【はじめに】
皆さんどうもこんばんは、Rxです。今日は、「プレバト!!」俳句査定のタイトル戦「春光戦」の予選で披露された“添削ナシ”の秀句を振り返っていきたいと思います。
2019年:鈴木光、千原ジュニア、千賀健永
もはや既に少し懐かしい2019年……この回で春光戦としては初めて「予選」が採用されました。全部で8名が挑戦し、決勝進出を果たした上位3名が添削ナシとなりました。
3位:ぽこぽこと酒に口割る蛤ら/千賀健永
「刑事ドラマの犯人グループの一人が口を割るシーン」を想像しつつ、キスマイの藤ヶ谷さんと蛤の酒蒸しを食べに行った時の思い出と絡めて作った俳句とのこと。
「その話は聞かなかったことにする!」
などと夏井先生も少々呆れ気味に返しておられましたが(^^;
句の内容としては、『蛤』という春の季語の一物仕立てとして成立しています。そして最後に「蛤ら」に疑似化を意図的か無自覚かは別にして作っており、結果的には成功しているとの判断でした。千賀さんの話を聞かなかったとしたら(苦笑) 非常に素直な句だと思いますね。
2位:壺焼きの壺傾きてジュッと鳴る/千原ジュニア
フジモン名人からは「壺・壺言い過ぎちゃう?」と冷やかされていましたが、夏井先生は、この2回目の「壺」が大事な抑えだと語ります。
句の後半で『壺傾きて → ジュッと鳴る』と展開すると、脳内でしっかりと映像や音を再生することが万人に出来ます。この描写力。真っ直ぐだった壺焼きのサザエの壺が熱せられて傾く様を見事に描いているとのことです。
千原ジュニアさんに『750cc(ナナハン)』の句を期待する名人たちの声が大きかったのですが、夏井先生も含め、この描写力の高さに驚いていました。
1位:昼網や明石メバルのピチカート/鈴木光
1位(決勝進出)と4位(決勝次点)の発表を最後に残した浜田さん。残された2人というのが鈴木光さんと立川志らくさんでした。志らくさんは特に「因縁の相手」・「天敵」だとライバル心むき出しにしていましたが、結果は「鈴木光」さんが過去問を全て勉強し尽くして(?)の堂々1位通過でした。
兵庫県明石市の昼市を想像したという1句は、季語でない4音を切れ字「や」で切るという難しい型に挑戦。『メバル』などの動物の季語をカタカナで書くのは普段なら避けるべきと言うところだが、この句の内容からして「明石鮴/目張」と書くとあまりにも重たくなってしまう。
『昼網や明石メバルのピチカート』という軽やかさが、句の内容にも調べにも表現(見た目)にもバランス良く素晴らしいと評価されました。初のタイトル戦予選出場で、いきなりの1位通過は伊達ではないと感じさせるハイセンスっぷりを今あらためて味あわせてもらいました。
2020年:藤本敏史、岩永徹也、千原ジュニア 他
特待生の数も大幅に増え、予選だけで14人が集まり2ブロックに分かれます。それぞれ見ていきます。
Aブロック2位:赤本で蓋す春夜のカップ麺/岩永徹也
「プレバト!!」でも毎年のように登場する「赤本」は、それだけで受験生であることが分かる非常に効率の良い単語です。(良く登場するのも分かりますね)
また、「夜食」と書いてしまうと秋の季語になってしまう(「夜長」などと密着な位置づけであって、俳句歳時記では秋の季語に分類されるため)のですが、意味合いとしては「夜食」と同じことなのに、その単語を使わずに「春の夜食」を表現できています。この辺りも見事でした。
Aブロック1位:春寒のスタアの悲報カップ麺/藤本敏史
特待生たちを相手に、予選からの参加となったフジモン名人は、その実力を遺憾なく発揮して、堂々の1位通過となりました。その句がこちらです。
この句も岩永さんと同じく「5音」でカップ麺と置いています。この句を、中田喜子名人も絶賛していました。『スタア』という表記が、昭和の古き良き時代を連想させるからです。夏井先生の言葉を借りれば、季語以外の5音と季語を含んだ12音の『質量のバランス』が見事だとなります。
Bブロック4位:春の星ギターケースに絆創膏/松岡充
惜しくも4位と次点だったものの、『4位以上はどれが決勝に残っても良い位の出来だった』というお褒めの言葉をいただく佳作でした。
他の季節ではなく『春の星』を、他のモノではなく『絆創膏』を選んだことに、若々しさや青春感をどことなく覚えさせる感じの“匂わせ”が見事な作品です。
Bブロック3位:稽古場の靴ずれ血豆ちまめ春の雨/千賀健永
結果的に2年連続で「予選ボーダー通過」となった千賀健永さん。しかし今回は、しっかりと実体験を実景で描くことに成功しています。こうして音読してみると、単語を畳み掛ける感じも魅力的ですね。
