「長周期地震動階級」説明 & 最大値「階級4」を観測した地震まとめ

「長周期地震動」って分からなくは無いけれど、『長周期地震動階級』って何? 普通の震度とは違うの?

こういった疑問を持つ方も多いかと思われます。気象庁が発表する“普通の”震度(気象庁震度階級)とは別に発表されている『長周期地震動階級』についてざっと触れていき、その中でも最大とされる「階級4」が観測された地震について纏めていきます。

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ウィキペディアで学ぶ「長周期地震動(階級)」について

まずは、ウィキペディアで「長周期地震動」についておさらいしましょう。(↓)

長周期地震動(ちょうしゅうきじしんどう、英語: long-period earthquake ground motion)とは、地震で発生する約2 – 20秒の長い周期で揺れる地震動のことである。……地震計の発展とともにその存在と性質が研究されるようになり、特に高層建築物が増えた近年は、防災の観点からも対策が重要となっている。現在の気象庁では防災の観点から周期が1.6 – 7.8秒の長周期地震動を観測対象としている。

長周期地震動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

防災の観点でいえば、高層建築物が増えた20世紀後半から注目が高まり、特に「東日本大震災」では、遠く離れた関東や中部・近畿地方でも大きな揺れが観測され話題となりました。

長周期地震動階級
東日本大震災で撮影された超高層ビルが揺れる衝撃的な映像はメディアにより多くの人に視聴され、また実際の高層ビル内で人の歩行や行動が困難であったり、それまで想定されていた建物内での家具や什器の移動や転倒とは全く違う挙動が起こすことも世間に広く認識された。しかし、通常発表される震度階級ではその被害程度が分かりにくいという指摘が出た。これは震度階級が地上で体感する揺れ(周期0.2 – 1秒程度)に合わせた指標であるためである。

( 同上 )

そうした時代背景から、気象庁は2010年代に入って、これまでの「気象庁震度階級」とは別に、長周期地震動に特化した「階級」を設けて、揺れの特性に合わせた対策を促すようになりました。(↑)

詳細はウィキペディアに譲りますが、ネックだったのは、普通の震度と同じ1桁の数字で表す上に最大値が7でなく4だという点や、情報が増えてしまって一般市民には区別がつきにくいといったところ。ただ、本格運用が始まって以降も、そこまで市民が気にする情報とはなっておらず、2023年に「緊急地震速報」の発表基準に追加される報道がなされるタイミングで、

「気象庁長周期地震動階級」なんて聞き馴染みがないわ。新しく出来たのかしら?

といった具合になっています。基準自体は10年近く前から検討され、平成の終わりに本運用が始まった指標となります。ただ以前に比べて「報道で触れられる回数」が増えそうなので、ざっくりとした部分を抑えていただけると幸いです。

ではここから最大値「階級4」を観測した過去の事例を振り返っていくことにしましょう。こういった事例が起きないことを願うばかりですが、参考になればと思います。

平成中期:東日本大震災以前の「階級4」の例

先ほど述べたとおり「長周期地震動階級」が設定されたのは2013年なので、「東日本大震災」以前にはリアルタイムで観測したという事例はありません。ただ、可能な範囲になりますが、2000年以降を復元していきたいと思います。

  • 2000/10:鳥取県西部地震(M7.3・最大震度6強)
    階級4:鳥取県西部
  • 2003/09:十勝沖地震  (M8.0・最大震度6弱)
    階級4:十勝地方中部 日高地方東部 日高地方中部
  • 2004/10:新潟県中越地震(M6.8・最大震度7)
    階級4:新潟県中越地方
  • 2011/03:東日本大震災 (M9.0・最大震度7)
    階級4:宮城県北部 宮城県南部 宮城県中部 山形県村山 福島県浜通り 福島県会津 茨城県南部 東京都23区 山梨県東部・富士五湖 静岡県東部

以上の地震では『過去の地震における長周期地震動階級の事例』などを参考すると「階級4」の長周期地震動が観測されていたようです。特に、東日本大震災での長周期地震動は、東京都23区でもところによっては階級4に達したほか、更に遠い山梨県や静岡県でも観測されていました。
そして、愛知県や大阪府など中・西日本でも「階級3」に達していたという事実も、なかなか昔からの発想では想像できないものです。だからこそ想定していなかった被害に備える意味でも重要でしょう。

これらをもとにシミュレーションすると、2023年からの「緊急地震速報」の発表基準が3.11当時から採用されていたら、東日本より西にも緊急地震速報が発表されていた可能性があったのです。

見方を変えれば、高層ビルが目に見えるほど揺れたり、上層階で転倒したり何らかの下敷きになったりといった顕著な被害が出るのが「階級4」の長周期地震動の恐ろしさなのです。

加えて、損害保険料率算出機構『過去の地震による長周期地震動とその被害に関する調査』によれば、

  • 2003/05/26:宮城県沖
  • 2003/07/26:宮城県北部
  • 2004/10/23:18:34頃の新潟県中越の地震(M6.5・最大震度6強)
  • 2007/03/25:能登半島地震
  • 2008/06/14:岩手・宮城内陸地震
  • 2011/04/07:宮城県沖地震
  • 2011/04/11:福島県浜通り地震

でも階級4相当の揺れがあったといいます。ほとんどが大地震でしたから長周期地震動による被害だけをピックアップすることは難しいでしょうが、階級4が起きていても不思議でない地震ばかりです。

ですから、過去の事例からみると、「階級4」に遭遇する機会はそれほど頻度は高くないかも知れませんが、全国的な広い視点では『毎年のように起こりうる』事象なことははっきりしているでしょう。

