競馬歳時記【5月3週】「ヴィクトリアマイル(Victoria Mile)」

【はじめに】
重賞競走の歴史を振り返る「競馬歳時記」。今回は「ヴィクトリアマイル」の歴史をWikipediaと共に振り返っていきましょう。

ヴィクトリアマイルは、日本中央競馬会(JRA)が東京競馬場で施行する中央競馬の春の4歳以上の牝馬マイル重賞競走(GI)である。

競走名の「ヴィクトリア(Victoria)」は、ローマ神話に登場する勝利の女神。

ヴィクトリアマイル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』( 以下略 )
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概要

競走馬生産の原点である牝馬は従来、早期に引退させて生産界へ戻すべきと考えられており、古馬牝馬にとって目標となる競走も長らく設けられていなかった。その後1996年にエリザベス女王杯が条件変更され、4歳(現3歳)以上牝馬のGI競走として行われるようになってからは、牝馬重賞競走の増設やローテーションの整備など競馬番組の充実が図られるようになり、競走馬として長く活躍する牝馬が多くなった。

( 同上 )

短距離、ダート、障害など近代化によって拡充された路線は多くありますが、GIの創設や春秋でのGIの整備という観点でいくと、最も遅れていたのが「古馬牝馬」路線だったのかも知れません。

一方、こうして長く現役として活躍した牝馬からも優秀な産駒が誕生するようになったことにより生産界の考え方にも変化が生じてきたほか、ヨーロッパでも競走馬としての牝馬の価値を重視する傾向が強まってきた。こうした流れの中、2006年に4歳以上牝馬による春季のチャンピオン決定戦として本競走が新設された。
なお、本競走の創設に関してJRA内では「内国産競走馬のレベル向上のため、強豪牝馬は早く引退して繁殖牝馬になるべき。レースに出ては故障してしまう」という反対意見もあった。

( 同上 )

創設されてしまえば、『当時はそんな議論があったのか』となりますが、馬産が今ほど大型寡占化していなかった21世紀初頭の意見というのも時に冷静に頭の中に留めておく必要があるのかなと思います。

(参考)ビクトリアカップについて

競馬歴が今よりも浅かった当時の私からすると、「春に牝馬GIの創設」は大賛成でしたが、少し気になったのは「レース名」でした。『ヴィクトリアマイル』というのが、少ししっくり来なかったのです。

まだ、「フィリーズレビュー」、「中山グランドジャンプ」、「フローラS」、「阪神ジュベナイルフィリーズ」等の洋風なレース名に2001年あたりに一斉に変わったことに、若干の抵抗感がまだ残っていた頃でしたので、『ヴィクトリアマイル って!』と当時は正直思っていましたね(^^;

「ヴィクトリアマイル」が創設される前の時点で、中央競馬の「ビクトリア」というと、どうしても、1976年(当時で30年前)に廃止された「ビクトリアカップ」(秋華賞の前々身)が思い浮かびます。

ビクトリアカップ(Victoria Cup)は、日本中央競馬会が京都競馬場の芝2400mで施行していた中央競馬の重賞競走である。

概要
4歳(現表記3歳)の牝馬による競走。牝馬三冠路線の最終戦という位置づけで1970年に創設された。厳密にはクラシック競走ではないが、賞金はクラシック競走に準ずる形で一般の重賞競走よりも幾分高めに設定された。

1975年まで6回施行されたが、同年にエリザベス2世が日本を訪問したことを記念して、翌1976年に本競走と同条件のエリザベス女王杯を新設することになったため、廃止された。施行回数は引き継がれなかった。

ビクトリアカップ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

当時は神話の神様(女神)を使うのが流行りだったんでしょうね。2012年には「アルテミスS」なんかも創設されていますよね。ただ、唐突に歴史や伝統もないGIが創設され、ハイカラな名前がついたことに対する若干の違和感を覚えていたことを思い出しました。(馴染んでしまえば何てことないですが^^

(前身)春の古馬牝馬の重賞路線

「ヴィクトリアマイル」の歴史は2006年に始まりますが、それ以前にも「古馬になっても現役を続ける牝馬」は無数におり、牡馬混合重賞に果敢に挑戦する一流牝馬がいたことも事実です。今回は、ざっと「ヴィクトリアマイル」が創設されるまでの春の古馬牝馬の重賞路線について触れたいと思います。