Bブロック1位:顔面骨折カニューレの接ぐ春の朝/千原ジュニア
1年遅れで期待に応えるかのように、バイクの句を詠んできた千原ジュニアさん。バイク事故をして目覚めたときの様子を思い返した作品です。
上五に漢字4文字を置いてくるのは、あの『犯人逮捕』の句を詠んだ柴田理恵さん以来の衝撃があったという風に感じます。しかも「顔面骨折」という痛々しい単語、なかなか俳句にしづらいほどのインパクトを持った単語です。
さらに「カニューレ」という医療用語(器具)が出てきて、並々ならぬ雰囲気を句の前半で描ききります。季語『春の朝』に再生や回復への微かな希望のようなものを投影しているところまで含め、実体験の強さをまざまざと見せつける作品となっていました。
2021年:藤本敏史、村上健志、東国原英夫 他
2021年は、5名×4ブロックと、さらに拡大化した春光戦の予選。名人10段が多く挑戦する形となり、添削ナシの句が複数誕生しました。
Aブロック2位:海苔篊ひびの等間隔に暮れかかる/村上健志
名人10段対決となったAブロックは、『作者がわかれば無難に置きに来た感がある』と言われてしまうも、手堅く予選通過を果たした村上名人。
「海苔」は今やどの季節でも家庭に並びうるものですが、大量生産が出来なかった古くは「春の季語」と見做されていました。海苔を定着させるための養殖具が「篊」と呼ばれるものですね。画像検索をしていただければ何となくイメージが湧くかと思います。
Aブロック1位:流星群いくつか海に墜ちて海胆/藤本敏史
もしこれをフジモン名人がオリジナルで創作したのだとしたら本当に素晴らしいと思います。結果的にはAブロック予選1位通過だった訳ですが、仮に本戦であっても優勝を狙えたのではないでしょうか。
この句については、私の「note」で『折々のうた』と銘打った、短めな解説記事を書いていますので、そちらも合わせてお楽しみ下さい。
Cブロック2位:朧夜や一人キャンプのホットチョコ/松岡充
この句のメインの季語は間違いなく『朧夜』という春の季語です。句の内容も季節感を全く相殺しあう内容ではありません。
ただし、伝統的な季語によれば「キャンプ」は夏の季語となりますし、「ホットチョコ」もどことなく冬など寒い季節を想起させるものとなっています。厳しい人は季重なりと指摘するかも知れません。
その一方で、上に書いたとおり「朧夜や」と強く上五で先に打ち出していることもあり、3つの季感を覚える単語をバランス良く鼎立させている点が素晴らしいと思います。
Cブロック1位:買い食いを叱られて来し末黒野すぐろのよ/東国原英夫
名人高段者が順当に勝ち上がった2021年の春光戦。東国原英夫名人も、夏井先生に「作者が分かって、ちょっと置きに来た感も否めない」と言われてしまいましたが、それだけ実力を認められての評です。
『買い食いを叱られて来』ることまでは誰しも経験しうるかと思いますが、そこから『末黒野』という春の季語に着地するからオリジナリティが出るのでしょう。
「末黒野」は、「焼野」の傍題として俳句歳時記に収録されています。「野焼きをした後の野」のことを指す言葉でして、地域よっては今でも当たり前に催されていますが、そんな“野原”自体が減ってきている現代において、この句が『し』という直接過去の助動詞と共に語られることに意味があるなぁ、と感じました。
Dブロック2位:山里や三橋美智也の春の歌/三遊亭円楽
立川志らく名人との「落語家」対決を制して2位になったが、唯一の「補欠落選」となった円楽さん。
「(おやつは)カール」♪のCMソング『いいもんだな故郷は』を歌った三橋美智也さんの歌声に、一定以上の世代の方は刺さる内容だったと思います。
夏井先生が予選通過としなかった理由として、「固有名詞(三橋美智也さん)に頼りすぎている」と仰っておられましたし、その通りだとは思いますが、句の内容とやっていることの高度さはなかなかに高いと思いました。
Dブロック1位:花疲れ臓腑に溶けるチョコレート/向井慧
そして「噛ませ犬」扱いをされていたものの、個人的にはそれなりに評価をしてるパンサー向井さん。名人格をごぼう抜きして、最低級位ながら予選1位通過を果たされました。
「花疲れ」という季語があります。もちろん「花見」は楽しくて綺麗なものではあるのですが、人混みだったり仲春特有の気候だったりに体調を崩してしまうこともあるでしょう。花見などで心身疲れてしまうことを「花疲れ」と言って季語となっているのです(奥深いですねぇ)。
