚』を刺激する
という極めてハイレベルなテクニックを詰め込んだ作品となっていて、夏井先生も絶賛していました。もちろん当時から『噛ませ犬』的な立ち位置なことを本人も自覚していましたが、しっかりと特待生に昇格する実力を持ったことを思うと、お祖母様の俳句の本で勉強する地はあったということでしょう。
『音』がしないと強調した作品たち
永世名人クラスになると、『音がしない』という描写によって映像を際立たせたり、無音を印象的に立ち上がらせる高等テクまで使いこなすようになります。
- 『音なき音や八月の遠花火』/東国原英夫
- 『秋夕焼へ音失っていく列車』/村上健志
『遠花火』も『列車』も本来であれば『音』との結びつきが強い存在であるはずなのに、『遠い』ことを描写することで遠近感を意識させ、音のなさをもって季語の情景を浮かび上がらせています。これが出来るようになれば、『永世名人』クラスということなのでしょうかねー
まずは皆さんには、『音』を効果的に鳴らして、『聴覚』を刺激するところをマスターして頂ければと思います。それをするだけでも「プレバト!!」でいう名人クラスを狙えるのではないでしょうか。ぜひ上に書いたような俳句も参考にしながら、文字の文芸で『音』を楽しんでみて下さい! 何か良い句が出来ましたら、ぜひコメント欄にもお寄せ下さいね~
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