春の古馬牝馬の重賞路線
  • 1928~1937
    (京都3200m)牝馬連合

    牝馬限定競走としては最古参。天皇賞と日本ダービーを兼ね備えたような「連合二哩」競走の牝馬限定版として創設され、クレオパトラトマスなどが優勝

  • 1939~1941
    (京都2400m)四・五歳牝馬特別

    戦後に「ビクトリアC/エリザベス女王杯」が創設されるのと同じ条件での重賞で、「牝馬連合」競走の実質的な後身として創設も、1941年をもって廃止。ルーネラやブランドソールなどのクラシックホースが秋を優勝している

    → その後、約40年間、明け4歳牝馬には限定重賞がなく、冷遇されていました

  • 1983~2005
    (中山1600 → 1800m)中山牝馬ステークス【GIII】

    オープン特別としての創設は「1973年」ですが、当時から古馬が出走可能な牝馬限定競走は秋に固まっており、春の古馬牝馬限定競走が創設されるのは、グレード制導入前年の1983年でした(当該記事もご参照)

    同じく、「京都牝馬ステークス【GIII】」も1983年から1~2月開催となりますが、春というには少し早いタイミングかも知れません。

  • 2006~現在
    (東京1600m)ヴィクトリアマイル【GI】

    パートI国となった現代では難しいですが、「ヴィクトリアマイル」は初回から(国内)GIとして創設され、春の大目標となるレースとなりました。古馬に特化したレースとしては春開催は初めて、少なくとも戦後初めてという大改革でした

はっきりと冷遇されていた時代が長かったことが、この表を作りながら強く感じられました。強い牝馬が牡馬相手に活躍するという2000年代後半以降の潮流に、この「ヴィクトリアマイル」が一役買ったことは間違いなく、2008年の天皇賞(秋)や2020年のジャパンC、2022年のヴィクトリアマイルといった豪華メンバーの揃うことは無かったのではないかと思います。

平成10年代:画期的な創設…天才少女の復活と大波乱

第1回「ヴィクトリアマイル」は2006年(平成18年)に創設され、本当に華やかなメンバーが揃いました。1番人気は前年に3歳マイルGIを連勝したラインクラフトで、4番人気までのうち3頭を明け4歳馬が占めていました。

しかし勝ったのは、明け5歳馬【ダンスインザムード】。2年前の桜花賞以来2年ぶりの勝利を、新設のGIで制するというドラマチックなものとなりました。

続く、第2回は、5戦5勝で秋華賞を制し、エリザベス女王杯で1位入線も12着降着となっていた明け4歳馬【カワカミプリンセス】が1番人気で出走。しかし、7番人気までが複勝圏内に入れないという大波乱となりました。勝ったのが、カワカミプリンセスと同じ4歳世代の【コイウタ】でした。前川清さんの実質的所有馬で、単勝60.3倍、3連単228.3万馬券という結果は大きなインパクトを残します。

平成20~30年代:国際GI昇格、マイル適性ある名牝が激走

平成20年まで国際的には「リステッド競走」格だった【ヴィクトリアマイル】。2009年からは晴れて国際GIが認められ、一線級の名馬が勝ち馬に名を連ねていきます。

ヴィクトリアマイル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

2008年は【ウオッカ】が単勝2.1倍の断然の一番人気でしたが、同い年の伏兵(それでも5番人気)【エイジアンウインズ】に不覚を取る形で2着と惜敗しました。

平成20年代の主な「ヴィクトリアマイル」
  • 2009年
    ウオッカ

    強い風を切り裂いて「7馬身」差の大楽勝。1頭だけ役者の違う走りで、昨年のリベンジを達成。(G1級着差の記事もご参照)

  • 2011年
    アパパネ

    前年の覇者で1番人気の【ブエナビスタ】を、1年後輩の三冠牝馬【アパパネ】がクビ差制しての優勝。三冠牝馬の三冠達成後の勝利自体が初。

  • 2013年
    ヴィルシーナ

    前年にアパパネを下して新女王となった【ホエールキャプチャ】とのハナ差での勝負は、【ヴィルシーナ】が先着。GI2着4回の新女王は翌年も連覇を達成。

  • 2016年
    ストレイトガール

    マイル戦ながら短距離路線組からの優勝は案外少なく、連覇は唯一の例。前年の覇者が人気を落とすのはVMあるあるですが、7番人気だった5歳のストレイトガールは、ミッキークイーン、ショウナンパンドラといった人気馬を2馬身半突き放して完勝。

振り返ってみると、仮に前年以来1年間好走していない馬であっても、この舞台で激走する馬も多く、前年実績が軽視されている古豪が人気の穴となっていることも多くありました。どちらかというマイル以上のスタミナも要求された時期でしたが、「東京マイル」に適性のある馬が、中距離の人気馬を「適性の差」で上回る傾向もこの時期顕著だったように感じます。