「花疲れ → 臓腑」と来れば、お酒を飲み明かした展開になりそうですし、「溶ける → チョコレート」という展開自体はベタです。前半も、後半も、どことなくベタではあるのですが、その2つのパーツを『花疲れ臓腑に溶けるチョコレート』と展開することに意外性があり、それが非常に趣き深くなるのだと感じました。類想類句が全て悪い訳ではないと教えてくれるような作品です。
2022年:森口瑤子、筒井真理子 他(多数)
2022年の予選は、総勢15人が4つのブロックに分かれました。2枚の兼題写真でアンケートを取り、基本的にその選んだ兼題で予選に挑戦する形に。
極めてハイレベルな予選となり、上位は揃って「添削ナシ」となりましたが、予選1位の句に対しては「本戦に向けたワンランク上のアドバイス」がなされたため、今回は敢えて除外します。
Aブロック3位:「Where you go?」機窓に春の星あまた/松岡充
細かい振り返りは下の記事からどうぞ。3位に沈んだ松岡充さんですが、「直しナシ」という高評価。
『えっ? じゃあ……』って言って1位の空席の方へと行こうとしますが、浜田さんに止められていました。(実際、少人数ブロック制で3位まで直しナシは珍しいかと思います)
Aブロック2位:トラクター祖父の膝乗る春休み/千原ジュニア
冬麗戦では中学時代の祖母との思い出を披露した千原ジュニア名人。今回は、小学生時代の祖父との思い出を読みました。A・Bブロックの兼題である「パンorライス」の写真から田んぼに発想した形です。
馬場典子さんが『選ばざる道過る独活ほろ苦し』と詠み、予選1位通過の下剋上を果たしますが、こちらの千原名人の句も「添削ナシ」の高評価。結果的に「補欠からの1組だけの復活」を果たしました。
Bブロック2位:春昼やこんどの人はパンが好き/筒井真理子
フジモン名人には勝てなかったものの、他のメンバーを下して2位となった筒井真理子さん。やはり『こんどの人は』とした中七が口語体の魅力を最大限引き出しています。
結果的には「春昼」という季語がハイレベルな争いの中では、相乗効果による掛け算の「積」を伸ばしきることができず、予選敗退となりました。
Bブロック3位:春眠しパンで拭ったソース跡/向井慧
「噛ませ犬」ポジションが抽選会でも定着してしまいましたが、中田名人を下しての3位という結果や過去に2ランクアップを果たしているところからも、決して侮ってはいけない相手です。
ソースをパンで拭うのが志らくさんご指摘の「マナー違反」かはさておき(^^ こちらも「季語」選びで一歩見劣ったうえに、季語以外のフレーズのパワーが2位の句に届かなかったということで、相対的に3位となりました。
Cブロック2位:静けさや一貫校の春休み/千賀健永
1週挟んでのC・Dブロックは、駅での「階段か、エスカレーターか」の2択の写真。千賀名人は、村上名人を下すに至らず2位でしたが、「添削ナシ」の高評価となりました。
季語以外の言葉を「や」で強調して上五に置くというのは、中級者以上の型と紹介されていましたが、この句は「一貫校の春休み」である程度のことは言い切れてます。だからこそ残る5音(上五)という使い方が難しくなってしまうのです。(音数調整で5音のフレーズを付けただけでは見破られてしまいますが、この句はハイレベルです。)
Cブロック1位:卒業や階段に階段の影/村上健志
千賀名人を抑えて、カッコ良い予選1位を獲得したのが村上名人です。プレバト!! 放送の翌週の「俳句実況」で、この句のことを回顧しています。(私のnoteでも軽く触れていますのでぜひ ↓)
やはり、卒業の日までは「日常」だったものが、「卒業」を経て、今後「日常でなくなる」ことに着目した村上さんの感性と着眼点は眼を見張るものがあります。個人的には「決勝でもベスト3入りは確実だ」という東さんの発言に全面的に同意です。
Dブロック1位:春愁をエスカレーター地下へ地下へ/森口瑤子
人数の関係で「3人」での争いとなったDブロック。春風亭昇吉さん、皆藤愛子さんを相手にしたハイレベルな争いを制したのは、森口瑤子さんでした。
上の村上さんの句と比較してみると、「階段/エスカレーター」という似たものを詠んでいて、季語も春のものを選んでいるのですが、『正・負の感情』が全く異なります。
私も実は「地下へ地下へ」というような畳み掛けの手法を使って「一句一遊」に採用されたことがあったのですが、こういう韻の踏み方を下五に据えるのは、けっこう効果的なのでぜひ皆さんも挑戦してみてください~
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