平成後期:「試行」を経て本運用へ

そして、2013年からの試行期間にも、何度も「階級4」が観測されています。気象庁のデータから以下のとおり纏めてみました。こちらです。

2016/04/15(7km、M6.4)熊本県熊本地方

最初の例となったのが2016年4月に起きた一連の「熊本地震」です。最初に震度7を観測した4月14日の地震では「階級3」でしたが、その翌15日に起きた地震と、更にその翌16日に起きたいわゆる本震で「階級4」を2回観測しています。

2016年04月19日 17時52分熊本県熊本地方5.5階級2詳細
2016年04月18日 20時41分熊本県阿蘇地方5.8階級1詳細
2016年04月16日 07時11分大分県中部5.4階級1詳細
2016年04月16日 03時55分熊本県阿蘇地方5.8階級1詳細
2016年04月16日 03時03分熊本県阿蘇地方5.9階級1詳細
2016年04月16日 02時04分熊本県熊本地方4.9階級1詳細
2016年04月16日 01時45分熊本県熊本地方5.9階級2詳細
2016年04月16日 01時44分熊本県熊本地方5.4階級1詳細
2016年04月16日 01時25分熊本県熊本地方7.3階級4詳細
2016年04月15日 00時03分熊本県熊本地方6.4階級4詳細
2016年04月14日 22時07分熊本県熊本地方5.8階級2詳細
2016年04月14日 21時26分熊本県熊本地方6.5階級3詳細

1回目の「階級4」は、「熊本県宇城市松橋町」の観測点に限定されていましたが、

2016/04/16(12km、M7.3)熊本地震

それから約26時間後の4月16日・午前1時25分に起きた「熊本地震(いわゆる本震:M7.3)」では、初めて複数地点で「階級4」を観測しました。前日に観測した「宇城市松橋町」に加えて、「熊本市西区春日」と「南阿蘇村中松」という観測実績の長い気象官署でも観測されたのです。

(出典)気象庁 ホーム > 各種データ・資料 > 長周期地震動に関する観測情報の発表状況 > 長周期地震動階級1以上を観測した地震

この地震で特徴的なのは、やはりその揺れの伝わる範囲の広さです。「階級2」は千葉県北西部、「階級1」は東京23区を含む関東一円から新潟県下越に至るまで観測されていました。

2018/09/06(37km、M6.7)北海道胆振東部地震

続いての事例も、震度7を観測した『北海道胆振東部地震』です。階級4は、震源に近く、土砂災害も顕著だった「厚真町鹿沼」に加えて、石狩地方南部の「新千歳空港」でも観測されていました。

長周期地震動階級4  石狩地方南部   胆振地方中東部

(出典)気象庁 ホーム > 各種データ・資料 > 長周期地震動に関する観測情報の発表状況 > 長周期地震動階級1以上を観測した地震

ちなみに、北海道での長周期地震動による被害というと、2003年の「十勝沖地震」で、石油タンクにスロッシング現象が起きて火災が発生した事を思い出すのですが、この地震でも、震度7を観測した「厚真町鹿沼」や石狩地方南部の「新千歳空港」で「階級4」の長周期地震動を観測し、被害が出ました。

令和時代:本運用開始後の観測例

世間一般への認知度向上は課題であるものの、『長周期地震動階級』は平成の終わりに本運用が始まって以降、「階級4」が実測されています。

2021/02/13(55km、M7.3)福島県沖

2021年2月13日に起きた福島県沖の地震では、気象官署・福島市松木町で階級4を観測しています。

建物の一部損壊が2万棟を数えた福島県。気象庁データをみると「周期別階級」で「1秒台」が最大の「階級4」となっています。「震度5強」でしたが、こうした俗に“キラーパルス”と呼ばれる周期帯の揺れが強くなると、被害が大きくなる危険性もあると思われます。

2022/03/16(57km、M7.4)福島県沖

そして、前年に続いて「階級4」が観測されたのが2022年の「福島県沖」の地震です。

(出典)気象庁 ホーム > 各種データ・資料 > 長周期地震動に関する観測情報の発表状況 > 長周期地震動階級1以上を観測した地震

この地震では、震源から少し距離がある宮城県北部の「涌谷町新町裏」と「大崎市古川三日町」で階級4を観測しました。一方で、階級3も見られますが、震央に近い福島県内やその他周辺地域では階級4に至らなかったことは注目に値しそうです。

2024/01/01(14km、M7.6)石川県能登地方

「令和6年能登半島地震」では、能登半島の5地点で階級4を観測しました。震度7を観測したことが大きく報じられましたが、長周期地震動階級も最も大きい値を観測していることは、もっと広く知られて良い事実かと感じました。


(出典)令和6年1月の地震活動及び火山活動について P40
https://www.jma.go.jp/jma/press/2402/08a/2401kanto-chubu.pdf

また、階級3を北陸の広範囲および軟弱地盤の「諏訪」でも観測。階級2に関しては、首都圏・名古屋市周辺、大阪南部などの関西圏の一部でも観測しており、階級が本格運用されはじめて最大範囲での観測となりました。

【まとめ】最大の階級4でも結構頻繁に起こりうる恐れ

以上のデータをみる限り、「階級4」という最大の長周期地震動であっても、決して珍しいものではなく、少なくとも数年に1回、条件が悪ければ年に1回以上(或いは複数回)、全国的にみれば観測されてもおかしくない状況といえるでしょう。

それに「長周期地震動」が増幅されやすい場所に、運悪く居合わせてしまう可能性も否定できません。周期が1~2秒前後であれば高層でない建物の方が警戒を要することは『阪神・淡路大震災』などでも得られた教訓です。

今回ご紹介した過去の事例を参考に、新たな強烈な長周期地震動を伴う地震にも少しでも備えられるようになれば幸いです。では次の記事でお会いしましょう。Rxでした。

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