平成の終わり頃、2017年はアドマイヤリードが、2018年はジュールポレールが勝利を収めていて、2014年から2019年まで6年連続で5番人気以下が優勝していました。そして、波乱といってこの競走で決して忘れられないのが、2015年のヴィクトリアマイルです。

2015年のレースでは1着ストレイトガール(5番人気、鞍上・戸崎圭太)、2着ケイアイエレガント(12番人気、鞍上・吉田豊)、3着ミナレット(18番人気、鞍上・江田照男)となり、2017年12月時点で3連複で史上5位となる286万馬券、3連単で史上4位となる2070万馬券が発生した。

( 同上 )

「史上」の部分は少し時代が変わって古くなっていますが、配当金は未来永劫変わりません。3連単の20,705,810円という配当は、そう易々と更新されることはないであろう中央競馬のGIレコードです。

令和時代:1分30秒台決着も。歴史的レースが続く

やや波乱が続いていた平成の終わりから一転。令和に入ると、レースの勝ちのハードルが如実に上がります。明確に変わったのは、勝ちタイムの高速化でしょうか。

( 同上 )

令和に変わって2週間で行われた2019年のレースは、アエロリットが前半56.1秒で行くという狂気的なラップを形成。5番人気だった【ノームコア】が叩き出したのは、究極的に非凡な「1分30秒5」という驚異的なタイムで、芝マイルの世界レコードでした。

この頃から、牝馬限定GIでありながら、安田記念に勝るとも劣らないハイレベルな戦いが繰り広げられるようになります。中距離も戦える牝馬は「安田記念」ではなく「大阪杯」からVMに向かったり、VMを叩いて「宝塚記念」などに向かうため、マイルと中距離の一流牝馬の交差点としてVMは独特の存在感をアピールすることとなるのです。

2020年は、有馬記念9着から約半年、明け5歳【アーモンドアイ】が(まさかの)牝馬限定戦に出走。結果は火を見るより明らか、ノーステッキでの4馬身差の圧勝。しかも、本気で追わずに世界レコードに0.1秒差の「1分30秒6」というえげつないタイムを叩き出しました。

2021年には【グランアレグリア】が『史上初となる古馬の芝マイルGI完全制覇』を達成。こちらも4馬身差の楽勝で、大阪杯4着の雪辱を果たしました。この時も平成には見られなかった「1分31秒0」という破格のタイムでした。

レースの開催時期などもあり、秋の「エリザベス女王杯」は牝馬限定戦として見做されますが、春の「ヴィクトリアマイル」に関しては開催時期も良いのか、とても牝馬限定戦として格下に見られる様な結果とはならず、勝ちタイムだけを見てもとにかく衝撃的なレースが時折見られます。それが令和に入ってからは連続していて、非常に華やかな舞台として、創設時にあった批判を封じ込めるがごときGIとして定着しました。

レースR勝ち馬備考
2016116.50ストレイトガール②ミッキークイーン、③ショウナンパンドラ
2017114.00アドマイヤリード②デンコウアンジュ(11番人気)
2018116.25ジュールポレール②リスグラシュー、④アエロリット
2019117.00ノームコア②プリモシーン、④ラッキーライラック
2020120.00アーモンドアイ③ノームコア、⑤ダノンファンタジー
2021115.50グランアレグリア②ランブリングアレー(10番人気)
2022
牝馬限定戦の「▲4ポンド」を加算後の値(実際のレースレーティングは表内の数字マイナス4ポンド)。
GIの目安は表内の基準に則れば「115ポンド」。

レースレーティングをみると、年によってバラつきがありますが、多くの年でGIの目安を上回っています。どちらかというと、勝ち馬および2着以下の層によってレースレーティングは大きく左右されますが、最も高かったのは【アーモンドアイ】が引っ張った2020年、実に「120ポンド」に達しています。

2020・2021年で着差は同じ4馬身差だったのですが、勝ち馬・2着以下がそれぞれ4ポンドほど差があった関係で、それが最終的な着地にまで影響していたようです。2021年のグランアレグリアも、単純比較では差がないように感じるのですが、4.50ポンド差がついているのは様々な要因があるようです。

2022年は、これまでと異なり、「牡馬混合GI」でも好走する名牝が多数出走し、GI勝ち馬は過去最多に及んでいます。レイパパレ、ソダシ、1年ぶりデアリングタクト、ソングライン、レシステンシア、アカイイトなどのGI級ホースが、「東京マイル」という舞台でどういう結果を生むのか注目ですね。

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